決戦!不良少年
自慢じゃないけど、私の役職は生徒会長だ。が、どうしても人材不足のため、
風紀委員長も勤める事になった。好きでやっている訳では無いけど、
引っ込み思案な人が何故か多いため、私が仕事を掛け持つ事になった。
そんな私に与えられた仕事は、山吹中の怪物、亜久津仁を少しでいいので、
真面目にすることだった。やってやろうじゃないか。
パッと見私は三つ編みに眼鏡と言う真面目スタイルだが、格闘技を嗜んでいる。
たかが不良に負けるとは思わない。早速明日から行動開始しよう。
1時間目、当然のように亜久津はいない。探す事にした。授業をそっと抜け出す。
幸い私は一番後ろの席だった。
屋上で亜久津を発見した。何とかと煙は高いところが好きと言うが本当だったらしい。
声を掛けてみる。
「亜久津君。」
亜久津は振り向くとこれ以上ないくらいの不機嫌な声で返事をした。
「あ゛ぁ?誰だテメエ。」
「初めまして。私の名前は。あなたと同じ学年の人間よ。」
とりあえず挨拶をしてみる。相手が余りにも好戦的なようなら喧嘩をするのも
やぶさかではなかった。
「生徒会長が俺に何の用だ。」
意外にも私が生徒会長だと知っていたようだ。
「授業に出て欲しいの。そのためには多少の協力はするわ。」
眼鏡を持ち上げながら一気に喋る。
「ぶん殴られたく無かったら消えろ。」
案の定、脅しをかけてきた。しかしこんな事で怯んだら生徒会長兼風紀委員長など
やってられない。
「殴りたければ殴れば良いじゃない。殴れるものならね。」
挑発をしてみる。どうやら乗ってきたらしく、物も言わずに殴りかかってくる。
とりあえずソレをかわすと同時に右足で上段回し蹴りを放つ。当たった。
更に襲い掛かってくる。ワンパターンな正拳突きだ。その腕を取って亜久津の体を一回転させる。
早い話がぶん投げたのだ。
「テメエ…。明日から何処にいやがる?」
何だその質問は。しかし、しめたものだと思い私に都合よく行くように
答えた。
「授業中は教室。昼休みと放課後は図書館かしらね。」
「上等だ。授業、出てやるよ。その代わり、俺がいつ喧嘩売っても逃げんじゃねえぞ。」
言われなくても逃げるわけがない。自分より弱い人間から逃げる理由が無いからだ。
「構わないけど、授業中は遠慮して貰いたいわね。」
その日から亜久津との喧嘩三昧の日々が始まった。
見る見る内に亜久津は強くなった。もともと筋が良いのかも知れない。でも、負ける気は無かった。
負けてしまったらきっと亜久津は授業にも出なくなるし、きっと亜久津は私に構わなくなる。
正直、亜久津との喧嘩の日々は楽しかった。上達も早いし。
しかし負けの日はやってきた。
私は馬乗りになった亜久津を見上げながらこれで喧嘩生活も終わりかー何て
考えていた。
「勝った気分はどう?」
「最高じゃねーの。負けた気分はどうだよ。」
「最低、までは行かなくても嫌な気分ね。」
事実だった。負けたのが悔しかったかも知れないし、そうでは無かったのかも
知れない。
「さて、これで私が授業に出させるのはもう無理ね。これからは好きにしたら?」
負け惜しみを吐いた。
「言われなくても好きにしてやるよ。」
そう言った亜久津の顔が段々近づいてくる。何となくキスされるのかな、何て
思った。自惚れじゃなかった。
キスって眼鏡が邪魔だなーって思った。不思議と嫌悪感とかは無かった。
「嫌がんねえのかよ。」
「嫌じゃないから。嫌がって欲しいの?」
亜久津が微妙な表情をした。何を考えてるのだろうか。
「そうかよ。じゃあ、俺を退屈させるな。」
何でだ。付き纏った罰か何かか?嫌じゃなかったからそれに応じた。
「分かった。退屈させなきゃいいのね。楽しみにしてて。」
ニヤッと笑ってみた。上手くいったらしい。もしかしたら私は亜久津が好きなのかも知れない。
まだ恋愛には遠いけれど、こんなのも悪くない。
私と不良少年の戦いは始まったばかりだ。
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