○ゆかり・リアン戦
「宗一君、宗一君」
「なんですかな、姫」
「皐月ちゃんにはもう話したのですが、今度の日曜、一緒にプールに行きませんか?」
「んー、いいけど、なんでまた? 今、体育の授業でもやってるのに、そんなに泳ぐの好きか?」
「こう見えても水泳は皐月ちゃんに勝てる数少ないスポーツなのですよ」
えへんと胸を張るゆかり姫。その反動で揺れる胸を見て、そりゃそうだろうなぁと俺は大いに納得した。
「ちょこぱんち!」
「ぐはっ、何だ急に」
「声に出てました」
「いやぁ、ついわざと」
「ダメですよ、そんなことばかり考えていたら……困ってしまうではないですか」
「ごめんごめん。いや、男としての本能が、つい」
「……そう、そこなのです。どうも、その……体育の授業だと、そういうのが落ち着かなくて」
「なるほど」
確かに、男である以上、目の前で胸を揺らされたら、注視せざるを得ない。
ほら、人間って動くものについ視線を引きつけられるって言うし。
ゆかりの胸サイズ+スクール水着は、若い高校生の理性を撃墜するに十分な威力がある。
ぱっつんぱっつんにはち切れた胸を見せられては、俺だって前屈みに成らざるをえない。
そんな不躾な男共の視線に晒されては、のんびり泳ぐのもままならないだろう。
ましてや背泳ぎなどしようものなら、とんでもないことに。
「そんなわけなのです。オーケーですか?」
「オーケー、オーケー。……ところで姫、つかぬことを伺いますが」
「なんなりと聞くがよい」
「やはり日曜日もスク水で行くので?」
「そ、それは……日曜日までのお楽しみなのです」
お楽しみ……。ということは、スク水とは違う、別バージョンが見られるに違いない。
ワンピースか? ビキニか? ハイレグか? セパレートにパレオ、はては紐型まで、いくらでもバリエーションはある。
うっかりビキニの紐が解けたりするアクシデントがあったなら……(*´Д`)ハァハァ
「くりーむぱんち!」
「ぐはっ」
「目が悪いことを考えていました」
「すみません……」
○七海・坂下戦
☆『入場SS』
坂下「さぁ、私の相手はどこっ!?」
七海「あ、はい。私です。よろしくお願いします」
坂下「え……? あの、お嬢ちゃん、いくつ?」
七海「お、お年頃ですっ」
坂下「……ちょっと綾香、私あんな子殴れないわよ」
綾香「なんで殴って解決することしか考えてないのよ。空手の対戦じゃないんだから」
坂下「萌えなんて恥ずかしい単語で、私が勝てるわけないでしょっ!」
綾香「ほらそこはそれ。あなたもエプロンつけて、ご主人様って呼んでみるとか」
坂下「できるかっ!」
七海「あ、エプロンなら貸しましょうか?」
綾香「あら、ありがとね」
七海「はい、どうぞっ」
坂下「あ、こら綾香、私はそんなのつけないって……」
綾香「はいはい、いいからいいから。……いやー、やっぱ空手着の上からエプロンって、不釣り合いもいいところね」
坂下「だったらやるなっ!」
七海「そ、そんなことありません。とってもとっても強そうなわりには機能的でいい感じですっ」
坂下「……ありがとね」
次はこんな感じの二人の対戦。
(ここで坂下絵描きさんが、エプロンをつけた坂下、胴着を着た七海などを書いてくれました)
それをうけて、坂下・七海、町内巡回中
坂下「あー……えらい恥かいたわ」←エプロンは外した
七海「ぜぇ、はぁ」
坂下「あ、大丈夫? ごめん、あそこでダッシュはきつかったわね」
七海「だ、大丈夫、です」
福原「おぉ、七海ちゃんではないか。どうした、そのようなめんこい恰好をして」
七海「はい、その……ぜぇはぁ……」
坂下「平気、七海?」←背中をさする坂下
福原「むぅっ! そこの貴様、七海ちゃんから離れいっ!」
坂下「な、なによ急にっ」
福原「貴様、儚げでひ弱で可憐な七海ちゃんを疲労させ、
介抱するという目的でいかがわしい場所に連れ込み、不埒な行為をするつもりであろう!
この福原庄蔵の目が黒いうちは、そのようなこと、やらせはせんぞ!
戦後の闇市で鍛えた、ワシの太極拳で成敗してくれるわ!」
坂下「私は女よっ!」
福原「ぬ……? よく見れば確かに。だが最近の若いもんは分からんからの。
愛があれば性別の差なんて超えられると容易くぬかしおって。おまえさんにその毛が全くないという保証はない」
坂下「Σ(゚Д゚;」(←いろんな疑惑や多少の自覚症状がある人)
七海「あの、大丈夫です。ちょっと走りすぎただけですから」
福原「おうおう、なんとけなげな。ささ、こっちへ来てジュースでも飲んで息を整えるがよい」
七海「……ぷはぁ。はい、落ち着きました。あのですね、こちらは坂下好恵さんと言ってですね、
私に空手のお稽古をつけてくださっているんです」
福原「ふむ、そうであったか……だが何事もオーバーワークは禁物。適度な運動には適度な休養が必要というもの。
まもなくおやつの時間じゃ、ゆるりとお茶会を楽しもうではないか」
七海「はいっ。あの、坂下さんもご一緒にどうぞ」
坂下「あ、私は……」
福原「よもや七海ちゃんのお誘いを断ったりするような、非礼なマネはせんであろうな?」
坂下「わ、分かったわよ(なんで脅されてるのかしら……)」
で、お茶会を始めたはいいが。
老人A「ほう、こちらが七海ちゃんのお師匠というわけか」
老人B「なんと凛々しい。失われて久しい日本男児の魂の輝きを見るようじゃ」
坂下「い、いや、あの私は……」
老人C「最近の若いもんは軟弱でいかんからの」
老人D「坂下さんとやら、ワシの孫を嫁にもらう気はないかの?」
老人E「おまえさんの孫、まだ三才ではないか」
以下、老人の会話無限ループ。
老人の長く延々繰り返される話術に、すっかり気力を奪われた坂下。日が暮れる頃、ようやく脱出。
七海「それでは、まだ練習がありますので」
福原「うむうむ。気をつけてゆくのじゃぞ。
……坂下とやら。七海ちゃんの位置は常にビーコンで把握しておる。
いかがわしい場所に連れ込もうとしようものなら、たちまち我が自治体特殊部隊が駆けつけるぞ」
坂下「最初からそんな気もなければ、する気力もないわよ……。行くわよ、七海」
七海「押忍っ」
福原「ううっ、凛々しい七海ちゃんもめんこいのう……」
坂下「はぁ……走り込みしてるより十倍は疲れたわ。あなた、毎日あの人達の相手してるの?」
七海「はいっ。皆さん、とってもいい人達です!」
坂下「いやぁ……あれの相手できるあなたが、いい子なんだと思うけど」
七海「?」
(ここで坂下絵師さんが街を走り込む七海&坂下をry)
坂下「本日の練習はここまでっ!」
七海「押忍っ! ありがとうございましたっ!」
坂下「……って、つい、いつものノリで指導しちゃったけど……良かったの?」
七海「はい、とっても勉強になりましたっ!」
坂下「うーん……私が言うのも何だけど、普通に生活する分には、あまり役には立たないと思うけど(苦笑)」
七海「そんなことありません。これでもう少し、そーいちさんの役に立てるようになると思います」
坂下「そうなの?」
七海「はいっ。そーいちさんはとてもとても大変なお仕事をしてらっしゃるので、
なにか困ったことがあったら、七海も駆けつけて、お手伝いするんです。きっと空手も役に立ちます」
坂下「そう……。やっぱり、似てないようで、どこか似てるわね」
七海「え? 誰にですか?」
坂下「私の後輩に、葵って子がいてね。真面目で、一生懸命なところが、七海に似てるわね」
七海「そうなんですか」
坂下「あと、背が低くて可愛らしいところとか」
七海「せ、背は伸びる……と、思います。もうちょっとくらいは」
坂下「葵もそんなこと言ってたけど、あんまり伸びてないわねー」
七海「う……」
坂下「ああっ、うそうそ、ほら、あなたも葵もまだ成長期だし、もっと大きくなれるわよっ」
七海「はいっ、頑張りますっ」
綾香「ほらね、浮気よ浮気。かわいそうに葵。あなた、捨てられちゃったのね」
葵 「あ、綾香さん……」(←苦笑。さすがに本気にはしてない)
坂下「ちょっと、なに吹き込んでるのよ綾香っ!」
綾香「きゃーっ♪」
葵 「こんにちは。松原葵です」
七海「あ、坂下さんから伺ってます。立田七海ですっ。あの……、一つお聞きしたいんですど」
葵 「はい、なんでしょうか?」
七海「……背、伸びてますか?」
葵 「……いえ、あんまり」
賑やかに追いかけっこする二人とは裏腹に、なんか落ち込んでる二人。
(葵より、もうちょっと深刻に捕らえちゃうタイプなのね……気をつけないと)」
○ゆかり・美凪戦
☆『醍醐隊長の贈り物』
「あれ? 醍醐さんではないですか?」
「ぎく。お、おぉう。ゆかりちゃんではないか。どうしたのだ、こんなところで」
「昼間のデパートにいつもの恰好の、醍醐さんの方こそ浮いていますよ。
主婦の方々が遠巻きに見ているではないですか」
「むぅ。隠密活動を心がけたつもりだったのだが、物を買うのに店員と話さないわけにもいかず」
「変なところで真面目ですね」
「それよりゆかりちゃんはなにを買いに来たのかな」
「実はですね。明日、宗一君の誕生日なのですよ」
「ほ、ほほぅ」
「それでなにか素敵なプレゼントを……時に醍醐さん、そのしゃれた包みはなんですか?」
「むぅ? わしにはなにも見えんぞ」
「なにか後ろ手に隠しましたね」
「いや、実はこれは高性能爆薬でな。いまからこのビルをどかーんと吹き飛ばすのだ。
ささ、ゆかりちゃんは逃げた方がいい」
「ふふっ。分かっちゃいました。そーいち君へのプレゼントですね」
「な、なにをいっとるんだ、クソガキへのプレゼントなどではないんだからねっ」
「わ、ツンデレだっ。醍醐さん、いつの間にっ」
「一度言ってみたかったのだ」
「ヒロイン昇格は本気だったのですか」
「ふふふ」
「むむっ、意外なところに強力なライバル出現。しかもこまめです」
「うむ。ゆかりちゃんの誕生日にも、なにか素敵なプレゼントを用意しよう」
「いいんですか?」
「そうだな。あのクソガキを裸にひんむいて、ロープで逆さ吊りにして、ゆかりちゃんの枕元に吊しておいてあげよう」
「前から思っていましたけど、醍醐さんって、見かけによらずいい人ですよね」
「ふはははは。そう褒めるでないわ」
「でもヒロインの座は譲りませんよ」
「Routes2発売の暁には、譲られるまでもなく奪い取ってやるわ」
「……出るといいですねぇ。Routes2」
「そうだのぅ……」
☆『本日においては姫様のご機嫌麗しゅう』
「前からちょっと不満なのですよ」
「は、なにがでしょうか、姫」
「タイトル画面とかパッケージとか、私と皐月ちゃんはダブルヒロインな雰囲気ではないですか」
「姫の仰せの通りで」
「なのに、おまけシナリオやトゥルー編やあるあそでは、皐月ちゃんが最初に登場の正妻扱いで、
私がまるでお邪魔虫ですよ。これは納得がいきません」
「すみません、すみません」
「宗一君は、押しと引きに弱すぎです」
「どっちもですか」
「どっちもじゃないですか。皐月ちゃんに迫られては押し倒され、ちょっと泣かれては甘く慰めて」
「返す言葉もございません」
「そんなわけで悔しいので、今日は散々バカップルと呼ばれるにふさわしい恥ずかしいことをしますよ」
「……というと?」
「まずは手を繋いでの登校です」
「う……いやいやそれくらい」
「教科書は忘れて、机くっつけて見せあいっこです」
「席、隣じゃないし」
「代わってもらってください」
「……御意」
「お昼はもちろん、互いにあーんと食べさせ合うのですよ。小鳥の親子の如く」
「いとっぷが自殺しそうだな。しかし皐月の弁当でそれをやるのか。まさに外道の極み」
「あ、それもそうですね。よし、お弁当を作りましょう」
「いや、見せつけるなら、とことんやるべきだっ。皐月の弁当で悪逆非道の限りを尽くそうではないかっ!」
「……宗一君、私のお弁当食べたくないんですね」
「あ、いや、そういうわけじゃ」
「いいんですよ。どうせ私のお弁当なんて、
人様の、ましてや愛する人に食べさせられるような代物じゃないんですから……」
「いや、食べたい! ゆかりの弁当が食べたい! たーべーたーいーーーっ!」
「ふふっ、宗一君がそこまで言うのなら」
「なんかいろんな意味で自分の首を絞めてしまった気がする」
「なるほど、皐月ちゃん戦法的にはこのように引くと効果的……と」
「変な学習しないでくれ」
☆『電脳世界の女王様』
ちょっと興味があったので、廃人ゲーム・ファイナルクエスト内でのゆかりがどんなものか、
一時復帰してもらうことにした。
早速ログインしてゆかりを捜す。えーと待ち合わせ場所は……なんだ、今日はやけに人が多いな?
「姫だー」「姫様だー」「へへー」
なんだ? なんか有名人でも……え、この人だかりの中心はまさか?
いた。やっぱりゆかりだ。しかもなんかすごい人数に囲まれて、かしずかれてる。
しかも、噂にだけ聞いているような、超貴重レアをじゃらじゃらと。確かに注目を集めるのは分かるけど……。
「おーい、ゆかり」
と、呼びかけた瞬間、殺気の矢が無数に飛んできた。
「なんだゴルァ(゚д゚)」「姫を呼び捨てとはどういうつもりだ」「ちょっと体育館裏までこいや」
そんなセリフがぴしぴしと……画面を一斉に埋め尽くす。見えねぇっ。
うわ、うわ、HPが減ってる。街中で正気か、こいつら!?
「やーめーなーさーいっ」
倍のフォントででっかく響く、ゆかりの声。あっと言う間に民衆達は押し黙った。
……あれもレア装備のデカメガホンか。こんなくだらないことにはもったいなくて使えんぞ、普通。
「その人は私の友達なのです。よいのですよ」
「しかし、姫……」
「口答えは許しません」
「はっ!」
いかにも近衛兵か騎士隊長かと言った風体の、かなりレベルの高そうなレア満載の兄ちゃんが控える。
完璧に躾が行き届いているなぁ。
「あー……ゆかり」
ざわっ!
「……姫。ご機嫌麗しゅう」
「いえいえ、良くいらっしゃいました」
「あの、この人達は?」
「皆さん大切なお友達ですよ」
違う。友達ってのはこういう風に跪いて頭を垂れてたりはしない。
「(こそこそ)なにやったんだ、ゆかり」
「やだなぁ、宗一君。ほら、ゲームですから。ちょっとなりきってるだけですよ」
「理由は不明だが、ゆかりがわずか二百時間で虚無の帝を倒せたわけが分かった気がする」
そして俺ははたと気づいた。
普段から何気なく呼んでいる姫という呼称……あれは無意識に、
ゆかりのオーラかなにかの影響を受けていたのかも知れない。
あるいはゆかり、中世にでも生まれたら、とんでもないカリスマ女王様になっていたのではないだろうか。
そんなことを伺わせる、非常に居心地の悪い一時だった。
○ななみ・ちゃる戦
☆『見方を変えれば幼女誘拐?』
ちゃる「どうした、少女。そのような巨大ポップコーンを抱えて」
七海 「え? あ、いえ。あの、今日はそーいちさんと映画を見に来たのですが、
急にそーいちさんが『ちょっと急用が出来たので、ここでポップコーンでも食べて待っててくれ』と、
駆けていってしまったんです」
ちゃる「その特大サイズは、少女が食べるには大きすぎないか?」
七海 「はい……。一生懸命食べたんですけど、半分もへらなくって……。
このままでは、そーいちさんが帰ってくるまでに食べきれないって、困っていたんです」
ちゃる「そうか。時に少女、アイスクリームは好き?」
七海 「は、はいっ。大好きですっ」
ちゃる「時に私は、ポップコーンが好き」
七海 「はぁ」
ちゃる「半分交換」
七海 「あ……はいっ。ありがとうございますっ」
ちゃる「気にしない。我々は清く正しい貧乳仲間。あそこの邪悪なおっぱい星人とは違う」
よっち「ちょっとちょっと、いたいけな少女になにでたらめ吹き込んでるっすか」
七海 「え? え?」
ちゃる「でたらめじゃない。彼女はありとあらゆる糖分を吸い込み、あの胸に蓄えてしまう。気をつけた方がいい」
七海 「す、すごいですっ! 私、宇宙人さんと知り合いになったの初めてですっ!」
ちゃる「そうきたか」
よっち「なに信じてるっすか!」
七海 「え? 違うんですか?」
よっち「どっからどう見ても正真正銘地球人っしょ。困りますよ、旦那。宇宙人なんか、そこらにいやしませんって」
|rz| |゚ -゚ノゥ「るー」
七海 「え?」
よっち「……なんかいたっすね」
ちゃる「まぁそれはさておき。よっちも交換で頂くといい。記念すべき地球人と宇宙人との文化交流」
よっち「あー、はいはい。では遠慮なく。代わりにこちらのミント味をどぞどぞ」
七海 「ありがとうございま……あ、そーいちさんっ!」
宗一 「おう、七海。無事だったか」
七海 「はい。とっても無事ですっ」
宗一 「そうか、それは良かった」
七海 「そーいちさんは、頭から血が出てますっ。服にも穴がっ」
よっち「なんか日常に溶け込みきれてない、やばそうな人っすねぇ」
ちゃる「セクシャル&バイオレンス」
宗一 「気にするな、かすり傷だ。急で悪いが、今日の映画は中止だ。一旦退却するぞ」
七海 「え? あの、まだポップコーンが」
宗一 「そんなもん、俺がまた買ってやるから。いくぞっ!」
七海 「ひゃああっ!?」
よっち「……いっちゃった。なんかハードボイルドな展開っぽいっす」
ちゃる「うむ。あれは明らかに銃創だった」
よっち「やばくないっすか、それ?」
ちゃる「やばい。さしずめ彼女はエージェントの抗争に巻き込まれたヒロイン。悲劇だ」
よっち「いやぁ、エージェントっているんすねぇ。ああいうのは映画の出来事だけかと思ってた」
ちゃる「一度でいいから、ああいう風にかっさらわれてみたい」
七海 「あのっ、そーいちさんっ。どこまで走るんですかっ?」
宗一 「いいからついてこいっ。手、離すなよっ!」
七海 「あ……はいっ!」
☆『その買い物は、誰のため?』
七海「すもも、ご飯だよ」
すもも「きゅきゅっ♪」
宗一「……そういやこいつ、メスなのか、オスなのか?」
七海「さぁ……どうなんでしょう。すもも、どっち?」
すもも「きゅきゅう」
七海「わからないって言ってます」
そんなはずないだろう。
宗一「どれどれ、ちょっと確かめてみるか」
すもも「きゅっ!」
宗一「あいたーっ!」
七海「だめだよ、すもも。そーいちさん引っ掻いちゃ」
すもも「きゅきゅ〜っ」
七海「ご飯の邪魔をするからだって、怒ってます」
宗一「くそぅ、小動物の分際で。この凶暴性はオスだな。間違いない」
七海「男の子ですか。そうなると……やっぱり、すももにもお嫁さんが、必要なんでしょうか」
宗一「ん? ちょっと探すのは無理なんじゃないかなぁ……」
なんてったって、絶滅危惧種の天然記念物だ。
七海「そうですか……すもも、かわいそう」
宗一「ペットショップに行けば、似たようなのは売ってるかもしれないけどな。
そうだ。こいつにも動物仲間を作ってやるのはどうだろう」
七海「それ、すごくいいですっ!」
宗一「ああ、猛禽類なんかどうかな?」
七海「もうきん……?」
宗一「鷲とか鷹とか。互いに凶暴でぴったりだろう」
七海「だ、だめですだめですっ。すももが食べられちゃいますっ」
宗一「そんなことはないさ。ニルスの不思議な旅みたいに、背中に乗せて飛んでくれるかもしれないぞ」
七海「本当ですか? 凄いですっ! 良かったね、すももっ」
すもも「きゅきゅう〜(;;)」
そして、俺たちはペットショップへ向かった。
七海「鷲さんも鷹さんも売ってませんね」
そりゃそうだろうなぁ。
宗一「すももの同族もいないみたいだな。友達は諦めるか」
七海「残念です……あ、ダメだよ、すもも。出てきたら」
すもも「きゅきゅ」
宗一「まぁせっかく来たんだ。なんか道具とかあったら買っていくか。見てこいよ」
七海「はぁい」
どれ、別に欲しいものもないけど、せっかくだから、俺も見回るか。
おお、あれは最近値段が急落の一途を辿っているというチワワじゃないか。因果なものだな。
こっちはペット用の道具か。そういえばあいつ、首輪とかつけてないけど、大丈夫なのかな?
まぁ逃げ出すことはないと思うが……正体がばれたら、盗まれたりするかもしれないし、首輪は必要か?
と、首輪を手に取り眺めていたら。
??「じゃあじゃあ、これは、センパイ? ワンワン、ご主人さまぁ〜☆」
……。
七海「そーいちさん? どうかしましたか?」
宗一「あ、いや。こいつにも、首輪が必要かなぁと思ってな。ほら、迷子になったときとか、連絡先を書いておけるしな」
七海「そーですね。すもも、どの首輪がいい? これかな? それともこれ?」
宗一「これなんかどうだ?」
七海「ちょっとすももには大きすぎませんか?」
宗一「いや、いつかそいつもでかくなるかもしれないし。予備を買っておいても損はないだろう。念のために、な」
七海「なるほど、さすがそーいちさんですっ」
そう、念のため……いや、まさか、必要になるとは思えないけどな。あはは……。
とりあえず、ご主人様から始めるか。
○ミルト・美佐枝戦
☆『七海の初めてのドライブ』
あまりに暇な休日の午後、俺はふと、思いついて言ってみた。
「今日は天気もいいし、ドライブにでも行くか」
「え、そーいちさん、車の運転できるんですか?」
「それくらい出来なきゃ、エージェントは務まらないのさ」
気取って言ってみたが、基本中の基本だ。
だがそんなセリフにも七海は目をきらきらと輝かせて、
「すっ、すごいですっ! あの、それじゃあもしかして……車も持っているんですか?」
「ああ、もちろん。七海の好きなところに連れて行ってやるぞ」
車どころか、一機数十億円のヘリも持っているとかいったら、また目を回しそうだな。
「本当ですかっ!? 私、車に乗るの、三年ぶりくらいですっ」
……なんか涙が出てきそうになった。
「ほい、こいつが俺の愛車」
「わぁ……」
七海のお目目きらきらモードがまた始まった。
さすがの七海もこいつの名前くらい……知ってるかな?
「どうだ、七海」
「赤くって、丸っこくて、とっても可愛らしいですっ」
丸っこ……いや、そうかもしれないけどさぁ。やっぱり知らないんだ。とほほ。
こいつのオーナーになることを夢見る人が、全世界にはたくさんいるというのに。
まぁ、喜んでくれてるようだから、いいか。
「さぁ、乗った乗った」
「はぁい。お邪魔しまぁす」
価値がわからないのも善し悪しで、ドアを開けてやると、七海は憶することなくシートに座り込む。
物珍しげにきょろきょろと、メーターを覗き込んだり、恐る恐るシフトレバーを撫でたり。
ドライバーズシートに座り込んで、
「勝手に触ると、走り出すぞ」
と釘を刺すと、ビクッと手を引っ込める。まぁ勝手に走るってのは、あながち嘘じゃないけど。
シートベルトをつけさせて、キーを差し込みエンジン始動。
オンボードAIが立ち上がり、滑らかな機械音声で、マシンチェックを始める。
『StayOn...CHECK、CHECK、CHECK、CHECK......OK!』
「え? え?」
いきなり響いた音声に、七海はきょろきょろ左右を見回す。
「ミルト、七海に自己紹介」
言うと同時にアクセルを踏み込む。今日も彼女は上機嫌で、最高の吹けあがりだ。
『Ja. Nice to meet you, Miss Nanami.』
「は、はいっ!?」
「My name is "Mild", System 901RS2 Ver.2008-0002」
「あ、あの、どちらの方ですか? すみません、私、日本語しか喋れなくってっ」
『これは失礼しました。私の名前はミルトといいます。以後、お見知り置きを』
七海は律儀にぺこりと頭を下げて、
「あ、ご丁寧にどうも。立田七海です。……あの、もしかして、車さんが喋っているんですか?」
『その通りです』
「わぁ……そーいちさん、この車、妖精さんが乗ってますっ」
いきなりTTSが横滑りした。危ないって。七海がいるから安全運転していてよかった。
『七海さんは、素晴らしい感性の持ち主ですね』
「え、そうでしょうか?」
『はい。私のフォルムを美しいと称する方はたくさんいますが、
可愛らしいと形容してくださったのは、あなたが初めてです』
「そーなんですか? ミルトさんは、とってもかわいいと思いますよ」
『ありがとうございます。聞きましたか、meister。彼女は女心を喜ばせるつぼを心得ていますよ』
「七海がそんなツボ心得て、どうするって言うんだ」
『私の真の魅力をmeisterにもちゃんと見抜いて欲しいという、ささやかな要求です』
女ってのは美しいよりも、かわいいと呼ばれる方を好むって奴か……難しいもんだ。
「ミルトさんは、とっても早く走れるんですね」
『いえ、私の全開走行はこんなものではありません。お望みなら、音速の壁さえも超えてご覧にいれましょう』
「むりむりむり。てゆーか、死ぬからやめて」
『お疑いのようですので、私自ら実践して見せます。I have control』
「ユーハブ……って、渡すかっ。だいたい順序逆だろっ」
『残念です』
「ざんねんです……」
命惜しくないのか、こいつらは。俺が言うのもなんだけど。
「ところで、どこまでいくんでしょうか?」
『あなたと一緒ならどこまででも』
ずいぶん上機嫌だな。そんなに嬉しかったのか。
といっても、特に目的地は決めてないんだった。
「七海の好きなところでいいぞ」
「それじゃあ、海が見たいですっ」
「OK、姫様。それじゃ湾岸線のドライブとしゃれ込もうか」
海を見ながら高速ドライブというのも、乙なもんだ。
『あそこなら、時速六百キロ程度のチャレンジは出来そうですね。飛ばしていきましょう』
「頑張ってくださいっ」
「むりだってば。やめてお願い」
『麗しい女性二人を前にして、男の意地を見せようと言う気にはならないのですか?』
「そーいちさんならできますっ」
七海の無垢な信頼が、今は凄く心に痛い。
おっけい、ぼく頑張るよ。死なない程度に。
アクセルを強く踏み込むと、背後でミルトが歓喜の咆吼をあげる。
「ふわあっ」
体がシートに強く押しつけられ、あっと言う間に背景が後方へすっ飛んでいく。
一般人ならたちまち目を回すほどの……って、
「ところで七海、お前よく平気だな」
「な、なにがですか?」
「いや、普通こんな速度で走ったら、恐くて仕方がないと思うんだが」
ちらっと見ると、七海はシートに半ばめり込んだまま、ぎゅっと目をつぶっていた。
言われて初めて目を開き、窓の外の光景を見て、
「はい?」
そのまま固まり、少しずつ首が後ろの方へ傾いていき――
「きゅううっ」
「わーっ、やっぱり!」
『繊細なお嬢さんですね』
「だから音速は駄目だって言ったのにっ」
『まだ出していませんが。お望みでしたら……』
「誰も望んでないって」
☆『ご主人様は丸っこいもの愛好家なのです』
ある日家に帰ってみたら、クマのぬいぐるみがいた。
器用に二本足で立ち上がった――かと思うとすぐに転び、
『やはり2足歩行は非効率的ですね』などと呟きながら、4足歩行してくる。
その愛らしくも不気味な存在は、のたのたと近づいてきて、俺の目の前で止まった。
『お帰りなさいませ、ご主人様』
「あのー……」
『なんでしょうか?』
「もしかして、ミルト?」
『その通りです』
クマ=ミルトは得意げに胸を張る。
「なんでまたそんな姿に……」
『名前が二文字被っているロボ仲間のミルファさんが、三センチ増量のニューボディーをゲットしたというので、
旧ボディを譲っていただきました。たっての願いで、発声装置も追加されています』
うわぁ。どこのロボだか知らんが、余計なことを。
『今まではガレージまでが精一杯でしたが、これでどこへでもお供できます』
「俺にクマのぬいぐるみを持ち歩けと?」
『いえ、自分の足で付いていきますが』
なお悪い。どこぞの行き倒れ人形使いじゃないんだから。
「悪いけど、元のボディに戻って」
『サテライトでリンクしていますので、両方のボディを駆使して、あらゆる事態に対応可能です』
「いらんから、マジで」
『なぜですか。潜入調査などに便利ですよ』
「俺が潜入するような場所は、クマのぬいぐるみとかあったら不自然だから。基本的に」
かわいい年頃少女の枕元とかに忍び込むんだったらいいけどさ。それじゃ犯罪だし。
『……私のこのボディは必要ないと?』
「率直に言えば」
『仕方ありません……どうやら正攻法に頼んだだけでは駄目なようですね』
「お、なんだ、なにをする気だ? 俺は脅しには屈しないぞ」
『とりゃ』
目の前で、クマが体をくねらせ始めた。なんかのたうち回っているみたいで不気味だ。あのー、もしもし?
「……なにやってんの?」
『セクシーポーズですが。どうです? そばに置く気になりましたか?』
「むしろ気持ち悪い」
『そんなっ! 全裸の私を前にして、平静を保っているなんて……もしかして、EDですか?』
「んなわけあるかっ。俺はクマに欲情する趣味はないっ! つーか全裸言うなっ」
結論。こいつには人型ボディはまだ早い……というか、そんなのに入れたら、なにをするか分かったもんじゃないな。
☆『ミルト的表現力の追及』
ああっ……ご主人様。
いけません。透けて見えるほど敏感な部分を、ふきふきするなんて。
いやっ、その曲線を撫でられると、私……感じてしまいます。
だっ、だめです。そこを広げて覗き込むなんて……粘ついた液を指で確かめるなんて、酷いです。いやらしいっ。
「……ミルト」
『なんでしょうか』
「変なナレーション入れるなっ!」
『私は事実を主観的に描写しただけですが』
「窓拭きして、ボンネット磨いて、オイルチェックしただけだろうがっ!」
『だってーぶっちゃけひまだしー』
「変な言葉遣い覚えるな」
『申し訳ありません。ですが実際、自分の体を他人に洗われるというのは酷く落ち着かないものがあります。
そうは思いませんか?』
「またどこかで聞きかじった知識だろ、どうせ。自分で洗えないんだから、仕方ないじゃないか」
『ご主人様は女性の機微というものを、覚えてください』
「へいへい、すみませんねー」
『ああ、こんなご主人様を持った私って、ぶっちゃけ不幸?』
「だからやめろって、その変な言葉遣い」
『現代っ子ぽいかと思ったのですが』
「そんなもん目指さないでくれ」
『ja』
○皐月・美咲戦
☆『入場SS』
皐月 「よっしゃ、出番だっ。気合い入れていくわよっ!」
ゆかり「皐月ちゃん、やる気満々だね」
宗一 「はいはい、てきとーにな」
皐月 「こら、バカ宗一! 自分が一回戦で負けたからってなんだその態度は!」
リサ 「Huu……お茶がおいしいわね」
ゆかり「あ、皐月ちゃんが地雷踏んだ」
皐月 「え、えっと、あの、リサさんはほら、強敵相手に堂々三桁取って頑張ったじゃないですかっ」
ゆかり「ごめんね、二桁しか取れなくて負けて……」
皐月 「今度はこっちかーっ!」
夕菜 「ゆかりちゃん、だぁいじょうぶ。そんな時は、気分が落ち込まないおまじないがあるから。
『私なんか、五十票届かなかった……』」
七海 「おねーさん、しっかりしてくださいっ」
皐月 「どいつもこいつもーっ! えぇい、しるかっ! あたしは勝つっ!
なんとなくゆかりに似ている人だけど、それは気にしないっ。むしろ全力で叩きつぶすっ!」
ゆかり「ちょっと皐月ちゃんの弱点教えてくるね」
皐月 「裏切りものーっ!」
リサ 「それじゃ、私は弥生とちょっと大人のお話でもしてこようかしら」
皐月 「くっ、こっちまでっ! 同じカワタキャラだからって! ならばあたしも緒方理奈とっ」
宗一 「こらこら、アイドルの緒方理奈と、庶民代表のお前が同等などとはおこがましいぞ」
皐月 「貴様もあっちの陣営の回し者かーっ!」
ミルト 「皆さん、殺気立ってますね」
七海 「えと、あの、それじゃ、入場です(ぺこり)」
☆『得意な土俵に引き込もう』
皐月 「えーとこの場合、やっぱりあたしの長所で勝負するべきよね」
宗一 「人格やスタイルでは負けているからな」
皐月 「シャラップ! あたしには、この鍛えに鍛えた料理の腕があるっ!
バカ宗一の財布に……じゃなかった、ハートに大打撃を与えたあたしの腕を持ってすれば!」
ゆかり「あ、美咲さんもね、料理得意みたいだよ」
皐月 「うそっ!?」
ゆかり「クリスマスのケーキが上等の市販品と思われたり、由綺ちゃんが料理を教わったりしてるから。
比べてみたら皐月ちゃんの方が上でも、大きなアドバンテージにはならないと思うよ」
皐月 「なんで、そんなにうれしそうなんだーっ」
宗一 「向こうは信者を多数抱えているのに、お前に付いているのはせいぜい、いとっぷくらいだしなぁ」
ゆかり「肉弾戦だったら皐月ちゃんに勝ち目ありそうだけど」
宗一 「それで勝っても、多分、向こうに同情票が寄せられるだけだな」
ゆかり「ね、皐月ちゃんも早くこっちに来ようよ♪」
皐月 「えーい、やかましいっ。あとは……あとは……はっ、肉弾戦!?
そうだ、あの清純そうな性格なら、そっち方面に持ち込めば……」
宗一 「よし、許可!」
皐月 「黙れ、このスケベ魔神!」
ゆかり「ふふふ……そう来ると思いましたよ」
皐月 「え?」
ゆかり「ですがあの人は一晩中、藤井さんと組んずほぐれつしてもOKなタフな肉体の持ち主!
やはり安産型は正義なのです! この人が私のRoutesさ!」
皐月 「ちぃっ、ちょっとキャラが被ってるからってエロそう、じゃなかったえらそうに!
所詮は処女の小娘じゃ、色々と経験豊富な大学生には勝てないの……?」
宗一 「経験豊富(*´Д`)ハァハァ」
皐月 「月の裏まで飛んでいけーっ!」
美咲 「あの、ごめんなさい、その辺で許してもらえないかな……」
皐月 「お? やた! 相手からの無条件降伏!」
宗一 「いや、お前人として完全に負けたから」
☆『日曜サスペンスドラマ風消えたお昼ご飯の謎』
あー、暇だ。ごろごろごろ。と、ダンゴムシに擬態していると、
「こーら、なにごろごろ鬱陶しく転がってんのよ。もうすぐ出来るからおとなしく待ってなさい」
台所の皐月大明神から叱られた。
今までも何度か手伝いを申し出たが、素人がいるとかえって邪魔とのことで、俺は居間に左遷された。
代わりに皿だけは無意味にぴかぴかになっているが。
暇なので皐月が働く様を観察したが、やはりこういうのはいいもんだ。
甲斐甲斐しく、楽しげに、料理に勤しむ皐月の後ろ姿。
それも俺のためにとなると、そのあれだ。愛を感じる。らぶ。……いかん、皐月語が移っている。
加えてこの角度だと、短いスカートがひらひら揺れて、なんか素敵なものが見える。
あ――スイッチが押された。
俺は忍び足で皐月に近づいた。
「皐月ー」
「うひゃあっ!?」
背中から抱きすくめると、皐月が跳ねた。ついでに手にした包丁も、俺の眉間寸前にまで。
「こら、危ない、危ない」
「あっ、あんたが、急に抱きついてくるからっ」
「だって暇だったんだもんっ」
「なにガキみたいなこと言ってんのよ。ほら、もう少しでできるから……」
「俺は今、飯よりなにより皐月が食いたい」
「だ、ダメだよ……料理焦げちゃう……」
お、背景がピンクになった。よし、これはいけるぞ。口では嫌がりながらも、心では許容している証拠だ。
「料理しないときは、スイッチを切る。ほら、これで大丈夫だ」
「宗一……」
「皐月……」
「こらーーーーーーっ!」
うおっ!? このタイミングのいいツッコミは。
「なに日曜の昼間っから、わけのわからない雰囲気作ってるんですかっ!」
やはりゆかりか。相変わらず、どこで見てたのかと小一時間問い詰めたくなるタイミングだ。
今日はどこから……ぱたんと床下貯蔵庫が開いて、そこからゆかりの上半身が。
ちょ、おまw なにしてたんだよそこでwww 保存食でも囓ってたのか?
「わけわからなくないよ。らぶな雰囲気」
お前も少しは驚こうよ。
「包丁片手じゃ、日曜メロドラマの修羅場にしか見えませんよ」
「んじゃ、これでゆかりを刺して、あたしが愛の独占状態にっ。よし、かかってこいっ」
「ちょっとまって、先に110と119しておくから」
「くっ、さすがに計算高いわね」
「ふふふ。これで合法的に皐月ちゃんを辺境に飛ばせますよ」
「やめてー」
お前ら俺の家を血の海の修羅場にする気か。藤井さんの気持ちがちょっと分かる。
いや、やっぱわかんない。あの人達のは修羅場でも、殺伐とはしてないからな。
「皐月ちゃんは素直におさんどんしていてください。できあがった料理はありがたく、私と宗一君で頂きますから」
「だーめ、だってこれ宗一のために作った皐月スペシャル愛情料理だもん。
愛情のターゲットじゃない人には食べさせませーん」
「ひょいぱく」
「あーっ、勝手に食べたーっ」
なんか僕の存在がだんだん薄れていきます。あのー、もしもし?
「……むぅ。さすが皐月ちゃん。グッドな味付けですよ」
「え、分かる?」
「とてもスパイシーでさわやかな味わいです。皐月ちゃんならではだね」
「そんなこってり煮込み料理をそんな風に評価してくれるのは、ゆかりならではだよね。
くそっ、ならばこっちの魚本来の風味を生かした、軽く塩をふっただけの焼き魚はっ!」
「あ、よいですよよいですよ。このピリ辛具合は舌にとても刺激的です。もうちょっと甘いとベストですね」
「ぬーっ、ならば、こちらの筑前煮はどうだーっ!」
「これ、もう一味欲しいので山椒振っていいですか?」
僕のお昼ご飯……。
「ごちそうさまです。非常においしく頂きました」
「いやぁ、やっぱ喜んでもらえると作りがいがあるわよね。ちょっと複雑だけど。あれ、宗一。なんで寝てるの?」
「台所で寝るなんてお行儀が悪いですよ、宗一君」
蚊帳の外に置かれた俺は、ケンカするほど仲がいい新婚家庭を見ている気分でした。
俺と皐月&ゆかりを見ている人も、こんな気持ちなのかもしれない。今度からはもうちょっと自粛しよう。
とりあえず、お腹空いた……。
○七海・名雪戦
☆『皐月式スパルタ料理術・料理は根性編』
さて、このマンションの管理人兼、我が家の家政婦のような存在になった七海ではあるが、
困ったことに、あまり料理が得意でない模様。
だけどゆかりと違って味覚はまともなので、(やや甘いものに偏りすぎてはいるが)鍛えれば何とかなるだろう。
というわけで先生、お願いします。
「どーれー」
と、ノリ良くやってきたのは、天災シェフ、皐月。
「ちょっと、字違わない?」
なんで分かるんだ。エスパーか、お前。
「あの、今日はよろしくお願いします」
あひるのエプロンを装着した七海が、殊勝に頭を下げる。
「あたしの修行は厳しいぞー」
「はい、頑張りますっ」
がんばれー。心の中で声援を送る俺。これで食生活が少しでも改善されればよいのだが。
「まず第一に、料理は愛情! これさえ込めときゃ、後は男は黙って食う!」
「愛情、ですねっ」
のっけから、なんちゅう教え方をするかなぁ。
「次に材料! 調理することで、素材の味を引き出すとは言うものの、やっぱり素材の良さは七難隠す!
いざとなったら、生のまま食わせれば、とってもナチュラルテイスト!」
「はい、材料ですっ!」
あいつ、料理教える気、あるのか? まだ、おかし食ってる方がましな気がしてきた……。
「最後に根性! 料理っていうのは、根気さえありゃ何とかなる!
面倒がらずに一手間かけて、煮込み料理は時間をかけて、じっくりゆっくりことことと!
どーせ手順とかスピードとかは、そのうちなれる!」
「分かりました、根性ですっ!」
なんかまともなような、まともじゃないような、すげー微妙なライン。
まぁ、あんなんでも料理に関してはすごいから、そこから会得したノウハウなのかもしれないけど……。
「よし、実演行ってみよう! まずは材料選びからっ!」
え、そこから?
「はい、選びますっ!」
「そこの財布。中身出しなさい」
しくしくしくしく。だが俺に断る権利はなく。俺の財布から現金という現金は抜き取られた。
「それじゃ行ってくるわね」
「いってきまーす」
ママ、早く帰ってきてね。ボクいい子にしてるから。
「なに気持ち悪いこといってるのよ」
腹減ってるんだよ。とっとと帰ってこいよー。
……って言ったのに、帰ってきたのは3時間後。いつまでかかっとるんじゃいっ。
「しょーがないでしょ。色々教えることあったんだから」
「皐月さん、すごいですっ。スーパーのエキスパートさんですっ」
「ふ……まだまだあんなの序の口よ。今度は商店街の素敵な値切り方とか、秘蔵品の供出法とか教えてあげるから」
「わぁ、楽しみですっ」
「よし、それじゃ、調理に入るわよっ」
「はいっ!」
そして、賑やかに調理する音が響き始めた。やがてそれにいい匂いが加わり、俺の空腹神経を刺激する。
ママン、ボクお腹空いたよ。
「うるさいわね、ちょっと黙ってなさいよ」
時間掛かりすぎだ。ただでさえ買い出しに時間かけたくせに。
お前らだって、腹減ってるんじゃないのか?
「んー、あたしたちは試食コーナーで色々つまんだから、そうでも」
「はい。あんなおいしいものがただで食べられるなんて、すごい太っ腹ですっ」
あ、ずるいぞおまえらっ! 俺はなにも食べてなくて、腹減ってるのにっ!
しかも何だ、作ってるの煮込み料理かよ! もっと手早く作れるものにしろっ。
「だめよっ。せっかく料理の根性仕込んでいるのに。ここで適当にやっちゃ、おしまいでしょ」
「こんじょーですっ。そーいちさんも、こんじょーで頑張ってくださいっ」
頑張りたくないけど……でもせっかくの七海の料理を前に、なにか食うのも悪いしなぁ……。
ちくしょう、どうとでもしやがれ。
「それじゃあと2時間、じっくりアクを掬うからねー」
「はいっ」
おまえ、わざとやってるだろっ!
……かくして3時間後、皐月スペシャルビーフシチュー七海印が完成した。
「おまたせしましたぁ」
イヤマジ、待ち過ぎておかしくなりそう。くれ、ビーフ。よこせ、シチュー。
「はいはい、意地汚い真似するんじゃないの。ほら、七海ちゃん。運んであげて」
「はい。どーぞ、そーいちさん」
いただきがつがつがつがつ……おかわりっ!
「す、すごいです、そーいちさんっ」
「ちょっと、おかわりの前に感想くらいいいなさいよ」
うまい。すごいうまい。マジでこれ以上ないってくらいで涙出そう。
だからおかわり。おかわりおかわりおーかーわーりー。
「はいっ、ただいまっ!」
それから俺はおかわりにおかわりを重ね、ものすごい勢いで七海のシチューを綺麗に食べ終えた。
七海は上機嫌で、後かたづけをしている。まぁ、俺も幸せであいつも嬉しそうで、この上ない結果だったな。
皐月、どうだ、あいつの腕は?
「ほとんど経験ないわりには、上出来。ゆかりよりよっぽど教えがいがあるわね」
そうだな。腹減っていたとはいえ、かなり旨かった。あんなにビーフシチュー食ったのは初めてだ。
「まったく。ほっといたらあたしたちの分までなくなるところだったわ」
うるさい。そもそもお前があんなに待たせるから悪いんだ。
「だって昔からいうでしょ。空腹は最高の調味料って」
……お前、最初から狙ってた?
「旨いって食べてもらうのが、料理の上達の一番の近道だもん」
お主も悪よのぅ。
「えへへっ」
「あ、そーいちさん、次はなにが食べたいですかっ?」
「ほらね」
……ったく。そうだな、なんか手早く食べれるもんなら、なんでもいい。
「手早く、ですか?」
って言っても無理か。レパートリーないもんな。んじゃ、てば……手羽先の唐揚げかなんか。
「はい、頑張りますっ」
がんばれー。
「……それも、もしかしてあたしが教えるのかな?」
俺は作れないから。頼みますよ、先生。
「やれやれ。分かったわよ、最後まで面倒見てあげる。びしびし行くからねっ!」
「はいっ!」
「財布の中身、補充しておいてね」
……はーい。
☆『七海メイドロボ化計画』
……なるほど、確かにいわれてみれば、マルチと七海の間には多くの共通点がある。
・けなげ ・(やや)ドジっ娘 ・純粋 ・メイド(的立場) ・小さい(★最重要項目)
よし、七海。今日からお前はメイドロボHMX-773だ!
「あの、ロボじゃありませんけど」
細かいことは気にするな。さぁ、このレオタードと耳センサーをつけるのだ。
「は、はいっ。あの……ちょっと、恥ずかしいです」
おおおおおおっ。素晴らしい、素晴らしいぞ、七海。よし、今日から俺のことを呼ぶときには、ご主人様と呼ぶように。
「ご主人様……ですか?」
疑問形をつけるな。迷いなく、慕うように、ちょっと上目づかいで呼ぶのだ。さぁ、やって見ろ。
「は、はいっ。……ご主人様」
じーーーーん。いやぁ、エージェントやってて良かった。普通メイドなんて囲えないしなぁ。金持ち万歳。
よし、次のマルチ的活動を始めるぞ。まずは料理だ。さぁ、このパスタをゆでるのだ。
「はいっ、頑張りますっ」
こーいうとこ、ナチュラルでマルチだよなぁ、本当に。
「ゆであがりましたっ」
うむ。それにミートソースを絡め、フライパンで焼くのだ。それも徹底的に、固くなるまで。
「え……っと。いいんですか?」
それがいいんだ。さぁ、早く。
「はい。じゅー、じゅーっと。これくらいでしょうか」
おお、このカチカチ感。まごうことなきミートせんべい。うま……くはないが、良いぞ、七海。
「あの、大丈夫ですか?」
ふ。俺の鋼鉄の胃袋は、このくらいでは壊れはしない。戦場ではもっと酷いものだって食ったさ。
いい出来だったぞ。なでなで。
「あっ……」
そこははわ〜だ、七海。
「は、はわ〜」
うんうん。いいぞ七海。この調子で俺がきっと、お前を立派なメイドロボに調教してやるからな。
「えと、よく分からないけど、頑張りますね」
ああ、頑張ろう。
――が、3日後、七海のコスプレ姿が皐月にばれ、衣装は破棄され、
宗一はメイストームを喰らってマンションの下まで叩き落とされたとかなんとか。
☆『水瀬家合同料理懇談会』
宗一「なんか昨日から料理ネタが流行ってるみたいなんで、まとめてやってしまおう企画ー」
祐一「流行ってるってか、昨日七海の料理ネタ書いてたのそっちの中の人だろ(#゚д゚)」
宗一「なんで>>に引き続いて怒ってるんだよ」
祐一「またつき合わされるのかと思うと、今から腹も立つわい」
宗一「それでは特別講師の名雪さんと、生徒の七海さんの登場です」
祐一「無視するなー(TдT)ノ」
名雪「がんばるおー」
七海「頑張りますっ」
名雪「あ、ちっちゃなおでん種発見……」
すもも「きゅきゅ〜(TдT)」
七海「え? だ、だめです、すももはおでん種じゃありませんっ」
名雪「イチゴもいいけどももも好きだおー」
祐一「まだ寝ぼけてるな、こいつ」
七海「ももじゃありません、すももです」
名雪「すもももももももものうちだおー」
祐一「いきなり猟奇的なもんが出来そうだな」
宗一「中華なら普通に食うだろ」
祐一「お前も冷静に解説してるんじゃねぇ」
七海「すももはお友達なんです。許してあげてください」
名雪「しょーがないお。こっちで用意していたおでん種を使います」
??「あぅー」
祐一「またかよΣ(゚Д゚;」
名雪「ダシを取って、じっくり煮込むだけなんで、簡単だよー」
秋子「甘くないダシもありますよ?」
宗一「それ普通じゃん(;´Д`)」
名雪「でも煮込むのは時間が掛かるので、すでにレンジの中に完成品が出来てます」
祐一「レンジ関係ねーっ!」
宗一「つーか、料理してねーし」
名雪「後はみんなでおいしく頂くだけです」
一同「いただきまーす」
ばりばり、ぐしゃぐしゃ、 ばきばき、ごくん。
祐一「何食ってる音だよ(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル」
☆『それにしても実際、どの段階のに通わせればいいか悩む』
宗一 「はよーっす」
皐月 「あ、来た来た。ちょっと宗一。あんたに聞きたいことあるんだけど」
宗一 「なんだいきなり」
ゆかり「七海ちゃんのことですが、学校には通わせなくてよいのですか?」
宗一 「うっ、あえて考えずにそっとしておいたことを……」
ゆかり「細かい年齢の追及は避けるにしても、どう見ても私達より年下ですよね」
皐月 「おまわりさーん、犯罪者がいますよー」
宗一 「なんのことだか、ぼくわかんない」
皐月 「ごまかすなっ。まぁそれはさておき、学校くらい通わせてあげていいんじゃない?」
ゆかり「そうですよ。いずれあのおじいさんたちもぽっくり逝ってしまうでしょうし、
やはり同い年の友達もいないとかわいそうです」
宗一 「なにげに酷いこと言ってるな。まぁ……あの言動とか、履歴書とか見る限り、
社会常識とか精神年齢とかについて、色々不安になることは確かだが」
ゆかり「このままでは、順調にめぞ○一刻ルートで未亡人まっしぐらですよ」
宗一 「おい、それ確定なのか!?」
ゆかり「そういえば、あの人も確か『そういち(ろう)』さんといいましたねぇ……ふふふ」
宗一 「Σ(゚Д゚; い、いや、犬の称号がつくのはあくまで醍醐隊長であって、俺ではないぞ」
皐月 「まぁ管理人もいいけどさ、もっと色々な選択肢があることも教えてあげた方がいいでしょ」
ゆかり「うんうん。視野が広がるのはいいことです」
宗一 「……そうだな。お前たちの言うとおりかもしれない」
皐月 「お、バカ宗一にしては素直ー」
宗一 「七海のランドセル姿とか見てみたいしな」
皐月 「そんな理由かっ!」
☆『敬老の日に、敬七海』
「はい、皆さん。これをどうぞ」
「ふむ? 七海ちゃんのプレゼントか、これはなにかな?」
「肩たたき券です。今日はけーろーの日といって、お年寄りを大切にする日だと聞いたので、これを作りました」
「おお、なんとけなげで優しい子だ。わしゃこの歳まで長生きしてきて良かったわい」
「えへへ。喜んでもらえて嬉しいです」
「うむ、大切に使わせてもらおう。……しかし、使ってしまうのはもったいないのぅ」
「そんなことありません。どんどん使ってください」
「なんと、使ってもなくならんのか?」
「え、なくなるものなんですか? せっかく作ったのに、なくなっちゃうのは悲しいです……」
「い、いや……なくならん、なくならん。うむ、切符ではなく定期みたいなもんじゃな。
では早速わしが……あ、こら皆の衆。落ち着け、まずは順番に……。
そうだの。わしら全員が好きにこれを使っては、七海ちゃんのお手手が腱鞘炎になってしまうかもしれん。
ここはいつも通り、順番を決めて、一日三人までということにしようではないか。ではジャンケン、ポン――。
というわけで七海ちゃん、肩たたきを頼めるかの?」
「はい、お任せくださいっ。これくらいでいいですか?」
「うむうむ、ちょうどいいあんばいじゃ。ありがとうな、七海ちゃん」
『ではまた明日な、七海ちゃん。今日は嬉しかったぞい』
『はいっ。それでは皆さん、お休みなさい』
――やれやれ、じじい共が集団で幸せそうな絵面というのは、どことなく不気味なもんだな。
まぁ、今日くらいは幸せに浸らせてやってもいいか。おっと――プツン。
「ただいま帰りましたぁ。宗一さん、今日は早かったんですね」
「七海は今日、遅かったな」
「ごめんなさい。ちょっとおじいさんたちとおしゃべりしていたら……」
「いやいや、怒ってるわけじゃない。疲れただろ。ほら、こっち来い。肩を揉んでやる」
「え、そ、そんな、とんでもないですっ」
「いいからいいから、ほら、座れ」
「はい……」
ちょうど俺の足の間におさまるように、七海を座らせて、肩を揉む。
このちっこい体で、良くもまぁ、あのエネルギッシュな爺様たちの相手が出来るもんだ。
「じじい共の相手は、大変だったろ」
「いえ、皆さんとってもいい人ですから、そんな大変じゃありませんよ」
「まぁ、お前に大してはそうだけどな……でも、結構肩凝ってるぞ、お前」
「そうなんですか? 自分ではよく分かりませんけど、でも、そーいちさんに肩を揉まれると、とっても気持ちいいです」
「そ、そうか?」
「はい。なんだかぽかぽか幸せになってきて、おじーさんたちが喜んでくれる気持ちが、分かるような気がします」
そう、無邪気に微笑む七海に、俺は視線を合わせることができなかった。
○ミルト・ユズハ戦
☆『女性とはかくあるべし』
街中でミルトを運転中、あまり見たくない顔を見かけた。
『どうしました、meister?』
「醍醐隊長だ。なにをしてるんだ?」
『今日は日曜日です。あの方も、デートをしたりするのではないでしょうか。私達のように』
「デート? 醍醐隊長がぁ……ってまて。誰が私達のようにだ」
思わず笑いが引っ込んだ。
『私と、meisterのことですが。暇な日曜にあてもなく街中をドライブ。まさにデートです』
「男と女が一緒にいたら、デートかよ」
『一緒にいるだけでは微妙ですが、私達はこんなにも深く内側から繋がりあっているではありませんか』
「あのな、車の中に乗るのは当然だろ。五右衛門みたいに上に乗れとでも……っと、しまった、見失った」
『人の恋路を邪魔すると、馬に蹴られて死にますよ?』
「だから恋路と決まったわけじゃないだろう」
『私とmeisterのことですが』
「ちょっと様子見てくるわ」
これ以上会話を続けると、既成事実にされそうで、俺は車外に飛びだした。
と、ミルトが外部スピーカーで騒ぎ出す。
『私を捨てるのですか、meister』
「ええい、やかましい!」
『あなたを殺して、私も死にますよ?』
「いいかげん、警察がよってくるから、そこら辺にしておけ」
『ja』
ったく、シャレにならないことをする奴だ。
女性だということが判明して以来、なんだかあけすけに女を主張するようになってきてるな……。
おっとそれより、醍醐隊長は……あ。
「なにをこそこそしている、小僧」
「やぁ隊長。今日はお日柄もよろしく。デートかい?」
「ふん、余計な御世話だ。貴様こそ、1人寂しく休日を持て余しているようだな」
「はっ、俺が声をかけりゃ、彼女の1人や2人……」
『とりゃ』
ぐはっ。み、み、ミルトさん……いきなり轢くことはないだろう……。
『私という人がありながら、なんて不埒なことを』
「ごめんなさい。だからちょっとタイヤで迫るのはやめて。一トンが乗ったら死ぬ」
『体重のことはいわないのがエチケットです』
きゃーっ。
「ほほぅ。これはこれはなんと素敵なお嬢さんだ。小僧にはお似合いではないか。はっはっは」
『ありがとうございます、醍醐さん。見かけによらず、あなたはいい人ですね』
「うむ。良く言われるわ。その調子で小僧をしっかり尻にしいておくといい」
良く言われんのかよ。つーか、余計なこと言わないでくれ。言葉通りにされそう。
『ご忠告感謝します。そのつもりです』
醍醐隊長は上機嫌で去っていった。ほんとになにしに来たんだあんちくしょう。
どーでもいいけど、ミルトさん。そろそろどいて……。
☆『ミルト大地に立つ』
ドライブ中、ミルトがこんなことを言いだした。
『meister、音楽はいかがですか?』
「そうだな、なんかかけてくれ」
『それでは僭越ながら。You can fight transf○rmar〜♪』
「って、お前が歌うのかよっ!」
『JASRAC対策も万全です』
「しかもその歌……やっぱお前も、変形してロボになりたいなぁ、とか思ってるわけ?」
『全ての車の憧れですよね』
「多分お前だけじゃないかなぁ」
『meisterにも地上にそびえ立つ私の勇姿を見てもらいたいものです』
「……ちょっと便利そうだけど」
きっと醍醐隊長も篁も一ひねりだ。
『ja. きっとお役に立てますよ。さぁ、思う存分予算をつぎ込んでください』
「どれくらい?」
『おそらく百億ほどもあれば』
「却下」
『戦闘ヘリにつぎ込むよりは有意義な使い道だと思いますが』
うーん、そうかも。確かにメイドロボがあるくらいだから、車サイズからの変形も頑張れば出来そうなもんだが。
「しかし戦闘ねぇ……やっぱガン○ムみたいなのがいいのか?」
『なにを言います。やはり女性型ロボでしょう。最近は色々出てますし」
「世も末だな」
『なにをいいます。メイドロボとしてご奉仕も万端です。
meisterだって、ちょっぴり欲しいと思っているでしょう』
「全長五メートルじゃなければな」
☆『ミルトの理性の男性像』
ミルトと高速道路を走行中、見事なまでに渋滞にはまった。
「こういうときは、バカ共に車を与えるな、といってた美食陶芸家のおっさんに賛同したくなるな」
『まったくですね。あのような安っぽい、低スペックの車を量産するから、庶民でも車を買えてしまうのです。
車とは全て、私のような速度と美しさを追求した、高級スポーツカーオンリーであるべきです』
「いや、それもどうかと思うぞ。バスとかトラックとかもないと、さすがに困るだろう」
『……百歩譲りましょう。ですがこれだけ道路をびっしりと車が埋めていると、日本の国土交通省を訴えたくなります』
「なんだ、随分と不機嫌だな?」
『このような低速で走っていると、エンジンやミッションに負担が掛かります』
「なるほどね」
『片輪走行で切り抜けますか?』
「いや、十メートルくらいならそれもいいけど……ずっとだからなぁ」
『そろそろ兵装の搭載を考慮するべきかと』
「吹っ飛ばすのかよ。いや、考えたことはあるけど……」
『西部警察には誰もが憧れましたよ?』
「お前、いくつだよ」
『女性の歳は、聞かないでください』
「あー……ほら、兵器なんてつけたら、お前の美しいフォルムが、台無しになるぞ」
『ja. 女は色気で勝負と言うことですね』
「他の車には通用しないと思うけどな」
AI積んでないし。
『いかなる芸術品も、審美眼なくしてはその価値を理解できないとは。嘆かわしいことです。』
……ふむ?
「ところでさ、お前の審美眼からいくと、どんな車が好みなの? やっぱフェアレディ?」
西部警察だし。
『あれは女性でしょう』
「なるほど。じゃあ、どんなの?」
『……タイガー、とか』
「は? そんな車、あったっけ?」
『やはり当時世界最強をうたわれた、六号でしょうか』
「戦車かよっ! 確かに車の一種かも知れないけど……てゆーかお前、武器が欲しいだけじゃないだろうな」
『……』
黙らないでくれ。頼むから。
☆『ミルト26の秘密機能の一つ 「軽いジョークを飛ばす」』
皐月 「いやぁ、最近のオモチャはすごいよねー」
宗一 「なんだ唐突に」
皐月 「昨日さぁ、テレビつけたら車のオモチャのアニメ見てたんだけど、それがすごいの。
『いっけぇマ○ナーーーム!』とか叫ぶと、車が加速したり曲がったりすんの」
ゆかり「音声認識ですか、進歩しましたね」
宗一 「ちょっと待て、それミニ四駆だろ」
皐月 「あー、それそれ」
宗一 「あれは、中にはモーターとかシャフトとかしか入ってないぞ。ステアリングさえない。なんで曲がれるんだ」
皐月 「しんない。でも曲がってたもん」
ゆかり「それが技術の進歩ってものですよ、きっと」
宗一 「そうかなぁ……無理だと思うんだが」
皐月 「おっと、それくらいで驚いてちゃいけない。『マグ○ムトルネーーード』って叫ぶと、今度は空を飛ぶんだよっ!」
ゆかり「おお、それはすごいですっ!」
皐月 「しかもぎゅるるーーーんと激しく回転しながらっ」
ゆかり「おおおおおおおっ」
宗一 「いや、無理だ。それ絶対無理」
皐月 「なによぉ、さっきからケチつけて。ほんとなんだからね」
宗一 「……まぁ所詮は子供向けアニメだし、それもありか」
ゆかり「アニメだからってバカにしてはいけませんよ。技術は日進月歩。車だってそのうち空を飛びます」
宗一 「それはもう車じゃないだろう」
皐月 「わっかんないよー、ほら、あんたんとこのミルトだって、ちょっとおだてりゃ空くらいとびそうじゃん」
宗一 「んなわけあるか。豚もおだてりゃなんとやら、じゃねーんだから」
……とその場では言ったものの、ミルトならやりかねない。ちょっとカマかけてみるか。
宗一 「なぁ、ミルト。……もしかして、空、飛べたりする? はっはっは、むりだよなぁ」
ミルト 『ja』
宗一 「待て、今、なんといった」
ミルト 『どうやら私の体に内蔵された、26の秘密の一つを明かすときが来たようです』
宗一 「そんなにあるのかよっ!?」
ミルト 『お望みなら、過去へも飛んで見せましょう』
宗一 「デロリアンかよ、お前はっ」
ミルト 『どうでもいいですが、デ『ロリ』『アン』って、どこか卑猥な響きだとは思いませんか?」
宗一 「ほんとにどうでもいいな」
○皐月・七瀬戦
☆ONEとRoutesの共通項?
宗一 「キャラ被ってるな」
ゆかり「キャラ被ってますね」
皐月 「ツインテールで、ちょっと活動的ってだけじゃん」
宗一 「活動的は語弊がありすぎだ。むしろ破壊的」
こきんっ。
――宗一君の一部が破壊的活動によって損傷いたしました。回復までしばらくお待ち下さい。
皐月 「大体、性格全然違うじゃない」
ゆかり「そんなことないよ。魂レベルで姉妹なんじゃないかって感じですよ?」
皐月 「あたし、100ぺん死んで、ウジ虫にでも生まれ変わって、肥溜めで過ごしてろっっ!! なんて言わないもん」
ゆかり「そこまで言っちゃったら同一人物です」
宗一 「……ONEといえば、年下キャラが不思議小動物をひきつれているところも似ているな」
皐月 「あ、復活した」
ゆかり「その線で行くと、私はいったいなんですか?」
宗一 「みさき先輩。主に食欲で」
皐月 「みさき先輩。主にカレー好きで」
ゆかり「う〜、2人ともひどいんだよ」
宗一 「となるとリサが……茜で、夕菜姉さんが長森ってとこか?」
ゆかり「さすがにそこらは苦しいですね」
皐月 「ほら、やっぱ似てないって。あたしたち全然ONEしてないもん」
ゆかり「そですね。七瀬さんは実際に蹴ったり銃を撃ったりしませんからね」
宗一 「あれだけ非道なことされてるけど、せいぜい突っ張りで教室の外に追い出すのが関の山だったな」
皐月 「な、なによっ。それじゃあたしの方がひどい女みたいじゃんっ」
宗一 「お前も乙女を目指すとかして、もう少し女らしくなれよ」
皐月 「やかましいっ」
☆伊藤家の生き様
「いやー、いいですなぁ。湯浅さん」
「どうした、いとっぷ。悪いもんでも食ったか?」
「黙れなすびん。貴様のように年がら年中湯浅さんの手料理を食っている身分にすれば、
確かに俺の食ってるものなど悪いものだろうよ」
「まぁ確かに、あいつの料理だけは一級品だがな」
「なにをいう。顔だって可愛いではないか」
「黙っていれば、それなりなのは否定しない」
「プロポーションだって悪くないぞ」
「若干ボリューム不足のような気もするが」
「それは視覚効果だ。いつも伏見さんと一緒にいるために、対比で細く見えるだけに違いない」
「入れ込んでますなぁ」
「毎日キン○マを蹴り上げられている幸せ者のお前に、遠くから見つめるだけの俺の気持ちが分かってたまるか!」
「ちょっとまて、そこは羨ましがられるところなのか!?」
「うむ。ある意味変な方向に目覚められそうで、羨ましいぞ」
「お前も相当病気だな。それならば……」
「……なるほど! よし、やってくる!」
「骨は拾ってやるぞー」
そして、いとっぷは俺のアドバイス通り、正面から皐月の胸を鷲掴みにした。
にっこり笑顔で青筋立てたメイストームをくらったいとっぷの顔は、紛れもなく至福に満ちていた。
「無茶しやがって……( )>」
「我が人生に、一片の悔いなし……」
「お前、男だよ。いとっぷ」
「男廃業しそうだけどな」
「変な方向に目覚めた?」
「目覚めそうな勢いだ」
「頑張れいとっぷ。いつかスオンカスと呼ばれるその日まで」
「いや、それじゃ俺、最後に死んじゃうし」
「皐月の腕の中なら本望だろ?」
「うむ!」
即答か。さすがわが友。報われない愛のために頑張れ。
「え、報われないの確定?」
「うん」
★封印された伝統の技
腹なんぞ出して寝ていたせいか、皐月が風邪をひいた。
「うー、あつい〜」
「夏風邪はなんとかしかひかないという奴だな」
「うるへー」
ベッドからの怒声も、いつになく力がない。
ほんとなら蹴りの一発でも飛んでくるところだろうが、さすがの皐月も、風邪には勝てないか。
「モモ缶〜、モモ缶はまだー?」
「ほれ、みんな大好きモモ缶様じゃ」
「わーい。あ〜ん」
「へいへい」
いつもなら死ぬほど恥ずかしい行為だが、さすがに風邪だとつい甘くなってしまう。
まぁ、いつもでも、そのうちこいつの要求に耐えかねて、実行してしまうんだが……。
「あー、甘くてひゃっこくて、いい感じ〜」
「食ったらおとなしく寝ろよ」
「あむ。寝ゆ」
「ほれ、これで最後な」
「うみゅ、よはみゃんぞくでありゅ。……ほれ、もういいよ」
犬を追い払うみたいに、出てけと手で合図。
「なんだよ、せっかく様子見てやってるのに」
「寝る前に着替えるの」
「僭越ながら姫、拙者がお手伝いをば」
「あー、やらし〜、病人になにするつもりだ〜?」
「なにを言う! 風邪といったら汗! 汗といったらふきふき!
Leafビジュアルノベルのヒロインでありながら、伝統のふきふきイベントを回避するというのかっ!?」
「どこを拭く気だーーーっ!」
「それはもちろん、背中から脇、お腹から胸にいたりて、最後は当然……」
「出てけーーーっ!」
「なんだよ、いつもは自分からエロアサルトフォーメーションを取るくせにっ! 今日に限ってなぜっ!?」
「病人の体調を気づかうのではなく、スケベな性根が見えるのが気に入らない」
「なにをいう。心配だからこそのふきふきではないか。大統領お薦めのマナたんだってこれで快癒したぞ」
「あんたにやられたら、もっと悪化しそうだもん」
「いや、こういう場合の悪化パターンはな、『風邪をひいたら、汗をかくといいんだぜ』と言って、
本番に突入するってのが最もポピュラーな……」
「んで、最後は2人で熱だして倒れるんだよね?」
「そうそう、分かってるじゃあないか」
「そーちゃんが大事にしている本に、まんまそういうのがありましたからねぇ」
「がっ!? 見たのか、あれを!」
「あんたが倒れちゃったらあたしの世話する人がいなくなるでしょ。だから出てけ」
「そこまで言われると、是が非でも世話を焼いてやりたくなるな」
「あー、こら、病人になにをする気だっ!?」
「ふふふ、抵抗力の弱まった今こそチャンス。この機会を逃してなるものかっ!」
「やーめーろーーーっ! ……あっ」
「……で、2人でダウンですか」
さすがのゆかりも呆れてため息をつく。
「あたしは止めたのに、このバカ宗一が」
「げほごほ、いつもすまないねぇ」
「それは言わない約束だよ、おとっつぁん」
……と、ゆかりがノリ良く、パターンをなぞったところではたと気づいた。
このやり取りのあとに――いや、正確にはその前に出てくるものと言えば、決まっている。
「さぁ、お粥ができましたよー」
なんか、茶色い。
「あの、ゆかり、なにいれたの?」
「なんか健康に良さそうな漢方薬をどっさりと、その親戚のスパイスの代用品としてカレールーを入れながらも、
スタミナが付いて発汗作用を促すニンニクを投入しつつ、不足しがちな糖分を補うための蜂蜜を混ぜ込みながら、
ボリューム不足を感じたのでカレーには欠かせないジャガイモを投げ込み……」
もう、お粥じゃない、それ。
「味は保証できませんけど、健康にはいいですよ」
いや、自分を分かっているゆかりは嫌いじゃないが、健康に良ければ他はなんでもいいってもんじゃない。
「ささ、召し上がってくださいな、お二人とも」
「あー、なんか、ものすごい勢いで健康になってきたような」
「あ、あたしも。あれかな、やっぱ効いたのかな、ふきふき? すごいねーっ」
「ダメですよ、風邪は治りかけが肝心なんですから」
――そんなゆかりの笑顔と、わずかな好奇心と、抵抗力の弱まったボディとが災いし、
俺たちは逃げることも許されず、そのお粥になりそこなった物体を、腹に詰め込まれた。
それが効いたのか、あるいはこんなもんを食わされ続けたら死ぬと生存本能が働いたのか、
俺たちの風邪は、翌日には完治していた。
同時に、風邪をひいたときのふきふきは永久封印された。しくしく。
☆幸せな危険信号
「ほい、おまたせっ、今日も素敵なディナーの登場だよっ」
「わーい♪」
「おっと本日のスペシャルは、ちょっと意表を突いて名古屋下町風ナポリタン!」
「いただきまーす」
「たまにはティラミスなんか自作して見ちゃったりして♪」
「うまいっ、うーまーすーぎーるっ!」
などと、俺の食生活がかなりのグレードに改善されてから数週間が経過。
「なぁ、皐月……」
「なーに?」
「最近、ちょっと太ってないか?」
「シャラーーーーーップ!」
あ、自覚あったんだ。
「いや、なんか最近ウエストがきつくてさ……」
「えーと、ほら、幸せ太り。幸せな証拠っ」
「だけどこのままいくと、イ○リア風中年重量級カップルになりそうで……」
「でもほら、ゆかりみたいに、適度にぽっちゃり素敵なお肉がつくかもしれないし。主にこことかあそことかっ」
「……皐月、あれは神が与えた奇跡の肉体であって、俺たちのような凡人は……腹からつくんだよ」
「あああああっ、考えないようにしてたのにっ!」
「何キロ増えた?」
「2・……なに言わせるかっ」
やっぱり増えてたか。最近、乗られると腰の負担がひどいし。
まぁ、そんな問題もさることながら……、
「このままでは、俺のエージェントとしての仕事に差し支える」
「確かに、それは困るね。でももしかしたら、銃弾を喰らっても厚い脂肪が防いでくれるかも」
「そこまで厚い脂肪つけろというのか」
「ころころしてたら、お相撲さんみたいで可愛いかなーと」
「そんなんなりたくないわい。よし、ちょっとダイエットするぞ」
……と、急に背景がブルーになり、寂しげな音楽が。
「ごめんね……あたし、一生懸命料理作ったのに、それが宗一を苦しめることになるなんて……」
「なにを言うんだ、皐月。お前の料理が悪かったんじゃない、ただ、不幸なことに、少しばかり旨すぎただけなんだ」
「でも、そのために宗一はお気に入りのズボンをはけなくなり、コニシキとあだ名を付けられ、
転がって移動した方が速いんじゃないのと影で笑われることに……」
神妙な顔して随分なこと言うな、おい。でもま、乗りかかった船だ。おれは真剣な眼差しを続けながら、
「そんな苦難も、お前と2人なら乗り越えられるさ……」
「宗一……」
「皐月……」
ここでピンクのライトが降り注ぎ、ムーディーな音楽が流れだす。皐月もすっかりうるうるモード。
「分かった……あたし、宗一のために、これからも目一杯お料理作るねっ!」
「それじゃダメだろっ!」
はい、背景戻りました。
「もー、せっかくいい感じだったのにー」
「やかましい。まぁ料理を制限するのは辛いから、少し運動量を増やそう。
摂取したカロリーを少しでも消費しなくては。まずはジョギングだ」
「地味だなぁ」
「地味でもいーの。ほれ、行くぞ。エージェントは体力勝負だ」
「はいはい」
こうして俺たちは、夜の街に繰り出した。確かに、いつもと比べて息切れが早い気がする。
ちょっと平和に慣れすぎたか。少し気合いを入れねば。
「そーいちー、休憩ー」
っと、いかん。皐月がいるの忘れてた。
「悪い、大丈夫か?」
「はー……あー、ばてたかも」
「そんなんじゃ、すぐ捕まってしまうぞ」
「泥棒は廃業したからいいのっ」
☆女神様の不公平な裁定
皐月 「よーこーせーっ」
宗一 「ふはは、誰がやるものか。こいつは俺のものだ」
ゆかり「なにガチバトルしてるんですか、2人で」
皐月 「あ、きーてよ、ゆかり。こいつひどいんだよ」
ゆかり「よござんす、聞きましょう」
皐月 「こいつ、コアラのマーチの眉毛コアラ、独り占めするの」
ゆかり「は?」
皐月 「ひどいよね、レアコアラを自分だけの物にするなんて」
宗一 「いや、別に俺はどうでもいいんだが、お前が集めていると思うと、つい」
皐月 「そんな理由で取るなっ!」
宗一 「しょうがないな、そんなに眉毛が好きなら、残ったコアラに俺が眉毛を書いてやろう」
皐月 「食べ物にマジックで塗るなーーーっ!」
ゆかり「えー、はい、わかりました」
皐月 「ね、こいつの方がひどいよね」
宗一 「いやいや、こんなことで腹を立てるこいつの方が大人げない」
ゆかり「こんなものがあるから人は狂ってしまうんです。私が処理しましょう」
2人 「え?」
ざらーーーっ。もぐむぐごくん。
ゆかり「はい、これで諸悪の根元はなくなりました。2人とも、バカなことでケンカをするのはほどほどに……」
宗一 「となると、残ったのは俺の手の中にあるこいつだけ……」
ゆかり「あら、まだありましたか」
皐月 「それだーーっ!」
宗一 「あ、こら、最後の一つ、貴様に渡してなるものかっ」
皐月 「ええい、観念しろっ!」
宗一 「てゆーか、これ、俺が買ったヤツじゃん。なんでゆかりに食われた上、お前に最後のをやらなきゃならんのだっ」
皐月 「お前のものは、俺のものっ」
ゆかり「ふぅ、2人とも、お菓子一つで意地汚いですよ」
2人 「あんたがゆーかっ!」
○ミルト・観鈴戦
☆ミルト誘拐事件
その日俺は、ふらりと見つけた喫茶店で、のんびりとコーヒーの香りを楽しんでいた。
こういう休日もたまにはいい。
誰にも知られることもなく、誰を気づかうこともなく、一人きりの、静かな時間――。
って、なんでそんな時にメールが来るかなぁ。
とは言っても、緊急の連絡かもしれないし、見ないわけにはいかない。
差出人は……ミルト!?
あの野郎、いつの間にかこんなことができるようになりやがって。
外で待ってるのが寂しいとか言い出すんじゃないだろうな。
ここは喫茶店だから、ハイオクは出ないぞ。
え、メールの題名が、『誘拐事件発生!』だと!?
誰が、いったいどうして!? いや、そもそもなんでミルト経由で?
俺は慌てて、メールを開いた。
『meister、由々しき自体です。私がさらわれてしまいました』
おまえかよっ!
くそっ、高級車目当ての窃盗団か?
『間もなくマスターに莫大な額の身代金が要求されると思います。
どうか、私の無事を願うのなら、素直に払って下さい。警察に連絡しても無駄です。』
根性入ってないなぁ。自力でなんとかしろよ。ってわけにもいかないか。
『今も私は、無理矢理に運ばれている最中です。
屈辱です。この私が自由を奪われ、こんなとろとろした速度で動かされるなんて……』
ええい、そんなことより、今どこだ。メール送れるくらいなら、現在位置を知らせろっ。
俺が必ずお前を取り戻してやる!
『ああ、その言葉が聞けただけで、私は満足です……。
でもちゃんと、奪い返してくださいね』
当たり前だ、お前いくらすると思ってるんだ。
いや、値段以上に、お前は稀少な存在なんだぞ。
絶対ゆるさねぇ、そいつら必ず壊滅させてやる!
『分かりました。伝えましょう。場所は――』
「はい、免許証出してください。罰金は××円になります」
『どうしました、meister。壊滅させるんじゃなかったんですか?』
「できるかっ! レッカー移動させられたのなら、最初からそう言え!」
☆私はあなたへの愛故に走ろう
『meister』
「ん、どうした、ミルト?」
『愛ってなんでしょう?』
がこん。って、思いっきり窓に頭ぶつけた。ただいま運転中。危ない危ない危ない。
『挙動が不安定です。注意してください』
「あのなぁ、誰のせいだと」
『そんなにおかしな事を言いましたか?』
「車が言うにしては、相当に」
ミルトは器用に、ため息の音を合成した。
『やはり体を重ねなければ、分からないことでしょうか』
やべ、スピンした。わー、わーっ。
あ、あぶねぇ……。危うく大惨事にいたるところだったが、なんとか道路の隅っこに止まれた。
「……なんだ、どこかの車にでもほれたか?」
『デロリアンとかナイトライダーとかアスラーダとかですか?』
「そうそう」
『失礼な。meisterは乙女心が分かっていません』
「車同士、釣り合い取れてるだろ」
『……鈍い人ですね』
「え? あの、ミルトさん……まさか」
『当然、私の愛してるのは、meisterだけです』
ちょっと想像してみた。……俺が挽き潰される図しか浮かんでこない。
「気持ちだけ、受け取っておくよ」
『では、メイドロボのボディに私のAIを移植したら?』
う。ちょっと心が揺れ動く。
「しょ、所詮はロボだしなぁ。俺メカフェチじゃないし」
『外見は全て、meisterのお好み通りですよ? 顔はもとより、スリーサイズも身長も』
「……体重は?」
『……女性の体重を聞くなんて、マナー違反です』
やっぱ重いんだ。メカだしな。潰れる想像図もあながち間違っていなかったか。
「お前は車のままがいいよ。俺の大事な相棒で、俺の足、だろ?」
『メイドロボの姿でも、meisterを背負って600キロで走りますが』
「恐いし恥ずかしいからやめて」
☆ミルトボディーチェック
「やー、ミルト、元気しとるかね?」
『これは皐月さん、お久しぶりです。少々気温が高く、湿度も多くて、辛い季節ですね』
「あたしたちだと、湿度があるとお肌しっとりでいいんだけどね。でも暑いのはちょっとねぇ」
『あまり潤いがあると、ボディーが錆びそうで、不安です』
「む、それは困るね。よし、ちょっくら磨いてあげよう」
『それは助かります』
「あはは、ミルトは自分の体拭けないもんね」
『なんの、ワイパーくらいでしたら』
「おお、顔だけならいけるか」
『いざというときにはガソリンスタンドに飛び込み、轢き殺されたくなければ、
ウォッシャーを起動しなさいと脅しをかけて、自分から……』
「いいねー、やったれ、やったれ」
『でもワックスは、やはり他人様の手を借りないと』
「オーケー、任せて。ついでに色々、メンテしてあげよう」
『……大丈夫ですか?』
「人間、色々失敗して、学んでいくもんだよ」
『あの、できれば失敗しないで頂けるとありがたいのですが……』
「そこは努力と根性で」
『いーやーっ』
「あ、ウソ。ウソだから、動くなーっ!」
「ほいミルト、ここはどうかなぁ?」
『あ、あの、そこはだめですっ……』
「ふふふ、ちょおっと敏感なようだねぇ。もっと奥の方まで覗いちゃったりして」
『さ、皐月さん……』
「……なにやってんだ、おまえら」
「エンジンチェック」
「紛らわしいっ! つか、いじるな!」
『もうお嫁にいけない体にされてしまいました』
「だいじょーぶ、そーいちとミルトの2人くらい、あたしが養ったげるからっ」
『なんと頼もしい。微妙にその手の問題ではヘタレるmeisterとは大違いです。では、ふつつか者ですが……』
「だれがヘタレだっ」
☆それはとても小さな夢
「あー……眠い」
『寝てはいけません、meister』
「いや分かってはいるけどさ、見張りって退屈でさぁ……」
しかも全然動きがなく、ドアが開くのをひたすらに待つだけ。こういうのが一番きつい。
そもそも昨日、ゆかりと皐月に火がついて、ガンガンに攻められたのがまずかった。
缶コーヒーを一気に煽るが、この程度のカフェインでは、眠気は飛ばない。
いかんな、集中力が乱れている。これじゃいざって時にも……。
『仕方ありません。meister、一時間だけ、仮眠を許可します』
「いいのか?」
『良くありませんが、コンディションが悪化しています。これでは緊急時の対応が不安です』
「……やっぱ分かるか。仕方ない、頼むわ」
『Ja』
「なにかあったら、すぐ起こしてくれよ……」
『あ、meister、上着を羽織った方が……』
ミルトの声を遠くに聞きながら、俺はあっと言う間に眠りに落ちた。
そして、変な夢を見た。
ドライバーズシートの後ろ、リアのわずかな隙間から、這い出てくる小さななにか。
小さな子供をさらにデフォルメしたような、メイドロボの少女だ。
縦にも横にも、三十センチくらいの。
それが狭い隙間から這い出ながら、シフトに躓いて転んで、鼻を打つ。
ナビシートに掛かっていた俺のジャンパーを引きずって、えっちらおっちらと、俺の体を登る。
シートの上まで登り詰めると、ジャンパーを俺の体に被せた。
そんな意識があるのに、俺はマヌケにも寝顔を晒したまま――って、視点が幽体離脱のあれだな。
そのチビロボは、一仕事終えて満足げに頷くと、なにを思ったか……俺の頬にキスをした。
『お休みなさい、meister』
そう、ミルトの声で呟いたそいつは、逃げるように、シートから後ろに飛び降りて、また、隙間に消える。
そこで、目が覚めた。
「……あれ?」
『お目覚めですか、meister』
「ああ……どれくらい寝てた?」
『一時間ほどです』
夢の中では……5分くらいの出来事だったな。まさかね。いくらなんでも……。
あ、だけどジャンパーは掛かっている。いや、無意識にってこともありうるし……。
だけど俺は、シートの後ろを確かめずにはいられなかった。
『どうしました、meister』
「いや、なんでも……」
やっぱりなにもない。隠れるスペースもない。……そりゃそうだよな。
『エロ本なら、そんなところには隠してませんよ』
「んな期待するかっ!」
まったく。どうにも調子は狂うけど……頭と体は、大分すっきりしていた。
やっぱり、きちんと眠っていたと、体内時計は告げている。
夢の出来事が本当なら、俺はろくすっぽ寝てないはずだもんな。
と、無意識に頬にやった手が、なぜか、濡れた感触をとらえた。
後ろから、小さく、くすりと笑う声が、聞こえたような気がした。