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○理奈・ゆめみ戦                                          らくがき支援はこちらから


雄二「緒方理奈学食って、どっかにねぇかな」
貴明「……ないよ」
雄二「夢の足りない奴だな。ちょっと想像してみろ。いいか、お前が学食にはいると、
   そこにはウェイトレスやウェイターやメイド服やステージ衣装の緒方理奈がたくさんいて、
   一斉に、『いらっしゃいませー』と言ってくるわけだ」
貴明(……なんか変な光景)
雄二「そこでステージ衣装の理奈ちゃんとかを頼むと、あくまでもいつもの口調で自然体で、
  『いらっしゃい。ご注文は?』と聞いてくるわけだ。あ、丁寧語で接してくるのはウェイトレス理奈な。
   メイド理奈はもちろんご主人様相手口調だ」
貴明(設定細かいなぁ)
雄二「で、俺が肉料理ばっか頼むと上からメニューを覗き込んできて、
  『ちょっと、それ偏り過ぎじゃない? これやめて、こっちにすれば?』
   と、細い指でメニューを指しながら、フレンドリーにアドバイスしてくれるんだよ。
   そのアドバイス通りにすると、『ん、よし。ちょっと待っててね……おまたせ。さ、食べましょ』と隣りに座り……」
貴明(置いといて帰ろうかな)
雄二「食べさせてよ、とか頼むと、『バカね、そんなこと出来るわけないでしょ』と、照れながら断りつつ、
   俺が食事するのを楽しそうに見守りながら、時に『おいしい?』とか聞いてきて、
   頷くと嬉しげに鼻歌を歌ったりするんだ。
   分かるか? 鼻歌なんてCDに収録されないレアもんだぞ! それを聞きながら飯が食えるんだ。
   どうだ、夢のような学食だろう!」
貴明「(はてしなく斜め上な)夢が一杯つまっていることはよく分かった」
雄二「そうだろう、そうだろう」

 想像してみました。
 なんで俺の通っていた学食には緒方理奈がいなかったのだろう。



 『聞こえますか?』

 コンコン、と理奈ちゃんが待機してる楽屋のドアをノック。――返事無し。あれ?
 もう一度、ノック。やっぱり返事無し。おかしいなぁ。ここで出番待ちしているはずなのに……。
 と思いつつノブに手をかけると、あっさりとドアは開いた。
 慌てながらもどこか期待して、楽屋の中をちらと覗いてみたら……理奈ちゃんは、いなかった。
 あれ? 
 部屋の中を見回してみたけど、やっぱり理奈ちゃんはいない。まさか、理奈ちゃん密室失踪事件!?
 なわけないか。きっとトイレにでも……いやいや、なにか飲み物でも買いに行ったんだろう。少し待ってれば、
「だーれだ?」
 そう、こんな感じで気軽に声を……って、え? あの、もしかして、俺の目をふさいでいるのは……、
「理奈ちゃん?」
「当たり」
 柔らかい感触が目蓋の上から離れると、いたずらっぽく微笑んでる理奈ちゃんが、真後ろにいた。
 って、誰かにこんなところ見られたら、どんな噂――噂じゃないけど――を立てられるか。
 焦る俺を楽しそうに横目で眺めて、するりと理奈ちゃんは楽屋の中に入った。慌てて後ろ手に扉を閉める。
「一度やってみたかったのよね、ああいうの」
 それにしたって、ちょっと無防備すぎると思う……。
 二人切りになった楽屋で、理奈ちゃんはそのまま俺の体に体重を預けてきて、
「よかった。一発で分かってくれて」
「そりゃ分かるよ」
「そう? ふふっ、嬉しい」
 こうして微笑んでいる理奈ちゃんを見てると……間違えてたら、どうなってたんだろうなぁという恐怖も若干よぎる。
「じゃあ今度は冬弥くんがやってね。私も一発で当ててみせるから」
「予告したら、あんまり意味ないよ」
「あら、そうでなくても当てるわよ。職業柄、耳はいいんだから」
 そう言って、理奈ちゃんは髪を掻き上げて、耳を見せた。すぐ目の前での露出に、一瞬どきりとする。
 不思議と、耳の形まで綺麗な気がするのは、思いこみだろうか?
「ほら、冬弥くんの心臓の音も、よく聞こえる」
「ほんとに?」
「本当よ。……あっ」
 その、よく聞こえるという耳をなぞってみる。
 意味の無いように見える、複雑な形状。だけど触れた襞によって、理奈ちゃんの反応はそれぞれ変わる。
 短く声を上げ、熱い息をつき、時に、唇を噛み締める。
「理奈ちゃん……」
 熱く息を吹き込むようにして、耳元で名前を呼ぶと、ぞわりと全身を震えさせた。
「やだ……耳だけで、こんなの……」
「確かに、耳はいいみたいだね」
「もうっ」
 理奈ちゃんがちょっとむくれた。そんな仕草が愛おしくて、つい、キスをする。
「やっ……」
 そのまま、耳に舌を這わせる。反射的に逃げようとした理奈ちゃんを腕の中に抱きしめ、ひたすらに耳を蹂躙する。
 今、理奈ちゃんの耳には、どんな音が聞こえているんだろう。
「あっ……だっ、だめっ……」
 ただ、その音が不快でないのだけは確かなようだ。
 耳たぶを唇で挟んだり、耳の裏をなぞったりしていると、理奈ちゃんの声が高くなってくる。
 理奈ちゃんが全身をもじもじさせ始めた。本当に、耳の感度はいいみたいだ。
 甘噛みすると、こらえきれないように、俺の腕をきつく掴んできた。
 そして俺の方も、だんだんと抑えが効かなく――、
「ちょ、ちょっとだめっ、ほんとにっ」
 切羽詰まったような声に、我に返った。
 そうだ。この後すぐ、理奈ちゃんは出番があるのに。
「ご、ごめんっ」
「もうっ……危うく、ステージ用の下着が使えなくなるところだったわ」
 すねた視線で理奈ちゃんが睨む。
 ……って、うわ、想像させないで欲しい。思わず生唾を飲む。
「ごめん。おれ、つい……」
「いいわ。私が変なこと言ったのも確かだし……あんな誤解されるとは思わなかったけど」
「ほんと、ごめん」
 理奈ちゃんはハンカチで耳を拭うと、
「それじゃ、そろそろ行かないとダメよね」
「う、うん」
 最後に背伸びをして、俺の耳に軽くキスした。
「あとで、お返しするからね」
 そんな言葉を、俺の耳の奥に残して。



 『機微に鋭いマネージャー』

理奈「ねぇ兄さん。悪いんだけど、マネージャーさん、代えてくれない」
英二「またか。今度はどんなタイプがいいんだ?」
理奈「タイプの問題じゃないんだけど。ちゃんとスケジュールを管理できて、冷静に交渉がまとめられて、
   真面目でよく気がつく人なら、誰でもいいわ」
英二「誰でもって言うけど、おまえ、結構ハードル高いからなぁ」
理奈「だって……困るじゃない。ちゃんとした人じゃないと」
英二「そりゃそうだけどね」
理奈「篠塚さんくらい優秀なら、申し分ないけど」
英二「あの人は由綺ちゃんから離れないだろうなぁ」
理奈「わかってるけど。あれくらい有能で、素早く完璧に業務をこなしてくれる人じゃないと」
英二「素早く完璧にか……ならいっそ、メイドロボでも使ってみるか?」
理奈「メイドロボ?」
英二「そうそう。弥生さんもロボ疑惑とかあるし。有能だぜ」
理奈「ちょっと柔軟性に問題がありそうだけど」
英二「まぁ、どうせ代えるついでだ、ちょっと試してみよう。
   HM-13なんか、企業でかなり役に立っているそうだし」
理奈「HM-13か……そういえば学校にいた頃、試作型が学校でテスト運用していたわ」
英二「おお、なんか縁があるじゃない。よし、さっそく試してみるか」

 そしてセリオが理奈のマネージャーに導入された。
 セリオはさすがに優秀で、こと、管理という面に関しては完璧と言うべき性能を発揮した。
 時折、意をくめずに行き違いが生じるときもあったが、理奈の方が慣れると、概ね良好にことは運んだ。
 おかげで理奈の仕事は増えたが、その分、理奈の体に若干の負担はかかっていった。

理奈「はぁ……疲れたわ」
セリオ「ここで三十分の休憩時間を確保してあります。
    その後に雑誌社のインタビューがありますので、それまで体力を回復してください」
理奈「回復してください……って、それでできるものでもないけどね」
  
 苦笑しながら、ぱたりとソファに倒れ込む理奈。
 セリオの計算では、理奈の肉体なら十分に回復できるはずの疲労だった。
 だが、最近理奈のバイオリズムは僅かずつ低下している。
 その原因を事細かに分析した結果……ある、結論が出た。

セリオ「理奈様」
理奈「なぁに?」
セリオ「どうやら理奈様の体には、ストレスが過分にかかっているようです」
理奈「そうね。ここ最近忙しかったもの……ちょっとくらい、ストレスも溜まるかもね」
セリオ「それらの根本的な原因に、欲求不満が多大に関係しているとの結論が出ました」
理奈「え?」
セリオ「ご安心を。サテライトサービスの中には、欲求不満の解消に役立つデータも揃っております」
理奈「え? セリオ、なにする……ちょっと、ちょっと、ちょっとぉ!?」

 サービスされた。いろんな意味で。
  
セリオ「ええ、全身くまなく」

 ほどなく、妙に疲れた顔で元気になった理奈が、取材の会場に現れた。
 それがただのマッサージだったのか、それ以外のなにかだったのか、知る由はない。
 だが少なくともそれから現在にいたるまで、理奈がマネージャーを変更することはなかった。
 


 『なんとなく仲良しな二人の光景』

由綺「ねぇ、理奈ちゃん」
理奈「なぁに?」
由綺「私って、ぼけてるかな?」
理奈「……(そういうこと聞くのがぼけてる証よね、って言えないか)」
由綺「理奈ちゃんは、もっときつい性格かと思っていたら、意外とフレンドリーでびっくりしたとか言われているのに」
理奈「そ、そうね」
由綺「そんな感じで、私もボケと思わせて、実はぼけてないってことは……」
理奈「ないわよ」
由綺「ガーン(´Д`,,)」
理奈「あ、つ、ついっ。じゃない、今のなしっ、間違いっ」
由綺「やっぱりボケなんだ……よくコードに引っかかって転んだりするし」
理奈「そ、そんなことないから。ほら、それくらい芸人なら、当たり前にするじゃないっ。由綺のカラーよ、それっ」
由綺「そ、そうなのかな?」
理奈「そうそう」
由綺「そうなんだ……よかった。えへへっ」
理奈「(ふぅ、ごまかせた……由綺がボケキャラでよかったわ)」



 『熱すぎる差し入れ』

 その日、スケジュールは押しに押していた。
 英二のちょっとした気まぐれと、機材の不備などの些細な不幸が重なって、息をつく暇もないほどに。
 息もつけないのだから、当然食事などしている時間もろくにない。
 そのせいもあって、現場はかなりカリカリしていた。
 理奈でさえ、例外ではなかった。
「もうっ……」
 こっちの準備はすんでいるのに、スタッフがなにやら揉めている。
 また英二が妥協を良しとせず、なにか新しい演出を提案したらしい。
 いつもなら応えるスタッフ達も、今日に限っては渋面だ。
「早くしてくれないかしら……」
 思わず苛ついて、マイクを指先で叩く。
 と、くぅ〜っと、お腹が鳴った。
 もしスイッチが入っていたら、確実にマイクに拾われていただろう、大音量で。
 幸い、喧騒で他の人に聞こえることはなかったが……万が一、
 本番中の静かなタイミングで鳴ったりしたら、今年のNG大賞間違いなしだ。
 まずい……と焦る理奈に、「理奈ちゃん」と囁く声が。
「え?」
「これ、ちょっとくらいは、足しになるかも知れないから」
 冬弥がコーンスープの缶を持って立っていた。隙をついて、ロビーの自販機で買ってきたのだろう。
「開けて持ってきたから、少しは冷めてると思うけど」
 でも、十分に熱い。だけど今は、その熱さが嬉しい。
 吹いて冷ましながらすすり込むと、空っぽの胃の中が熱で満たされて、ものすごく心地良い。
「おいしい……」
「よかった」
 笑いかける冬弥に、はっと気づく。このタイミングの良さは……まさか。
「あの、冬弥くん? ……聞いてなかったわよね?」
「え、なにが?」
「う、うぅん、いいの」
 いや、いくらなんでも聞いてから買ってくる時間はない。
 照れ隠しに横を向いて、残りを全部すすり込む。……ちょっと舌を火傷したかもしれない。
 そこに「テストはいります」の声がかかった。
「理奈ちゃん、缶」
「うん。ありがとう、冬弥くん。おかげで全国ネットで、恥ずかしい思いをしなくてすんだわ」
「え?」
「ふふっ。なんでもない」
 そして、ここから驚くほどスムーズに撮影は進み、ほどなくして、ようやくまともな食事にありつけた。
「今度は冬弥くんにコーヒーじゃなくって、コーンスープおごらないとね」
 そんな軽口を叩きながら。



 『子犬一匹いかがですか』

 その日、理奈がエコーズのカウンターで、のんびりカフェオレを味わっていると、
「いらっしゃいませ」
「なに自分で言ってるのさ……」
「たまには新鮮かな、と思って」
 ウェイターと顔なじみらしい、女性が一人入ってきた。
 辺りを見回し、テーブルが全部埋まっているのを確認すると、理奈の横に腰掛ける。
「なににする?」
「温かい紅茶」
「――はい、おまたせ。どうだった?」
「ダメだった」
「そうかぁ……あと一匹なのになぁ」
「お姉さん、お姉さん」
「え、私?」
 こっそり聞き耳を立てていた理奈に、脈絡もなく、呼びかけがくる。それもやたらと親しげに。
「理奈ちゃん、って呼んだ方がいい?」
「えぇと、初対面よね?」
「ブラウン管越しには何度か会ってるけど」
「……はじめまして」
「犬、飼わない? こんな感じの」
 と、ダウンジャケットの合わせ目から、子犬がひょっこり顔を出した。 
「あ、はるか、店の中に連れ込んじゃダメだって……」
「店の人には内緒にしといて」
「僕、店の人……」
「どうだろう?」
 これは理奈に。生まれてからそうは経っていない子犬は、抱きしめたくなるほどに愛くるしい。けれど、
「……だめね。私、家にいないことが多いから。かわいそうだわ」
「残念」
「事情が許せば、飼ってもいいんだけど……」
 ちょこんと鼻先を指でつつくと、噛みつこうとしたり、手を伸ばしてじゃれついたりしてくる。
「こらこら、噛みつかないの。あははっ」
「理奈ちゃんの犬となれば、彰もブリーダーとして名前が挙がるのにね」
「別にブリーダーじゃないよ」
「やっぱり由綺に頼もうかな」
「由綺って……森川由綺?」
 これは理奈。まさかとは思うが、なぜかそういうまさかがありそうな気がした。
「ん」
 するとやっぱり頷かれる。
「そうね。由綺が飼ったら、連れてきてもらえば私もこの子と遊べるんだけど……」
「じゃあ頼んでみよう」
「え、でも……無理じゃないかしら。私と事情はそう変わらないし」
「当たって砕けてみる」
「……頑張って」

 ――結果。理奈から由綺に渡されたお願いは、やはり由綺も無理だと言うことで、
 そのまま隣にいた弥生に「どうかなぁ?」とシフト。
 由綺のお願いが効いたのか、それとも犬と戯れる由綺の姿に感動したのか……弥生はあっさりと、子犬を引き受けた。
 あくまでも飼い主は由綺で、自分は預かるだけだと主張したが。
 さておき。弥生の後をちょこちょこ付いてくる子犬の姿は、いつしかすっかり緒方プロの名物となり、
 由綺や理奈も、合間に思う存分犬と戯れた。
 だが、不思議なことに二ヶ月もすると、あの無邪気で愛くるしかった子犬は、
 なぜか、やたらと凛々しい顔つきになっていた。

「めでたしめでたし」
「まぁ……いいけど」



 はるかがADのバイトの代役に来たらというカキコを受けて、『多分大体こんな感じかも』
 
理奈「えぇと、どういうことかしら?」
はるか「冬弥の鍛え方が足りないから、私が代理」
理奈「鍛え方?」
はるか「昨日ちょっと寒空の下を連れ回したら、風邪ひいて倒れる程度に」
理奈「……だから、貴方が代理できたってこと?」
はるか「ぶっちゃけて言うと」
理奈「最初からぶっちゃけてよ……」
はるか「冬弥だと思ってこき使って」
理奈「こき使いはしないけど……分かったわ。今日一日、よろしく。そんな難しい仕事じゃないから」
はるか「タイムスケジュールの管理だよね」
理奈「そうそう」
はるか「あと、理奈ちゃんが忙しくしている間は、ぼーっとしてればいいんだよね?」
理奈「そりゃあ、撮影の間は暇でしょうけど……」
はるか「応援でもした方がいいのかな? 旗振ったりして」
理奈「ぼーっとしてて」

理奈「ふぅ……これで午前中は終了よね」
はるか「その通りでございます。肩でもお揉みいたしましょうか?」
理奈「もぅ、ご主人様じゃないんだから。普通にしてていいわよ。最初みたいに」
はるか「わかった。馴れ馴れしくするね」
理奈「普通でいいの、普通で。お昼は……時間あるし、エコーズで取りましょうか」
はるか「今日は理奈ちゃんのおごり?」
理奈「今日はって、まるでおごってくれたことがあるみたいに言わないでよ」
はるか「次は私がおごるから」
理奈「次、あるの?」
はるか「ないと思うけど」
理奈「あのね」

はるか「次はCM撮りだね」
理奈「CMはリテイクが多いから結構面倒なのよね。あんまり受けないでって頼んでいるのに……」
はるか「今から断ろうか?」
理奈「そんなこと出来るわけないでしょ。ほら、いきましょ」
スタッフA「いやぁ、緒方さん。今日はよろしくお願いしますよ。
      それと実はですね、京野とは別に、もう一つ企画に上がってるCMのプランがあるんですが……」
はるか「すみませんが、緒方との契約に関しては、こちらを通してもらえますか」
理奈「ちょっと、名刺なんていつ作ったの!?」

はるか「はい、今日はこれでおしまい」
理奈「……なんだか、いつもより疲れた気がするわ」
はるか「ハードスケジュールだしね」
理奈「そういう理由でもないんだけど……早く帰ってシャワーでも浴びたいわ」
はるか「お背中をお流しいたしましょうか?」
理奈「いらない」
はるか「じゃあぼーっと待ってるね」
理奈「自宅までついてくるの?」
はるか「冬弥っぽい?」
理奈「そんな関係じゃないわよっ。はい、今日はもうおしまい、お疲れさま。
   (シャワー)←シャワーな効果音。
   ふぅ……今日はなんだか疲れたけど、でも、変に楽しかったわよね。
   冬弥くんの話に聞いていたとおり……より、もうちょっと変な人だったわ。
   そのうちまた、会えるかしら……(ぎー、ばたん)ちょっと、なに上がり込んでるの?」
はるか「勝手にお邪魔してます」
理奈「しかもなんでタンスを漁ってるの?」
はるか「出来るだけ冬弥に忠実な活動を」
理奈「冬弥くんは、そんなことしないでしょっ」
はるか「そうだね、冬弥ヘタレだしね」
理奈「そんなことするくらいならヘタレでいいわよ」
はるか「おはようからおやすみまで、オガタリーナの暮らしを守る、河島はるか」
理奈「もう寝るからでていって」
はるか「契約期間は今日一日だから」
理奈「ベッドの中までつき合う気じゃないでしょうね?」
はるか「理奈ちゃんがお望みなら」
理奈「望んでませんっ」

 たぶん大体こんな感じ。



 『それは二人が大分幼かった頃の話』

理奈「おにーちゃん、おにーちゃん」
英二「ん、どうした、理奈?」
理奈「これ、もらったの」
英二「なになに、ほぅ、プラネタリウムの招待券か」
理奈「お星様、見にいこーっ」
英二「ふふふ、お兄様は、星に関しちゃちょっと詳しいぜ。色々理奈に解説してやろう」
理奈「わーい」

理奈「おにーちゃん、凄い凄い、星がいっぱい」
英二「うむ。理奈は、どの星が好きだ?」
理奈「えーとね、えーとね、あの真っ赤な大きいの」
英二「おぉ、あれはベテルギウスだな。あれは赤色巨星と言ってだな、太陽の何倍も大きいんだ」
理奈「へー」
英二「あれがどんどんどんどん大きくなっていくんだが、そのうちどーなると思う?」
理奈「うーんと、熱くなる?」
英二「いやいや、逆に温度は下がっていってだな、最後には……」
理奈「最後には?」
英二「どかーんと爆発してしまうんだ」
理奈「Σ(゚Д゚;」
英二「そしてブラックホールという、真っ暗な穴になってだな、辺りのものを手当たり次第に吸い込んでしまうんだぞ。
   どーだ、凄いだろう。理奈?」
理奈「(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル」
英二「あ、えーと……いや、ずっと先の話だから、大丈夫だぞ。
 こら、大丈夫だから、席の下からでてこい。おーい、理奈ちゃーん」

 そんなこんなでプラネタリウムにはトラウマがあるとかなんとか。



 小話 テーマ「お酒」

冬弥「理奈ちゃんてさ、お酒飲む?」
理奈「なぁに、いきなり」
冬弥「いや、なんとなく、思っただけなんだけど……。
   昨日、ちょっとコンパがあったもんだから。理奈ちゃんは、そういう機会あるのかなって」
理奈「そうねぇ。レストランでワインくらいは飲んだことあるけど……二十歳前だったけど、内緒ね。
   でも、お酒をメインで飲んだことはないわね」
冬弥「じゃあ、酔っぱらったこともないんだ?」
理奈「そりゃあね。そんな姿を見られたら、ちょっとしたスキャンダルだもの」
冬弥「あ、そうか。でもちょっと興味あるな。理奈ちゃんが酔ったらどうなるか」
理奈「あら、私を酔わせてどうする気?」
冬弥「いや、そんなつもりじゃ」
理奈「あははっ。私もいいけど、まずは由綺を酔わせてみたら? きっと面白いわよ」
冬弥「うーん、面白そうだけど……ちょっと、恐いかも」
理奈「なんで?」
冬弥「いつもと逆のベクトルに行きそうで」
理奈「……そういう人もいるわよね」
冬弥「理奈ちゃんも、逆に行ったりしない?」
理奈「逆って言うと?」
冬弥「えぇと、(基本的には優しくてクールだけど、時々怒りっぽいときもあるし……
   うーん、理奈ちゃんといえば……)格好悪くなる?」
理奈「あら……ありがと」
冬弥「あ、いやぁ」
理奈「もう。褒めたって、何も出ないからね」
 


 小話 テーマ「ゲーム」

冬弥「理奈ちゃんって、もしかして、色々普通っぽいことやれてないのかな」
理奈「そうね……変わった体験はしているけど、その分、普通のこととに疎いみたい」
冬弥「えーと、じゃあ、ゲームとかは?」
理奈「ゲーム? ああ、あの『はみこん』とかいうやつ?」
冬弥「理奈ちゃん、それRoutesだったら、お前いつの時代の人間だって突っ込まれてる」
理奈「え、そ、そうなの?」
冬弥「うん」
理奈「あ、でも噂くらい聞いたことがあるわよ。そろそろ出たんじゃないの、『すーぱーはみこん』」
冬弥「理奈ちゃん」
理奈「な、なに?」
冬弥「もうとっくにそれのブームも終わってる」
理奈「……エレクトロニクス業界は、進歩が早いものね」
冬弥「いや、知らないなら仕方ないから」
理奈「もうっ……じゃあ冬弥くん、今度持ってきてよ」
冬弥「え、おれ? いや、俺も最近のは、全然やってないんだ。
   なにせ、俺の部屋、レンジさえないし……」
理奈「……冬弥くん」
冬弥「はい」
理奈「いつの時代の人間?」
冬弥「ごめんなさい」
理奈「あははっ」



 小話 テーマ「レンジ」

冬弥「レンジ欲しいんだけどなぁ……」
理奈「現代日本で、そんな切実そうに言う人、珍しいわよ」
冬弥「やっぱり? 理奈ちゃんちも……当然あるよね」
理奈「うん。便利だもの。ご飯を温め直したり、最近は、レンジだけで調理できるものもあるし」
冬弥「いいなぁ」
理奈「あ、で、でもね。いつもそういう手抜きってわけじゃないのよ。ちゃんと普通に料理だって出来るんだから」
冬弥「ほんとに?」
理奈「忙しいから、最近はほとんど出来ないんだけど……そういえば、由綺はどうなのかしらね。
    あの子もきっと、忙しいから……」
冬弥「あ、由綺、ちゃんと料理できるよ」
理奈「そうなの?」
冬弥「たぶん。バレンタインのチョコ、手作りだったし」
理奈「へぇ……」
冬弥「だから普通の料理も、ある程度出来るんじゃないかなぁ」
理奈「……やっぱり、レンジでチンだけじゃ、ダメかしら」
冬弥「理奈ちゃん、それ、料理じゃない」










 『絡み始めた糸』

 注:これはやや陵辱風味の十八禁レズ系SSなので、そのことをご承知の上で、読み進めてください。
 上に戻るのはこちらから









 なぜだろう、頭が重い。
 重苦しい気分に不愉快を覚えながら目を開けると、まるでその気分をそのまま色にしたような、薄暗い部屋。
 身を起こそうとして初めて、自分の手が、縛り付けられていることに気づく。
 寝転がった体勢のまま視線を上げると、ベッドのパイプにビニール状の手錠で、両腕がくくりつけられていた。
 気づけば足も、同じように。こちらは大きく開かれて。
「なに、これ――!?」
「気がつかれましたか?」
 冷たい落ち着いた声と共に、薄暗い闇の中から現れたのは、篠塚弥生。
 真上から、長い髪が視界を覆い隠すように垂れ下がってきて、どこかこの世のものでない気配さえ感じさせる。
「ちょっと、これ、あなたの仕業? どういうつもり!?」
 思い切り両手足に力を込めるが、僅かに伸びて、食い込んでくるだけで、とても千切れそうにない。
 そんな理奈のもがきを、弥生は冷笑と共に見つめる。
 弥生は同じ緒方プロの人間ではあるが、彼女の忠誠心は、由綺にだけ向けられている。
 なら、考えたくもないことだが、こんなことをする目的は――、
「……AVのまねごとでもしようって言うの?」
「見たことがおありですか?」
 あるわけがない。が、素直にそう答えるのも悔しい気がして、そっぽを向いた。
「そんなバカなことをしても、どうせもみ消されるわよ。今の時代、CGでなんでも出来るんだから」
 弥生は理奈を子供扱いするように、喉の奥で笑って、ベッドに腰掛けた。
「あいにくと、ご想像なさっているような目的ではありません」
「じゃあ、なによ」
「藤井冬弥さんと、仲がよろしいようですわね」  
 口元は皮肉に微笑んだままだが、目は冷たく、理奈を見据えていた。
「……ただのお友達よ」
「さて、いつまでそれが続くでしょうか」
 弥生の指摘にぎくりとする。
 これ以上はいけない、と思っていても、冬弥への気持ちが膨らんでいるのは確かだった。
 懸命に押し隠してはいたつもりだったが、やはり気づかれていたのか、
 それとも、ただ念のために釘を刺しておこうというのか……。
「こんな犯罪行為をしてまで、そんなことが聞きたかったの?」
「いいえ。それが事実であるかどうかは、実の所どうでもいいのです」
 ゆっくりと手を伸ばし、理奈の頬に触れる。その手のひらは、人間のものではないかのように冷たい。
「由綺さんが、そうでないかと疑っていることが肝心なのですわ」
「バカバカしいっ。なら、私から由綺に話すわよっ。絶対そんなことはないって」
「と、思ってはいても、コントロールできないのが、恋愛感情というものですわ」
 そんな感情に縁のなさそうな人間がなにを――と思うが、指摘自体は、理奈の心を鋭くえぐる。
「それに、そんな言葉だけで、由綺さんの懸念が貼れるかどうかは、分かりませんし。
 ですから私、藤井さんの時と同じように、契約をしようと思いまして」
「契約?」
「ええ。ですが理奈さんは、藤井さんのように物わかり良く、納得してはくれないだろうと思いましたので」
「なによ、それ。話もしないうちから勝手に決めつけて、それでこんなことをして、なにをするつもりよっ」
 声に焦りと怯えが混じる。虚勢を張っているのが自分でも分かるし、それは容易く見抜かれているだろう。
 弥生の手が、頬から首筋を掠めて逃げていった。ぞわりと鳥肌が立つ。
「楽しませてあげますわ、藤井さんのかわりに」
「ふざけないでっ! だ、大体あなた、女性でしょう!?」
「こちらの方が、慣れておりますので」
 混乱が恐怖に拍車をかける。弥生が理奈の体を手でまたいだ。暗かった視界が、いっそう暗くなる。
 AVのまねごとといったが、それは大きく外れてはいなかった。
 が、確かに想像どおりではなかった。脅しではなく、懐柔するつもりなのだ。
「大声出すわよっ!」
「先ほどから、出されているようですが?」
 やはり、弥生がそんな単純なミスをするはずもない。
 理奈は完全に、籠の中の鳥、いや、籠に縛り付けられた鳥だった。籠の中の自由さえない。
 弥生の手が、理奈の両胸に重ねられた。
「――っ」
 理奈はきつく目をつぶり、口をつぐみ、ただひたすらに耐えた。
 ほんの少しでも反応したら負けだ。そんな気がして。
 だけど、弥生は焦らず、むしろそんな我慢を楽しむように、理奈の体を味わっていた。
 ステージ衣装の上から、ゆっくりと理奈の胸をもみあげ、円を描くように引いては、また持ち上げる。
 一回揉まれるたびに、胸の中に血が集まってくるのが分かる。
 じわり、じわりと、こらえきれない息が、喉の奥に詰まってくる。
 ひたすら高まる圧力に、思わず熱い息をこぼそうとしたとき、
「知っていますか?」
「……?」
「そのように目を閉じると、かえって他の感覚が鋭敏になって、快感を感じ取りやすくなるのですよ」
「な――っ!?」
 驚きに目を開いた瞬間、弥生の顔が目の前に迫っていた。同じように開いた唇の上に、口が重ねられた。
 奪われた自覚をする間もないまま、滑り込んでくる舌の感触に、パニックが走る。
 同時に潰れるほど強く、胸が掴まれた。
「んんーっ!」
 ようやくだそうとした叫びが、喉にこもる。
 揺すっていただけの動きが、強く、絞るように。
 衣服の上からでもはっきり分かるほどに突き出た乳首が、きつく、ひねられた。
 溜まった熱をそこから吹き出させるように、親指と中指でつまんで、ごしごしと擦り立てる。
 胸の先から体の芯を貫く戦慄に、体が仰け反った。
 が、暴れようにも体は拘束されていて、ただひたすらに、理奈の体を暴風が弄ぶ。
 逃げ場所の一つであるはずの口は、完全にふさがれていて、舌で蹂躙され続けている。
 ぬるりと、舌が舌をかき混ぜるたびに、脳まで嬲られたような錯覚に陥る。
 互いの唾液は一方的に理奈の方にだけたまって、息苦しさを助長する。
 と、不意に舌の裏側をくすぐられ、思わず飲み下してしまった。
 生暖かい体液が、じわりと胃の中に滑り落ちて、胸の熱と融合する。
 最後に弥生は、きつく掴んだ両乳首を思い切り引っ張って、指の狭間で弾きながら放した。
「ふぁっ……、はぁっ……、はぁっ……」
 あっと言う間に、体が尋常ではない状態にまで持っていかれた。
 弥生もさすがに息をついて、汗で絡んだ髪を掻き上げる。が、理奈に比べたら余裕十分だ。
「ご気分はいかがですか?」
 分かっているくせに、揶揄するように、微笑みかける。理奈は目を逸らすのがやっとだった。
 だが、息を整える暇もなく、弥生の陵辱が再開される。
「ま、待って……あっ!」
「動かない方が、良いですわ」
 どこからともなく取り出したカッターが、胸先に当てられる。
 理奈が硬直したのを見て取ると、真っ直ぐに刃は滑り、青と白の衣装が別れて落ちた。
 黒のインナーが露わになると、胸の先の形が、そのまま貼りついている。
 窮屈な場所に閉じこめられ、今もなお、刺激の続きを要求して、疼いていた。
 その無言のリクエストに、弥生は応えた。
「やっ、やだっ……ああっ!」
 今度は唇で、乳首全体を包み込む。胸先を吸われる快感と、舌と生地で舐め上げられる快感が、交互に襲ってくる。
 吸われれば、繊維の隙間から肉がはみ出そうに貼りつき、
 舐められれば今度はその隙間が、ざらざらと乳首を擦り立てる。
 それも左右の胸を順番に襲ってくるものだから、片方が休んでいる間に、十分感覚が回復する。
 理奈は今度は遠慮なく嬌声を上げながら、ひたすらに身悶えした。
 とても我慢など出来る余裕はない。
 もちろん、波打つように暴れる足の間が、激しく熱を持ち始めたことに、気づく余裕などもない。
 ――弥生は別だが。
 刺激に慣れはじめた神経を、今度は甘噛みという強烈な刺激で弄びながら、不意に――。
 股間を指で、えぐり上げた。
「ひっ――」
 何度も、何度も、揃えた指で、十分に濡れそぼった股間を、下着の上から筋に沿って、
 親指で淫核を押さえて、擦り上げる指とで媚肉全体をつまむようにして、強く、力を込めて――
「ひああああああああっ!」
 理奈が絶頂に達した。
 下着を通して吹き上げそうなほどに、激しく愛液を迸らせ、その上からさらに指が、執拗に股間をなぞり上げる。
 今までとは比べものにならない勢いで身を捩るが、それで解放されるわけでも、弥生の指が止まるわけでもない。
 むしろその愛液の滑りを借りて、割れ目にまで下着を抉りこませて、その生地で内側の襞を擦り立てる。
 親指は、暴れる腰の動きをものともせず、正確に淫核を上から押し込み続けていた。
「いやっ、いやあっ――やめてえっ! おっ、おかしくなるっ――ひああっ!」
 びくんっ、ともう一度理奈の体が、大きく跳ねる。
 だけどそれでも、弥生が手を緩めることはなかった。
 哀願する理奈に、薄ら笑いを返しながら、絶えず、新しい刺激を送り続ける。
「ねっ……おねがっ、ああっ! ほんとに、ね、あ、くあぁっ……許してよぉっ……うぁっ!」
 それは理奈が、完全に気を失うまで続いた。

「――あ、あ……?」
 目を覚ましたときには、拘束は外れていた。
 パイプ椅子に座っていた弥生が立ち上がるが、掴みかかる気力もない。
 弥生はそのことを知っていて、遠慮なく近づくと、優しく理奈の頬を撫でる。
「ご満足いただけましたか?」
「……最悪の気分よ」
「随分と、心地よさそうな声を上げておいででしたが」
 湧き上がる怒りが、羞恥によって塗りつぶされる。
 自分がどう感じていたかは、自分の体が一番よく知っている。
「こんな、ことしたって……」
「まだ、足りませんでしたか?」
 弥生の目が、細められる。また、あの途方もない快楽が与えられるのかと、身が竦んだ。
 弥生はそんな理奈の反応を、楽しげに見やって、
「今日のところは、ここまでにしましょう。手付けですから。
 いずれ、あらためてご返事を頂きに参りますわ」
勝者の余裕を存分に見せつけると、身を翻した。
 その遠ざかっていく背中に、精一杯の反撃を投げ付ける。
「こんなことして……絶対、ただじゃすまないんだからっ……!」
「理奈さんさえ黙っていれば、誰も気づきはしませんわ。
 それとも、ご相談なさいますか? 親友の由綺さんや、お兄さんや、あるいは、藤井さんなどに?」
「……っ」
 出来るはずがない。自分が弥生に陵辱されたと、相談して、なんになる?
 これが芸能界をやめろという脅しなら、むしろ英二に相談して、対処することも出来ただろう。
 だけど冬弥への秘めたる思いを、口に出すわけにもいかない。
 理奈に、逃げ場はなかった。せいぜい二度と拘束されないように、油断しないことくらいだ。
 それでも――冬弥の顔を見れば、今日のことを思い出さずにはいられないだろう。
 釘の刺し方としては、恐ろしいほどに効果的だった。
 弥生はドアの鍵を開け、最後に僅かに振り向いて、
「ご満足いただけないようでしたら、いずれまた、追加を支払いに参りますわ」
「結構よっ!」
 そう叫びつつも、もしもまた弥生に囚われたら、自分は容易く陥落するだろうという予感から、
 逃れることは出来なかった。
 あるいは――期待から。

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