「ちが……う……」
いまやすっかり艶を帯びた女の声になってアドルは喘いだ。
「違わないよ。お兄ちゃんはぁ、憎い仇であるあたしに体をいじられてオチ●チンをこんなにさせちゃう淫乱な女の子なの。
うふふ、そんな目で睨んでもだめ。だってお兄ちゃんの体は正直だよ。
ほら、先端からこんなにおつゆを垂れ流してヒクヒクしてる」
言葉で辱められ、アドルはせめてもの抵抗に首を振った。
カーミラの言葉の通り、すでにアドルの体の中でどうしようもないほど欲望が高まり、股間のモノからの放出を求めていた。
その肉茎に、やさしく少女の指がからめられた。それだけでうっとりするほどの快感がアドルの頭の芯を痺れさせる。
「いいこと教えてあげる。
お兄ちゃんが我慢できなくなってここからセーエキを吹き出させちゃったとき、最後の変化が始まるわ。
そうなったらお兄ちゃんは決して元の姿に戻れない。永遠に、女の子の姿であたしのしもべになるのよ。ふふ……」
アドルの瞳に初めて怯えの色が宿った。
「意志の強いお兄ちゃんだもの。きっと、長いことあたしを楽しませてくれるよね。
あたしがあきらめるまで耐え抜ければ、元の体に戻してあげてもいいよ。
もっとも、そんなことは絶対に不可能だけど……あははは」
三度アドルの唇は少女の唇で塞がれ、大量の蜜が喉に流し込まれた。
「さてと……」
いきなり、アドルの意表を突いて、カーミラの爪が陰嚢に突き立てられた。
「ぐあっ!」
陰嚢の表皮を破り、鋭い爪が直接睾丸を引っ掻いた。
闇雲にアドルの体が跳ね回るのをカーミラは片手で簡単に押さえつけた。
ひくっ、ひくっ……!
男のモノはせきたてられるように硬度を増し、まっすぐ天に向かって突き上げられた。
(こんなところで負けてたまるか……!)
超人的な自制心がなければ、とっくに達していただろう。それほどの刺激だった。
「ここで前立腺を責めたら簡単に……ううん、やめた。それじゃお兄ちゃんが苦しむ暇もなく勝負がついちゃう。
もうちょっと手加減してあげなきゃね」
ぞろり……
帆柱のように屹立したそれを、撫で上げたのはカーミラの裸足の足だった。
カーミラは床に腰を下ろし、伸ばした足の先でいたぶるようにアドルのペニスを弄んだ。
「きゃはは。年端もいかないあたしみたいな女の子に足でされて、お兄ちゃん悦んでるの!?」
「ちが……あふぁ、あ、ああああ」
抗議の声がすぐ、甘い喘ぎ声に変えられてしまった。
「何が違うの? もう感じまくっちゃって、快楽に溺れてるくせに。
見なさい、もう胸やお尻なんてあたしよりよほど大きいじゃない。
その立派なモノが立ってなかったらお兄ちゃん、立派な女の子だよ?
まさかまだ剣士のつもりなの? そんな姿で?」
頭上の魔法の鏡に映るアドルの姿は、まさしくカーミラがいうとおりのものだった。
「あ……やぁ……やめ……」
「あはっ。そんな声でもっと鳴いてみせて!」
しゅっ、しゅっ、しゅっ……
足先でペニスを擦り上げられるたびに、脳天を突き抜けるような快感が迸る。

すでに意味のある言葉すら口に出せなくなっていた。
少しでも気を緩めれば、その瞬間にイッてしまいそうだった。
カーミラはリラックスした姿勢で鼻歌を唄いながら、足先の動きだけは止めなかった。
彼女の口ずさんでいた歌が神を讃える聖歌だったことにアドルが気付いたかどうか。
そして、地獄のような時間が過ぎた。
文字通り歯を食いしばり、残されたすべての精神力でアドルは与えられる快感と戦った。
何度も精を吐き出してしまいそうになりながら、それに耐えた。
廃墟の都で最愛の妹の亡骸を抱いて復讐を誓ったことを思いだし、それだけを支えにアドルは魔女の淫戯と戦った。
だが……悲しいかな人間であるアドルには限界が訪れようとしていた。
思考が途切れがちになり、頭の中は狂おしいほどに高まり鬱積した性の疼きで塗りつぶされていった。
「ほらほら、頑張ってぇ。ここでイッちゃったら、女の子になっちゃうよ。それとも……もう、いっそ女の子にしてほしいの?」
「く……が……」
いやいやをするようにアドルが首を左右に振る。
「あは。まだかすかに意識が残ってるんだ。それだけでもすごいよ。
そんな強いお兄ちゃんだから、きっといい使い魔になってくれる」
「リ……ア……の……かた……き……」
「なあに、リアって。ああ、お兄ちゃんの大事だった女の子なの?
うふふ、でもリアちゃんが今のお兄ちゃんの姿を見たらなんていうかしらね?」
それまで間断なく続いていた責めが、台風の目のようにすうっとやんだ。
(チャンスは……いましか……)
わずかに与えられた精神的余裕の中で、アドルは最後の反撃を試みた。
たとえ両腕はいうことをきかなくても、カーミラの喉笛に食らいつくくらいはできる。
体を起こそうとしたときだった。
機先を制するようにカーミラが立ち上がり、アドルのペニスを下腹に押しつけるように足の裏で強く踏んだ。
「──!!」
カクカクッとひとりでに顎がわなないた。
「ちょっと刺激強すぎるかな? でも、このぐらいまだ耐えられるよね?」
ぎゅうっ。
もう一度足で性器が踏まれ、ぐりぐりと踏みにじられた。
その瞬間、アドルはどこかで堤防が決壊したことを悟った。
カーミラが足の裏を離すと同時にペニスが震え、自然と腰が浮いた。
「あれえ?」
熱いモノがペニスに流れ込み、やがてひくついたその先端から噴水のように白濁液が迸った。
ドクッ、ドクッ!!
「そう──もうガマンできなかったのね?」
あどけない少女の口元に一瞬、数千年の齢を重ねた魔女の淫蕩な微笑みが刻まれた。
ドクンッ、ドクンッ……
精の放出は続いた。
「あ……あ……でる……でて……く……」
「みじめなお兄ちゃん。情けないね、恥ずかしいね。でも、もういいの。
そのまま男の精を最後の一滴まで吐き出して、女になっちゃいなさい」
精液が出て行くごとに、体が別な何かに置き換わっていく感覚があった。
そうと分かっていても、もはや射精をとどめる術はなかった。
みるまにペニスが縮んでいく。陰嚢は形をかえ、秘裂を開いて体内に吸い込まれていった。
かろうじて残る男性器がまだ、白いものを吐き出していた。
「もう決して味わうことのできない射精だものね。最後まで感じさせてあげるね。
これは、頑張ったお兄ちゃんに、あたしからの御褒美だよ」
「う……あがぁっ!?」
花開いたばかりの女の秘所とアヌスとに同時に指が侵入した。生
まれて初めて味わう異物の挿入にアドルは声にならない悲鳴をあげた。
秘肉をかきわけ潜り込んだ指が目的の場所を探り当て、そこを強く押した。
「アアアアッ──!!」
全身の神経が焼ききれんばかりの快感が迸り、すでに小指の先ほどの大きさになっていたペニスから、
精液──というにはほとんど白濁のみられない透明な粘性の液体──が噴水のように高くあがった。
その射出を最後に、アドルのペニスは姿を消し、秘唇の上端で小さな真珠ほどの粒となって収まった。
アドルの変化はただ性が変わるだけに留まらなかった。
全身の組織が作り替えられていく。
日に焼けていた肌から浅黒い色が抜け落ち、かわって肌は磁器のように青白い不吉な色に染まっていった。
耳は長く伸びその先端はナイフのようにするどく尖った。
尖ったといえば、いまやアドルの半開きの口元には尖った小さな牙がのぞいている。
最後の変化は背中に訪れた。
メリメリと、背中の皮膚が破れ、そこから何かが飛び出した。
「うあああっ!」
体の裂ける痛みに耐えかねてアドルを床から身を起こした。
バサッ!
粘液にぬめる黒い翼がアドルの背に開いた。
「ハァ、ハァ……あ……」
鏡を見上げ、アドルは愕然とした。
鏡の中には、青白い肌の魔性がいたのだ。一糸まとわぬ妖艶な女の肢体を晒して。
見開かれた目の中の瞳は琥珀の色をしていた。真っ赤な炎のような髪の色だけが、アドルの本来の姿の名残だった。
「どう。生まれ変わった気分は?」
「こんな……こんなことが……」
アドルは鏡に映る姿を打ち消そうとするように自分の体に触れた。
男のものとはまったく違うなめらかな肌に指が触れた途端、ぴりぴりと淡い快感が走り抜けた。
「魔の世界へようこそ……クスッ」
「いやだ。オレは、どんな姿になっても貴様の仲間になんか!」
「どんなに抗っても無駄。もうお兄ちゃんはあたしの眷属なんだもの。
ああ……いつまでも“お兄ちゃん”じゃおかしいね。ね、お兄ちゃんの名前を教えて」
カーミラの瞳に見据えられると、アドルは無意識のうちにその言葉に従っていた。
「アドル……アドル・リスティン……」
「なるほどね。じゃあ、たったいまあなたに新しい名をあげる。我が眷属たる汝に名を与えん。汝の名は──アデル!」
アドルはびくりと身体を震わせた。カーミラの言葉が見えない鎖となって魂を縛っていくのを感じた。
その瞬間、アドルは“アデル”となったのだ。
「気に入ってくれた? じゃあ、おまえの口で新しい自分の名前を言ってみて」
「オレは、アデル……あ!? ちがう、オレの本当の名はア、ア、アデル……ちがう……どうして名前が……」
どんなに頑張っても、本来の自分の名前を口にすることができなかった。
「ふふ、主に与えられた名前は絶対なんだから。魔の眷属は、人間なんかよりずっと名前に縛られる存在なんだよ。
そして、あたしのことはちゃんと様をつけて呼ぶように。──返事は?」
「……はい、カーミラ様……く!?」
アデルは意思を裏切った己の口を手で塞いだ。
「いまさら抵抗しても無駄、無駄。
おまえが男だったとき肉体の快楽に負けて精を放ってしまった時点で魂が闇に囚われてるんだから」
「……それでもいい……」
「ん?」
「たとえこの魂が闇に囚われたとしても、オレはあなたを……」
「あは。面白い。魔性になったのに、人間だったときの心と記憶が色濃く残ってるんだ。
もっとも……そういうのを期待して、お兄ちゃんを堕としたんだけどね」
視界からカーミラが消えたかと思うと、背後でクスクスと笑い声がした。
振り向こうとしたとき、腰から背中を指でついとなぞりあげられた。
「あっ、ふぁぁぁっ……!」
身体の芯にくいこんでくるような官能にとらわれ、アデルは青白い喉をそらした。
「ねえねえ、自分がどんな魔性に変えられたか、興味ないの?
お兄ちゃん……ううん、アデルはね、淫鬼に生まれ変わったんだよ」
「淫鬼……」
「そう。夜の住人の中でも最下層の魔物。
人間の精を糧にし、ときには他の魔性に肉の快楽を奉仕することを業としてるの。
下級の魔ではあっても、その姿はどんな人間の美女よりも妖艶で美しいとされてるわ」
「あぅ……」
乳房の形にそって指を這わされ、アデルの全身から力が抜けた。
「淫鬼だもの。快楽に溺れるのは少しも不思議なことじゃないよ。うん、リアちゃんだってきっとわかってくれるわ」
「その名を口にするな!」
「むごたらしく死んだ、かわいそうなリアちゃん。
その復讐のために魔女に立ち向かった勇敢なアドルがまさか、こんな淫乱な女の子になっちゃうなんてね。
あの世で彼女もちょっと驚いてるかしら?」
背後からアデルを抱きしめたカーミラの手が下へ降りてアデルの股間をまさぐり、探り当てた秘裂にもぐりこんだ。
つぷぅっ。
「ひぁぁぁ……あああ……」
殺したいほど憎い魔女に躰を弄ばれてるというのに、アデルは反抗のそぶりすらみせることができなかった。
淫鬼の肉体はあまりにも官能に素直すぎた。
あっというまに乳首を固くとがらせ、挿入された指の動きに合わせてアデルは腰を揺り動かしていた。
(こんなこと……こんなこと、したくないのに……リア……!)
不意に、カーミラの指が秘所から引き抜かれた。
「あ……」
濡れそぼった秘所とカーミラの指先とが、透明な糸で結ばれた。
「なあに、そんな物欲しげに鼻にかかった声出して。やめてほしくなかったの?」
「ち……がう……」
「生まれ変わったばかりでアデルの肉体が“食事”をしたがってるのね」
「え……?」
「言ったでしょう。おまえは淫鬼。人間の精を糧にしてるの。
女淫鬼であるおまえは、人の男に犯されることがすなわち人でいうところの食事にあたるのよ。
自分のことなんだから、よく覚えておきなさい」
そう言われた途端、アデルの腰の奥のあたりに疼きを感じた。
人の空腹感に似て非なる、狂おしい疼きだった。それが次第に強くなりつつある。
「アデルは男の精を取り込まないと、生きていけないんだよ。ね、本能で分かるでしょう?
その女淫鬼の躰がセックスを求めてるでしょ」
ズクンッ……
カーミラの言葉に呼応するようにして、腰の奥がひときわ強く疼いた。
体の反応はカーミラの言葉が真実だと告げていた。アデルは絶望的な思いにとらわれた。
「人間の男だったときの心や記憶をそのまま残してるアデルが、どんな顔して男のモノをくわえこむのかしら。
想像しただけでどきどきしちゃう」
「カーミラ、様……」
疼きを感じまいとしながら、アデルは悔しさに歯ぎしりをした。
「オレは絶対あなたを許さない!」
「これからおまえを人間界に送り返すわ。あたしへの復讐を忘れられないなら、またここへいらっしゃい。
ただし、そのためには何人もの男と交わって糧を得なくてはならないけど。
魔性としての摂理に逆らうのもアデルの自由。
長く苦しむかもしれないけど、誰とも交わらなければいつかは死ねるわ。ふふ、アデルはどっちの道を選ぶのかしら?」
アデルに投げかける言葉と重なるように、呪文の詠唱が始まっていた。
「待て──!」
叫んだとき、アデルは闇の中に落ちていた。


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