お菓子よりも魅惑的な



 休日の午後。せっかくの休みだしデートしようと提案するザックスに
「身体しんどいし、家にいる」と冷たく言い放つクラウドにザックスは追いすがる。
「久しぶりに休日重なったんだぜ?いい天気だし…」
「ザックスが昨日しつこかったから身体しんどいんだけど」
「……」

 それ以上は何も言えなかった。



 * * *



 アウトドアなザックスは室内での過ごし方をあまり心得ていない。
 逆にインドアなクラウドは家の中で静かに過ごす方が好きだったが、趣味が読書くらいの彼は他の室内での過ごし方を全くと言っていいほど知らなかった。
 なのでクラウドが読書に耽るとザックスは何をするでもなく暇になってしまった。
 手持ち無沙汰になったので洗濯を始めたが、溜まっていた洗濯物はつい一昨日まとめて終わらせた為、洗いに掛ける必要のある物はそれほどなかった。

 仕方なくソファに座り雑誌を読み始める。それもせいぜい30分が限度。
 ザックスは読み終わった雑誌をラックへ入れるとテーブルで飽きずに読書をしているクラウドの方を振り返った。
 よく見ると手を口にやり、何かをもごもごと食べていた。
「何食べてんの?」
「チョコ」と本から視線を離さず短く告げる。
 そのままテーブルに目を向けると包装紙の隙間から破れた銀紙と欠けた板チョコが見えた。
「うまそー、オレも一欠け…」
 チョコに伸ばした手をぴしゃりと叩かれた。
「何だよ」
「これ期間限定のチョコ」
 だからくれないって…いくらなんでも冷たすぎる。
 ザックスが物欲しそうな目で見つめるのを尻目にクラウドはまた新たに食べようと板チョコをポキっと音を立てて割った。お酒を使っているのだろう。ラム酒のいい香りが鼻をくすぐる。
「いいじゃんかー、一欠けくれよー、クラウドちゃーん、なーってば」
 ぶーぶー文句を言うと、クラウドはムスっと顔を歪めるが、ふーっと大げさにため息をつき
「子供かアンタは…しょうがないな」
 今さっき割ったチョコをザックスに差し出した。

 差し出されたその細い手首をつかむと自然な動作でクラウドの手ごとチョコを口に含んだ。
「なっ!?」
 チョコを舌で絡め取りながら、その指先をねっとりと舐め上げる。ラムレーズンとチョコのほろ苦い甘さが口内に広がった。
 午後のおやつにと事前に冷蔵庫で冷やしていたのだろう。ほどよい冷たさのチョコと体温の低いクラウドの冷えた指先にザックスの舌の熱さが移っていき、それを甘く溶かしていった。
「ひぁっ…」
 それだけで小さく喘いだクラウドは、すぐに我に返り、かあっと顔を真っ赤に染めた。
「ごちそーさん。どっちも美味かった」
 言いながら指に軽くキスするとクラウドの手首を解放した。
 クラウドがあわててその手を自分の胸元へ持っていくのを横目で見ながら、いつ雷が落ちるかチラチラと伺っていると、耳まで真っ赤にしたクラウドが伏し目がちにつぶやいた。
「…バカ」


 これだからやめられない。
 チョコよりも甘くてかわいい恋人。

「…もっと味わっていい?」

 病みつきになるその味にオレはどんなお菓子よりも夢中になる。




material:Spica*port






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