「「…ふぅ」」
ギリギリセーフ。ふと周りを確認すると、かなり混んでる。
まぁ、時間がいつもより遅いからしょうがないけど。
ランドセルは場所を取るので床に置いた。
「混んでるねぇ」
「ま、仕方ないよ」
何駅か過ぎると、混み具合はさらに酷くなった。
殆ど身動きが取れなくなって、ランドセルから離れないようにするのが精一杯。
真弓ちゃんも真後ろで同じような状態みたいで、二人っとも周りの大人たちに埋もれてしまう。
それから少しして、異変に気づいた。
足の背中側に何かが何回も触っているような気がする。
そこで頭に『痴漢』の二文字が浮かんだ。
けど、まさか…?
私は勇気を振り絞って、ゆっくり後ろを振り向いてみた。
「っ!?」
私はあと一歩で大声を出してしまうところだった。
だって、私の足を触っていたのは真弓ちゃんだったのだから。
真弓ちゃんは私の視線に気づくと、にこっと笑ってみせた。
いつもは大好きなその表情が何だか怖くて、私は顔を前に戻してしまう。
なんで。どうして真弓ちゃんが!?
パニックになって動けずにいると、真弓ちゃんが後ろから私の耳に顔を寄せてきた。
「茜。昨日の寝る前の、覚えてるよね」
その囁きに、胸がズキンとなる。真弓ちゃん、やっぱり覚えてたんだ。
「『興味もないし、こういうのでエッチな気分にもならない』って言ってたよね?」
真弓ちゃんは小声のまま続ける。
言ったけど…それが何なの!?
聞きたいけど、私の方から真弓ちゃんに聞こえるような声を出したら、きっと周りの人にも聞こえてしまう。
私は何も言えないでいたけど、思ってることは伝わったみたい。
「昨日の話だと、私だけやらしいみたいで嫌だからね。
茜が本当にエッチな気分にならないのか、確かめさせてもらうよ」
そんな…!『お昼にDVD見ながら〜』なんてのは、真弓ちゃんが酔って勝手に言ったのに。
文句の一つでも言いたいけど、こっちからは何も言えない。
真弓ちゃんは私が黙っているのをいいことに、スカートの上から足を撫で回している。
多分、右手?
相手が真弓ちゃんだから嫌悪感ってのはないけど、こんなの、誰かに見られたら…。
「大人しいじゃん。もしかして期待してる?」
真弓ちゃんの手が、私の膝の裏から太股のあたりまで上がってくる。
やだっ。それはちょっとやりすぎ…。
「私だから、触られるのは平気だよね」
それはそうだけど、場所がこんなとこじゃ恥ずかしいに決まってる。
太股なんか普通は他人に触られないんだし。
う゛ー…何とかやめさせないと。
私は手を背中の方に回して、真弓ちゃんの手を上から押さえつけた。
「おっ?」
こんな事される理由はないんだから、好き勝手にはさせてあげない。
真弓ちゃんの手を完全に押さえるのは無理だけど、これならだいぶマシだ。
そのまま二駅は、お互いに手に力を入れたままで進んだ。
でも、その次の区間で、私にとって不運なことが起きてしまった。
カーブで電車が揺れて、乗ってる人―もちろん私たちも―はがくっとつんのめった。
とっさに空いてた吊革に掴まったから倒れなかったけど…
そのせいで私はかなり前かがみの姿勢になってしまう。
細かく言うと、両手を斜め上に伸ばしておじぎをしているような感じ。
早い話が、手を使って体をガードできなくなってしまったってこと。
「残念でした。せっかく頑張ってたのにね」
真弓ちゃんは私に後ろから寄りかかってる感じだから、声は今も周りに聞こえない…よね。
今度はお尻に手が触れた。
「やっぱり、痴漢っていったらここだよね」
指先でお尻をつつーっとやられると、ムズムズとしてくすぐったい。
なんか…本当に痴漢されてるような気分になってきた。
いや、さっきから触られてるんだけど、そうじゃなくって。
真弓ちゃんの言う通り、確かに痴漢といったらお尻を触ってくるイメージがあるから、それで。


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