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「いってらっしゃい、気をつけて」
「パパいってらっしゃい〜〜」
いつものように玄関までパタパタと見送りを終えると急いで台所に引き返す。
「じゃ、始めましょうか?」
「わ〜いわ〜い。」
戸棚から丸いケーキ型。
冷蔵庫からバターや卵。
「生クリームはまだよ?」
子供たち二人があれやこれやと出し始めるのをそこで止める。
「じゃまず卵を割って、ボウルに入れて。」
「僕がやる!!」
「私は!私は!」
「じゃ、愛良はボウルを押さえていてね、卓3個割って。」
「うん。」
殻を入れないようにひびを入れるとそおっと割りいれる。
「出来たよ!!」
「きれいに割れたね、じゃちょっと待っててね。」
蘭世は卵を白身と黄身に分けると白身のボウルを卓に、黄身のボウルを愛良に渡す。
「はい、じゃ卓はこの泡だて器でボウルの中身をあわ立ててね、こぼさないように弱から始めてね。」
子供用と思われる小さめの電動泡だて器を卓はボウルに入れるとスイッチを入れる。
「そうそう、ゆっくりでいいから全体が白っぽくなるまではそのままね。」
蘭世は言いながら愛良に向き直ると
「愛良は黄身に砂糖を入れるから黄身をとんとんと軽くつぶして黄身と砂糖を混ぜ混ぜして。」
「やるやる!!」
「そっとやるのよ。」
愛良の手に蘭世は最初手を添えやり方を教える。
「こう?」
「うん、上手。ざらざらと音がしなくなるくらいまで混ぜたらお母さんに教えてね?」
「は〜い。」
「お母さん、もう『中』にしてもいい?」
卓が蘭世に声をかける、視線は白身に釘付けだ。
「ちょっと待ってね、砂糖を少し入れるとあわ立った白身の泡がちゃんとするのよ。」
蘭世は卓にそう言うと分量の砂糖を白身に入れた。
「はい、いいわよ。」
慎重に卓はスイッチを切り替える。
「どんどん白くなるね。」
「そうよ、もっと硬くなるまであわ立ててね。そうすると綺麗に膨らむのよ。」
「ママ〜音しなくなったよ!」
「はいはい、じゃ・・と。」
蘭世はやわらかくなったバターを取り出すと愛良のボウルに入れる。
「じゃ今度はこのバターをこねこねしてね。最初は硬いから一緒にするよ?」
「できるもん!」
「お父さんにおいしいの食べてもらお?だから一緒にしようね。」
微笑みながら愛良の手に手を添えてゆっくりとバターを崩しだす。
「だんだんやわらかくなるね、そうしたら愛良にまかせちゃうから。」
「うん!」
大まかに混ざったところで蘭世の手が離れると愛良が嬉しそうに勢いよく混ぜ始める。
子供たち二人が懸命に手を動かしているのを見ながら蘭世は小麦粉を図り始める。
そして粉ふるいを準備していると
「お母さん、出来た!」
「こっちも出来た!」
と声がした。
「はいはい、じゃまず卓はオーブンの温度見てきて、何度になってる?」
「ん〜・・・180℃になっているよ。」
「そう、じゃぁ二人で粉をふるってね。一人がこうやって入れて一人がこうやってふるいを動かすのよ。」
「私がふるう〜〜」
「じゃ僕が入れるよ。途中で変われよ、愛良。」
「え〜〜・・」
不満げに愛良が頬を膨らますが
「愛良、半分ずつしましょう、ね?」
「そうだよ、半分こだ!」
「む〜・・いいよ!」
なんのかんのいいつつ、兄には弱い愛良であった。
ぱふぱふと白い粉が舞うのはまたこれは笑いがこぼれる。
「そんなに急いでやるなよ、粉がこぼれるだろ。」
「急いでないもん!お兄ちゃんが遅いんだもん。」
「一気に入れたらふるえないだろうが、ほら。」
「おもしろ〜〜い!!!」
「2回ふるうのよ?だから1回全部終わったら交代するのよ。」
「「は〜〜い」」
良い返事に蘭世は思わず微笑んだ。
二人が粉と戯れている間に先ほど二人が混ぜていた二つのボールを中身を泡を消さないように混ぜていた。
「出来たよ〜!!」
顔を白くした二人がニコニコしながら粉の入ったボウルを持ってきた。
「はい、ありがとう。じゃ最後の作業よ。お母さんのボウルに粉を入れてくれるかな?」
二人でボウルをかたむけながら粉を移すと蘭世はさっくりと混ぜ合わせる。
「さ、これで生地が出来たから型に流して焼きましょうね。」
ホール型に生地を流し込むとオーブンに入れる。
「これで40分ね。さ二人とも顔が粉だらけよ、顔洗っておやつにしましょ。」
「焼けたら生クリーム塗るんでしょ!!」
「ううん、まずは冷ましてからよ、熱いとクリームがとけちゃうでしょう?」
「あ、そか。」
笑い声が響く。
三人でおやつを食べているとふうわりとリビングに甘い香りが漂う。
「焼けてもすぐは何も出来ないの、準備できたら呼ぶからね。」
「は〜い、ね、公園行ってきてもいい?」
「いいわよ、お昼には帰ってらっしゃいね。」
「は〜い。」
良い返事とともに二人があっという間に椅子から滑り降りた。
蘭世は二人を送り出すといろいろと準備を始める。
煮込み料理は時間をかけたいからとゆっくりと。
昼に戻ってきた二人にまだ冷めていないからとお昼寝をさせる。
冷蔵庫に冷えたオードブルを。
二人が起きてくるまでに果物をいくつか切って準備を整える。
「おかーさん・・もう冷めた?もうできる?」
「出来るわよ、さ、顔洗って二人とも。」
「やったぁ!」
氷水を当てたボウルに生クリームと砂糖を入れると蘭世は卓に午前中と同じ泡だて器を渡す。
「愛良、ボウルを押さえててね、卓『弱』からよ。」
「うん。」
あっという間にあわ立った生クリームに思わずスイッチを切って二人で端っこのあたりに手を伸ばしてみた。
「し〜〜っ」
とそっと舐める二人に蘭世は見てみぬふり。
「美味しいね。」
そう言い合う二人は声をそろえて
「出来たよ〜〜!!!」
「はいはい、じゃ飾り付けましょ。」
半分に切ったケーキを二人の前に差し出した。
まずクリームを塗ってその上に果物をてんでに並べだす。
ある程度埋まったところで少しのクリームを重ねて上にスポンジを乗せた。
「はい、じゃ待っててね。」
そういって蘭世が表面を綺麗にクリームを塗っていく。
わくわくとした輝いた目で二人がその工程を見つめている。
「さ、出来た。次はどんな風にしようか?」
生クリームを絞り袋に入れて蘭世はいたずらっぽく二人にウィンクした・・・・・・
夕刻・・・・・
いつもの時間に俊が帰宅の途についていた。
「ただいま・・」
いつものように大きくない、けれど通る声で帰りを告げる。
「・・・・・・」
返事が無い。
「・・・?・・」
不思議に思いながらも玄関を上がり、リビングへの扉を開けた。
パン!パン!
と大きなクラッカー。
そして
「ハッピーバースディ!!!!!」
愛しいものたちからの祝福の言葉があった。
さぁパーティはこれから!
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