保健室勝負〜宍戸編〜
午後?の気持ち良い光を浴びてベッドからむくりと起き上がる。時計を見ると授業はとっくに終わっている。確か出勤してからずっと私は寝ていたはずだ。つまり、今日はちっとも仕事をしていない事になる。が、やってしまったものは仕方が無い。個室から出てたタバコとコーヒーの用意をする。部屋の中を確認して、足りない物を補充する。生徒達も慣れているのか勝手に治療をした後がある。珍しく芥川がいない。とにかく、目覚めの一本と一杯を楽しむ。この日は一日中寝ていたのがまずかった。
「先生!あ、起きてる。長太郎が怪我でしばらく部活に出れねえから、練習の相手して欲しいんだけどよ…。」
こう見えて私は跡部よりもテニスが強い。学生時代に少しだけ齧っていたのもあるが、養護教諭の勉強の時に体の仕組みについて詳しくなったのが良かったらしく、どの筋肉を使うのかさえ分かれば余裕でどんなスポーツもこなせるようになっていた。
「ああ…。別に構わないよ。アンタも大変だろうし。部活が終わってからで良いの?」
「いや、もう部活終わった。」
時計を見る。確かにもう遅い。授業どころの騒ぎではない時間帯だった。
「じゃあ、テニスコート行こうか。このカッコでやるから、手加減して。」
「跡部よりも上手いくせに何言ってんだよ。ダセえな、激ダサだな。」
少々怒りを覚えながらも付き合う。私は宍戸と並んで歩き出した。歩きながらも宍戸は鳳がいかに良い奴で頼りになるかを語っていた。この二人は出来てるのだろうか。どちらでも構わないけれども。
コートに着く。宍戸はテニスの準備を始める。私は特に着替えなどを持っていないので、宍戸に見えないようにミニスカート姿で準備運動をする。ラケットは宍戸に借りた。
「先生、準備良いか?」
「はいはい。いつでも良いよ。」
宍戸がサーブを打ってくる。それを難なく返す。そんな打ち合いの合間に宍戸が突拍子も無い事を言い出した。
「なあ先生、他の学校かウチの学校のテニス部の奴の技とかって出せるか?」
「ああ、別に出せるよ。前に榊先生と一緒に研究ビデオ見た事あるし。」
お前と榊はどんな関係なんだと言う声が聞こえてきそうだが、職業柄何となく興味があったので、一緒にビデオを見たのだ。
「じゃあ、俺に向かって打ってくれねえか?練習になるし。」
「はいよ。筋力が違うから実物には劣るけどね。」
一応注意はしておく。後で詐欺だなんだと言われては面倒だからだ。
「じゃあ、頼む。」
「行くよ、破滅へのロンド!あーもう!名前が恥ずかしいな!」
「次!マジックボレー!」
「奥伝、信夫!」
「スカッドサーブ!」
「ムーンサルト!あ、パンツ見えるかも。」
「月の輪落とし!」
氷帝学園のテニス部の技を繰り広げる。樺地の技はどうにもならないので却下する。
「宍戸…もう無理…。」
大技を連発したせいで私の息はかなり上がっていた。正直今年25の体には辛い。
「何言ってんだよ!各校の技をコンプリートするまでは帰さねえからな!」
宍戸が絶望的な台詞を吐いた。私は無理だと言っているのに。一種の拷問か何かだろうか。そしてこの日は深夜と言って良い時間まで宍戸に付き合う羽目になった…。
保健室勝負結果
勝者 宍戸亮(氷帝学園3年)
決まり手 テニス
備考 歳に言い訳をして運動を滅多にしなくなったのが敗因と思われる。体力アップに励めば次は勝てるだろう。
おまけ
二日後。
プルルルルルル、プルルルルルル。
「はい、氷帝学園中等部です。」
「あ、もしもし。保健のですけど。本日は風邪を引いてしまって熱が40度もあるので、お休みさせてください。はい、はい、申し訳ないです。では…。」
「ふう…。まさか筋肉痛が酷くて動けない何て言えないよなあ…。しかも二日後に来るのが情けない…。」
後書き
こんなの夢じゃねえ!夢のゆの字もないじゃん…。ギャグにもならないし。でも今回はヒロインを負かせたので満足。あ、奥伝信夫は日吉の技です。『しのぶ』と読むですよ。最初はのぶおだと思ったけどね!