l君は野に咲く華のようで

君がとてもとても、好きで。

その感情は僕をとても幸福にしてくれるのに。

君に好きでいられることがこんなにつらいとは思いもしなかった。

僕を君の想いが壊していく、それを君に知られるのが何よりも怖い・・・・・。


桜舞い散る中、いつもの待ち合わせ場所で学校へ行く前に落ち合った。
「ねぇ、たまには車で来ないの?」
「ああ、だって飲めねぇじゃないか?」
「毎晩飲む気?」
「まぁな。・・・・いいだろう?」
「たまには私と飲んでよ。」
「そのうちな。」
ぶっきらぼうでありながら、必ずといっていいほど朝は迎えに来てくれる彼ー怜。
「澪。」
「なぁに?」
「今日はどこのコンパだよ?」
「ん?な・い・しょ。」
唇に人差し指を当てながらにっこり微笑む。
「飲みすぎるなよ?」
「大丈夫よぉ。ね、怜。怜こそ、毎晩飲んで大丈夫なの?」
「はは、まぁな?」
二人、のんびりと歩きながら学校へつく。
「じゃ、ね。」
「ああ。」
二人とも、また、明日の言葉は出ない。そんなの無くったって二人は会えるのだから。

二人の微妙な距離感。
恋人じゃない、でもただの友人じゃない。
そんな二人の関係。

「なんで、付き合ってないの?」
「え?誰と?」
「怜くんよ。毎日仲良くがっこにきているのに?」
「だって・・・」
澪はにっこりとして言い放った。
「怜は特別だから。付き合うとか付き合わないとかじゃないもの。」
「へぇ・・・」
周りの友人は不思議がる。
でもそれ以外言いようがないのだから仕方がないのだ。

−特別な人。
そう、その言葉が一番しっくりくる。
恋人でもない、友人でもない、そう誰もかわりになんかならない特別な人。
それが澪にとっての怜なのだ。
「れーい!!」
振り向きざまに見せる表情。
他の誰にもそんな顔を見せることが無いことを知っているから。
安心して、隣に走っていける。
「4時限目は休講なのよ。」
「僕はもともとないから、もう出るところだったんだ。」
「そうなの・・?どこへ行くの?」
「んー・・・」
言葉を濁しながら怜は。
「澪をつれてはいけないところだよ。」
「えー!一人でなにか楽しいところ?」
「そうじゃないさ。」
意味深に笑う、怜に澪は少しふくれっつら。
「いいもの!私だって今日は行くところあるし。」
「送ろうか?」
「いらない!」
拗ねた澪の頭を軽く小突く。
「気をつけろよ?」
「・・・うん・・」
結局はそうなってしまうのだけれども。

「・・・・澪・・・!・・・」
カーテンを閉め切った、夜半過ぎ。
暗くした部屋で、怜は1人。
眼を閉じ、その暗闇に、ただ1人の女を思い浮かべる。
・・・れ・・い・・?・・
かすかに開かれた唇からこぼれる、かすれたような声で自分を呼ぶ・・・求める声。
自分に向かって伸ばされる手、細く白い指先。
その指先が身体に触れる感触。
・・・きて・・・
潤んだ瞳で見つめる、その中には自分だけが映る。
触れたその身体は、隠すものなど何も無い、一糸纏わぬ姿。
彼女の瞳の中に映る自分が、獣と化す。
乱暴に、彼女の身体を開いていく。
それでも、うれしそうに身体を預けてくる。
高ぶった分身を、彼女の胎内へ・・・・・・。
「・・うっ・・・」
小さく呻きながら、怜は1人、欲望を満たす。
「・・はぁ・・・」
自嘲気味なため息とともに、その残滓を処理すると、ぽいっとゴミ箱にほおり投げる。
眼を開けば、そこはいつもと変わらない自分の部屋。

こうして幾度と無く、妄想の中で彼女を抱く。

時には、淫らな彼女を。
時には、貞淑な彼女を。

何度、彼女の裸体を想像したかわからない。
どれだけ、彼女を犯したいと思ったかわからない。
それほどまでに、焦がれながら、怜は澪に言おうとはしなかったのだ。

今の関係を壊すのが怖いから。
臆病なだけかもしれないが、怜は今の関係にそれなりに満足はしているのだ。

ただ、身体を満たすだけの相手なら、怜程度の外見であれば造作も無い。
だが、それでは意味が無いのだ。
心も身体もすべて満たされる相手。そうでなければ。

きっと、澪は受け入れてくれるとは思える。
だが、それでも怜は、何も言うことができなかったのだ・・・。

そして、また、朝はやってくる・・・・・
儀式のように待ち合わせの場所で彼女と会う。
何事も無かったように。

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