pulsation 8

「違うよ。」
そうはっきり告げる。

「聞きたいんだ。」

「何を?」

梢は振り返った。
視線がぶつかる。

「どうして?」

貴之はそう、梢に問うた。
梢は息を呑み、そして微笑む。

「どうしてと貴方が聞くの?ってこれはいつも貴之が私に言うせりふだね。」
「何故俺なんだ?梢。」

「貴之、だからだよ。そんなの。私にはその答えしかないよ。」

貴之は黙り込む。

「・・・貴之。彼女のこと愛しているんでしょ?大事でしょ?」
「大事だよ。」
「そういう人は他人にそんな気を使って話ししなくてもいいよ。忘れられない大事な女性でしょ・・・」
「忘れないよ・・・・忘れられないし、そんな必要は無い。」

「忘れようとしたってそんなことは出来ない。そんなことをするのは間違えている。」

梢には言葉が無かった。
何故、こんな風にほかの人への愛の告白を私は聞かなくてはならないのか。

心の奥底にふさいだ思いが苦痛の声を上げる。
愛されたかったと、そう彼に愛されたかったという貪欲な感情が。

アイサレナカッタジブンー
アイサレタカノジョー

エイエンニカレノー

ナゼー
ワタシハカレニアイサレナカッター

「梢は梢なんだから。」
貴之の声が梢の耳に届く。


ワタシハワタシ・・・・?


「彼女との未来は作れない、それはもう理解している。それでも彼女を愛している俺自身がいる。」
「ほかに道は選べなかった、彼女とは・・・。」

「梢とはまだ、選べるだろ?」

貴之はそう言葉を続ける。

「彼女とは選べなかった、確かに。梢とはこれから二人で選ぶ道は無いのか?」
「た・・・かゆき・・・なんで?・・」
「『忘れないで、忘れて』と彼女は言ったんだ。」
「!」

ー忘れないで、忘れてー

「梢が俺を好きなことを利用した。その事実は消せない。でも梢だったから受け入れた部分も少なからずある。」

貴之は、苦しそうに言葉を選んだ。

「知っていたよ、梢の気持ち。それに甘えたのは事実だから。」
「嫌いでは、無かった。というのが最初の正直な気持ちだよ。」

「貴之・・・・・」

「このまま、梢から離れたほうがいいと思っているんだ。そして梢と一緒にこのままいたい気持ちも同時にある。」

「・・・忘れないで、忘れて。」
「梢・・・・?」
「彼女を忘れて欲しいなんて考えたこと無かった・・・・・・よ。私のことは、忘れていくと思っていたけど。」

ぽつりと呟くように梢は言う。

「都合いいことを言っていると思う。それでも、梢を忘れることも出来ない。」

「私を思い出にしてくれるの?」
「思い出?」
「そう、思い出よ・・・・貴之がこれから生きていく中での過去。」
「・・・・・・・それにするのは彼女だ。」

貴之の感情を何かが突き抜けた。

・・・・そうか・・・・

「彼女のことは忘れない、忘れないけど、いつか思い出に変わるのかもしれない。」
「・・・・・・・」
「変わらないかもしれない、それはまだ判らない。」

貴之が梢に向かい歩き始める。

「少なくとも、変わったときには、梢に傍にいて欲しいと、思う。」
「・・・貴之・・・・」


こんな日が来ることを思いもしていなかった。
決して色あせない、愛。
二人で過ごしたあの日々。

あれ以上愛せる人なんて多分きっといない。

「・・・貴之・・・」
「いつかなんて約束、出来ない。変わらない・・・かもしれない。」

貴之は梢をまっすぐに見つめた。

「でも。それでも。梢・・・・・・」
「・・・・・・何も出来ないよ、私。うん・・・何もしてこなかった。」
「そんなことはない。」
「ただ・・・・ただ、貴之と一緒にいたかったそれだけしかなかったんだよ・・・」


「梢だからだよ。多分。」
「貴之・・・」
「ほかでもない梢だったから、だ。」

「これから先、彼女のように人を愛するとは思えない。」

貴之は続けた。
「梢は、梢だから。」

恐る恐る貴之は梢の傍へ近づき、腕の中へ抱きしめる。
「愛しているとは、言えない。そしてこれからも言うかどうか正直わからない。でも・・・こうして、一緒にいたいのは梢だ。」
「・・・・・・・」
「もう少し、しばらく、俺の傍にいてくれないか?」

「・・・・約束・・・して・・・・」
「なに?」
「本当に好きな人が出来たら、ちゃんと言って、私と終わりにしてくれる?」
「・・・・・梢・・・・」
「傍にいたから、とか同情とかで私を選ばないって約束・・・して・・・・」

最後の強がり。
本当は同情でもなんでも自分の傍にいて欲しい。
でも、それでは意味が無いから。

小さく肩を震わせる梢を腕の中で感じながら、貴之は梢に見えないように、小さく微笑む。
「・・・・わかった、それは約束する。」

貴之は梢の顔を自分の方へ上げるとそっとその唇を重ねた。

変わらない、逢っていない間も変わらないその暖かさ。
「・・ん・・・・」
閉じたままのそれが少しずつ緩み、舌が互いを捕らえる。
ためらいがちな舌先が思い出したように絡まる。

「は・・・・ぁ・・・」
「梢・・・・・」
「たか・・・ゆきぃ・・・・」
閉じられた瞼の端から細く滴が流れ落ちる。
「どれだけ・・・泣いた?」
「・・・・・知らない・・・」
「・・・・意地っ張りだな、相変わらず。」
そう笑いをこめて言うと貴之は梢の涙を指で掬い取る。
「どうする?」
「・・・ど・・・・どうするって・・・・」
思わず目を開けた梢としっかりと視線を合わせる。
「このまま?それとも・・・・」
「意地悪!」
ぷいっと貴之の腕を振り解くと梢はくるりと身体を回し中へと歩き出す。
「ご飯、作る!貴之の苦手な辛さにする!」
「待ってくれ、それは・・・」
「やだ!」
拗ねた様な口ぶり。
怒ってない声。

前と変わらない。

そして
どこか変わった、二人ー


・・・彼女だと思った・・・・・・


梢が自分の中にいると気がついたとき。
彼女との関係性が変わっていくとようやく気がついたから。

梢以外のだれも、そうは思えなかっただろう。

ずっとーもう彼女と一緒にいたのだから。
そうしてこれからもそうしたいと思うから、自分の中に梢を置いた。


いつしか、彼女が、本当に思い出に変わるまで。
そのときにはきっとー


二人の鼓動が重なり、未来を指すための時計が回りだすー

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