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「いいか!ぜ〜〜〜〜ったい来るんじゃねぇぞ!分かったな。」
「はいはい、行きません。」
「絶対だぞ!」
ある日の朝、俊はそう言ってジムに出かけていった。
にこやかに見送る蘭世はいまいちふに落ちない。
「なんだって今日はそんなに言うのかしらね?」
ま、いいかと家へ戻り、家事をこなしていく。しかしそういう日に限って
早く終ったりするものである。
「さ・・てと。」
といって寝室の掃除に取り掛かった蘭世の眼にあるものが引っかかった。
「あれ・・これって・・・」
トレーニング用のシャツ、今日の分として蘭世が渡したものだ。
「忘れ物じゃない・・・。」
蘭世はしばしそれを見つめると、
「届けに行こうっと。」
そう言って着替えを始めた。
「さ、行ってこよう。」
蘭世はお気に入りのワンピースを着て俊の忘れ物を抱えてジムへと向った。
そして入口から覗き、俊がいないことを訝しがり、中へ入る。
「こんにちは・・・・あのすいません。真壁おりますか?」
「おお、奥さん。今日真壁はここじゃないんだよ。」
「え?」
「いやな、あいつは最後まで嫌がったんだけどな・・・・・」
そうして俊が今いる場所を教えてもらった。
・・・だからかぁ・・・・・
俊の朝の言葉の意味をようやく悟ると、蘭世は俊の所へそれでも向った。
「ん〜〜いいよ・・・じゃ・・次は・・・衣装変えていこうか。」
「はーい、少し休憩入ります。」
ざわついたスタジオの中、俊はため息をつくと着替えに控え室へ連れて行かれる。
「真壁さん、着替え手伝います。」
スタイリストの女性がうれしそうに声をかける。
「い・・いや・・・自分で出来るから。そこにおいていってくれよ。」
「でもぉ〜〜」
「ほんとに、出来るから。」
名残惜しそうに俊のはだけた胸元を見ながら、ようやく部屋から出て行く。
・・・・なんで俺がこんなことしなきゃならねぇんだ?・・・まったく・・・
もともと派手なことは苦手な俊である。それが何の因果か今回の話がふってわいて出た。
断わりに断わりつづけ、最後は出版社側も写真家側も意地になって2ヶ月通い詰められた。
ジムでのスパークリングや試合の写真をメインに持ってくるからという約束の下それでもスタジオで取ることを取り付けられた。
「こんなことより、ジムでトレーニングしててぇなぁ・・・」
一人ぼやき、用意された衣装に着替え終ったときノックの音がした。 |