距離と吐息
PPPPPPP・・・
小さく電子音がなる。蘭世は急いで電話を見る。
メール着信の合図だ。
”なんだ?”
そっけない文字が見える。
”今何しているのかな?って思ったの。
 なんだか、一人って久しぶりだから”
蘭世は返事を打つ。そして、送信。
しばらくするとまた俊から返事が返ってくる。
”まったく。用事もないのにメールなんかするな。
 早く寝ろ。”
ぶっきらぼうな言い方の隙間に身体を案じる言葉が混ざる。

蘭世は慣れた番号を押した。
何度かのコールの後、相手が出る。
「もしもし?」
(・・・・寝ろって言っただろ?)
「眠れないんだもん。・・・何しているの?」
(・・別に、何も。部屋で一人で寝そべっているよ。)
「どんな部屋?」
(・・普通のホテルの部屋さ。)
俊の息遣いが耳元で聞こえる。
(どうしたんだ?珍しいなお前が電話まで)
普通こういうときに蘭世は電話をしてくることは少ない。
「うん・・・なんか・・・ちょっとだけ・・・」
(ん?)
「ちょっと・・だけ・・ね・・」
(・・・・さびしいんだろう?)
笑いを含んだ俊の声。
「ちがうもん!」
俊の笑い声が携帯越しに聞こえる。
「も〜うう!!」
蘭世の怒ったような声。
(・・・・・・江藤・・)
静かな、それでいて熱い声が聞こえた。
「な・・なに・・・・」
(・・・・今一人だろう?)
「うん・・・・・」
(誰もいないんだな?)
「・・・どうしてそんなに確認するの?」
(・・・・・服・・脱げよ・・・)
「えええ?」
(お前が電話なんかしてくるから。)
「だめよぉ!」
(・・・俺の言うことがきけないか?)
いつもの、口調で蘭世の耳に吹き込まれるせりふに、抵抗できるすべは持っていない。
(ほら・・・・)
促しの言葉に、携帯を置き、ワンピースを身体からすべり落とす。
「・・・・・」
携帯を持つ小さな音が俊の耳に聞こえた。
(下着もだぜ?)
笑いを含んだ、声が蘭世をからかうように、いたぶる。
誰も見ていないのに、俊ですら見ていないのに、その言葉に操られるように蘭世の手が下着を外す。
恥ずかしさに携帯を抱えて慌ててベッドにもぐりこむ。
「真壁くんの・・・ばか・・・・」
(心外だな・・・脱いだのはお前だぜ?)
「誰が脱がせたの?!!」
抵抗の言葉の端に、興奮が混ざることを彼女は知らない。
(・・・江藤・・・・・)
電話越しの俊の声に熱が増す。その声は耳を通して蘭世を直撃してくる。
(今はどこに?)
「・・・恥ずかしいからベッドの中。」
(・・・・触ってみろよ・・)
「ええっ!!?」
(いつも・・俺が触ってるみたいにだぜ?)
蘭世のとまどいを十二分に知っていながら、その声に興奮していることを悟る。
「そんなぁ・・・わかんないよぉ・・・・」
(そうか・・・?)

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