休憩不良少年。
初めて亜久津と喧嘩した日から半月ばかり経っていた。
私達の関係は相変わらずで、たまにキスをしたり、勉強を教えたりしていた。もちろん殴り合いの喧嘩もした。喧嘩と言うよりは組み手に近いかも知れない。
そんな毎日が楽しくて少し受験勉強が疎かになっていたかも知れない。その甘さを反省しなきゃいけない日がやってきた。
それはある日の放課後だった。
『生徒の呼び出しをします。3年生のさん、至急生徒指導室まで来てください。繰り返します、3年生のさん…。』
何だろう。最近は風紀委員長の任も解かれて仕事も減っていた。もしかしてまたしても風紀委員長に
任命されるのだろうか。もしくは亜久津の件か?そんな事を考えながら生徒指導室に向かう。
この時点で何となく嫌な予感はしていた。指導室のドアをノックする。中から「どうぞ。」と言う返事が帰ってきた。
「失礼します。です。遅くなってすいませんでした。」
とりあえず挨拶をする。先生の目が急に厳しくなった。そして言い出しそうに先生が口を開いた。
「、最近成績が著しく下がってるぞ。原因は亜久津か?お前は山吹の生徒の中でも期待されてるんだからな。
成績を下げるような付き合い方はするなよ。あんな不良は程ほどにあしらっておけ。お前が振り回されることはないんだからな。」
余計なお世話だ。私の交友関係まで先生に口出しされる覚えは無い。それに世間が思っているより亜久津は悪い奴じゃない。むしろ良い奴の部類に入るかも知れない。
「お言葉ですけど、私の成績が下がったのは私自身のせいです。誰のせいでもありません。決め付けないで下さい。成績は次で挽回しますから。失礼します。」
言いたい事をさっさと言って部屋を出る。先生は驚いたようだったが黙って行かせてくれた。それにしてもうざったい。良い学校に入ることがそんなに良いのだろうか。私の知っている限りでは高学歴者ほどろくでもない確率が高い。こんな事を言ったら良い学校の人に怒られるかも知れないが。イライラする。勉強勉強勉強。そうじゃなければ成績成績成績で息が詰まりそうになる。少し前の私なら先生に素直に従っていたかも知れない。亜久津と友達になってから私は少し変わったと思う。誰にも縛られない自由な亜久津が羨ましい。そんな事を考えていたら亜久津に会いたくなった。どうせ家にも帰っていないのだろう。学校を出てケーキ屋に行く。亜久津の好きなケーキを買って学校に戻る。まずは屋上に向かう。
亜久津は屋上で煙草を吸っていた。音を立てないように近寄って亜久津の頭をめがけて回し蹴りを放つ。ヒュッといい音がした。が、当たらなかった。亜久津に足首を掴まれてしまった。最近では手加減をしてもらわないと攻撃が当たらない。悔しいので格闘技(主に合気道と空手。)に費やす時間を増やしたが全然ダメだ。
「いきなり何すんだテメエ。」
口調は怒っているが毎回の事なので気にしない。亜久津もあまり気にしてる様子は無い。
「別に。亜久津の顔が見たくなったから、傍にいても良い?」
「好きにすれば良いだろうが。」
これは照れている。亜久津の顔が少しだけ赤く染まっているからだ。乱暴な口調だけれど許可は貰ったので亜久津の隣に腰を下ろす。
「そう。こんなに簡単に許可が出るならこのケーキは無駄だったわね。せっかく亜久津が好きなモンブランを買ってきたけれど、これはワイロ用に買ったものだし、私が二つとも食べようかしら。」
「あぁ゛?俺のために買ってきたなら俺によこせ。」
ケーキの箱を亜久津に渡す。亜久津は中を開けてケーキを食べ始めた。どっちみち二つとも亜久津にあげる気だったし、まあいいかと思った。
「二つとも食べていいわよ。最初からそのつもりで買ったんだし。」
あっという間に一つ食べきった亜久津に声をかける。でも亜久津は食べずに箱を私に押し付けるような形で差し出した。ありがたく貰う。
「、何かあったのかよ。」
「少しだけ嫌な事があっただけよ。膝借りるわね。」
初めて亜久津に喧嘩で負けた日から亜久津はずっと私をと呼ぶ。が、私は相変わらず亜久津と呼んでいた。
普段は三つ編みの髪をほどいて眼鏡を外してあぐらをかいてる亜久津の膝、と言うより太腿に頭を乗せる。そのまま薄く目を閉じる。夕焼けが目を閉じても眩しかった。
暖かい空気が顔に迫ってきた。目を閉じたままで亜久津を待つ。唇が触れる。舌が少し荒っぽいが優しく侵入してくる。これはきっと亜久津なりの気遣いだろう。いつもはコレの10倍は荒々しい。その気遣いが心地良かった。私は誰に何を言われても亜久津と友達としてやっていくだろうなと思った。亜久津が私に飽きない限りは、だが。
「おい、寝てんのかよ?」
目を開けてその問いに返事をする。
「起きてるけど、しばらくこのままでいて。」
私はまた目を閉じた。意識が混濁していく中、亜久津に迷惑だろうと思いながらも眠りに落ちようか、何て思っていた。
「チッ…。人の気も知らねえでグーグー寝やがって。」
聞えてはいたが、亜久津の膝が心地良くて返事はしなかった。ずっとこのまま寝ていられたら良いな、なんて考えた…。
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