クラウドがその日の仕事を終えて寮に戻ろうとした時、タイミングを見計らったかのように携帯にメールが届いた。開かなくても誰からのメールかはわかっている。
From :ザックス
Subject:今日
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うち来ないか?
確か明日休みだろ?
泊ってけよ
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予想通り、ザックスからだった。
確かに明日は休みだけどザックスに教えていなかったはずだ。どこで知ったのだろう。メールにしても休みの予定にしても、ザックスに行動を先読みされているようで、素直に行くなどと言う気にならなくなった。クラウドは返信ボタンを押し、手早くメールを打った。
From :クラウド
Subject:Re:今日
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行かない。
変なことするつもりだろ。
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返信メールを打ってすぐにまた携帯のバイブレーションが作動した。ザックスからのメールを受信していた。そしてこちらが返信しないうちに立て続けにもう一通メールが送って来られた。
From :ザックス
Subject:Re:Re:今日
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いいだろー!
この間まで遠征行ってたんだから慰めてくれよ
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From :ザックス
Subject:Re:Re:Re:今日
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なあ変なことしないから来いよ
それならいいだろ?
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…絶対ウソだ。
そう思いつつも別にそれでも構わないと考えている自分にクラウドは顔を赤らめる。
パチンと音を立てて携帯を閉じると、本社ビルの屋外喫煙スペースへと足を運んだ。そこはザックスが仕事上がりに一服していく場所で、案の定見慣れた黒髪の男がそこのベンチに座っていた。こちらに気付かず、必死に携帯のキーを打っている。
「…そのメール打つのやめて」
「うお、びっくりした!」
本当に気付いてなかったんだろうか。ソルジャーが一般兵に背中を取られるなんてどういうことだよ…とあきれながらザックス見つめる。すると向こうも捨てられた犬のような目つきでクラウドを見つめ返した。
「なあ…クラウド」
ここしばらくザックスの自宅に行ってなかったし、正直なところ行きたいと思っていた。断る理由なんてなかったが、素直に行くと言えないのも性分で。
「…じゃあ、ごはん奢ってくれるなら行く」
「あ、全然OK。好きなところ連れて行ってやるよ」
ザックスはいそいそと携帯の情報サイトで飲食店を探し始める。自分で言い出したことではあるが、あまり甘やかさないで欲しいとも思う。
あれからザックスはさらに輪を掛けて優しくしてくれるようになった。こんなに幸せすぎて罰が当らないだろうかと心配になるくらいに。
そうだ。最近手紙にザックスのことを書いてなかった。今度母さんに出す手紙にまたザックスのことを書こう。
「クラウド、どこがいい?」
「どこでもいいよ」
ザックスと一緒なら。
その言葉を胸に秘めてクラウドは静かに微笑んだ。