涙さえ奪って

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2、おんぶ


「フランキー! あそんで」
「ちび、来ちゃダメだろう。うわーっ! それに触るな!」
 ”どーん! ”
 よりによって、は、バトルフランキー何号だかしらねェヤツの大砲を撃ちやがった。

「バカンキー! いい加減にしろっ! こんなもん俺が壊してやる! 、あっちいってろ」
「いや〜。あそぶの〜。これうちゅの〜」
「アホバーグ! やめろって! ちび、あっちでおにごっこするぞ!」
「きゃーっ! にげるのとくいだもん」
「ンマー、とうぶん帰ってくんな」
「ぶぅ〜アイシュつめちゃい。なくよ〜」
「ンマー、お前の相手するほど、俺は暇じゃねェよ。ガキはガキ同士あそんでこい」
 冷たいんじゃないんだ。俺は十六だ。五つのガキと本気で遊べるわけがねェじゃねェか。バカンキーのお相手には、お似合いだ。仕事もしねェであんなもん作ってられるくらいなら、と遊んでいてくれていたほうがましだ。


 ンマー、出会ってから十日間、は、俺たちの作業場にやってきて、フランキーと遊んでいる。どこのお嬢さんだか知らねェが、よく親御さんが出してくれるもんだ。
 ココロさんが気をもんでも仕方ねェのに。
「フランキーがケガさせたらどうしようね? あの娘はいい所の子だろう? こんな所に出入りしてたら、嫁入り前に傷がついちまうよ」
 ンマー、俺は、ふきだした。は、ガキもガキ。五つの子どもに嫁入り前ってなんだよ?
 ンマー、確かに、バカンキーにつきあわせといたら、とんでもねェ女になりそうだ。


「バカンキー! 仕事しろっ! 、帰れ!」
「俺だって、仕事してェけど、ちび、ほっとけねェだろ!」
「やだ〜っ! アイシュいじわるぅ〜〜〜!」
「ンマー、いじわるで結構だね。いいか、ちび。俺たちは海列車を作んなきゃいけねェの」
「うみれっちゃ?」
「あぁ、海の線路を走る船だ」
「うみれっちゃ、できるとどうなるの?」
「町の人が明るくなれるな」
 難しいことを言ってもわからねェだろうから、俺は、簡単な言葉を使った。

「おかあさんも……あかるくなれる? わらってくれる? とうさまかえってくる?」
「あぁ、なるさ。笑ってくれる。とうさまはわからねェな。だから、は、ここにきちゃいけねェ」
「どうしてきちゃいけないの? ……、ちまだもん。おうちにいてもおもちろくないもん」
 ンマー、ためいきしかでねェよ。

「ンマー、がいると……バカンキーが遊んじまって仕事が進まないだろう? そうすると、海列車ができるの遅くなるだろう?」
 ンマー、わかんねェだろう。こんな話。は、きょとんとしているしな。

がいると、困るんだ。送っていってやるから、今日は、帰んな」
「こまるの? こまるのってかなしいことだよね。おかあさん、よく『こまった』っていう」
 五つのちびでもちびなりに、話をちゃんと理解しようとする。腕を組み首をかしげてあごに指をあてて考える仕草は、誰かの真似なんだろうな。ガキなのに、妙にさまになっていて、可愛いく思える。

「……おんぶ。おんぶちてくれたら、かえる」
「ンマー、おんぶすると、汗くさいぞ」
「うん、平気。アイシュ、すきだもん」
「フランキーにしてもらえ」
 ンマー、フランキーの姿を探したら、そこらにいやしねェ。連日のちびのお守りは、面倒になったらしいな。俺が、ちびの相手した途端に、逃げ出したみてェだ。
 ンマー、あいつサイテーだ。

「フランキーどこ? うわぁーーーん!」
 ンマー、どうして泣き出したのか、わからねェ。
「ンマー、おんぶでもなんでもしてやるから、泣くな!」
「ひっく、ひっく。アイシュはどこにもいかないでね」

 が、なんで、こんなこと言うのか、わからねェ。俺の肩にまわされたの手の小ささと背中に乗っかる軽さに、なんだかわからねェ温かいものが、心を満たす。ンマー、これは、なんだろうな。

、家はどこだ」
 案内させるが、どこをどう通って廃船島までやってくるんだ? と思うほど、大回りをさせられた。
「ンマー、ブル使えば、早ェんじゃねェか?」と言ってみたが、ききやしねェ。
 たどり着いた先は、高台のでかいお屋敷。俺みてェな職人が居ていいとは、思えねェ場所だった。

「ンマー、まさか、わざと遠回りさせたのか?」
「うん」
「お前な、俺は忙しいってわかるか?」
「だって、、アイシュにのっかってるのすき。とうさまみたい」
 ンマー、とうさまみたいってなんだよ。俺は、十六で子持ちになった覚えはねェぞ。せめて、にいちゃんって言えねェか。
 げんなりしながら、を背中から降ろそうとしたら、の家のドアが開いた。

「まぁ、お嬢様。どうなさったんです! あらあら、見ず知らずの人にこんな……」
「ばぁや、のすきなアイシュだよ。あのね、とうさまみたいなの〜」
「まぁまぁ、お嬢様。この方がアイシュさんですか」
 まん丸に太った品のいいバァさんが、あたふたしてるのに、こっちが申し訳なくなってしまう。
「ンマー、おれは、トムズワーカーズのアイスバーグです。下町で迷子になっていたお嬢さんを送ってきました」
 俺は、さっさとをバァさんに手渡して、踵をかえそうとした。だが、引き止められた。
「アイスバーグさん、お嬢様を送っていただいて、ありがとうございます。お茶でも……」
「いや、結構です。俺、仕事が……」
「アイシュ〜ばぁやのおちゃおいちいんだよ。は、にがいのきらいだからジャムいっぱいいれるの」
 ンマー、ありえないだろう。下町育ちの職人のあんちゃんだぞ。こんなでかいお屋敷に足を踏み入れていいのかよ。
「ぜひ、アイスバーグさん。こちらへ。お嬢様がこんなに……さぁどうぞ」
 好奇心もあって誘われるまま、お茶をごちそうになった。



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