あの海の果てに〜楽園〜

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 海軍本部「マリンフォード」
 正午、火拳のエースは処刑台への長い階段を昇っていた。
 エースの脳裏に、幼い頃、弟と交わした会話が浮かんでいた。
『いいかルフィ、おれ達は絶対に、くいのない様に生きるんだ!!! 』
『うん!! 』
『いつか必ず海へ出て!! 思いのままに生きよう!! 』
『誰よりも自由に!!! 』

 海楼石の手枷を処刑台につながれ、エースは膝をつき臥していた。

 処刑台から遠く離れた位置で海軍のマントに身を包みは静かに運命の時を待っていた。
 やっとだ。やっと、たどり着いた。間に合った。ほっと息を吐き静かに周りの軍人に紛れるように息を潜めていた。
 名のある海兵たち総勢約十万人の精鋭に、名の無い一介の少尉にすぎない自分が紛れ込んでいることに誰も異論がないようで、少し不思議だった。いったいどんな手を使ったのだ、友人のヤツめ、とつぶやく。それを受けて今後の指示を仰ぐ臨時の上官が、疑問を解消してくれた。
 上官がいうには、ブライト・が帰還したおり出した報告書の内容が、この場にいるに相応しいと上層部が判断したからだと言う。の巡視船を沈めた化物を一人の手で退治した功績を買ったのだと。は皮肉なものだ、と微笑んだ。

 白ひげ二番隊隊長火拳のエース公開処刑を目前に控え、海軍本部の緊張は否が応でもでも高まっている。びりびりとした空気の中、ひたすら待ち続けた。チャンスは必ずくるのだ、と。白ひげがエースを助けに来る。弟の麦わらのルフィが助けに来る。必ず、助かると信じた。

 そんな中、センゴク元帥の口上が始まる。
 誰もが、驚愕する内容に、の体に震えが走った。
 だからなのだ、だからエースは私と最後の一線を越えなかった……私は常に守られていた……。
 その場で泣き崩れてしまいそうになるが、ぐっと我慢した。こみあげるものを歯をくいしばり堪える。
 大海賊ゴール・D・ロジャー、海賊時代を引き起こした大罪人の遺児であるエースが、ここで死ぬわけがない。時代の波に奔走されるだけの男であるとは、思えないのだ。


 時が動いた。
 正義の門が静かに開き、決戦の時を告げた。続々と現れる白ひげ海賊団。しかし、そこには誰もが待ち望む白ひげの姿はない。どこだ、どこからだと海軍に焦りにも似た緊張が走る中、思いもよらない場所海底から、モビーディック号が堂々と現れる。続いて、湾内に三隻の白ひげ海賊団の船が侵入した。
 そして、ついに、伝説の大海賊白ひげが姿を現した。
「おれの愛する息子は無事なんだろうな……!!!! ちょっと待ってな……エース!!! 」
「オヤジィ!!!! 」


 ◆

 激闘が始まった。海軍の全てが海賊を叩くことだけに命をかける。そんな中、はチャンスを掴むために、混乱に乗じて持ち場を離脱した。咎めるものなど、誰もいない。誰もが、目の前の敵にしか目を向けていないのだ。それでも、エースのそばに行くほどの隙など見つけることはできなかった。

 ◆

 麦わらのルフィが、来たことによって、戦場に激震が走った。均衡が破れるときがきた、とはひそかにガッツポーズを取った。アドレナリンが体中を駆け巡る。助かる、エースは助かる!
 ダメだ、ここで気を抜いてはいけない、と少しでも処刑台に近づこうとするが、人の波に押されままならない。土ぼこりにまかれて、目をこすったとき、処刑台が崩れる!! と誰かが叫んだ。
 何、と見上げたその先に、爆破された処刑台があった。ぎゅっと胸がわしづかみにされる衝撃を覚えた。

 あれは……ああ……。
 見る間に、爆炎の中に炎のトンネルが現れその中心に、自由になった男がいた。

 ああ、エース……。ぼたぼたと涙が零れた。やっとだ。やっと。ぐぃっと涙を拭い去り気を引き締めた。まだまだ、気を抜けない、嬉し泣きしている場合ではない。きっとエースの降りた方向をみすえ、走り出した。

 海軍のマントをかなぐり捨て、味方である海軍に牙をむき進む。何もできはしないが、何かできることがあるかもしれない。この身が滅んでもいい。エースさえ生き抜いてくれればいい。

 戦闘が続く中、走るに海賊の剣が拳が振り下ろされるが、かまっていられない。
「エース!!! エース!!! 」
 呪文のように名を呼び、がむしゃらに突き進むに海軍の轍もおとされる。
「邪魔だ! どけっ!!! 」
 見知った顔もある。そのどれもが愕然となり、の剣を受けた瞬間、憤怒に変わる。
 裏切り者!! 誰かが叫んだが、それすらどうでもいいことだ、とは切りすて走った。

 切れ切れに、サカズキ大将の声が聞こえた。
『海賊王 G・ロジャー 革命家 ドラゴン。この二人の息子達が義兄弟とは恐れいったわい。貴様らの血筋はすでに 大罪 だ!!! 』
 血が逆流するほどの怒りを感じた。親がなんだというのだ。エースの生まれが罪などと、そんなことが受け入れられるものか。血がなんだ、生まれがなんだ。そんなものに縛られて生きてきた人の痛みが、貴様にわかるのか!
 の咆哮が、目の前の海軍に向かった。それは奇しくも顔見知りの軍人だった。
少尉ではないか! っく!」
「うるさい! 」
 ガツンと剣を振り落とし、ぎらつく怒りを目の前の軍人にぶつけた。
「貴様、血迷ったか!!! 」
「ああ、私は海軍など真ッ平だ! 」
 切れ切れにサカズキ大将の声が聞こえてきた。どれも正論、仕方ないことだ。それでも、私はエースを愛してしまったのだから、エースを助けるために動く。どんな生き方でもいい、泥をすすってだってエースが生きていてくれさえすれば、いいのだ。
 視界の端に、ガープがセンゴクに羽交い絞めにされているのが入った。混戦する戦場で、エースがどうなっているのか、の位置からは見ることができなかった。尋常ではないガープの様子に、は目を見開いた。
 まさか!! そんな!!! エース!!!
 悲痛な思いがこみ上げてきた。ぞくぞくと背筋が寒くなる。
 邪魔だ! ばかもの!!!
 それでも行く手をさえぎる海軍や海賊を、すんでのところでかわし、やっと戦いの中心、赤犬と対峙するエースをみつけた。

「エース!!!! 」
 の悲痛な叫びは、群衆にのまれ愛しい男のもとには届かない。

 とどかないはずがない! ここまで来れたのだ!
 はやる気持ちを押さえ、赤犬に対峙する男を邪魔してはいけない、とその場で海軍の追撃をとめようと唸る剣を受け止め防戦に応じる。

 異様な雰囲気がして悪寒がの背を駆け上る。振り返ると信じられない光景が目に入った。

 大将の拳が貫き、エースが崩れ落ちる。

 何が……起こった。まさか、まさか……
 言葉にならない悲鳴がこぼれ、ドクドクと心臓が早鐘をうつ。

 そんなバカな。
 切りつけてくる剣を無意識でいなし、切り込む。目の前の邪魔者はずさりと崩れ落ちた。その場の誰もが呆気にとられ、動くことを一瞬忘れた。

 喉がからからに渇き、悲鳴が心に張り付いた。
 うそだ、うそだ。そんなバカな……エースほどの人がここで死んでたまるか!!!
 エースは生きるべきだ、どんなことをしてでも生かされる命でなくてはならない。

「エースが……死ぬだ……と……そんなことが正義だと……認めるものか…………!!! 」

 が真の意味で海軍を捨てたときだった。




2010/2/23





 あとがき
某ネコとのメールで、A書くならどんなAか? との問いに
私なら、
「めら×海軍将校。
めら処刑をどうすることもできない女の心、がしがし書けばOKすか?
一応、好きあってる同士だけど、めらは自身の生い立ちから、セックスできません。
種を女の中に零すことが、イヤなんすよ。
そんなめらの心情と抱かれとければよかったと泣く女」
と返したところ、読みたい!!! と言うもんで(笑) 書くことになったものです。
ワタクシ、さっぱりAにリビトー感じたことなかったんですが、
本編が熱くなるにつけ、Aの素性が明かされた途端、ドバっと、なんか出ました。
非常に複雑な心情を持つキャラに興味がわかないわけがない。
キャラに愛と萌えがないと、書けない人なので、今回は張り切って書けたな。

ただ、心残りは、もっと海軍少尉であるヒロインが火拳を愛したことを悩むべきだったこと。
出会って、数日二人きりで恋に落ちるって……敵同士で、そりゃありえんだろ(笑
せめて、助けられてから恋に落ちろ! みたいなツッコミを入れまくりましたよ。
これが、警官×犯罪者だった場合、道徳的観点から悲恋で終わらせますよね。
ワンピという海賊が絶対悪ではない場合だから、海軍×火拳=いつかハッピーエンドで書いたが、
ヒロインが火拳を愛してしまうことに抵抗すべきだった。愛していると悟ったとき、もっと葛藤すべきだった。
ヒロインが海軍を捨てるとき、友人は力づくで止めるべきでした。
愛というフィルターがそこらへんサクッとご都合主義になってしまった点は、反省すべきでしょう。

尻切れトンボで、完結とします。

いつか、本当の結末、ハッピーエンドを書きたい。


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