『ひでぼんの書』

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第2部第7話

「さぁ、これからが本番よ」
 黒と白のセクシーな下着姿の美女――“だごん”に“はいどら”。
 白銀の巨大な人型機動兵器の胸部に埋め込まれた美少女――“おとぅーむ”。
 縦ロールが眩しい貴族風の可憐なドレス姿の美女――“ぞす=おむもぐ”。
 そして、華麗なまでに高らかと宣戦布告する龍田川 祥子さん――ついに彼女の『邪神』達が、本格的に攻め込んできたんだ。
「わ、わぉん!!」
 気丈にも“てぃんだろす”が僕の前で四つん這いになって、唸り声を上げながら牽制してくれてるけど、しっぽがぶるぶる震えてるのが分かる。
「……御主人…様……逃げて下さイ……」
 その美しい体の3分の1くらいを黒い原形質に変えながらも、“しょごす”さんが呼びかけてくれたけど……
「…………」
 僕はその場から動かなかった。
「あら、逃げないとは良い度胸ね赤松 英。私のライバルには相応しいわ」
 いや、恐怖のあまり体が硬直して動けないだけなんです。
「でも、ティンダロスの猟犬とショゴスロード一体ずつでは、この戦力比を覆す事はできないわよ。赤松 英」
 龍田川さんは得意そうに大きな胸の下で腕を組んだ。
 相変わらず説明的な台詞ありがとうございます。でも、全然嬉しくないです。
「真の『接触者』はただ1人……我等が大いなるクトゥルフ神の眷属よ、彼の者に黎明の審判を与えよ!!」
 彼女の右手が小さく、しかし素早く振られた――瞬間、恐るべき旧支配者達が一斉に襲いかかった!!
 鏡絵のように同時に襲いかかる“だごん”さんと“はいどら”さんを、“てぃんだろす”が1人で立ち向かおうとする。
 “おとぅーむ”さんの機体から伸びるグロテスクな機械製の触手を、“しょごす”さんの原形質の触手が絡み止める。
 そして、僕の眼前にはティーカップを上品に口元に運ぶ“ぞす=おむもぐ”さんが踊りかかった――いや、これらは全て後から聞いた内容だけど。はっきり言って、人間の僕には、その時何が起こったのかはさっぱりわからなかったんだ。
 ただ1つ、僕にも分かったのは、背後から僕の身体を何者かがすり抜けた――と感じた瞬間、

「んんっ――」
「――っああ!?」
 “だごん”さんと“はいどら”さんがもつれ合うように部屋の隅に吹き飛び、
「コレハ!?」
 “おとぅーむ”さんの機械製の触手が千切れ飛んで、
「あら、ふふふ……」
 “ぞす=おむもぐ”さんは、ふわりと浮かぶように、僕の目の前から離脱したという事実だ。
 きらきらとした細かな氷の欠片――ダイヤモンドダストが部屋中を舞う。
「……かりつおー……」
 僕の前に背を向けて片膝をつくように降り立ったのは、闇より黒い着物姿の氷の如き美少女――“いたくぁ”さんだ!! 技の名前間違ってるけど。
「なっ!?……そうか、貴方は“つぁとぅぐあ”神以外にも、もう1人旧支配者と接触していたのよね」
 人が変わったように緊張の影を走らせる龍田川さんの瞳を、“いたくぁ”さんは相変わらずの無表情で見つめている。その美しい鉄面皮の奥に、僕は何となく怒りの感情を読み取った。
「……よくも……苛めてくれたっスね……」
 どうやら彼女は“でぃーぷわん”ちゃん達にお尻を散々苛められた事を根に持っているらしい。とにかく、頼り甲斐のある助っ人が登場してくれた。正直、彼女は絶対に僕を助けてくれないと思っていたからなぁ。
「ありがとうございます、“いたくぁ”さん! 後でお礼に皆でアナルを可愛がってあげますね!!」
「……帰る……」
「嘘っ!! 冗談です!! 最高級の玉露を飲み放題です!!」
 廊下へのドアから消えようとする“いたくぁ”さんの着物の裾に、必死にしがみ付く僕のそばに、
「おほほほほ……流石は“いたくぁ”様、腐っても旧支配者の一柱ですわね」
 あの金髪縦ロールなお姫様――“ぞす=おむもぐ”さんが優雅な仕草で接近してきた。しかし、彼女の興味は僕にあるわけではないらしい。

「……腐っても?……」
 ふらり、と“いたくぁ”さんが振り返る。
「一応は旧支配者である“いたくぁ”様のお相手は、同じ偉大なる旧支配者たるわたくしがお相手しましょう」
 優雅に、そして無感情ににらみ合う2人の視線が交錯する個所で、線香花火みたいな謎の発光体が見えるのは幻覚だろうか?
 やがて2人は同時に動いた。お茶菓子やマンガの置いてあるちゃぶ台を挟んで向かい合うように腰掛け、“いたくぁ”さんはマイ湯呑みを、“ぞす=おむもぐ”さんはマイティーカップを勢い良くちゃぶ台の上に叩きつける。何処からともなく取り出した巨大な魔法瓶から急須とティーポットにお湯を注ぎ、しばらく待ってから湯呑みとティーカップに緑茶と紅茶を注ぎ入れて――
「行きますわよ」
「……かもんべいべー……」
 2人はそれぞれのお茶を一気に飲み干した。
「あ、あっ、熱っ!!」
「……ぐるじお……」
 予想通り、2人は喉を押さえてしばらく悶絶したけど、しばらくして再び互いの湯呑みとティーカップにお茶を注いで――
――今度は十分に冷ましてから――同時に飲み干した。両者とも湯呑みとティーカップを逆さにして、最後の一滴までまで飲んだ事を確認してから、またお茶を注ぎ――
「……えーと、これってお茶の飲み比べ?」
 よ、よくわからないけど、さすがは神々の戦い。僕みたいな凡俗の人間には想像もつかない方法で戦うんだなぁ……まぁ、平和的で良いけど。

「ソノ身体デ、我ニ勝テルト思ウカ?」
「赤松家のメイドとしテ、メイドハウス『狂気山脈』の職員としテ、クトゥルフの眷属に負けるわけには行きませン!!」
 ……で、こっちの方はガチンコマジバトルをやるみたいだ。
 ぎりぎりと耳障りな音を軋ませて、原形質と機械の触手を絡め合う“しょごす”さんと“おとぅーむ”さん。“しょごす”さんは普段は温厚そうな糸目を妖しく見開いて、“おとぅーむ”さんはエネルギーラインの浮かぶ生体部分の肌を高揚させて、互いに1歩も引かずに力比べをやっていたけど……
「えーと、家が壊れないようにお願いします」
「はいでス」
 ひらりと庭に飛び降りた“しょごす”さんは、“おとぅーむ”さんと再び怪獣大戦争を開始した。怖いからあまりそっちの方は見ないようにしようっと。
 そして、最後に残るのは……
「がるるるる……」
「うふふ、美味しそうな――」
「――猟犬と人間だこと」
 ショートカットの茶髪で黒い下着姿の“だごん”さんと、長い黒髪で白い下着姿の“はいどら”さんに牙を向ける“てぃんだろす”と――
「わん、わわん!」
「――って、僕が戦うの!?」
 そそそそそ、そんな事できるわけないじゃないか!!!
「一手足りなかったようね、赤松 英――今の貴方の戦力で、我々に立ち向かうのは不可能よ」
 不敵に笑う龍田川さんの美貌には、勝利の確信がありありと浮かんでいた。
 あああああ……これはホントの本気で大ピーンチ!!

 しかし――
「うふふ、私達と一緒に――」
「――食べ合いましょう」
 “だごん”さんは僕の、“はいどら”さんは“てぃんだろす”の手をそっと掴むと、そのままぎゅっと抱き締めたんだ。銘柄なんて分からないけど、香水らしい甘い香りと、レース模様が綺麗なブラに包まれた柔らかい双丘に顔を挟まれて、僕の頭の中は真っ白になった。
「な、な、何をなさるのですか“だごん”様!? “はいどら”様!?」
 この事態に、さすがに龍田川さんも慌てたみたいだ。いや、巨乳に顔を挟まれて何も見えないから推測だけど。
「だって、この子達は――」
「――とっても美味しそうなの」
「始末するのは――」
「――摘み食いしてからでも遅くないわ」
 ど、どうやらすぐに僕を始末する気は無いみたいだけど……何だか違う意味で食べられてしまいそうな感じだ。“がたのそあ”さん達が言っていた『僕は美味しい獲物』現象が発動したらしい。
「……居間を借りるわよ、赤松 英」
 呆れたような疲れたような龍田川さんの声がすると、階段を下る音が遠ざかって行った。彼女は1階で事が終わるのを待つつもりらしい。
「さあ、たっぷりと――」
「――味合わせてもらうわ」
 ふっと巨乳の谷間が離れた。ようやく呼吸ができるようになって、深く息を吐く間も無く、“だごん”さんの妖艶な美貌が僕の視界いっぱいに広がって、
「ん……」
 彼女の熱い舌先が、僕の唇を割って侵入してきた。反射的に僕も舌を伸ばす。絡み合う腐肉のように柔らかな舌が、甘くねっとりとした唾液を掻き混ぜて、僕の精神もシェイクさせる。
 そう、今にも殺されそうな状況なのに、再びあの『人外の誘惑』が、僕の理性を粉砕したんだ。

「んふぅ……」
 ディープキスしたまま“だごん”さんが妖しい笑みを浮かべた。
 黒いブラの上からボリュームのある胸を揉み解す。さらさらとしたブラジャーの感触と、指に吸い付くようにしっとりとしたもち肌との差異がたまらなく心地良い。ブラの中に隠れた乳首が、しっかり固くなっているのを手の平に感じた。
「ぷはぁ……」
 長い長いディープキスが名残惜しげに離れた。唾液の糸が僕と“だごん”さんの唇を繋いでいる。
「まずはお口で――」
「――御挨拶ね」
 “だごん”さんが僕の腰に抱き付くようにしゃがみ、いつのまにかズボンもパンツも剥ぎ取られていた僕の股間に顔を埋めて――
「はうっ!!」
 ペニスから背筋にかけて羽毛で撫でられたような衝撃が走った。信じられないくらい大きく勃起した僕のペニスを、一口で根元まで咥え込んでしまったんだ。“つぁとぅぐあ”さんにも負けないディープスロートは、信じられないくらい気持ち良い。喉の奥で亀頭を絞め、たっぷりの唾液でグジュグジュとシャフトを洗い、熱い舌でペニスに浮かぶ血管1本まで丁寧に磨く――僕は快楽のあまり下半身に力が入らなくて、崩れ落ちるように床に仰向けに倒れた。そんな僕のペニスを、“だごん”さんは貪るようにしゃぶりまくる。
 ぽふっ
 突然、僕の目の前に白い優美なデザインのパンツと、ガーターベルトに飾られたムチムチの股間が出現した。純白の下着は所々がシースルーで、黒いヘアが好けて見える。
「ほら、貴方も――」
「――奉仕しなさいな」
 そのまま僕の顔は“はいどら”さんの股間に顔面騎乗されてしまった。たまらない成熟した女の香りが鼻腔いっぱいに広がって、呼吸困難とは違う意味で僕の息は獣のように荒くなった。下着越しに熱い秘所の湿り気が、僕の顔に伝わってくる。

「ひゃぅん……あぉん!!」
 “てぃんだろす”の切ない嬌声が聞こえた。横目で見ると、同じく仰向けになった“てぃんだろす”の股間に“はいどら”さんが顔を埋めて、可愛く勃起したペニスを右手でチュクチュク音を立てながらしごき、左手は中指でアヌスを責め、幼いながらもしっかり熟したヴァギナを妖しく笑いながらクンニしているんだ。ピチャピチャと水を舌で舐めるみたいな音が響く度に、
「きゃうん! わおぉん! あうぅ!!」
 “てぃんだろす”は泣きじゃくるように悶えて、快感の波に翻弄されていた。
「……ん?」
 その時、僕は顔に押し付けられた“はいどら”さんの下着に、股間を割るように切れ目があるのを見つけた。舌先で左右にずらすと、湯気立つように熱く濡れた秘肉が、愛液を滴らせながら顔を出す。なるほど、履いたままでもSEXできる下着なんだ。
「んはぁ……うふふ」
 槍のように尖らせた舌先を、ひくひく口を開ける膣口に挿入すると、“はいどら”さんは甘い声を漏らして、キュッと痛いくらい膣壁を絞めつけた。貧欲なアソコは挿入した舌を離してくれないので、僕は自由な両手で彼女の火照ったラビアを引っ掻き、葡萄のように熟したクリトリスを押し潰して、ぱっくり口を開けたアヌスに指2本を差し込んだ。
「あはぁ……んくっ!! いい――」
「――わぁ……ああぁ!!」
 かなり乱暴な愛撫だけど、“はいどら”さんは激しく身悶えて感じてくれた。そして、その嬌声に“だごん”さんの甘い声が混じっているのに気付き、再び彼女の方を見てみると――
「きゅふぅぅん……ぴちゃ…はぁうん!」
「うふふ……もっと強く…くふうっ!!」
 なんと、“はいどら”さんに秘所を責められている“てぃんだろす”が、負けじと“だごん”さんの黒い下着の中に顔を埋めて、僕と同じように割れ目から秘所をねぶっているんだ。
 つまり、今の僕達は4P――それもぐるりと円を描くような、いわゆる四輪車プレイをしている事になる。うーん、我ながらマニアックだなぁ……

「じゅぶっ…んはぁ……あふぅ!!――」
「――ふあぁ…あんっ!!……美味し」
 そんな事を考えている間にも、“だごん”さんと“はいどら”さんのフェラは益々激しくなっていく。僕も一生懸命お返ししてるし、彼女も軽くイク気配は伝わるんだけど、やはり相手は人外の存在。タフさが人間とは段違いなんだ。やがて、僕は“だごん”さんの巧みな口使いに耐え切れず――
「うううっ!!」
 たまらず僕は、搾り出すように射精――
「……え!?」
 ――しない? 射精できない!?
「きゃおおおぉん!!」
 “てぃんだろす”が当惑したような嬌声を搾り出した。どうやらあの子も僕と同じ状況らしい。
 生理現象に任せて射精しようにも、途中でザーメンが急停止するような感覚があって、どうしても出す事ができないんだ。これは一体……!?
「うふふ、御自分の一物を――」
「――よく見て御覧なさい」
 僕の心を読んだらしい、嘲笑うような声に導かれて、自分のペニスを見てみると――
「ありゃりゃ!?」
 黒く細い糸状のものが、僕のペニスの根元をきつくぐるぐる巻きに縛っているんだ。見れば、“てぃんだろす”の小さなペニスも同じように拘束されていた。こ、これが僕の射精を止めているのか? それに、この黒い艶やかな糸には見覚えがあるような……
「貴方の手首から――」
「――拝借したのよ」
 何ィィィィィ!?
 そう、これは“つぁとぅぐあ”さんの髪の毛で、“おとしご”ちゃんでもある黒いミサンガを解いた糸だったんだ。どうりでこの緊急事態に“おとしご”ちゃんが助けに現れない筈だ。きっと『邪神』さんお得意の不思議パワーで、“おとしご”ちゃんの力を封印して、ついでに僕と“てぃんだろす”の射精も封じたのだろう。後者の意図はさっぱりわからないけど。

「すぐに達しては面白くないでしょう――」
「――私達を気絶させるくらいイかせれば助かるかもしれないわよ」
 ……どうやら射精の方は単純な理由らしい。
 そんな当惑する僕達を、“だごん”さんと“はいどら”さんが軽々と押し倒した。身体は動かせるのに抵抗しなかったのは、抵抗しても無駄だろうと思ったのと、射精寸前の状態で股間が固定されていて、それどころじゃなかったからだ。
「うふふ、こちらはたくましくて――」
「――こちらは可愛いわね」
 “だごん”さんは僕の上に、“はいどら”さんは“てぃんだろす”の上に馬乗りになって――
「んはああぁっ!!」
「うふふっ」
「くあうぅん!!」
 騎乗位の体位で一気に挿入させた。さっきから射精寸前の状態で高まっていた僕のペニスが、更なる快感の淫肉に包まれる。股間に高圧電流が断続的に流れるような衝撃が、僕の魂を白熱化させた。身体がガクガクと勝手に痙攣して止まらない。それくらい凄まじい快感だった。僕は呼吸もできないでいる。射精の瞬間の快感がずっと続いているんだ。ここまで来ると快楽自体が苦痛でしかない。
 拷問地味たSEXに、僕は気が狂いそうだった。もし、あと数秒“だごん”さんのピストンが続いていたら、本気で僕は発狂していただろう。
 でも――
 どがぁっ!!!
 部屋の外壁が吹き飛ぶ轟音で、僕の意識は何とか覚醒した。ああ、また修繕屋さんを呼ばなくちゃ。
「え?――」
「――これは?」
 壁に開いた大穴から伸びてきた漆黒の触手が、“だごん”さんと“はいどら”さんを一瞬で拘束して、僕と“てぃんだろす”の腰の上から引き剥がしてくれたんだ。あのおぞましくて親しみのある触手の正体は、間違い無く我等が――

「“しょごす”さん!!」
「わぉん!!」
「お待たせしましタ、御主人様。“てぃんだろす”ちゃン」
 大穴からふわりと室内に飛び込んで来た“しょごす”さんは、糸目を綻ばせながら頬に手を当てて微笑んでくれた。
 ……メイドスカートの中から、数十本の触手をうねくねらせながら。
「あああっ! うンンッ……むぐぅ!!――」
「――あふぅ…やあっ! やめてぇ……はああん!!」
 触手で空中に持ち上げられた“だごん”さんと“はいどら”さんを、うねくる触手が容赦無く責めていく。豊満な乳房を下着ごとキュッと搾り、喉の奥までフェラチオを強要する。太ももに腋の下、うなじや腋の下などの性感帯を撫で回し、膣口とアヌスに限界まで挿入した触手の束で激しくピストンする。細い触手で乳首やクリトリス、尿道まで責めるのも忘れない。身悶える彼女達の涙とも愛液ともつかない淫汁が、僕の足元にまで飛び散った。
 さすがは“しょごす”さん。エッチ勝負でタチに回れば天下無敵だ。
「古の海底都市を破壊された恨ミ、主に代わって晴らさせてもらいまス!!」
 普段は温厚そうな糸目を妖しく見開き、触手の束と化した下半身を脈動させて、『ゴゴゴゴゴ……』と擬音が響きそうな勢いで高笑いする彼女は、正直かなり怖いけど。
「ええと……例の巨大ロボットな“おとぅーむ”さんには勝てたみたいですね」
「はイ、この通りでス」
 どさり、と僕の足元に何かがそっと投げ出された。
「……アアア……アア…ア……」
 所々にエネルギーラインが走る大理石のように純白の肌と、ネオン的な輝きを放つ長い銀髪の美少女が、力無く横たわっている――ただし、その美少女には四肢が無かった。両腕は肘から先が、両足は付け根から鋭利に切断されていて、千切れた配線と機械パーツが時折青白い火花を走らせている。あの巨大ロボットの胸部にレリーフみたいに貼り付いていた美少女――彼女が“おとぅーむ”さんの本体か。
 それにしても……相変わらず敵には容赦無いですね、“しょごす”さん。

「……まぁ、とにかく無事で良かったです」
「実ハ、思わぬ御方に助けられましテ」
 え? 思わぬ御方?
 その時、青白い輝きが壁の大穴から溢れ出した。蒼い羽衣を華奢な身体に巻いた蒼髪の美少女が、背中に機械製の翼を広げて僕の姿を静かに、そしてどこか寂しそうに見つめている。
 “ばいあくへー”さんだ!!
「あの御方が助っ人になってくれた御蔭デ、なんとか勝利する事ができたのでス」
「ええと……何と言えば良いのか分かりませんが、とにかくありがとうございました」
「…………」
 彼女は無言で片手を振った。刹那、機械の翼から二筋の蒼い輝きが走って……僕と“てぃんだろす”の股間に命中した!?
 ぼわん
 次の瞬間、ちょっとマヌケな音を立てて、僕の目の前に焦げ茶色の髪の巨乳美幼女――“おとしご”ちゃんが出現したんだ。ぐったりしてるので一瞬心配したけど、耳を済ませば穏やかな寝息を立てている。どうやら眠っているだけらしいから、後で“つぁとぅぐあ”さんに預ければ大丈夫かな。
「わおん!!」
 “てぃんだろす”が歓声を漏らした。僕ももう気付いてるけど、ペニスの根元を縛っていた拘束も消えたんだ。いや、消えたと言うより戻ったと言うべきかな。
「ありがとうございます! “ばいあくへー”さん!!」
「わん、わわん!!」
「……貴方には借りがあるから」
 物静かな顔を少し赤く染めて、“ばいあくへー”さんはそっぽを向いて――そして次の瞬間、蒼い流星と化して空の彼方に消えてしまった……
 やれやれ、彼女には本当に助けられてばかりだなぁ。後で何か奢ろうかな……

「……アウウ……クゥ…」
 蒼い軌跡を呆然と見見惚れていた僕は、どこか無機的な声にはっとした。見れば、“おとぅーむ”さんが身を捩って僕達から逃れ様としている。でも、四肢が無いからその行為はほとんど意味を成していない。
 僕は身を屈めて、小柄な彼女をそっと持ち上げた。手が触れた瞬間、彼女の身体がビクっと震える。巨大ロボ状態の彼女はあんなに強そうで、実際に“しょごす”さんを一度は倒すくらい強いようだけど、さすがにこの状況では怯える小鹿みたいにか弱げだ。
「イヤッ…!!」
「いや、何もしませんってば」
 僕は“おとぅーむ”さんを静かにソファーの上に乗せた。きょとんとする彼女の肌に、赤い光のラインが走る。
「貴方も大変ですねぇ、人間の都合でそんな目に合わせちゃって、すいません」
 その台詞は、この場にいる全員に向けられたものだった。
 ある意味奇妙な話だけど、今までこうして『邪神』の皆さんには大ピーンチな目にしょっちゅう合わされていながら、僕は彼女達に恨みや怒りの感情は湧かないでいる。みんな僕のような普通の人間と比べて、あまりにも偉大過ぎる存在なので、とにかく畏怖と驚き、恐怖と感動しかできないというのもあるけど、どんな理由であれ自分に関係する事で『神様』が彼女みたいな目に合うというのが、ひたすら申し訳ないんだ。たぶん、これは僕が小市民だという証明だろう。
「…………」
「わん、あおん」
 まだ少し不安そうな“おとぅーむ”さんの頬を、“てぃんだろす”が心配そうに舐めた。僕に危害を咥えようとする者には容赦無いけど、基本的にはやっぱり優しい良い子なんだなぁ。
「くぅん……」
 そんな“てぃんだろす”は、しかし僕の方を向いて瞳を潤ませながら切ない声を漏らした。その両手はギンギンに勃起した可愛いペニスをぎゅっと押さえている。そういえば、射精寸前の状態で止められていたんだっけ……って、思い出したら僕の方もたまらなくなってきたぞ。

「でも……」
 ちょっと抜いてもらおうにも、“しょごす”さんは“だごん”さん&“はいどら”さんの相手に忙しそうだし、“いたくぁ”さんはまだ“ぞす=おむもぐ”さんと戦闘中だ。寝ている“おとしご”ちゃんを使うわけにはいかないし、“てぃんだろす”の女の子の部分ならともかく、男の子の部分は僕にはどうしようもない。こんな大勢の前では、自己処理も恥ずかしくてできないだろう。
「後で一緒に“つぁとぅぐあ”さんの所にいこうね」
「きゅぅん……」
 溜息を吐きながら“てぃんだろす”の頭を撫でると、泣きそうな顔で僕にしがみ付いてきた。正直、僕もちょっと泣きたい。
「……私ガ、相手ヲシテモイイ」
 意外な発言が聞こえたのは、その時だった。声の主に振り向いて見ると、“おとぅーむ”さんが純白の頬をほんの僅かに赤く染めて、そっぽを向いている。
「えーと、ホントにいいんですか?」
「何度モ言ワセルナ……恥ズカシイ」
「わぉん!!」
 その言葉と同時に、大喜びで“てぃんだろす”が彼女に抱き付いた。
「わぅん……はぁぁ……ぺろっ……くぅん」
「……ンアアア…アァン!…ア…上手ゥ……アアッ!!」
 まずは挨拶代わりとばかりに、彼女の全身を舐めまくる“てぃんだろす”。手足が無いので完全にされるがままの“おとぅーむ”さんは、無機的な肌にエネルギーラインを浮かべて身体をくねらせた。どうやら、あの光の線は感情が高ぶると肌に浮かぶらしい。ぺろぺろと元気に肌の上を踊る“てぃんだろす”の舌が、薄い胸や産毛も生えてない秘所に触れる度に、甘い声と一緒に白い肌を輝きが走った。

「ンアアアアァ!!」
 ビクビクっと身体を震わせて、軽くイった“おとぅーむ”さんの可憐な顔の前に、もう我慢できなくなったらしい“てぃんだろす”の爆発しそうなペニスが突き出された。
「くうぅん……」
「ハアァ……任セテ」
 “おとぅーむ”さんは首を少し傾けると、何の躊躇いもなく勃起したペニスを咥え込んだ。ほんの少し頬が窪み、じゅるじゅるっと肉棒を吸い取ろうとする。
「きゃん!きゃぅん!あおぉん!!」
 たまらず“てぃんだろす”が“おとぅーむ”さんの銀髪を掴んで、イラマチオ風に激しく頭を動かした。じゅぷっじゅぷっと淫猥な音を立てて出し入れするペニスと、あまりにいやらしい“おとぅーむ”さんのフェラを見て、僕の方もたまらなくなってきた。
「ぼ、僕もいいですか!?」
 “おとぅーむ”さんの腰を掴んで、今にも破裂しそうなペニスを、彼女のしっかり濡れてるスジ状の性器に押し当てると、“おとぅーむ”さんはペニスを咥えながらも、こくりと頷いてくれたんだ。
「ンフゥゥゥ!!!」
 その頷きを見ると同時に、僕はペニスを彼女の膣口に勢い良く挿入していた。キツイけどキツ過ぎず、入り口と中程の膣壁をキュッと絞め付けてくれる彼女の中は、本当に気持ち良かった。ああ、我慢に我慢を重ねただけの事はあるなぁ……それに、四肢の無い完全な無抵抗状態の機械的な美少女を犯すというシチュエーションは、何とも言えない無上の背徳感を与えてくれた。
 そして――
「イクッ!イッチャウ!!アァアアアアア――!!!」
 絶頂を迎えた“おとぅーむ”さんが、背中を仰け反らせながら全身を震わせて、純白の肌にエネルギーラインを走らせた。
「あぉおん!!」
「うううっ!!」
 同時に、僕と“てぃんだろす”も射精する。溜めに溜めたMAXループ波動砲級の射精は、彼女の口や膣からあふれ出て、白い肌をより白く、全身ドロドロになるまで汚してしまった……

「んはぁああ!!…ダメっ! もう――」
「――もう、ダメぇ……んはぁ!!」
 “だごん”さんと“はいどら”さん、そして“しょごす”さんの方も終わりを迎えようとしていた。
「うふふふフ……お2人とモ、可愛らしいですヨ」
 触手の群生と化した“しょごす”さん自身も、メイド服の胸元を開いて、大きな美乳を解放している。プルンと揺れる自分の乳房を、“しょごす”さんは思う存分揉みまくり、ツンと立った乳首を唇で咥えて、音を立てて吸った。普段の清楚な彼女と同一人物とは思えないくらい、淫乱で妖艶な姿だ。
「あはぁああ!!は、激しすぎぃ……きゃふぅ!!――」
「――きゃふあぁ!!んくぅ!!んんんぅ!!」
 空中で後ろ手にM字開脚するように拘束されて、全身を触手責めされる“だごん”さんと“はいどら”さんは、触手から滲み出る粘液で黒と白の下着ごと身体中をヌルヌルに汚されながら、激しく昇り詰めようとしていた。
「あははッ!、イっちゃいなさイ!!」
 “しょごす”さんが女王様風に叫んだ――と同時に、
「きゃあああああん――!!」
「――ダメぇえええええ!!」
 ぷしゃああああ……
 抱き合うような体勢で達した“だごん”さんと“はいどら”さんは、ビクビクっと痙攣しながら潮を吹いて、真下にいた“しょごす”さんに卑猥なシャワーを浴びせた……

「おっほほほほほ……もう限界ですの?」
「……むぅ……」
 一方、そんな僕達の事は完全に無視して、2人だけの戦いに没頭していた“いたくぁ”さんと“ぞす=おむもぐ”さんの『お茶飲みバトル』も、ついに終わりの時が来たようだ。
 この『互いにひたすら緑茶と紅茶を飲み合う』という、僕にはおバカとしか評価できない戦いも、偉大なる『旧支配者』にとっては真剣なものなのだろう。きっと、たぶん、おそらく。
 しかし――その勝敗の結果は傍目にも明かに見える。
 優雅にティーカップを傾ける“ぞす=おむもぐ”さんの周囲には、天井に届かんばかりに空のティーカップが山積みになっているけど、対する“いたくぁ”さんの空湯呑みの山は、前者の半分にも満たなかった。
「……うぷっ……」
「どうやら私の……けぷっ……勝ちですわね」
 灰色の顔を青醒めさせている“いたくぁ”さんの、湯呑みを傾ける動きは停滞しつつある。それに比べて、“ぞす=おむもぐ”さんはまだまだ頑張って紅茶を飲み干していた。口調ほど余裕があるようには見えないけど。とにかく、勝敗は決しようとしていた。
 ところが――
「……かかったな……」
 “いたくぁ”さんの無感情な瞳が、きゅぴーんと輝いた。
「え、え!?」
 そして、次の瞬間、目にも止まらぬスピードで“ぞす=おむもぐ”さんの背後に回ると、がしっと羽交い締めにしたんだ。

「な、な、何をなさるんですの!? 勝敗は決まった筈では――」
「……誰も……飲み比べをするなんて……言ってないですぜ……ダンナ……」
 うわー、さすがは“いたくぁ”さん。すっげぇ卑怯だ。
「……お茶を飲みすぎると……どうなるか……チミは……知ってるかね……」
「あっ!」
 “いたくぁ”さんの手が“ぞす=おむもぐ”さんの下腹部を撫でると、彼女は顔を真っ赤にして短い悲鳴を漏らした。
 お茶を飲み過ぎると?……まさか!?
「や、やめ…てっ……下さい…ましっ!」
 “ぞす=おむもぐ”さんの豪奢なドレスのスカートが、ばっとめくられた。優美なデザインの純白の下着が丸見えとなる。で、その下着のちょっと上の部分が、少しだけぷっくりと膨らんでいた。
「……うふふふふ……ほれほれ……」
「んきゃあああ!!ダメですのぉぉ……出ちゃいますわぁ!!」
 決壊寸前まで膨らんだ膀胱を、“いたくぁ”さんは容赦無く押して、揉み解した。“ぞす=おむもぐ”さんは本気の悲鳴を上げて悶えているけど、身体に力が入らないらしい。
「……あはぁ……出しちゃえ……」
 そして、下腹部に拳をぎゅっと押し付けて、下着の上から尿道に指を突き立てると――!!
「いやぁああああああああ……!!!」
 ちょろろろろろろろろ……
 下着越しに黄金色の聖水が勢い良くあふれ出て、足元に置かれていた空のティーカップにたっぷりと注がれた……

「――というわけで、とりあえず何とか撃退できました」
「う、う、嘘よ……そんな馬鹿なことが!!」
 数時間後、僕達は居間で待っていた龍田川さんに勝利宣言を報告していた。
「我等が偉大なる“くとぅるふ”様の眷属が、貴方達みたいな主体性の無い組み合わせの連中に敗北するなんて……!?」
 彼女は普段のクールさをかなぐり捨てて、わなわなと打ち震えている。
 まぁ、“ばいあくへー”さんの手助けが無かったら、負けていたのは僕達の方だと思うけどね。
「あ、“だごん”さん達の伝言です……『疲れたから先にルルイエに帰る』……だそうです」
「そんな……そんな……馬鹿な……」
 がっくりと項垂れる龍田川さんの頬を“てぃんだろす”がぺろりと舐めて、“しょごす”さんは苦笑しつつお茶を出してくれた。
「……はっはっは……ざまーかんかん……泣いて悔しがれ〜……」
 無表情に笑う“いたくぁ”さんに蹴りを入れつつ、僕は以前から考えていた事を彼女に提案してみた。
「龍田川さん、休戦協定を結びませんか?」
「……休戦協定?」
 きょとんとする龍田川さん。まぁ、いきなりそんな話を振られたら当然の反応だろう。
「僕自身は平穏な日常をのんべんだらりと暮したいだけなんです。『接触者』の力とかには興味は無いんですよ。龍田川さんの世界征服を邪魔する気も手伝う気もありませんし……だから、僕達の事は無視してもらえませんか? 今回の事みたいに、下手に戦って戦力ダウンするのもつまらないでしょ」
「しかし……」
「もちろん、タダとは言いません。示談金10億円でどうです?」
 額面無記入の小切手を取り出すと、龍田川さんの瞳の色が瞬時に変わった。彼女が教団の経営に四苦八苦しているのは、レストランでの愚痴で知っている。

「お、お金なんかで、私が動くとでも……」
「じゃあ、100億円」
「だ、だから……」
「1000億円でどうですか?」
「…………」
「あまり深く考えないで下さいよ。休戦を申し込んだ側が賠償金を払うのは良くある事ですから」
 僕が敗者の立場にあるこの方法なら、彼女のプライドと教団での立場をそんなに傷つける事は無いだろう。
 しばらく思案した龍田川さんは――やがてゆっくりと傾いた。
「わかったわ。今は“はすたー”神との戦いに集中したいし、一時休戦しましょう」
「ありがとうございます」
 僕はさらさらと小切手に1000億円と記入し――あ、ゼロを1個多く書いちゃった。……まぁ、いいか。

「最近、雲井 明の方に動きが見えるわ。注意しなさい、赤松 英」
 数十分後、お茶を飲み干した龍田川さんは、僕達に見送られながら、その一言を残して去って行った。どうでもいいけど、人をフルネームで呼ぶのは何とかならないかなぁ……
「まタ、遊びにいらしてくださいネ」
「わん、わんわん!!」
「……お土産……忘れないように……」
 朝日の中に消えるダークブルーの後姿を、僕達はどこか疲れた調子で見送った……
 ……あれ? 何か忘れているような?

 ――暗黒世界ン・カイ――
「「「“つぁとぅぐあ”さまー遊んでくださいー」」」
「「「寝ていてはダメですー」」」
「あのぉ……ボクは眠いんですがぁ」
「「「髪の毛長くて柔らかくて気持ちいいですー」」」
「「「ほらほらー縄跳びー」」」
「「「あやとりー」」」
「「「電車ごっこー」」」
「あぁん、ボクの髪で遊んじゃダメですってばぁ……」

「「「お姉ちゃん綺麗ですー」」」
「「「アトラク=ナクアさんですー」」」
「……その名前は、ちょっとやめてくれないかしら」
「「「この橋、糸でできてますー」」」
「「「やっぱりお尻から糸を出すんですかー?」」」
「「「綱渡りは怖いですー」」」
「もう、橋作りの邪魔しないで下さいな!!」

「「「“うぼ=さすら”様ですー」」」
「「「違いますよー“あぶほーす”様ですー」」」
「…………」
「「「ゴシックロリータは可愛いですねー」」」
「「「ほら、笑うともっと可愛いですよー」」」
「「「ほっぺを摘むですー」」」
「…………」
「「「わー! スカートの中から触手が伸びてきましたー!!」」」

「どうにかして下さいな、あの“でぃーぷわん”さん達!!」
「食べちゃいましょうかねぇ」
「…………」

 続く


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