Pre Birthday 1

「ん、もう雨ばっかり・・・・」
「そうだなぁ・・・」
昨今の天気事情はこまったものである。
以前は7月ともなれば梅雨明け間近などと叫ばれ、学生たちの夏休みになればもうすっかり夏本番だったというのに・・・。

「今年も・・・かなぁ・・」
「かもな。」
「あ〜あ・・・」

薄暗いリビングで二人どちらとも無く始めた会話。
「暑くねぇわけでもないんだよな、トレーニングしてると結構な汗はかくし。」
「でも洗濯物の乾きは悪いのよね、それにいつ雨が降るかわからないんだもの。」
「わりぃな。」
「そんなの・・・・俊の所為じゃないもの。この天気よねぇ・・・」
「子供たちはどうした?」
「ん?今日は鈴世のところよ。夏休みの最初のうちに宿題を少しでも多く終わらせたいんですって。」
「あ〜?・・まだ始まったばっかだろ?」
「だから、みたいよ。昨年懲りたみたい。日記と植物観察は仕方が無いけど他はって。」
「卓と愛良が?」
「あと、夏休みの後で夢々ちゃんにだいぶ言われて愛良はかな〜〜りおかんむりでね、卓はその余波ってとこかな。」

涼やかな電子音が鳴り、蘭世が携帯を取り出す。
「もしもし。」
(蘭世?お母さんだけどね。卓と愛良が今日泊まってもいいかって聞いているんだけど?)
「え?」
椎羅の声、その向こうにやいのやいの言い合う兄妹の声が重なる。
「どうした?」
蘭世は送話口を押さえながら
「お母さん、子供たち泊まるって・・」
「いいんじゃないか。」
俊の言葉を受けて
「でも、迷惑じゃないかしら?」
(なんだかねぇ・・一気に終わらせるんだ!!て二人がかなり勢いづいているみたいなのよ)
「鈴世となるみちゃんは何だって?」
(寂しがらないならどうぞって、どうする?)
「・・・そうねぇ・・・ん〜・・・夏休みだしね・・ひと段落ついたらちゃんと連絡入れるように言ってくれる?」
(はいはい、わかったわ。じゃ今晩預かるわね。)
「お父さんにもよろしく伝えて。」
(ええ、後で貴方たちも来る?)
「子供たちの邪魔したくないからやめておくわ、私たちが行ったらまたなんだかんだ言ってしまいそうだもの。」
(それもそうね、鈴世たちだからかもしれないしね)
「ええ、じゃよろしくね。」
ピッと電源を切る。

「しかし、俺の子供じゃないみたいだな。」
「私の子供でもないみたい。」
お互いにクスリと微笑んだ。
「俊の子供のころもやっぱりぎりぎりだったの?」
「ぎりぎり・・てかやっていったかどうかすら怪しいな。」
「私は・・一応ぎりぎりにはやったかなぁ、学校行きたかったからねぇ・・出来たとは言わないけど。」
「ああ、そうか・・そういえば・・」
「まぁ出来はよくなかったけど。」
「きっと来年はぎりぎりなのかもしれないがな。」
「ありえるわね。」
そうこうしているうちに再度電話が鳴る。
「もしもし」
(お母さん?おばあちゃんに聞いたけど、泊まってもいいって?)
「ちゃんといい子にしているのよ、お手伝いもしてね?」
(うん、お兄ちゃんにもそう言っておくね。)
「卓に変わってくれる?」
(は〜い、お兄ちゃん!!)
(もしもし)
「お父さんに代わるわね。」
「もしもし。」
(父さん、今日おじいちゃんのところ泊まって宿題終わらせておくよ。)
「わかった。気をつけてな。」
(・・・・・父さん?)
「なんだ?」
卓は声をひそめた。
(明日はお母さんの誕生日って覚えてる?)
「あ?」
(がんばってね)
「何を言ってるんだか、そんなことより宿題終わらせんだろ、珍しいな、いままでそんなことすらしたこと無かったくせに」
(愛良がなぁ・・・)
(おにいちゃん!!!)
横から愛良が電話をひったくったようだ。
(お父さん!!!ちゃんとお祝いしてあげなきゃだめだよ!!明日は早く帰ってきてね。)
「ああ、わかったわかった。」
(じゃ明日ね〜〜!!!)
ピッと電話が切られた。
「やれやれ・・」
「どうしたの?」
「いや・・・・・」
俊はなんとなく言葉を濁した。
「あ、晴れた。じゃ買い物でもしてこようかなぁ・・・珍しく二人だし、何食べたい?」
「・・・一緒に行こうか、子供らもいないんだし。」
「いいの?!うれしいな。」
・・・いくつになってもかわんねぇな、こういうとこ・・・
全身で喜びを表現してくる蘭世を俊は眺める。
「晴れ間短そうだぜ、さっさと行ってくるか?」
「ええ。」
数分で身支度を整えると二人は連れ立ってスーパーへと出かけた。

「こうして晴れると夏なのよねぇ・・・」
さすがに血なのか日傘と手袋を欠かさずそれでもなお、日差しを避けながら歩く蘭世が呟く。
「そうだな、雲はしっかり夏だしなぁ。」
遠くの山にかかる入道雲。
抜けるような青空。
照りつける太陽。
「しかし、暑いな・・・めんどくせぇな、飯食っていこうぜ。」
「ええ?」
俊はそういうとあたりを見回した。
「ファミレス・・・ってこの辺あったかなぁ・・」
「そういうとこはいつも行ってるからな、お前言ってただろ。珍しく二人だって、行きたいとこ行こうぜ。」
「いいの!!?でもこんな格好・・・」
「夏だからな、いいんじゃねぇか?」
「う〜〜ん・・・えと・・・じゃぁ・・・」
蘭世はひとしきり頭をひねると
「少し歩くけど1回行ってみたいなぁって思っていたビストロがあるんだ・・・いい?」
「少しってどれくらいだよ。」
「商店街抜けて少し行った住宅地の入り口。」
「そんな遠くねぇんだな。いいぜ。」
「うん、前散歩してて見つけたんだけどなかなか機会が無くて・・」
屋根つき商店街を歩いて抜けて、途中の店を冷やかして。
「帰りには夕食の材料も買って帰らないとね。」
「簡単でいいぜ、子供たちはいなんだしな。」
「ええ。」
抜けて5分も歩くと瀟洒なたたずまいの1軒屋。
「ここか?」
「うん。メニュー見ておいしそうだなって。」
ドアを開ける。
「いらっしゃいませ。」
「予約してないんですけど・・」
「どうぞ。こちらのお席になります。」
適度に開いた配置の座席と太陽光が邪魔にならない程度に差し込む空間。
「いい感じだな。」
「うん、思っていた以上!」
「ランチはこちらになります。」
店員が差し出したメニューを二人で眺めながらあれこれ選ぶとゆっくりと腰を落ち着けた。
「手ごろだし、いいんじゃねぇか。」
「そうだね〜。あ、何か飲まないの?今日はお休みなんだし。」
「あ〜・・・いや、いいな。」
「そう?」
「飯食ってまた暑いなか歩くからな。酒は止めとく。」
「そっか、それもそうだね。」
前菜、スープ、メインとドリンクというランチセットを二人でシェアしながら食べる。
「これ、おいしいよ。」
「こっちのも結構いけるぜ。」
「パンもおいしいね。」
たわいも無い話も久しぶりの夫婦の時間。
小1時間で終了すると満足したように立ち上がる。
そのついでとばかりに俊がレシートを持った。
「え?」
「・・・まぁちと早いが、誕生日・・だっただろ?明日。」
「え・・・あ・・・!・・・」
「手抜きで悪いが、これで勘弁してくれ。」
「う・・うん・・・」
うれしそうに蘭世が頷いた。
会計を済ませてドアを開けると刺すような太陽。
「あっちぃ〜〜!!」
「すごいなぁ・・・暑い・・」
「さっさと買い物済ませて帰ろうぜ。」
「そうする・・・・」
と、二人急いで買出しを・・・
「おっまえ、勢いでこんなに買うんじゃねぇよ。」
「だってぇ・・一人だと重くてこんなに買えないからつい・・・」
「ったく。ほら。」
ぶつくさ言いつつ俊は蘭世に荷物をほとんど持たせず買い物を済ませたのでありました。
さすがに人目がつくのでテレポートなどは出来ない二人です。

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