さん、貴女カンニングしましたよね?」



ピンクスパイダー



 ある日、いきなり人の居ない放課後の教室で観月君にこう言われた。
私はただ日直の仕事をしていただけなのに、何故こんな事になったんだろう。
確かに私は先日のテストで不正行為、つまりカンニングをした。どうしても
分からない箇所があって、普段なら解けるような問題を忘れてしまって、
机の中に入っていた教科書をこっそりと見てしまった。
「してないよ?何で?」
「見たからですよ、貴女が教科書を見ているところを。嘘までついてしまいましたね。」
 もう逃げられない。嘘を吐いた事について激しく後悔した。
「しょ、証拠はあるの?」
 声が震えるのが自分でもはっきりと分かった。
「写メールがありますよ。とっさに撮って良かったです。」
 それなら、逆に観月君を脅せるかも、と考えたが私には証拠が無い。私は勝てない
喧嘩はしたくない。
「………。何が望み?観月君ぐらいの人なら私に何か要求しなくても大体の事は
思い通りになるでしょう?」
 頭脳明晰、運動神経も良い観月君がいまさら私に何を要求すると言うのだろう。
「僕が欲しいのは貴女ですよ。僕の物になって下さい。ああ、嫌なら断っても
良いですよ。ただし、この映像を職員室のパソコンに送りますけど。」
「拒否権なんて無いじゃない。私、観月君の物になる。それで満足?」
 悔しくて目に涙が溜まる。どうして無理矢理に自分の物にしようとするんだろう。
観月君の考えが理解できない。
「ええ、満足です。では、と呼びますから、僕の事ははじめで良いですよ。」
「分かった。よろしく、はじめ。」
 すでに大粒の涙が目から零れ落ちている。悔しい。本当はこんな事に従いたくない。
でも、従わなければ私はこの学校でやっていけなくなる。転校だってできない。
「泣かないで下さい。まあ、泣いたってムダですけど。涙にほだされて貴女を開放
したりなんて絶対にしませんから。とりあえず、お互いを良く知るために明日
デートをしましょう。明日は休みですし。10時に駅前で待ってます。遅れても
良いですけど、すっぽかすのは許しません。じゃあ、僕はこれで…。また明日。」
 言いたい事だけ言うと観月君…はじめは行ってしまった。私はそのまましばらく
声を押し殺して泣いた。



 次の日、憂鬱な気持ちで駅に向かう。デートとは言われたが、どこに行くのか
見当もつかない。いきなり犯されたらどうしようか、などと考えながら駅に着いた。
 はじめはすでに待っていてくれていた。私は5分前に着いているのに。
「ごめんなさい、待った?」
「いいえ。僕も今来たところですよ。では、行きましょうか。」
 そして強制デートが始まった。



 最初は適当なカフェに入って軽く食事をし、お茶を飲んだ。その後、アクセサリーや
洋服を見てまわった。驚いた事にはじめは私の服やアクセサリーの趣味を知っている
らしく、連れて行かれたお店はどこも私の趣味に合っていた。ネックレスも買ってくれた。
「リングは誕生日とか、特別な日に送ります。」
 服も買ってくれたし、さっきの食事代も何故かはじめ持ちだ。私としては借りは作りたくない。
断ろうとしたら脅された。そのまま図書館に行き、本を読んだ。図書館を出たところで、
はじめが映画を観に行こうと言うから付いて行った。



「これを観ましょう。」
 またしても私の観たかったやつだ。どうやら合わせてくれているらしい。飲み物
を買って入ると一番端に行けと言われた。渋々従うと満足そうに笑っていた。

 映像がスクリーンから流れ出した。予告編をみてると、小声ではじめが声を
かけてくる。
「今日は楽しんで貰えましたか?」
「正直言って謎。デート自体は楽しかったけど、脅したり、優しくしたり、
はじめの考えてることが分からないよ。それに、あんな付き合いだし方じゃ、私は
はじめを好きにならないと思う。こんな事をしてはじめにメリットはあるの?」
 喋ってる途中でまた涙が滲んできた。昨日と今日は涙腺が緩すぎて嫌になる。
「まったく…。人の話を聞いていたんですか?僕は貴女が好きなんですよ。
たとえどんな手を使ってでも貴女を手に入れたかった。だからあの写真は利用
できるだけ利用します。」
「そんな…。酷い。」
 結局また涙が出てきた。ここまで来ると何が悲しくて泣いているんだか私にも
分からない。はじめは映画を観ている。いつの間にか本編が始まっていた。
 観たかったはずの映画は涙でよく見えない。



 物語が終わりに近づいてきた。トントン、と肩をはじめに叩かれた。はじめの方を
向くとあっという間に触れるだけのキスをされた。唇が離れてまた近づいてくる。
「嫌っ…。」
「拒んだら写真を学校にばら撒きます。」
 はじめが端に座りたがった理由が分かった。後頭部と腰にはじめの手が回っている。
何だか舌も入ってきている。拒めないので為すがままだ。




 いつの間にか映画が終わっていた。外に出てパンフレットを買って貰って家路に着いた。
はじめは家まで送ってくれたけど、私達は終始無言だった。家の前ではじめが口を開いた。
「絶対に僕は貴女を手放しませんから。蜘蛛が巣に引っかかった獲物を逃がさないようにね。
じゃあ、また明日、学校で。」
 そう言うとはじめは帰って行った。私ははじめの後姿を呆然と見守るしか無かった。
















































 こんなにも上手く行くと思わなかった。私はお風呂からでて、濡れている髪を拭いた。
 ベッドに腰掛けて今日の事を振り返って顔が真っ赤になる。そう、私ははじめの事が
好きだ。はじめが私を好きになってくれるずっと前から。だからはじめの好きな女に
なるように努力した。そしてソレは成功した。どちらかと言うと地味な私がはじめの
視界に入るようにドジを装ってはじめにワザとぶつかったり、はじめの目の前で
物を落としたりもした。いつからかはじめの視線を感じるようになって、噂ではじめが
私を好きだと聞いた時は嬉しくて頭がおかしくなりそうだった。
 だから罠を仕掛けたのだ。
 あの日、私ははじめにだけ見えるようにカンニングをした。危険な賭けだったけど、
はじめは乗ってきた。
 脅されて喜ぶのも変なので当分は嫌がる振りをする。好きな時に涙を流せるのは
私の特技だ。
 蜘蛛の巣に捕らえられたのは私?それとも………。



後書き。
 はい、やっちまいました。毎回こんな事言ってる気がするけど、仕方ないね。
 こんな地味な所に気付く人はいるのか?気付かなくても違和感無いようにはしたつもりだけど。
 黒い主人公ちゃんですけど、嫌わないでやってくださいねー。観月は暗くなりがちでいかんなー、
と思うので、次回は明るめで。タイトルはhideさんの名曲『ピンクスパイダー』から。
 歌詞が切ないんだ、アレ。小説の内容とは全然違うけど。


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