pulsation 7
「今日の夕食はなににしようかなぁ・・・・」
一人ごとを言いながら家の近くのスーパーで買い物籠片手に食材を物色する。
彩りのよい野菜やおいしそうな魚。
「ん・・・と・・・」
あちらこちらと悩みながら歩く。
「できたら、梢の手料理が食べたいのですが?」
背後から言葉が飛んでくる。
「え?」
いきなりの声に思わず振り向き息を呑む。
「久しぶり。」
「・・・・なぁに?いきなりどうしたの?」
内心の動揺を隠しながら梢は笑顔を作る。
「うん。」
「よくここがわかったね?」
「梢のことだから。」
そう一言言って、買い物籠を貴之は取り上げる。
「え、いいよ。自分で持つから。」
「俺が持ちたいんだよ。さて、何を作ってもらうかな。」
「・・・え〜と。何が食べたいの?」
「そうだなぁ・・・イタリアンかな。」
「了解、じゃトマトと・・・」
まるで何もなかったかのように会話を続ける。
前に逢ったときから1年近く時間がたってもいたというのに。
「梢。」
真剣に食材を選んでいる目をひょいとあげて貴之を見る。
「何?あんまり上手じゃないかもよ?食べたいと言ったんだからちゃんと食べてよ。」
「・・あ・・ああもちろん。」
「も〜う、連絡してくれれば準備の少しもしておいたのになぁ・・・・」
そう言いながら買い物を済ませ帰路に着く。
店から梢の部屋まではわずかばかり、たわいない話をしながら歩いていく。
梢の部屋の前で一瞬立ち止まると、
「ここでちょっと待っててね、部屋少しだけ片付けるから。」
にっこり笑って梢は鍵を開ける。
「ああ。」
パタンとドアが閉じられる、がたがたと小さく音が聞こえた。
「はい、どうぞ。おあがりくださいませ♪」
少しおどけたように梢が貴之を招き入れる。
「じゃ、ご飯作っちゃうね、適当に座ってて。さて・・・何からしようかなぁ・・・」
そういいながら部屋の中へと進む梢の後姿ー


「−なんでそんな顔でいられる?」
唐突に貴之が切り出す。
「え?」
張り付いた笑顔のまま梢が振り返る。
「梢。」
「何?どしたのいきなり。おなか空いた?すぐ作るから待っててね。」
キッチンへと向かおうとする梢に貴之が畳み掛ける。
「なぜ俺に何も言わない?」
「言うって・・・貴之、どうしたの?」
言葉ではそういいながら梢は貴之から少し離れる。
「俺はどうすればいい?」
「・・・・・・・・」
困ったような表情で梢は貴之を見つめた。

一瞬の沈黙の後、もう一度梢は笑顔を作る。
「・・・・・もう!夕食作るから待っててってば。ね?おなか空いていると・・・」
「梢。笑ってない。」
「え〜??そりゃ夕食作ろうとしてるの邪魔するから・・・」
「違う。」
入り口に突っ立ったままの貴之が靴を脱ぎゆっくりと梢に近づいてくる。
「笑ってない・・・・んだよ、梢の・・・その眼が。」
「貴之・・・?・・」
そっと手のひらで梢の頬を貴之は撫でると梢の真正面に立ちすくんだ。


「俺は・・・・彼女を愛している。」

ズキンと胸の奥で音が響く。

「・・・・・」
「忘れない。」

耳をふさいでしまいたくなる告白。
わかっていても実際に自らの耳で聞くのとでは意味合いが違う。

「貴之・・・・」

苦しさで押しつぶされそうになる。

わかっていた、いつかそういわれる日が来ることを。
それが怖くて、悲しくて、距離を置こうとしていたことを。

「愛している。ほかの誰もその代わりになんかなれない。」

聞きたくなかった。
そんな言葉は聴きたくなんか無かった。


何を捨てても、自らを殺してでも、そのそばにいられる幸せを欲しいと願ったから。
誰を好きでも、そばにおいてくれるのが私であることが嬉しかった。
ほかの誰でもない、私をそばにおいてくれることが。


どれだけでも、彼を、愛しているから。


「・・・・・・知っている。」
「・・・・梢。」
「・・・知っているよ、言わなくてもいいよ。貴之・・・」
「・・・・・・・・」

もう、限界だった。
梢はその場にへたり込む。
不思議なほど涙は出なかった。

「貴之が、どれだけ彼女のことを大事にしていたか知っている。」
「だからこそ、あれだけ荒れていたのも知っている。」
「貴方も彼女も抵抗できない現実があったって聞いた。」

「忘れないことも貴之の性格としてわかっているよ・・・・・」
「それを言いに、来たの?」

時間が二人の間を流れた。
梢はなんとか立ち上がる。
「ご飯、食べるんでしょ?作るからちょっと待ってて・・・」

ゆっくりと歩くその後姿を貴之は見つめた。

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