「・・おれ、明日っから仕事」
「ルパンのか?」
「いや、別口」
グラスの中で氷同士をあてながら、帽子の影からちらりと銭形を見る。
銭形は自分のグラスの酒を一口含み、にらみ返した。
「またなんか、やばい仕事なのか?」
「・・・・・俺、あんたのやばい仕事ってなんだかわかんねぇよ」
「人様の迷惑になる仕事がやばい仕事だ」
「じゃ、人様にうんと悪いことばっかりしているやつをぶっ殺すのはやばい仕事かい?」
「・・・・その、ぶっ殺すという単語が入るのは、悪い仕事だ」
「そうか」
次元は小さく笑い、グラスに口をつける。
変な男だ・・・・
銭形はそんな姿を見て、ため息をつく。
今日も久しぶりに仕事が早く終わったので、うきうきしながら外に出るとこいつが待っていた。
信号の向こうでぼんやりと。
時折こんなことがある。
別に何の用事があるわけでもない。
ただ単に、一緒に酒でも飲もう・・とか言うだけなのだ。
相手はいくらでもいるだろう、自分じゃなく。
だが、次元はわざわざ自分を誘いに来る。
どんなに遅い時間でもいたりするのは、ずっと待っているからなのだろうか。
それでいて、ただ、静かに酒を飲むだけなのだ。
自分のお気に入りのバーで、自分のボトルで。
会話もあまりない。
何が楽しくて、銭形を誘うのだろうか。
「なあ、お前なんでいつも、俺のことを誘うんだ?」
「・・・いいじゃねぇか、おごってやってんだから」
「お前におごってもらう筋合いはないんだがな」
「そういいながら、いつも俺のボトルから飲んでる」
「・・・この店は高いんだよ、しょうがねぇだろうが」
グラスに残っていた酒を一気にあおる。
喉越しのいいとろりとした感触の酒が喉を通り抜ける。
どちらかというと、日本酒や焼酎のほうが好きな銭形だったが、この酒のうまさはわかる。
こんな高い酒をさらりと飲んでいるやつの金回りのよさを妙に実感する。
「・・・俺がいない間も飲んでもいいよ」
「止せ止せ、こんな高い酒に口がなれちまったら困る。こちとらしがいない公務員なんだからよ」
「いつもルパンがかけてる迷惑料だよ」
「・・・・それにゃぁ、安いかもしないな」
実際・・・ルパンの所為で、どれほど銭形が苦労しているのか、この男はわかっているのだろうか。
おかげでこの年まで独身できちまったし・・・・
何しろ、ルパンを追って世界中駆け回り、更にその所為でいつも金もなくて・・・
「そういえば、最近やつは仕事してないのか?」
だから早く帰れたんだが。
「可愛いメイリィちゃんとかと、ずっとバカンスにいってる」
「ふーん、お前は置いてきぼりか」
「って言うか、デートについてくほど野暮じゃないよ」
「そうかぁ?あいつのデートって騙されるとか貢がされるとかのことじゃないのか?」
「はは・・・そっかぁ、ついてきゃあよかったかな」
小さく笑って、ごくりと酒を飲む。
それが妙にさびしそうで、銭形は少し気になった。
「ま、俺がいないほうが、口うるさい小姑がいなくてやつもいいんだろ」
「だから別の仕事をすんのか」
「そういうわけじゃない。昔の仲間に頼まれたんだ」
「・・・仕事の内容は聞かないほうがいいかな」
「別に。傭兵だよ」
「どっかで戦争なんてやってる場所があるのか」
「世界中どこでもやってるさ。平和な日本は知らないだけで」
「・・そうか、ま、気をつけていって来い」
「ああ・・・なぁ・・」
「おい、もうこんな時間だ」
銭形は時計を見て、うめいた。
明日は出張で早いのだ。
新幹線に乗り遅れる。
なら、付き合わなければいいのはわかっているのだが、どうしてもこいつの捨て犬のような瞳を見るとついつい付き合ってしまうのだ。
「もう、帰らんとまずい。明日は早いんだ」
「・・・そっか・・・出張かい?」
「ああ、大阪にな、お前もがんばれよ」
「・・・・ん・・・」
「また、帰ってきたら、おごれ」
「・・・ああ・・・」
銭形は急いでスツールを降りると、ぽんと次元の肩をたたいた。
驚いたように、顔を眺め、ちょっと帽子を伏せて見せる。
それから、三ヶ月。
次元からの連絡はない。
夢の中で久しぶりに女を抱いていた。
女の顔は髪で隠れて見えない。
手の中で、二つの大きな乳房が、形を変える。
女に包み込まれた部分が、巧みに刺激される。
女の吸い込まれるような、食いついてくるような動きに、うめく。
はぁ・・・
叩きつけるように腰を動かすと、女の中に自分の精を吐き出した。
そのたまらない放出間に浸っていた銭形は、ゆっくりと目を開いた。
「・・・・?」
はじめに目に入ったのは、まぶしいライトの光だった。
暑いくらいにまぶしい光。
ぼんやりと首を巡らせようとしたが、何かが邪魔をする。
自分の頭に何かがかぶせられているのに気づいた。
《・・・・・マスク?》
奇妙に固い感触のするのは、金属質な所為らしい。
動くのが目だけだとわかり、銭形は驚き、体を起こそうとした。
両手が、頭上高く、木のようなものでがっしりとつながれているのに気づいた。
「・・・」
体中が、何か台の上のような場所に拘束されている。
声を出そうとしたが、何もしゃべれないことに気づいた。
ごくり・・・・
何かを飲み下している音が聞こえた。
ふと下を見ると、そこに男が一人うずくまっているのが見えた。
《次元?》
ぺろぺろと、銭形のものを舐めている。
《よせっ!》
そう叫んだつもりだったが、その声はマスクの所為で外には聞こえない。
「ふふっ、たいしたものだな、気を失っていた男をいかせるとは」
目を動かすと、一人の男の姿が目に入った。
仕立てのよさそうな服に身を包んだ、爬虫類類のような男だった。
男は銭形のものを舐めていた次元の髪をつかみ、その顔を覗き込んだ。
「ずいぶんと熱心にしていたな、こいつのものが気に入ったのか」
「・・・・」
とろりとした、今までに銭形の見たことのない表情をした次元がそこにいた。
髪がずいぶんと伸びた・・・
そんな妙な感想を持つ。
手入れのいい髭は、いつもと変わらなく見える。
だが中身が違っている。
首輪をつけられ、手を後ろ手に縛られたまま、次元は動こうとしない。
なんだ・・・?
男に髪を捕まれたまま、引きずられるように銭形の胸元に体を預ける。
べったりと汗をかいた体が、肌に触れ、気持ち悪かった。
「約束だからな、ご褒美をやろう」
ニヤニヤと男が笑う。
そして背後にいた部下にあごをしゃくる。
命じられた部下は、うれしそうにやってくると、銭形の上に腹ばいになった形の次元の背後からのしかかる。
「あぁぁ・っっ」
初めて聞く声を上げ、次元がのけぞる。
男に貫かれ、喜びの声を上げる。
目の前で、男が男にやられるのを見て、思わず銭形は目を閉じた。
それでもうめき声というのか、そんな声が耳に入る。
「んっ・・いっ・・んんっ・・・」
多分、そう、次元の声なのだろう・・・
そう思う。聞いたことのない声だけど。
肌と肌はまだ触れている。
男につかれ、体を揺らすたびに、しっとりとぬれた肌が、銭形の胸元で動く。
「ふ・・ん・・・い・・っ・ぃ・ぃ・・・」
何かが、銭形の腹の上で跳ね回る。
べたりと肌に張り付き、ぬめぬめとした気持ちの悪い感触を残す。
どけっ!!
思わず心の中でそう叫ぶ。
「んっ・・あっ・・ぃぁ・・・ぃ・・・ぃく・っ・・・い・・」
切羽詰った、甘え声。
爬虫類の男の手が、銭形のマスクにかかる。
「・・・彼のこういう姿を見るのは初めてかね?」
男は耳元でそう囁く。
銭形は返事もせず、目も開かなかった。
「・・・・・まぁ・・いいさ・・」
男が含み笑いをする。
体の上から、重みが少し消えた。
かすかに目を開くと、男のひざの上に抱えられた次元の姿が目に入る。
そして何より、ひどく興奮しきったものが。
「・・ひ・・っ・・・」
背後の男が、激しく一突きする。
次元が体を震わせる。
男の手が銭形のマスクを取った。
急に開けた視界。
そして、涼しくなった顔。
ぶるっとおもわず顔を振った途端に、次元の悲鳴が聞こえた。
「ひっ・・ぜ・・ぜにっ・・・」
男のものが、ずるりと抜けかけ、そのまま、奥へと突き入れられる。
激しい動きに、次元が更に悲鳴を上げ、身をよじらせる。
「い・・いや・・・いやだっっ・・やっ・・ゃ・・・ぃ・・」
後ろの男は、次元の体を突いたまま、少しずつ移動する。
銭形の目の前に、ぶるぶると震える男のものが来る。
高ぶりきったものはとめることが出来ず、男に突かれるままに、次元は白いものを吐き出した。
それは、勢いよく、銭形の顔にかかった。
あわてて目を閉じたものの、顔にべったりと生暖かいものがかかった感触に、思わず吐き気がする。
「ひ・・・ひ・・っ・・・」
小さく体を振るわせ、顔をそむけている次元の、まだ力を失っていないものを、後ろをついたままの男が、銭形の顔に擦り付ける。
「や・・・ゃ・・だ・・・ぃ・・・ぃ・ゃ・・・っ・・・」
小さくうめき、身をよじらせる。
だが、自由にならない体は、男に命じられるとおりに、ぬらぬらとしたもので銭形のほほを撫でるのだ。
銭形も必死でよけようとしたが、それは許されず、顔中に、次元の吐き出した精液を塗られる。
嫌なにおいと嫌な感触。
「おやおや・・・・ずいぶんと気にいらないようだ」
面白そうに男が笑い、銭形の顔を覗き込む。
「いい歓迎方法かと思ったんだがね」
「ふざけんなよ・・」
その言葉を言うだけで、口の中にも何かその奇妙な液体が入りそうで、銭形は眉をひそめた。
「気持ちの悪い真似をすんじゃねぇ」
「・・・・・残念だな・・おい」
目じりに涙を浮かべ、顔をそむけている次元にあごをしゃくる。
「綺麗にしてあげたまえ」
ひく・・
次元の方が上がる。
おどおどとした卑屈な瞳が、あたりを泳ぐ。
やがて目を伏せた次元の顔が、銭形の顔に近づいた。
「何をする気だ?」
驚いた声を上げる、その唇をぺろりと舐める。
顔中を、ぺろぺろと舐め始めた。
「よ、よせ、おいっ」
「気持ち悪いんだろう?綺麗にさせてるんだよ」
くすくすと男が笑う。
「大丈夫だよ、舐めるのは得意なんだ・・・・なんでもな」
その言葉に、後ろにいた男たちがどっと笑った。
血色の悪い舌が、銭形のほほや鼻や額をなめていく。
自分の吐き出したものを綺麗に清めていく。
時折当たるふわりとした髭の感触がなんだか奇妙だった。
ぐいっと首輪を引かれ、次元が銭形の上でひっくり返る。
「久しぶりの再会はどうかね」
男が笑う。
「・・・あんた、誰だ?」
銭形の言葉がひどく男のプライドを傷つけたらしい。
「・・・・私のことを知らないのかね」
「・・ああ・・・見たことも聞いたこともないがね」
「私はこの国の宰相のロドリゲス・O.p.カルドネだ」
「・・・・へぇ・・この国は蛇が宰相になれるのかい?」
その言葉に、男の一人が思わずその顔を殴りつけた。
この話は、どうなる予定だったのか覚えてます。
ただ、やたらと長くなりそうだったので、多分飽きたんだと思います。
そういう理由で放置される話って・・・
ちなみにこのあとは、まぁ、二人でこの国をぶっ壊して逃げ出す・・
って落ちでした。