ザックスが研究室へ行ってから数日後。レノとシスネの協力の元、逃亡計画が実行された。
仕掛けられた盗聴器を発見した二人はそれを破壊。ミッドガル逃亡を画策し、逃亡途中でタークスの手によって殺害…という筋書きだ。
ミッドガルを出る間はザックスはレノ、クラウドはシスネがそれぞれ逃亡の手引きし、ミッドガル脱出後に落ち合うことにした。
別々に脱出するのは不安だったが、レノもシスネも腕は確かだ。信用はしている。
気がかりなのはクラウドの容態がまた悪くならないかということ。あの発作は精神的に不安定な状態で起こっている。離れている間に起こる可能性も考えられる。
胸の奥に潜めていた本音を吐露したことでクラウドも幾分気が楽になったように見える。ミッドガルを出る間、何も起こらないことを祈るしかない。
必要最低限の物を詰めたカバンを持ち、ザックスは部屋を振り返った。
住んでいた期間は短かったが愛着はある。住み慣れたここを離れて全く見知らぬ土地へ赴くのは不安だ。ミディールが安住の地となることを信じて玄関へと向かった。
ザックスは出発の前にクラウドを強く抱きしめた。離れていても心は共にある。そう訴えかけるように。
そして不安を打ち消すように長く、深く口づけを交わした。
* * *
ザックスとレノは夜のミッドガルを走る貨物列車に潜んだ。線路の上を走る車輪の音が響く中、二人は声を潜めて会話を交わしていた。
「死体なしで連中が納得するか?」
「化学部門のやつらがクラウドにどれだけ研究価値を見出してるかによるな。価値があると思ってなけりゃそこまで追及してこないだろ。適当に理由でっち上げて死体は持って来れなかったことにするさ」
ザックスは研究室吐いた宝条の言葉を思い出した。
「宝条は…サンプルとして面白いって言ってた」
「けど欠陥品だって抜かしてたんだろ?あいつらは結局そういうやつらさ。クラウドがいなくなったら同じようなサンプル見つけてまた同じ実験やりゃいいと思ってる」
「……」
「睨むなよ。胸クソ悪い話だが、そっちの方がお前らにとっちゃ好都合だろ」
「…わかってるよ」
歯に衣着せぬ物言いだが、レノの言う通り研究員たちにクラウドへ下手な執着心を抱かれては厄介だ。しかしその代わりにまた新たな犠牲者が増えると思うとやり切れない思いが込み上げてくる。
「さて。おしゃべりはここまでにしておくか」
二人が喋っているうちに貨物列車は目的地へたどり着いた。
クラウドの発作が起こっていないことを祈りつつ、ザックスは合流場所へ急いだ。
一方クラウドとシスネはミッドガルを走る車の荷台に乗り込んでいた。荷台にはシートが被されており、外からは何が積まれているかは見えなくなっていた。
「あの…オレたちの為に色々ありがとう」
シスネは得物を片手に外を警戒しながらクラウドに背を向けたまま口を開いた。
「本当のこと言うと、私はあなたに嫉妬してる。あいつが神羅を敵に回してでも選んだのは…あなただから」
最後まで言い切るとシスネは振り返って鋭い目でクラウドを見つめた。向けられた視線から殺意にも似たものを感じ、クラウドは身体を強ばらせた。そしてシスネも同じ人を想っていることを初めて知った。
蛇に睨まれた蛙のごとく固まったクラウドから顔を背けるとシスネは淡々と続けた。
「勘違いしないで。邪魔する気なんてないわ」
「ご、ごめんなさい…オレ…何も知らないで」
「やめて。同情なんて真っ平」
その言葉を最後に二人は黙り込んでしまった。
やがて二人を乗せた車はミッドガルの出口に近付いた。
車の荷台から外の様子を窺いながらシスネは再び口を開く。
「…あなたたちが無事に逃げられることを祈ってる」
先ほどとは違う、穏やかな声だった。
* * *
ザックスとクラウドはミッドガルを出たところで無事落ち合った。
おそらくミッドガルさえ抜ければ追手が来ることもないだろう。現状追手の役割を任されているのはシスネだ。彼女が上手くやり過ごしてくれている間はその心配はない。
だが用心を重ねて逃亡ルートは神羅の手の及びやすい場所は避けるとことにした。ミッドガルを遥か南下した場所にあるコンドルフォートが当面の目的地だ。途中で逃亡用に用意されたチョコボを利用するにしても長い道のりとなる。
二人がミッドガルを離れているうちに夜は明け、空が白み出した。
「疲れたか?少し休むか?」
「大丈夫…まだ歩ける」
クラウドは差しのべられたザックスの手を取る。
『鳥籠』から放たれた二人は遥かに広がる平原を寄り添いながら歩み始めた。
END