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「え・・ええ・・・でも・・・でも・・・」
「外は湖でしかないよな?」
そんなことは選んだ蘭世にはよくわかっている。
「う・・うん・・・」
「入ってこいよ。」
「あ・・あの・・・あの・・・」
俊はそれ以上突っ込まず、蘭世にタオルを渡す。
それ以上拒めない蘭世は、恥ずかしげに脱衣所へと入っていった・・・。
・・・さ・・てと・・・
悪巧み真っ最中の俊としては・・だ。
蘭世が完全に入ったのを確認するとやおら立ち上がり、とあるものを持って脱衣場へと入る。
「いいか?」
一応、言葉なんかをかけてみるものの、いやなんていわせるつもりはないのは当然。
「え、え、え、・・・」
慌てふためいている様子が眼に浮かぶ。
格子戸を開ける軽やかな音と共に俊が腰にタオルを巻いて入ってくる。
蘭世は心臓が跳ね上がる。
・・・ど・・どうしよう・・どうしよ・・・
外気の寒さに湯気が立ち上っているその隙間からたくましい俊の上半身が見える。
そして手が蘭世の方へ伸ばされるのが空気でわかった。
・・え・・・ええ・・・・ええええ〜〜〜!!!!!
何されるのか不安でいっぱいの蘭世。
「ほらよ。」
小さなお盆が手渡される。
上にはほんの少しばかりの日本酒。
「え・・?」
「どうした?」
「う・・ううん・・・なんでもないわ・・・」
・・・ばか・・みたい・・私・・・
一人で勝手に早合点して、胸を高鳴らせていた自分がとても恥ずかしかった。
蘭世は湯船に浸かったまま湖のほうのふちにそのお盆を置いて、のんびりと眺めた。
・・きれいだなぁ・・・・
ひのきの桶にお湯を汲みながら俊は、心の中でほくそ笑んでいた
もちろん、蘭世の考えなどお見通しだったりする。
それでもあえてそれには触れず、身体を湯に慣らすと、蘭世の後ろから湯船に入った。
今度は蘭世は慌てなかった。
俊が入ってきたのはわかっていた。が、目の前にあるお酒が欲しいんだろうというだけだった。
「おい?」
「ん?」
半身を向けて首だけを俊のほうへ向ける。
「あ、お酒?」
ほんのりと染まった頬の薄紅色。
あげられたうなじも同じ色に染まっていた。
「ああ・・・」
「はい?」
蘭世は俊にお酒を入れたお猪口を差し出した。
「さんきゅ。」
くいっと口に含むとそのまま蘭世の方に少し近づく。
「お前は?」
「ううん、まだいい。もっといる?」
「そうだな・・・」
蘭世は俊のお猪口を受け取ると注ぎ足し、再度渡す。
そして、また湖のほうへ視線を送る。
俊はその蘭世を後ろから抱きしめると、そのまま無理やりあごを持ち上げる。
「やっ・・なに・・?」
そんな蘭世の抵抗などものともせず俊は蘭世に口移しにお酒を飲ませた。
「んんっ・・・!?・・」
すうっと体内にアルコールが染み込んでいく・・・。
「もっといるか?」
唇を離すと、低い声で俊が囁く。
「やっ・・もう・・・」
すねたような瞳で俊を見ると、すぐにそっぽを向く。
小さく唇の端だけで笑いながら俊は蘭世をさらに抱きしめる。
その、ぬくもりに。
湯船の熱さとは別のそれに。
包まれる幸せ、が蘭世を捉えて離さない。
俊はそれを守ることが一番の幸せ。
拗ねていたはずの蘭世の唇と俊の唇が、月明かりの下、自然と重なった・・・・・。
ぱしゃん・・・
水音が二人の耳に聞こえる。
俊の手が蘭世の乳房をつかむ。
「・・ぁ・・・・」
小さな、本当に小さな吐息が漏れる。
恥ずかしげに眼を閉じる蘭世。
「誰も・・・聞いてやしない・・・」
二人だけの秘め事。
これから始まる、二人の夜・・・・・・。
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