『カウントゲット記念:パラレルこぼれ話』
『Z再び』
:後編
(私にもっと能力があれば・・・)
さっさとあの男などもっと早くはね除けていただろうに。
自分の不甲斐なさにひたすら腹が立つ・・・。
カルロは蘭世を連れ、想いが池の魔法で自分の屋敷へ戻っていた。
カルロも肩に傷を負っており、相当痛むはずだが・・・
蘭世のことを思い、神経をはりつめているせいか気を失わず正気を保っていた。
「ダーク様!」
ベンが二人が現れた部屋に駆け込んでくる。
受信機のマップで遠い城にあった蘭世の居所を示す赤い点滅が、いきなり
カルロ家の屋敷に移ったのだからベンも慌てた。
そこは・・カルロの私室だった。
部屋の中央に、濡れ鼠になったカルロがこちらへ背を向けて座り込んでいた。
その右肩あたりから、ワイシャツが真っ赤に染まっている。
「お怪我を・・!肩を見せてください」
ベンは戦慄し、傷の状態を見ようとカルロに駆け寄った。
重篤な傷であったら一大事・・とベンはカルロの肩に手を触れようとした。
傷の状態を見ようとしただけなのだが・・
カルロは荒っぽく腕を振りその手を払いのけた。
「触れるな!!」
誰をも、蘭世に近づけたくない。
そして、今の情けない自分にも近づいて欲しくない・・・
そしてカルロは自分の肩にある傷もそのままに放置しておきたかった。
その痛みは・・・自分への戒めにも感じられていた。
ベンはその場でビシッとかしこまり、一礼をする。
「失礼しました・・着替えとタオルをすぐお持ちします」
ベンはすぐに次の行動を起こす。
バスルームに駆け込み棚からバスタオル数枚を取り出した。
(助けてこられたのだな・・無事かどうかはわからないが)
蘭世のバスローブも用意する。
身体はカルロのかげで見えなかったが、白く細い素足が床にのびているのがベンの目にも映っていた。
(救急箱はデスクの下にあったな)
そうしてバスルームから出ようとしたとき・・ドアが開いてカルロが現れた。
蘭世はソファに横たえてきたらしい。
「湯を張ってくれ」
「・・・かしこまりました」
ベンはカルロにタオルとバスローブを手渡すと湯をためにバスタブのそばへ行く。
暖かい湯がでてきたのを確認すると、ベンは一旦部屋に戻った。
ソファで眠る蘭世にバスローブを着せかけ、カルロはそのそばに跪いて座っていた。
そして、じっと蘭世の様子を見ている。
ベンは慎重にカルロへ声をかける。
「ダーク様・・部下としてお願いします。どうか肩の傷を手当させてください。もしダーク様の肩に
後遺症が残れば私が皆に責められます」
「・・・あとでいい」
「ですが処置が遅れると完治するのも遅くなるのでは・・」
「・・・黙れ!ベン=ロウ」
「申し訳ありません! ですが・・・」
ベンはカルロの傷が心配なのだ。だがこのまま真っ直ぐ言っても聞きはしないだろう。
・・・そこで少し変化球を投げてみる。
「では・・・風呂に入る間は防水テープで保護させてください。
むき出しの傷では蘭世様もご心配なさるでしょうから」
・・・これにはカルロも承諾をした。
ベンは手際よく傷を消毒しガーゼを当て、幅広のテープを上から貼り付ける。
(・・・縫合が必要かも知れない)
傷を見ながら・・・ベンは次の対応を考えていた。
カルロは蘭世を抱えて温かい湯を張ったバスタブに入る。
冷え切っていた身体を暖めてやりたかった。
身体を湯の中に入れると・・浮力で細い身体は湯の中ほどで少し浮いていた。
そうしている間も・・彼女は目を開くことはなかった。
やがてバスルームからカルロは蘭世を連れて出る。
蘭世には首元の詰まった・・肌の露出をなるべく避けた長袖で立て襟のネグリジェを選び
カルロがそっと着せていく。
陽はすでに落ち、夜であった。
翌朝。
朝の光が射してもまだ蘭世は目覚める気配を見せない。
そしてさらに陽が高く昇っても・・・。
かがされた薬のせいか、と一瞬考えたが、それにしても時間がたちすぎていた。
カルロの肩の傷は・・・再びベンに説き伏せられ
昨夜のうちにきちんと処置がなされていた。
きちんとスーツを着込んだその姿からは、昨日負った傷が連想できない。
「ランゼ・・・」
カルロはそっとベッドヘッドに手を掛け、その寝顔をじっと見つめる。
不安で膨れ上がる心を抑えつつ・・・蘭世の桃色をした柔らかい頬に触れた。
(ランゼは目覚めるのが辛いのかも知れない。
自分に起きた忌まわしい出来事を思い出さなければならないから・・・。)
ふいに昨日の光景を記憶に呼び起こしてしまい、カルロはふるえる拳で壁をたたきつける。
(畜生!Zの奴 Zの奴・・・!)
薬に操られていたとはいえ。
Zの手の中であの蘭世が見せる女の表情に・・・カルロは荒ぶる感情を抑えることができない。
カルロの心がどす黒い嫉妬で浸食されていくのだ。
「くっ・・・!」
(ランゼはわたしのものだ それを・・・!)
たたきつけた壁によりかかり肩で息をし、うなだれる。
(・・・)
(ランゼも、辛かったに違いないのだ。
そして、だからこそこうして外界を遮断している・・・)
それに思い当たったカルロは、俯いていた顔をつと上げた。
そして・・ベッドの上にいる蘭世を見つめる。
目覚めは辛いかも知れない。
それでも、それでも目覚めてほしい。
私の勝手な願いと言われても構わない。
カルロは未だ目を開かない蘭世を抱き起こした。
その腕の中に包み・・カルロも静かに目を閉じその頬を寄せる。
「ランゼ、目覚めてくれ・・・私のために」
思わず、そうつぶやく。
お前のどんな感情も受け入れよう。
心の痛みも私にぶつければいい。
だから、だから・・・。
カルロは蘭世の手を取り、手の甲に口づける。
・・・蘭世の指にはめられているあの”指輪”が 一瞬鈍い光を灯したように思えた・・・
「うーん・・・」
「ランゼ!」
大きな黒曜石の瞳が、ぱっちりと開いたのだった。
「わっ!アップ!!」
カルロの腕の中・・・蘭世は突然間近にカルロの顔を見たためか驚いて大声でそう言い・・
顔を真っ赤にしている。
(よかった・・・!)
カルロは安堵の表情で思わず蘭世を自分に引き寄せ・・・抱きしめる腕に力を込めた。
とにかく蘭世は目覚めたのだ。
目覚めさえすれば、心のケアだっていくらでもできる。
蘭世が平穏な心を取り戻すためにはどんなことだってしようとカルロは心に誓っていた。
・・だが。
「ねねっ、どうしたのカルロ様?おかしいよ・・・?」
蘭世はのんびりとした声で、そう言うのだ。
(!?)
カルロの顔色が変わる。
カルロはいちど蘭世の両肩に手を置いてそっと引き戻し・・・その顔をのぞき込む。
蘭世はきょとんとしていて・・彼女の表情のどこにも、昨日降りかかった悪夢のかけらが見つからない。
「覚えて・・いないのか?」
カルロは真剣な顔で・・慎重に問いかける。
「え?何を?」
蘭世からの返答は、そしてその声色は・・・全く平穏そのものだった。
「きゃ!私ったら無断外泊しちゃったの?いやーん」
あまつさえ顔を真っ赤にして嬉し恥ずかしな表情。そして両頬に手をあて見当違いなことで焦っている。
・・・悪夢の記憶が、抜け落ちたらしいのだ。
(自らの辛い記憶に蓋をしてしまったのだろうか・・・)
だからといってカルロは素直に喜ぶことは出来ない。
何かの拍子に悪夢がフラッシュバックしないかとそれが気にかかって仕方がないのだ。
(膿は早く出した方がいい)
「ランゼ・・眠る前のことを、覚えているか?」
カルロは敢えてそう問いかけてみる。
「え? えーっとお・・・」
人差し指を顎にあて、視線を上に泳がせながら真剣な顔で蘭世は考え込んでいた。
だが、次の瞬間ぱっ、と表情を明るくさせる。
「思い出した!学校の帰りにカルロ様のお屋敷に来て・・
テーブルにあったジュースを勝手に飲んじゃったの!」
(・・・なんだそれは?)
また両頬に手を当ててすまなさそうな顔をする蘭世。
「勝手な事してごめんなさい・・あんまり喉が渇いていたからっ。
そしたら急に眠たくなっちゃって・・・で、今起きたところなの!」
記憶が無くなったにしてはおかしすぎる。
昨日、蘭世はここ数日学校になど行っていない。
蘭世は屋敷でずっとカルロと居たのだが、事務所襲撃でカルロがやむなく屋敷を出た隙に
連れ去られたのだ。
記憶が無くなった、というよりすり替わった というのが正しいだろう。
(どういうことだ・・????)
カルロは返答することも出来ず、あんぐりとくちをあけたまま蘭世を見つめている。
「やっ やだなぁ怖い顔しちゃってぇ・・・そんなに危ない飲み物だったの?」
蘭世が再びすまなさそうな困ったような顔をしてそう聞いたとき。
カルロには蘭世の指にある”あの指輪”がこちらへメッセージを送るかのように短く瞬いていたように見えた。
蘭世が頬に当てている小さな手でそれは光っている・・・
「いいや・・・ただのブランデー、だよ」
カルロは少し、表情を緩めた。
「一気に飲むとアルコール中毒を起こすこともある・・・気をつけるんだな」
「ひええー。ごめんなさい!」
記憶がすり替えられたというならば、それは歓迎しよう。
では 身体に残されていた”痕”は・・・?
カルロには確かめておきたいことがまだまだあるのだ。
「ランゼ。目覚めて良かった・・・」
「えっ・・・んぅっ」
次の瞬間には唇を奪い・・ベッドの上へ押し倒す。
愛をささやいて、耳元に口づけをおとしながら。
蘭世の胸のボタンをさりげなく・・ひとつひとつ外していく。
恥ずかしそうに瞳を閉じている表情を確認して・・・胸元をひろげる。
(・・・こっちは消えていないのか・・・)
ならば私がつけたことにするまでだ。
痕を消し去るような芸当は私には出来ない。
ならば、もっと情熱的で温かい”赤”をおまえに与えよう。
「・・・あ・・うんっ・・・」
カルロはいつも以上に丁寧に丁寧に蘭世の身体へ触れていく。
肩の傷が痛むこともいとわずにその愛の営みを続けていく。
「ううんンっ・・」
敏感な部分に触れると漏れ聞こえてくる声。
(・・・)
その声に・・ついカルロは昨日の悪夢を・・蘭世のあやつられた嬌態を思い出す。
それを彼女が覚えていないことに大いに安堵しているが、ほんの少し・・・
何故か腹立たしいような、悔しいような思いが残っている。
蘭世の敏感な部分には・・しっかりとあの男の痕跡が残っていた。
別の男が蘭世の身体を知っていた。それを思うだけでもう血が沸騰しそうだった。
その痕跡を、カルロが上から覆い尽くさなければならないのだ。
(屈辱だが 耐えよう・・・ランゼの幸せのために)
あの男はランゼを貪ったが、私は違う。
私は、ランゼに愛を与えるのだ・・・
私にくれる温かい笑みを守るために。
うつぶせた蘭世の背中・・天使の羽根の付け根に、悪夢が残る痕の上からも口づける。
一瞬、蘭世を輪姦しているようなおかしな感覚に囚われカルロは軽く頭を振った。
そして、気を取り直し、薔薇の花びらを散らす為にその場所を強く、吸う・・・
「ひぁんっ・・・!!」
びくんと見えない羽根を震わすように蘭世の身体は跳ね上がる。
「あっ・・・あっ・・あぁ・・」
敏感な箇所を強く吸われ、すこしの痛みと共にやってくる長く続く快感に蘭世は悶え、唇はわななき
長い黒髪を振り乱す。
「も・・・おねがい・・やめっ・・あっ・・だめぇ・・」
蘭世はたまらなくなり思わずその言葉が漏れる。
「も・・気が変に なりそう・・っ!!」
その言葉にカルロはくすっと含み笑いをする。
(そうだ・・ここ・・とそれから・・・)
唇でその背中のラインを辿り、脇腹から臍のあたりまで巡っていく。
首筋にも 胸元にも、鳩尾にも・・・すでにカルロの残した赤い濃い花びらは散らばっていた。
「やっ・・!」
そして、カルロは蘭世の足を押し広げ、すでに濡れそぼっている秘所にも唇をつけ・・舌を這わせ出す。
(そうだ・・ここは 私が力で守ったのだ・・・)
「うんんっ・・・あぁんっあぁぁっん・・・」
先ほどからの甘い声に何かなまめかしい色が一層加わっていく。
じらすように。
わざと敏感な箇所は外して。
花びらを口に含み、甘噛みして舌でなで上げる。右も、左も じっくりと・・・
でも、中心には触れない。
蘭世の呼吸が一層早くなり・・・そこはひくついて愛液を蕩々とあふれ出させる。
(お願い・・・私に触れて・・・私の・・・そこ に・・!早く!)
純情な蘭世でさえもそう思わせてしまうカルロの上等な愛撫であった。
でも、蘭世は恥ずかしさが勝ってそれを口にだせず・・未だに、いつも身悶えするだけである。
急にカルロの唇が離れ・・・指がそれに変わる。
やはり周りを巡っている。
その指もあっというまにぐっしょりと濡れてしまう。
指はそこへ添えたまま、カルロは枕元まで上がってきた。
・・包帯を隠すためか、カルロはまだ服を着込んだままだった。シャツでは透けて見えるからと
上着すら脱いでいない。
生まれたままの姿の蘭世とは対照的だ・・・
真っ赤になってなまめかしい表情を見せる蘭世の頬に指を滑らせる。・・・片手は愛撫を止めない。
「カルロ様・・・」
潤んだ目で蘭世はカルロを見つめ・・・その金色の髪に両手を伸ばし しどけなく撫でる。
おねがい・・・とその目は訴えている。
そう、求め 求められてこそ、愛の営みなのだ・・・
あの男とは 私”たち”は違うのだ。
カルロは蘭世の足の間に割って入ると、素早くスラックスから熱く猛った自身を引き出し
蘭世の潤んだそこへぐっとあてがい・・中へと侵入させていく。
(と・・・熔ける・・・)
蘭世はその”いつも”幸せであることに悦び、
カルロは”かけがえのない”幸せを守ることに喜びを感じる。
そしてそんな思考もできなくなるほどの熱い感覚に巻き込まれていく。
ふいにカルロは伸びていた白い右足に手を掛け、その膝を曲げて抱え込ませるようにする。
さらに奥深くつながり・・蘭世の喘ぎ声が強くなっていく。
もっと、熱く。
もっと、深く。
(!!)
声にならない声を上げ、蘭世が先に達する。
その内部の締め付け痙攣する動きにあわせ・・カルロも思いを遂げた。
白いシーツの上に身を投げ出し恍惚となっている蘭世を眺め・・その熱い頬に口づける。
これからも危機にさらされることは幾度と無くあるだろう。それでも。
なんとしても。
この幸せだけは 守り抜く。
カルロは、そう 改めて決意したのだった。
end
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あとがき。
後編のまとめをどう持っていくかでずいぶん悩みました。
で、”今回は”『ときめきトゥナイト』から派生したお話なので
やんわりと、
蘭世ちゃんには不幸は似合わない・・・なんつて。
そんな路線で行ってみました。
(ご都合主義とは言ってはいけない(爆))
・・・このお題、大変楽しませていただいております。
余裕があればバージョン違いが書きたいです・・・
(中編も、後編も(笑))
マーヤ様、カウントゲットの記念に ご笑納ください。 悠里
冬馬の棺桶へ