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高層ホテルの窓際に腰掛けた私は、どことなく落ち着かないまま。
まだ・・・迷っている。
会っていいものかどうかを。
約束の時間は午前11時。
もうそれをとうに過ぎていた。
おそらくあれが彼だろうという予測は出来ていた。
私は彼に本当のことをすべて話してはいないから、彼から私を見つけることは不可能だ。
だから、このまま帰れば彼に私はわからない。
そして、まだ、迷っていた。
彼とはじめて出会ったのはほんの偶然のいたずら心。
ちょっとした好奇心。
チャットルーム入り口の一言。
”彼氏と出来ない話をしませんか?”
私は、その部屋のドアをノックした・・・・・。
”こんばんわ”
私の指が、キーボードを叩く。
”こんばんわ、いらっしゃい”
彼の返事。
私は普通に会話しているような錯覚に陥る。
そうしていつしかその中に引き込まれていった。
彼の話題は豊富だった、そして・・・巧みだった。
趣味の突っ込んだ話から、いつしかプライベートな話まで。
”彼氏とは最近デートしているの?”
”ぜんぜん、忙しくて・・・”
”でも、たまには電話してもらうと彼氏としてはうれしいもんだよ”
”そうなのかなぁ・・・”
決して押し付けがましくない、会話。
気負わなくていい。
”でも、寂しいんだよね。”
”うん・・・・”
お互いの話をしているうちに、いつしか話は変な方向へと向かっていく。
”彼氏とのエッチは満足しているの?”
”うん・・多分・・・”
”多分?”
”よく知らないし・・・”
”どんなエッチするの?俺は彼女と・・・・・・”
あけすけな話。
内容はエスカレートしていく。
知らない相手、会ったことのない相手。
徐々に過激になっていく。
”・・・そう・・・そんなふうに・・・・”
”・・?・・・あ・・・”
”気持ちいい?”
”・・・うん・・・・”
言葉だけで、抱かれている、そんな錯覚。
満たされていなかった何か。
気がつかなかった何かに気付かされた自分・・・・。
何度となく仮想空間で話していた。
決して会わないはずだった。
彼が出張で私の暮らす土地のそばへと来ることが決まったとき。
”今度・・・・行くんだよ。”
”そうなんだぁ・・じゃあね、あそこと・・あそこと・・・”
”・・・・会えないかな・・・・・”
”・・・・・・”
”だめ・・?”
”・・・考えさせて・・・・”
”いいよ、わかった。じゃぁ、俺は11時に泊まっているホテルのラウンジにいる・・・・”
そう彼は泊まっているホテルの名前を教えてくれた。
いわゆるシティホテルといわれる類の割と高級なホテル。
そして、容姿と,服装も。
私は行くとも行かないともいえなかった。
彼氏への罪悪感と会ってみたいという好奇心とがないまぜになったよく自分でもわからない感情。 |