the necessary one 1
大きな歓声が湧き上がる。
それに後押しされるかのように身体が動いた。

「勝者!真壁!」
片手を高く持ち上げられる。

・・・勝ったのか、俺は・・・・
一瞬の呆然の後自分の身体に触れるトレーナーの手の熱さで実感を増していく。
「おい!やったな!!!」
「真壁。お前がチャンピオンだ!!!」
「俊!!!」
「俊くん!!!」
神谷の声は聞こえた。
おやっさんの声も。

だけども・・・

一番聞きたい声が聞こえてこないー


・・・・真壁くん、おめでとう!!!・・・
いつもなら、そう、いつもなら一番最初に聞こえるはずのその声が聞こえない。
跳ねるようなその声。

「俊!!」
嬉しそうな神谷の声が現実を引き戻した。
「あ・・ああ・・」
「やっぱり!俊はいつかこうなるって思ってたわ!」
「さんきゅ・・」
「真壁、あっちで記者会見の準備だ。」
「はい。神谷、あとでな。」
「祝賀会の準備行ってるわ。力も来ているし、手伝わせなきゃ。」
軽く手を上げると曜子はにやっとしてそれでも手を降り返して急ぎ足で去っていった。

「真壁さん。新チャンピオンおめでとうございます。」
「すばらしい試合でしたね。」
「どんな気持ちですか。」
矢継ぎ早に質問が投げかけられる。
「ありがとうございます。」
「まだ、実感は少ないです。」
だの無難な答えに終始する。

「何を思って戦いましたか?」
ふと記者の一人がそんな質問を発した。
「何を・・・ですか?」
「はい。」
「俺は・・・・」

・・俺は何のために戦った?・・・・

最初は、おふくろのためだった。
強くなればお金が稼げる、そうすればおふくろが楽になる。
そう思ってはじめた。

やっているうちに面白くなっていった。

自分を追い込むことも嫌いではなかった。
ストイックといわれたらそれまでかもしれない。
それでも自分をとことん痛めつけてその先にあるものを見るのは楽しいと思った。

自らは死ぬことが無い、それを知ったのはあの事件の後のこと。
魔界人として再生し、人ではなくなったのだ。
限りある命を大事にでもなく。
それと同時に母親も魔界人として幸せに暮らし始めた。
楽をさせてやるのは自分では無い誰かになった。

このままボクシングを続けることは意味があるのか?

そう自問自答もあった。
それでも自らが自らであるために続けた。
そこでは決して能力を使わないと課した、それがルールだと自分でも思っていたから。

能力を使うことはフェアじゃない。
もちろんそれはその通りだ。
だがそこに自分の中の慢心は無かったか?
自分が本気を出せば相手をいつでも叩きのめすことが出来るというそんな気持ちはかけらも無かったのか?

命を奪いかねないという意味での抑制は必要だが、それ以上は必要なのか?

だが間違って本気を出して人を殺めてしまったら?

そんな感情が入り混じりだした。
そして戦うことが怖く、なったのだ。

「俺は、俺のために戦いました。前にいるその相手ときちんと向き合い、そして自分とも向き合った。」
そう、はっきりと俊は言葉を発した

サンドバッグに対する打ち込みと長めのロードワークと柔軟、そしてトレーナーとのスパーリング。
しばらくの間と俊はトレーナーに頼み基礎体力をつけるほうに重点を置いた。
丁度時期的に試合が無いときでもあったのも幸いし、トレーナーはさほど抵抗なくその希望を受け入れた。
淡々とメニューをこなす俊をみて曜子は蘭世にその状態を話していた。

「おかしいのよね、俊。」
「何が?」
「気がつかない?」
「・・・・・練習の時なにかあったの?」
「ううん、そんな話は聞いていないわ。」
「・・・じゃ、きっと今はそういうことをしようと真壁くんが決めたんだと思うな。」
「そうなのかもしれないけど・・けど・・やっぱり何かおかしいのよ。」
「少し、様子見てみましょう?」
「アンタがそういうなら、それでもいいけど・・でも!でも何かあったらちゃんと言ってね!!!」
「うん、ありがとう。神谷さん。」

曜子にそういわれる前から気がついていた。
このところの俊はどこか違和感がある。
何がどうと説明するのは難しいのだけども。
いつものように商店街で買い物を済ませると蘭世は俊のアパートへと立ち寄る。
以前はお弁当を作って持っていっていたが最近は合鍵を預かっているので部屋で簡単に作っておくことが多くなった。
温かい出来立てを食べてもらおうと俊が帰るのを待つ日も増えていった。
そんなある日。

「おかえりなさい。」
「・・ああ・・」
どさっと荷物を置くと俊は部屋の定位置に座ったり寝転がったりと食事が出来るのを見ている。
それがその日は様子が違っている。

「・・江藤・・」
「何?」
最後の仕上げとばかりに台所仕事をしている蘭世を呼び寄せるとその身体を抱き寄せる。
「・・真壁くん?」
無言でその唇を重ねると間髪を入れず服の下に手を滑り込ませる。
「ちょ・・・食事・・」
「後でいい。」
わずかばかりの抵抗も俊の深い口付けに奪い取られる。
膝の上に抱きかかえられるとそのまま上着を剥ぎ取られた。
「・・ま・・かべくん・・・」
蘭世の首筋に触れる俊の指先の後を追うように唇がなぞり、舌が舐めあげる。
「・・・は・・・」
初めて身体を重ねた時からその部分は蘭世の肌を紅く染めた。
淡いグリーンのブラに納められた少し小ぶりの乳房をそれごと揉みしだく。
ブラから半分零れ落ちた乳首を舌先で嬲ると強く吸いあげる。
「・・・あ!・・・」
一瞬電流が走ったようなその甘美さに蘭世は思わず声を上げた。
反応に気がついた俊は執拗にそこを責めはじめる。
「・・やぁ・・ん・・・ん・・・」
膝の上という不安定な場所で心もとない状態で俊の頭を抱き寄せるような格好にならざるを得ない。
「だ・・だめぇ・・ね・・・おね・・が・・・・」
ぴちゅぴちゅと舐める音が狭い部屋に響くようで蘭世の身体は益々熱く、紅く艶かしくなっていく。
それすらも気がつかないように俊は蘭世に愛撫を施す。
「・・ぁぁ・・はぁ・・ん・・や・・やぁ・・・・」
首を左右に振りその快楽に飲み込まれないようにするので蘭世は精一杯。
俊の唾液で濡れた乳首は固くしこり、これ以上無いほど乳房が張り詰めていく。
満足するまでその行為をやめようとしない俊に蘭世の限界が先に来ていた。
「や・・ね・・やぁ・・・だめぇ・・・!!!・・・」
きゅっとその先端に軽く歯を当てるとびくん!と大きく蘭世の身体が仰け反った。

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