「ん…」
窓から差し込む朝の陽ざしを受けてクラウドは目を覚ました。
もそもそとふとんから身体を起こすと窓を覗いた。夜に降っていた雪はすっかり止んでおり、わずかに積雪していた。見ているうちにぶるっと身体が震えた。
そうだ。昨日あのまま裸で寝たんだ。早く服を着ようとクラウドがふとんから出ようとしたその時、部屋のドアが開いた。
「もう朝よ。そろそろ起きなさい」
開いたドアの先には当然のごとく母親がいた。ふとんの中で裸になっているクラウドとザックスの姿に目を丸くしていた。
「あ、あの…昨日の夜、雪降って寒いから、ザックスが人肌でって……」
しどろもどろになりながら弁解するが、こんなことじゃごまかせないだろうことはクラウドにもわかりきったことで。もっとマシな言い訳があっただろうと自己嫌悪した。
母から何と言われるか、クラウドはおびえながら返事を待った。
「風邪引くから早く着替えなさい。もう朝ごはんの用意出来てるからね」
「う、うん」
咎めるでもなく、クラウドの母はあっさり引いて行ってしまった。
母がいなくなってしばらくクラウドが何をするでもなく呆然としていると、ザックスが目を覚ました。
「…ふぁ〜…おはよう。どうした?」
「ん…なんでもないよ」
とりあえず今はザックスに話さないでおこう。
クラウドはベッドから降りると着替えを始めた。
何か言われるだろうかとクラウドは様子を窺っていたが、ザックスと一緒にリビングに行っても母は特に変わった様子もなく、朝食をテーブルの上に並べていた。
ザックスに対する態度も、自分に対する態度も昨日までと同じで、先ほどのことなどまるでなかったかのうような母の振る舞いにクラウドは戸惑いつつも安堵した。
クラウドの母が用意してくれた朝食をきれいに平らげると、二人はすぐさま出立の準備を始めた。
来る時も利用した乗合自動車は村までは来ておらず、少し離れた場所にある停留場まで徒歩で向かう必要があった。それを逃してしまうと次の便が昼過ぎまで来ないのでミッドガルへの到着もその分遅れてしまう。積雪もしているし、余裕を持って向かう為にも早いところ家を出なければならない。
準備を整え、二人は玄関先でクラウドの母と別れの挨拶を交わした。
「さっき来たばかりと思っていたのにあっという間ね。寂しいわ」
「手紙書くから」
「また遊びに来てちょうだいね」
「はい。また来ます」
そろそろ出ようかという時になって、クラウドが自分の頭をポンポンと叩いた。
「…あ、いけない。帽子忘れてた」
来る時に被っていたニット帽を自室に忘れたようで、クラウドは慌てて部屋へ向かった。
「しょうがないわねえ…」
そうつぶやくとクラウドの母は来た時と同じようにザックスにペコリと頭を下げた。
「あの子のこと、よろしくお願いします」
「あ、はい。もちろん」
返事をしても頭を下げたままのクラウドの母を不審に思い、ザックスは声を掛けた。
「…お母さん?」
するとクラウドの母は頭を下げたままザックスの手をそっと取り、やっとのことで言葉を紡いだ。
「…ずっと、一緒にいてあげてね」
ザックスはその時理解した。目の前の人が自分たちの関係に気付いていることを。
「はい…」
* * *
乗合自動車に揺られながら、ザックスはぽつりと言った。
「また来ような」
「うん」
「次来る時は…今度こそ結婚報告かな〜」
「バ、バカなこと言うな!」
「そしたらさすがにゴンガガにも顔出さなきゃなあ」
「勝手に言ってろ…」
クラウドはプイと窓の方へ顔を向けた。ザックスがどこまで本気で言ってるのかわからなかったが、そんなことを言われれば照れ屋なクラウドは耳まで赤くしてしまう。
それからしばらくお互い無言でいると、不意にザックスが口を開いた。
「ずっと一緒にいような」
ザックスはクラウドの母から告げられた言葉をそのまま口にした。
静かに視線を戻すとクラウドは少女のような母を思わせるあどけない笑顔を浮かべて小さく返事をした。
ザックスはそれにキスをして応えた。
END