戻るのだ



東鳩
うたわれるもの

 

 雫支援物資  ○瑠璃子・風子戦

 ――放課後。掃除当番だった僕は、ジャンケンに負けてゴミ捨て担当になってしまい、
 瑠璃子さんを散々待たせてしまった。
「ごめん、瑠璃子さん」
 瑠璃子さんは、僕の後ろに視線をながして、
「長瀬ちゃん、雨だよ」
「え?」
 窓の外を見ると、やや大粒の雨が降り始めていて、慌てて傘を開いたり、駆けだしてゆく人達が見える。
「まいったなぁ、傘持ってきてないよ。瑠璃子さんは?」
「もちろん、持ってきてないよ」
 瑠璃子さんはなぜか嬉しそうに言う。
 そして、僕の前の席に、後ろ向きに座った。
「しばらくやみそうにないね」
「あ――うん。そうだね」
 僕も席に座り直し、雨音に耳をすます。
 なんとなく、机の上に置いていた手の上に、瑠璃子さんの手が重なった。
 いつもよりも、しっとりとしていて、吸い付くような感じ。
 少しだけ手の向きを変えて、もっと触れあえるようにする。
 瑠璃子さんが、くすぐったそうに微笑んだ。
 ――雨の日は、よく電波が飛ばない。
 だからその分、普通の感覚が冴えているような気がする。
 時折、いたずらするように、微かに手を動かす。
 形を隅々まで確かめて、撫でたり、掠めたり、深く触れたり。
 手首から先だけなのに、まだ僕の知らない瑠璃子さんの感触が、たくさんあった。
 握り返してくる感触が、瑠璃子さんの反応を伝える。
 言葉も電波もない、手のひらでのコミュニケーションに、いつの間にか没頭していた。
「たまには、雨もいいのにね」
 その声に、残念そうな色を感じて顔を上げると、雨は止んでいて、早くも陽の光が教室に射し込んでいた。

 

痕支援物資 ○エディフェル・あさひ戦 

『もしかしたらヨーク墜落の真相』

 その日ヨークは調子が悪かった。
 なにか微妙にふらついているので、気になったエディフェルがひょこりと操縦席に、顔を出す。
 見れば操縦席ではアラートランプが激しく点滅し、メーターが尋常じゃない勢いでぐるぐる回っていた。 
 世界観が違うのでは、とか突っ込むな。
「どうしたの、リネット?」
「エディフェルお姉ちゃん……。わからないの。この子、すごく調子が悪いみたいで。
 あの星の重力の影響かも知れない。なんとかギリギリで持たせているんだけど……」
 リネットは左右に走り回り、きゃーきゃー悲鳴を上げながら、あっちをいじってはこっちをいじって、なんとか体勢を維持している。
 エディフェルは操縦は分からないので、見ているだけだ。
 と、一つのメーターが目に付いた。
 リズミカルに左右に揺れる、赤い針。まるで誘うように、びよんびよんと動いている。
 だめだめ、あれは大事な計器なんだと理性が警告するが、エディフェルの中の本能がうずうずしだした。
「……えい」
 がしゃん。
「あ」
 つい、手を出してしまった。エルクゥの本気パワーの一撃は、容易くメーターを貫通。激しくスパークが立ち上る。
「お、お姉ちゃん……」
「ごめん」
 小爆発。
 ぐらりとヨークが傾いた。
「いやあああああああっ!」
「頑張って」
「もう駄目、耐え切れなーーーいっ!」
「リネット、きみはどこに落ちたい?」
「どこにも落ちたくなーーーいっ!」
 そしてヨークは傾いたまま、地球の重力に引かれて不時着。
 地球に降り立ったエディフェルは、遠い目をして呟いた。
「私達はこの星で、彼ら人間と共存して生きていく必要があるのかも知れない……」
「……必要は、無かったんじゃないかな」


『もしかしたら楓反転時の真相 (注:かなりエディフェルの性格歪んでます)』

『楓、楓』
(あなたは……私の前世の)
『えぇ。エディフェルよ』
(どうもご無沙汰してます。なにか用ですか)
『いーわよねぇ、あなたは。ちゃっかり耕一と結ばれてさぁ』
(いきなり絡まないでください。でも結構大変なんですよ。確率四分の一でしたから)
『で、ものは相談なんだけど』
(いやです)
『体貸して』
(いやですってば)
『いーじゃない。一回や二回や三回くらい』
(やる気満々じゃないですか)
『悲恋に終わった私がかわいそうだとは思わない?』
(まぁ、あなたも私ですから、そうは思いますけど……)
『でしょ。レンタル成立』
(してません。どこでそんな外来語を覚えたんですか)
『わたしもあなたに取り憑いて長いからねぇ』
(すっかりやさぐれてしまってますね……)
『あなたこれから幸せ三昧なんだからさ。たまにはいいじゃない。
 貸してくれなきゃ、夜中に取り憑いて、リズエルの腹に寸胴って油性マジックで書くわよ』
(……分かりました。たまにですよ。年に一回くらい)
『せめて月に一回!』
(半年に一回)
『週に一回!』
(縮めないでください。はぁ……分かりました。月に一回だけですよ。あとは私も耕一さんも、私のものですから)
『やったー! ラッキー! じゃあ貸して、すぐ貸してっ!』
(わかりました。……はい、どうぞ)
 がっしょん。
「うーん、久しぶりの肉体の感触。やっぱり霊体の時とは色彩が違うわねー。外は眩しいサンシャイーン♪」
(……私が反転したときの性格って、まさか!?(´Д`,,))



 ぺたぺた。
(……どこ触ってるんですか)
「足りない」
(……成長期なんです)
「ふっ……私は15の頃には、もうあれくらいあったけどね」
(体返してください)
「あー、ごめんごめん。でも、これじゃ>>254の二枚目(注:パイずり画像でした)みたいなことが出来ないわね」
(……成長期なんですってば)
「あなたほんとに私の転生先?」
(私もあなたがほんとに前世なのか、小一時間問い詰めたい気分です)
「意外とアズエルの方が私のボディってことは……」
(別にいいですけど、耕一さんと結ばれたのは私ですから)
「さてマイ来世、次郎衛門はどこかしら」
(耕一さんが遊びに来るのは、明後日からです)
「なにそれっ!? ……じゃあ、体借りるのは明後日って事で」
(ダメです、もう貸しました。返却するのは自由ですけど、明日からはマイボディです)
「ちょっと! それじゃ借りた意味ないじゃないっ」
(私の体でなにをするつもりだったんですか)
「それは……もう、ねぇ。>>254の二枚目みたいなこととか」
(だからできませんってば)
「人間成せばなるっ!」
(エルクゥのくせに……)

「ほら、楓お姉ちゃんがさっきから一人でなにか言ってるの……」
「……春だからかなぁ」



「それにしても次郎衛門がいないなんて……失敗した……」
(次郎衛門じゃありません。私の耕一さんです)
「ほら、向こうも交渉次第では、体とか貸してくれるかも知れないし」
(素直に二人で成仏して、あの世で結ばれてくれませんか?)
「あー、そういうこというんだ。いきなり身投げして、また来世にかけてみようかなぁ」
(人の体でなにをする気です。大体私に取り憑いていたのに、なんで耕一さんがいないことも知らないんですか)
「私もそんな暇じゃないのよ。逐一あなたが食事しているところとか、お風呂はいっているところとか、
 昨晩3回も『耕一さぁん』と叫びながら自分を慰めているところとか把握してられないの」
(ちょ、知っているじゃないですかっ!)
「たまたまよ、たまたま」
(まさか耕一さんとの……も、覗いたりしてないですよね)
「うーん、やっぱり次郎衛門の方が、もっと荒っぽくて、私のエルクゥ魂を満足させてくれ……」
(きゃーっ、きゃーっ、きゃーっ!)
「いいじゃない。ほら、私とあなたは見ての通り一心同体なわけだし」
(時と場合と状況によりますっ!)
「よし! じゃあお礼に明後日は、エルクゥ伝統奥義の数々を見せてあげるからっ」
(だから明後日は私の体ですっ!)
「ふふっ……明後日が楽しみ」
(帰ってください。マジで)



(あの、いいですか?)
「ん、なに?」
(負けちゃいましたよ)
「誰が?」
(あなたが、あさひさんに)
「……つまり」
(つまり?)
「これから3本勝負・第二ラウンドの直接対決が始まって、正々堂々、エルクゥの力全開で戦ってこいと?」
(このトナメを何だと思ってるんですか。あさひさん、死んじゃいますよ)
「そしたら、私が不戦勝って事に」
(なりませんから。やめてください。……私は、一回戦突破してますけどね) ノj|」 ゚ ー゚ノゝ
「あー、なに、その態度。さっきのこと、まだ根に持ってるんだ」
(いえ、そんなことは。少々)
「あるんだ。まぁいいわ。あなたが勝ってるなら、私もそこで出番あるし」
(他力本願ですね)
「だって昔から言うでしょう」
(?)
「おまえのものは、おれのものっ!」
(うわ、最低だ、この人)



アズエル「ちょっと、エディフェル。つきあってくれない?」
エディフェル「どうしたの、姉さん」
アズエル「いやー、ちょっと食料のストックが少なくなっちゃってさ。下の方まで狩りに行かないと」
エディフェル「それならリズエル姉さんが、朝から嬉々として狩りに行ってたけど」
アズエル「だめだめ、リズ姉に任せると、やたら細かくされるんだから。
       あんたみたいに、一撃ですぱっと仕留めてくれるのが、料理の材料としては一番いいんだよ。
       鮮度も落ちないし、風味も逃げないしね」
エディフェル「わかった」

 とかいうアットホームな会話をしてから、近隣の村を襲撃したりしていたのかも知れないと考えると、ちょっと恐いw



To heart支援物資 ○葵・郁未戦

『葵ちゃんと琴音ちゃんはなぜR版でああなったのか・琴音視点(注:かなり琴音ちゃんの性格歪んでry)』


 こんにちは、姫川琴音です。
 結局私とは結ばれず、あかりさんとフォーリンラブしたっぽい藤田さんですが、
 あれからも何くれとなく目をかけてくれています。
 それはそれでありがたいのですが、あの、なんでしょう、
 この手袋にしてはやたらとごわごわして、そのくせ隙間だらけの赤い物体は。にぎにぎ。
「姫川さん、最初は軽くでいいからね」
 いつの間に体験入部などという段取りになったのか、サンドバッグの向こう側から、
 かつて藤田さんを取り合った間柄の、松原さんが微笑んでいます。
 はぁ、軽くですか。
 自慢じゃありませんが、この姫川琴音、枕より固いものを殴ったことはありません。
 なんで枕なんか殴ったんだとか聞かないでください。私にも色々あるんです。
「がんばれー、琴音ちゃん」
 はいっ、藤田さん。琴音がんばりますっ! 明日のためにその一っ!
 べき。
 なんか鈍い音がしました。なんか手首が変です。角度とか。
 というか、これは曲がってはいけない方向に曲がってませんか!?
「ひっ、姫川さん、大丈夫!?」
 大丈夫じゃありません。めちゃくちゃ痛いです。
 てゆーか私、なんで人気の絶えた神社裏で、こんなことしてるんでしょうか。
 そこに集うブルマ少女二人。はっきり言ってマニアックすぎです。
「だいじょうぶかー、琴音ちゃん」
 もう駄目かも知れません、藤田さん、せめて最後はあなたの胸の中で……。
「姫川さん、ちょっと痛いけど、我慢してね」
 え?
 ぐい。こき。はう!
 ――痛い痛い痛い痛いですっ! なにをするんで……あれ? 直った?
「ごめんね。あと湿布して、テーピングするから、動かないで」
 あの、えぇと、……手際いいですね。
「あはは……私も最初の頃はしょっちゅう怪我してたし、今は自己管理が出来るようになったけど、
 それでも時々やっちゃうから、いつの間にか慣れちゃった。
 はい、おしまい。ちょっとぐーぱーしてみて」
 ぐー、ぱー。……痛くありません。
「よかった。格闘技ってやっぱり、痛い思いをするから、それでやめちゃう人も多いんだよね……」
 あの、ちょっと、そこで捨てられた子犬みたいな寂しい笑顔をしないで下さい。
 格闘技なんてとんでもない、藤田さんの紹介じゃなかったら、
 金輪際関わりませんと思っていた私が悪者みたいじゃないですか。
「あー、やっぱ琴音ちゃんには、ちょっと無茶だったか。悪りぃな、無理につき合わせちゃって」
 えー、まぁ、それは不向きなのは認めますけど……、
 野蛮で、痛くて、苦しくて、なんでこんなことするのか、さっぱり分かりませんけど……、
「しょうがない。葵ちゃんの練習するか。琴音ちゃん、悪いけどそこで見ててよ」
「あの、こういうことやるんだって、ちゃんと説明しながらやりますから」
 え、あの、私放置プレイですか? ――ま、待ってくださいっ!
「え?」
 み、右が怪我しても、左手がありますっ! 大丈夫ですっ!
「琴音ちゃん……」
 そうですよ、ここで引き下がったら、私、怪我しただけのただの馬鹿娘じゃないですか。
 せめてあのサンドバッグにもう一撃くらい加えてやらないと……、
 松原さん? なんですか、そんな急に感動したような瞳で。
「姫川さん、そうだよ! その気迫だよ! 格闘技に大切なのは、技術や身体よりも、そのハートなんだよっ!」
 あの、松原さん、こちらから見て左斜め上方四十五度に、なにかあるのですか?(PC版)
 背景に炎のエフェクトしょって、豪華ですね。
「じゃあ、左手で、ジャブいこうか! 拳はしっかり握って、最初はそーっと、筋肉を慣らしていく感じで、徐々に強く」
 ら、らじゃあですっ。えいっ。
 あ、ちょっといい音がしてきました。えい、打つべし、打つべし。
 ……なんか、悪くないです。
 こう手応えとか、体を動かす喜びとか、なんかやたらと嬉しそうな松原さんの笑顔とか……
 ――はっ! ぶるぶる。そんなはずありません。私はノーマルです。
 藤田さんとか場合によっては佐藤さんに恋したりする真っ当な乙女です。
「あ、今のパンチ良かったよ、姫川さん!」
 そ、そうかな?
 ――はっ! なんでしょう、今の私のちょっと馴れ馴れしげな口の利き方は。
 数回会話しただけの間柄なのに、やたらフレンドリーです。
 私は孤独な超能力少女。人との間にはまず心の壁を作るのが大原則です。
 世が世なら汎用○型決戦兵器に乗れていたかも知れないこの私が――、
「そうそう、もうちょっと脇を締めて、真っ直ぐ突き出す感じで!」
 こうですか?
「うんうん!」
 ああ、なんでしょう……この湧き上がる解放感は。これが私の知らなかった、格闘技の世界?
 野蛮で、汗くさくて、痛くて、血だらけで、テレビに映ったらすぐチャンネルを変えてしまっていた、あの――。
 打つべし、打つべし。ううっ、身体が止まりません。
 周りが白くなって、撃ち抜く、そのワンポイントしか見えなくなってきたような――これがゼロの領域の向こう側!?
「姫川さん、ちょっとストップ」
 え? なんですか、いまちょっといいとこ……ぜー、はー。
 はっ。いつの間にか息が切れるほどに熱中してしまっていたなんて。
「最初はちょっと飛ばし過ぎちゃうことって、よくあるから。一休み入れようか。
 はい、タオルとスポーツドリンク」
 あ、ありがとうございます。ぜー、はー。ごくごく。
 ふぅ。落ち着きました。
「……どうだった、かな?」
 えぇと、そんなすがるような目で見ないで下さい。答えにくいじゃないですか。
「あ、ごめんね」
 あぁあだからっ、全開笑顔と寂しげにするのを交互に噛まさないでください。
 今はやりのツンデレですか? って、なに言ってるんでしょう、私。
 デレている松原さんに感じている感情を感じている場合じゃありません。
 おちつけー、わたしー。いやいや、この動悸は運動不足だったせいです。そうに違いありません。
 胸の中にわく喜びは、きっと脳内麻薬がランナーズハイしたせいです。
 まぁ、それも含めて……思ったよりは、悪くなかったですよ。
「本当ですかっ!?」
 ううっ、またそんな素敵に眩しい笑顔を……。
 か、勘違いしないでよねっ、って私がツンデレしてしまいそうなほどに動揺してしまいます。
「いやー、琴音ちゃんもやるもんだなぁ」
 もう、藤田さんまで。ダメですよ、素人をそんなことでのせようったって。
 でもまぁ、その……もう少しだけなら、つき合っても悪くないかもしれません。
 もう少しだけですよ。 
「ほんと!? それじゃあ次はちょっと高度にコークスクリューブローいってみよう! こう、栓抜きを抉りこむように――」
 普通でいいです。普通で。



 おはようございます姫川琴音です。
 なんだかんだいってエクストリーム部に体験入部することになった私ですが、非常に危険です。
 いえ、確かに肉体的にもハードだったり苦しかったり痛かったりと危険ですが、そういう話ではなく。
 ブルマです。
 なぜかこの部には柔道やプロレスみたいなコスチュームがなく、普通の体操着で活動しています。
 葵ちゃんが柔軟をしたり、ハイキックをしようものなら、かなり際どい角度の切れ込みになります。
 私も同じ恰好です。
 静かな神社でブルマ姿で汗をかきながら格闘する二人の美少女(ここ重要です)。
 いろいろな意味で危険なシチュエーションです。ブルマが最近消えつつあるのも分かります。
「姫川さん、じゃあハイキックの練習始めるから、気をつけてね」
 ばっちこい、です。私はサンドバッグを支えます。
 松原さんが蹴りのモーションに入ります。続いて衝撃。怪獣図鑑に姫川琴音50人分の威力とか書かれそうです。
 生身だったら間違いなく吹き飛ばされてますけど、サイコキネシスを使っているので、もーまんたいです。
 おかげでじっくり観察する余裕が出来ます。
 赤い伸縮性の高い生地が、よれたり引っ張られたり、場合によっては白いものが見えたりと……
 ――はっ! いえいえ、あの、私もエクストリーム部の端くれですから、モーション研究です。ですってば。
 別に変な趣味はありませんよ?
 そういえば、藤田さんが一度葵ちゃんの蹴りにノックアウトされたと聞きました。
 どうせ別のところに意識が集中していたのでしょう。気持ちは分かります。
「おーい、二人とも」
「あ、先輩!」
 ――ちっ。
 あれ? いえいえ、確かに藤田さんのことは吹っ切りましたが、別に他の娘に鞍替えしたからじゃありません。
 私達の二人切りの時間を邪魔するななんて心の奥底で思ったりしてませんから。
 って私、なんで「娘」なんて漢字を当てているんでしょうか。気のせい気のせい。
「最近、先輩良く来てくれますね」
「そ、そうかな? 前からこんなもんだったぜ」
 ブルマ率が当社比200%になったからですか?
「次は、姫川さんがキックの練習する?」
「おお、そりゃいいな」
 ……ローキックなら。
 ぽす、ぽす、とそこらの直立アライグマさえ倒せないような情けない音を立てながら、キックを繰り出す私。 
「あのね、姫川さん、もうちょっと腰から体重を乗せる感じで」
 こうですか? 分かりません! 
「そうそう、そんな感じ」
 え、結構適当だったんですが。えーと今の感じで……蹴るべし、蹴るべし。
「いいよ、いいよー」
 松原さんが嬉しそうです。不思議なくらいこの人はよい娘です。
 天性の褒め上手というのでしょうか。指導も丁寧ですし、根気よく教えてくれます。
「良かったな葵ちゃん、部員が増えて」
「はいっ。姫川さんが来てくれて、凄く嬉しいですっ」
 ああ、そういえば、松原さんはずっと一人で練習していたんでしたね。
 藤田さんは結局、手伝いはするものの、他のルートに入ってしまいましたし。
 てゆーか、こんな松原さんの笑顔を見て、すげなく袖にするなんて鬼畜です。
 さすがカツサンドの方が大事だといいはる人は違います。ていっ。
「あ、今のいい感じっ!」
 つい、力が入ってしまいました。
「で、琴音ちゃんは入るかどうか決めたのか?」
「あ、先輩……」
 松原さんが、固まりました。聞きたいけど、恐くて聞けない、そんな松原さんの心境が見え隠れします。
 えーと、えーと、注目しないでください。心の準備ができてません。
 ひそかにタイミングを計って切りだそうとしていたのに、台無しじゃないですか。
 えーと、えーと、よろしくお願いします。ぺこり。
「え、あの、それは……」
 で、ですから、入部します。なんで私、こんなに照れてるんでしょうか。
「姫川さん、ありがとうっ!」
 わ、あの、その、きゃー、いや、あの、いけません、絶対色々誤解されます。
 って、ちょっと痛い痛いです。あんまりぎゅっと……してくれてもいいですけど、あ、やっぱちょっと痛い。
 痛いけどなんだか嬉しい……って、なに変な方向に目覚めていますか私。
 鬼畜の藤田さん、なにニヤニヤ見ているのですか。
 あー、もうっ。松原さん、落ち着いてください。どうどう。
「うん、……姫川さん、本当にありがとうね」
 い、いいんですよ。私が自分で決めたんですから。
 苦しくたって寂しくったって神社の裏ではへっちゃらへーなんです。落ち着け、わたしー。
 ふぅ……そうですか、分かりました。私達は似てないようで、どこか似ていたんですね。
 最初なんとなく嫌いだったのも分かります。今、不思議に共感を覚えるのも分かります。
 恥ずかしいから、言いませんけど。
 あと、万が一他の新入部員が来ても、さっきみたいな歓迎は禁止です。絶対禁止です。
「あ、ご、ごめんね。苦しかった?」
 そーいう意味じゃありません。松原さん、天然です。絶対悪い人にいつか騙されます。
「これで俺が名前を貸すとして……後二人か」
「そうですねっ」
 多分、校庭の真ん中あたりでデモンストレーションしたら、部員集めに困ることはなさそうですが。
 ――言わないことにしました。ごめんなさい。
 いえ、そんな不純な動機で入るような人はどうせ長続きしないと言う意味ですよ。
 ほんとですってば。

 
 こんにちは、姫川琴音です。
 なにかいろいろ魅惑のフェロモンを発散している松原さんですが、そのせいか、最近妙な視線を感じます。
 格闘の練習をしているとき、道具をかたしているとき、着替えをしているとき……。
 余談ですが、最近すっかり、肌を露出しないで体操着を着替える術に熟練してしまいました。よいしょ。
 でもブルマを脱いだ後、スカートをぱたぱたさせるのはやめましょう、松原さん。
 はっ。今もまた、良からぬ視線を感じました。
 いけません。引き締まった太腿も、あまりボリュームのない胸も、
 はてはほっぺたの絆創膏にいたるまで、松原さんの全ては私のものです。
 この姫川琴音、格闘術こそ初心者ですが、それを補ってあまりあるサイキック能力があります。
 どれだけ上手に隠れてようと、お見通しです。
 ――ピキーン☆ そこっ!
「きゃあっ!?」
 ふっ、見て下さい、松原さん。ストーカーですよストーカー。よく見れば男みたいだけど女の人じゃないですか。
 これは明らかに変態ですね。警察に突き出す前に、多少ヤキでも入れて……
「好恵さんっ!?」
 そう、好恵さんにヤキを……って、え? 知り合いですか?
 松原さん、友達は選んだ方がいいですよ。
 たとえば長髪で清楚なちょっと影のある超能力美少女とかおすすめです。
 優しいのはいいですが、ストーカーにまで優しくするのはちょっと。
「誰がストーカーよっ!」
「あ、あのっ、いいんです、下ろしてあげてください」
 ……松原さんがそういうなら。
「え、えーと、それでですね、こちらは坂下好恵さんと言って、私の道場での先輩なんです」
 それがなぜ、夜な夜なストーカーのような真似を。
「ちょ、ちょっと心配だから、様子を見に来ただけよっ」
 ピキーン☆ またも直感が走りました。この人は危険です。
 気をつけてください、松原さん。
 きっと寝技の練習とか言って押し倒して色々なところを触りまくったり、
 果てはPS版では見せられないような行為にまで及ぶ可能性があります。
 今すぐ縁を切るべきです。さぁ切りましょう。すぐ切りましょう。
「葵……友達は選んだ方がいいわよ」
 | トゝ゚ ヮ゚イl なんだと。

うたわれるもの支援物資 ○クーヤ・アルルゥ戦

『もしも二人が出会っていたら、こんな感じの会話になっていたのだろうか』


クーヤ 「おおハクオロ、来たか。……なんだ、その娘は?」
アルルゥ「ん〜」
ハクオロ「あっ、アルルゥっ!? ついてきてしまったのか?」
アルルゥ「おとーさん、こそこそしてたから、なにか一人で食べるのかと思った」
ハクオロ「私はそんないやしんぼかっ!?」
クーヤ 「ほぅ、ハクオロの娘か」
ハクオロ「え? あ、いや、ちがっ」
クーヤ 「すでにこのような大きな娘御がいるとは、さすが好色皇の名は伊達ではないな」
ハクオロ「誤解が誤解をっ!?」
アルルゥ「……こうしょく?」
クーヤ 「うむ。女性をたくさん周りにはべらしている男のことだ」
アルルゥ「女の人、周りにいっぱいいる」
クーヤ 「そうであろ」
ハクオロ「……もう好きにしてくれ」

クーヤ 「ふむ。そなたはアルルゥというのか。余はクンネカムン皇、アムルリネウルカ・クーヤという」
アルルゥ「あむる……なに?」
クーヤ 「クーヤでよいぞ」
アルルゥ「ん」
クーヤ 「そなたは周りに母君がいっぱいいるのか。賑やかでよいな」
アルルゥ「おかーさんは、いない」
クーヤ 「……それはすまぬことを聞いた」
アルルゥ「でも、おねーちゃんなら、いる。いっぱいいる。友達も」
クーヤ 「そうか……。それはよかった。余には両親も姉もおらぬ。友なら……一人、おるがな」
アルルゥ「一人だけ?」
クーヤ 「うむ。一人だけだが、一人でも十分なくらいの友だ」
アルルゥ「たくさんいた方が、楽しい」
クーヤ 「そうかもしれぬがな……」
アルルゥ「ん」
クーヤ 「む? なんだ、これは?」
アルルゥ「蜂蜜」
クーヤ 「ふむ? 余は液状のものしか見たことがないが、
      こちらの地方では、変わった形をしているのだな……うむ。良い味だ」
アルルゥ「もっと食べる」
クーヤ 「よいのか?」
アルルゥ「なくなったら、また取ってくる」
クーヤ 「ほぅ、アルルゥは、蜂蜜取りの名人か」
アルルゥ「ん」
クーヤ 「よし、アルルゥが大きくなったら、蜂蜜代官に任命して、余に献上してもらおう。
      そうすれば、いつでもこれが食べられるな」
アルルゥ「だめ」
クーヤ 「……余に仕えるのは、嫌か?」
アルルゥ「仕事はいや。欲しければ分ける」
クーヤ 「む……そうか、すまぬ。そうだな、そうしてくれ」
アルルゥ「ん。友達には、あげる」
クーヤ 「では今度からハクオロに会うときは、アルルゥにも来てもらおうか。
      余も次はサクヤを連れてこよう。蜂蜜のお礼に、南方から献上されたお菓子も」
アルルゥ「お菓子?」
クーヤ 「うむ。旨いぞ」
アルルゥ「いつくる?」
クーヤ 「そうだな、月がもう一巡りするころ……」

ハクオロ「(´-`) .。oO(なにげに精神の波長が近いのかもしれんなぁ、この二人)」
クーヤ 「みよ、アルルゥ! これが我がクンネカムンが誇る秘密兵器、アヴ・カムゥだ!」
アルルゥ「お〜」
ハクオロ「っていいのか、そんなもん見せてっ!」



 アヴ・キャロット。それはかわいい制服とオーナーと、威圧感溢れるアヴ・カムゥが有名なファミリーレストラン。
 そのチェーン店がトゥスクルにも開店した。もちろんオーナーはクーヤ様だ。
 はたしてまともな店になるのか、不安に思ったハクオロは、ちょっと覗いてみることにした。
クーヤ 「おお、良く来たな、ハクオロ」
ハクオロ「いや、そこは『いらっしゃいませ』だろう。恰好通り、ウェイトレスらしくふるまってくれ」
クーヤ 「余はオーナーだぞ。引かぬ、媚びぬ、省みぬ」
ハクオロ「そんなんでやっていけるのか、この店」
クーヤ 「クンネカムンでは大好評だったぞ。そんなことよりせっかく来たのだ、なにか食べていくがよい」
ハクオロ「あ、ああ。そうさせてもらおう」
クーヤ 「うむ。サクヤ、お冷やとおしぼりとメニューだ」
サクヤ 「は、はい、ただいまぁ〜。お待たせしましたぁ」
クーヤ 「さて、ハクオロはなににする?」
ハクオロ「いや、なんでクーヤまで座っているんだ」
クーヤ 「うむ。少々小腹が空いたのでな」
ハクオロ「そういうことでは……まぁいいか。ん? ……なんだこれ」
クーヤ 「おお、目が高いな。アヴ・カムゥの姿焼きは、当店自慢のメニューだぞ」
ハクオロ「食べられるのか、あれ!?」
クーヤ 「知らぬのか。海から上がってきたばかりの若い奴は、殻も柔らかく身も甘いのだ」
ハクオロ「そうだったのか……」(※嘘です信じないでください)
クーヤ 「ではサクヤ、これのランチセットを二つと、後は桃果汁の絞り汁を」
サクヤ 「かしこまりました。ごいっしょにフライドモロロはいかがですか?」
クーヤ 「うむ。それももらおうか」
ハクオロ「あのー、私の意志は?」

クーヤ 「どうだ、旨かったであろ」
ハクオロ「いや旨かったが、なにか期待していたのと違う。こうほら、クーヤがもっときゃるーんとかそういうのを」
クーヤ 「妙な視線で余を見ると、帰り路でゲンジマルに急襲されるから気をつけよ」
ハクオロ「き、気をつけよう。では、私はそろそろ」
クーヤ 「うむ、達者でな。余は接客で疲れたので休ませてもらおう」
ハクオロ「あれが接客だったのか……」
サクヤ 「ありがとうございました。合計で銀15枚になります」
ハクオロ「……あれ? たかられたっ!?」



「サクヤ、どうして余は垂れ耳なのだ?」
「え、えぇと……すみません、私にはよく分かりません」
「サクヤもゲンジマルもヒエンもハウエンクアも、立派にぴんと立っておるのに、
 なぜ余だけ耳がたれているのだろうか……」
「あの、でも、えぇと、えぇと、とても……」
「なんだ、はっきり言うが良い」
「あの、とても可愛らしいと思います」
「……」
「すっ、すみません、私ってば失礼なことをっ!」
「いや、よい。……そうなのか?」
「私は、そう思いますけどぉ……」
「そうか、そうなのか……ならば、サクヤも垂れ耳になってみるか? ほら、ちょっとこっちに来るがよい」
「あ、ちょっと待って下さい、クーヤ様っ! あひゃ、くっ、くすぐった……」
「ほらほら、サクヤも可愛くなったぞ」
「か、からかわないでくださ〜い」
「む? するとサクヤも余をからかっていたのか?」
「い、いえ、そんなことはっ」
「そうであろ。余もからかってなんかいないぞ。そうだ、ハウエンクアみたいに、耳に重りを付けてみてはどうか。
 そうすれば、いずれサクヤも垂れ耳になるかもしれぬ」
「飯!(´ワ`;iゝミ か、かんべんしてくださ〜いっ、耳に穴を開けるのだけはっ」
「むぅ、せっかくお揃いになると思ったのだが」
「探せばきっとどこかには、垂れ耳の人もいますよ」
「そうであろか……」

 そしてトゥスクルにて。
「ほらほら、いっぱいいらっしゃいますよ、クーヤ様」
「おおっ! エルルゥにアルルゥ、それにエヴェンクルガの戦士まで」
「双子さんも垂れ耳っぽいですねぇ」
「ハクオロよ、ここは垂れ耳の桃源郷か!?」
「いや、多分違うのではないかな」

 

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