『悪戯か、お菓子か』:カルロ様聖誕祭:はみ出し版
木の葉舞い落ちる秋のルーマニアの街道を、滑るように走る高級車。
(・・・)
カルロは某マフィアの屋敷からの帰り道だった。
カルロはなんとなく外へ視線を泳がせていると
石畳の歩道を、子供達が4〜5人ずつで連れ立って歩いていくのがその目に映った。
いつもと何かが違うのは
皆、不思議な格好をしている事だった。
皆手に杖と袋を持ち、意気揚々と行進していく。
猫娘。フランケンシュタイン。
骸骨。
ジャック・オ・ランタン。
そして・・・三角帽子を被り黒マントの魔法使い。
その魔法使い姿の子供を見て、カルロはくす・・と笑みを漏らす。
少し、苦笑しているのだ。
何故かと言えば・・
カルロ自身も、実は今同じ格好をしているからだった。
有名な某魔法使いの映画に出てきそうな三角帽子に
古びた黒マント。
そして、彼の座っている席の隣には、キュートな吸血鬼の姿はなく
代わりに特大・中・小と3サイズのジャック・オ・ランタン
(かぼちゃでつくったおばけちょうちん)が仲良く転がっていた。
カルロは懇意にしているマフィアでのパーティに出席したのだが
付き合いでやったカードゲームでの罰ゲームでこの格好となったのだった。
カルロはまともに勝負をするといつも勝ってしまうから
(相手に敬意を表して)わざと負けたりするのだが、たまたま負けたときの
罰ゲームを、招待主のボスが急に思いついて
『今日の万聖節に相応しい物を』と言い出し 負けたカルロがこの格好となったのだった。
『今日一日はこの格好で過ごせ』
『ジャック・オ・ランタンを正面玄関に据えておけ』
周囲からゴッドファーザーと呼ばれている招待主・・勿論ボスである・・は、
たまにこういった余興を考える。
日頃は人望篤く、厳しい男だし皆頭が上がらないのでそのお遊びにカルロですらつきあう・・・
パーティから退席するときは、ハリー・ポ○ターよろしく黒縁の眼鏡まで渡されていたのだが
それはさすがにカルロも外していた。
いつも涼しげにすました男に、面白い格好をさせることができて
周りの皆はさぞかし楽しかったことだろう。
『本当は猫の鼻と髭でもつけて欲しかったんだが用意が無くてねぇ』
そう言って十分に年老いたそのゴッドファーザーは楽しげに笑っていた。
(あの悪ふざけの悪癖がなかったら 完璧に誇れる男なんだが・・・
まあ、こんな余興で遊んでいる間は マフィアも平和だと言うことか)
ドアに肩肘をつき、カルロはまた苦笑し、ふーっと ため息をついた。
屋敷に着くと、部下に指示をして大人でもやっと抱えられるくらいの
特大ジャック・オ・ランタンを玄関前に据えさせる。
何も全て言いなりにならなくても良いのだが、カルロなりにゴッドファーザーには
敬意を払っており律儀に約束を守っている。
「おかえりなさいませ」
恭しく頭を下げて居並ぶ部下達の前に、魔法使いコスプレのカルロは
いつもと変わらない凛とした表情ですっくと立つ。
部下の方は平静を装っているものの内心ドキドキである。
(あんな格好させられて、ボスは内心はらわたが煮えくり返っているのでは・・・!?)
まさかと思うが、もしとばっちりを食らったら大変である。
いつもより3割り増しに丁寧に応対をせねば・・とそれぞれの心に思っていた。
三角帽子にマント姿のカルロは足取りだけはいつものように凛として屋敷へと入っていった。
ここにひとつ 問題があった。
「おい・・もうすぐ蘭世様がこちらへ来られると 連絡があったぞ」
「ボスもあんな姿を蘭世様には見られたくないんじゃ・・・?」
ボスを見送った後の部下達が顔を見合わせて相談をしている。
「じゃあ、今日はボスは都合が悪くなったからとお引き取り願うか?」
「いや、ボスに一度尋ねてからどうするか決めるのが筋だろう」
「こんにちはーみなさーん! とりっく おあ とりぃーとぉ!!」
突然、拍子抜けに明るい声が部下達の背後であがった。
「・・・!」
部下達が一斉に振り向くと、蘭世がにこにこしながらそこに立っていたのだった。
「蘭世様、お早いお着きで・・・」
「カルロ様もう帰ったカナ?!」
そして、部下達の視線を一身に浴びたその彼女の姿は・・・
「ねね、とりっく おあ とりーと!」
元気そのものの声で蘭世は万聖節の呪文を唱える。
部下の一人が困った顔をしながらすまなさそうに蘭世に声をかけた。
今部屋に行けば 間違いなく珍妙な格好のボスとご対面なのだ。
「あの すみません ランゼ様 、もう少しお待ちいただけますか 実は・・」
「あーっ お菓子くれないのねっ じゃあ もう私いたずらしちゃーうう!」
どうやら蘭世はお祭り気分でとっくにハイになっているらしい。
部下にはただ声をかけたかっただけで、その言うことは初めから全く聞く気がないようだった。
今日は それが子供達に許される、唯一の日だから。
蘭世はひらりひらり、と制する部下達をかわして屋敷内へ入っていく。
部下の方も蘭世に無礼は出来ないのでいまいち動きが鈍い。
「とりっく・おあ・とりーと!」
◇
『家の中でも絶対に帽子を外すなよ!!』
(・・・・)
カルロは私室でひとりソファに座り・・帽子も取らずに腕組みをし足も組んでいる。
彼の隣には、やっぱり吸血鬼の彼女ではなく 八百屋で売っているようなお手頃中サイズの
ジャック・オ・ランタンが座っていた。
野球ボールサイズのいちばん小さいそれの方は、テーブルの上にいて魔法使い姿のカルロを
おどけた顔で見上げている。
(今日は私の方があのヒヒオヤジに呪いの魔法をかけられたようだな)
以外と上下関係に律儀なカルロは、言われたとおりに帽子もマントもとっておらず
ひとり呪いにかかったままソファに沈み込んでいたのだ。
(さて あとどのくらいつきあってやろうか・・・)
カルロが考え込みながら足を組み替えたそのとき。
「カルロ様ーっ とりっく おあ とりぃーとぉ!」
ノックもせずにその声は勢いよく扉を開け放ち飛び込んできた。
ローテンションになっていたカルロは彼らしくもなくその元気もりもりな声に驚く。
「ランゼ・・!」
カルロはソファから弾かれたように立ち上がり・・ランゼを見つけると笑顔で彼女を迎えた。
そしてお互いの格好を見れば。
「あれぇー!!カルロ様と私 お揃い〜!!」
蘭世の方は赤紫。カルロは漆黒。
色は違いこそすれ三角帽子に魔法使い装束とマント、
蘭世の方はご丁寧に猫の鼻とヒゲまでつけている。
蘭世は嬉しそうな顔で カルロを指さす。
「やーん お揃いで嬉しいけど・・カルロ様もう大人でしょ?!」
どうしたの、と問いかけられたけどカルロはニコニコと微笑むだけで答えない。
そしてカルロは内心ほくそ笑む。
「ランゼ。 Trick or Treat!」
「やーん 違うのっ それは私の台詞よー!」
先を越されたような気がして蘭世は少しむくれる。
「それにカルロ様はもう大人じゃなーい!」
そう言った途端。
蘭世の身体がふわり・・と宙に浮いた。
「きゃ!?」
「ランゼ、私は本物の魔法使いだよ」
アブラカダブラ!と彼らしくもなく呪文を唱えれば
蘭世の猫鼻ひげの飾りをとりつけていた輪ゴムが耳から勝手に離れていく。
「わわっ」
慌てて落ちていく飾りを拾おうとして蘭世は手をばたつかせたが、
空しくそれは蘭世の足元から更に下20センチ下の床に着地。
「そんな猫ヒゲをつけていたらキスが出来ない」
ふわふわと 宙を漂い 蘭世はカルロの元へ引き寄せられ・・彼の両腕におさまる。
「ランゼ。悪戯か、菓子だ。」
「ええっと・・・・あの・・・・・」
抱き留められて真っ赤になった蘭世をカルロは楽しそうに見上げる。
蘭世は自分の右手に握られた袋にちら と視線を送る。
中にはキャンディが・・・
だが、カルロが本物のお菓子を欲しがるわけがない。
「お前がお菓子になるか?それとも悪戯しようか」
「え・・・ええっ??」
言われた意味がよくわからず 蘭世は数秒目を白黒させていた。
だが、やがてその言葉が頭に浸透して・・・
「きゃーっ カルロ様っ ひょっとしてそれどっちもおんなじ意味じゃない!?」
「ランゼもよくわかってる」
カルロは笑顔でそう答えながら部屋の中を移動していく。
入り口から 奥の部屋へ向かって・・・
「それに だってカルロ様 これは子供のお祭りで・・・」
そう蘭世が言い返すと、蘭世の背中でぷつん、と音がした。
「きゃ・・!!」
慌てて蘭世は両手でふいに頼りなくなった服の下の肩紐を押さえる。
ブラの背中のホックを、魔法?で外されたらしい。
「やーんもう!!」
「おまえだってもう子供ではないよ」
カルロはもう当初の予定より早く自分の変装を解く気になっている。
片手で蘭世を抱き上げたままもう片方の手で被っていた自分の帽子を取り払う。
そして、また”魔法使い”はその不思議な力で 寝室のドアを開ける。
居間に取り残された親子のような中、小のカボチャ達は
やっぱりおどけた顔で ただただお互いを見合っているのだった。
◇
「うう・・・んん・・・」
広いベッドの上で 甘い口づけ。
濃厚なキスで 恥じらっていた蘭世も次第に心溶かされていく。
今日のカルロは魔法使いな気分らしい。
蘭世の帽子も、魔法装束のボタンも、マントの紐そしてその下の制服のリボンも
するする するすると
手もかけずに解き 取り払っていく。
「・・あっ」
耳に口づけを受けたとき 蘭世は思わずビクン!・・と身体を震わせる。
その拍子に・・いつまでも握っていた右手の袋がついに手から離れ
ばらばら・・ と中身がシーツの上にこぼれ広がった。
それは、キャンディ。
可愛いセロファンに包まれた小さな色とりどりの丸い粒。
「あっ ごめんなさい・・・」
片づけようと身を起こす蘭世をカルロは制し、その一粒を手に取った。
セロファンを拡げると、ピンク色。
カルロはそれをポイ、と自らの口に入れるとその他のキャンディに構わず
また蘭世に覆い被さる。
(あ・・・っ)
唇を深く重ねて。カルロの舌が蘭世の口の中に甘い粒を押し込んでくる。
甘ずっぱいラズベリーの風味が蘭世の口一杯に広がる。
カルロの舌も、蘭世の口の中で 蘭世の舌と一緒になってそれを味わっている。
溶けて・・その甘みは 媚薬のように蘭世の心をさらに甘く溶かしていく。
彼女の唇の端から 甘い滴が一筋こぼれ落ちる・・・
いつしか全て取り払われ蘭世は素肌を空気にさらす。
まだマントをつけていたカルロ。それは悪魔と彼に魅入られた生け贄の娘のような風景。
甘い吐息を漏らす彼女を目で愛でながら
やがてカルロも自分のマントを取り払い、ゆっくりとネクタイを緩めていく。
再び甘みの残る蘭世の口へ唇を寄せ・・・裸の素肌を重ねる。
ベッドの下でも、蘭世のマントに覆い被さるように カルロのマントが重なり落ちている。
カルロはやがて 甘い滴をたたえるもう一つの場所へ指を滑らせる。
「ああぁ・・っ」
蘭世は一層強く身体を震わせ・・身体を仰け反らせる。
カルロが向かうのはその蜜のありか。
蘭世の足の間に顔を埋め そこへ舌をしのばせる。
「いやぁぁんっ そんなぁぁっ カルロ様ぁっ・・」
(恥ずかしいよぉ!)
長くて器用な舌が 蜜壺深く沈み込み蠢く。
蜜蜂に刺激された花のように 蘭世は身悶えながら一層蜜を溢れさせるのだ。
抱き合うたびに何度もそこへ口づけされても蘭世は一向に慣れない・・
蘭世の吐息もたちまちに熱く、そして甘く乱れていく。
カルロはやがて堪能したのかそこから唇を離し・・喘ぐ蘭世の耳元へ帰ってくる。
「美味だよ・・もっと味わいたい」
そう一言囁くと カルロは蘭世の腰を抱え込み、蜜の溢れ滴るそこへ 熱くなった自身を
深く突き入れた。
「あぁっ カルロ様ぁ・・っ」
思わず蘭世はカルロの広い背中へ細い腕を廻し しがみついていく。
カルロは蘭世の吐息を耳元に感じながら、ゆっくり・・そして時には早く
挿送を繰り返し 彼女を愛でる。
”Trick or Treat..”
ときには魔法猫のように・・
頭の中でそんな台詞が浮かんでくると カルロは蘭世を一度抱き上げ
ベッドの上に四つん這いにさせると再び後ろから突き入れる。
「きゃっ あっ アアアッ・・・!」
ときには魔法猫のように。
蘭世にも雌猫の魂が乗り移ったのか
繋がった腰を高く上げて上体を反らせ顔をシーツに突っ伏して悶える・・・。
その動きに合わせて まだシーツの上に残るキャンディ達が一緒に跳ねて躍る。
二人の熱い吐息が広い部屋を満たし・・やがて蘭世とともにカルロも想いを遂げたのだった。
高みに追い詰められ果てた蘭世は 崩れ落ちるようにベッドに突っ伏し
余韻に浸りながら はあ、はあと息を弾ませている。
その潤んだ視線の先に・・・赤いキャンディが ひとつ。
(あ・・・)
名実共に”甘い”キスを思い出し 蘭世は一層痺れるような余韻を深めていく。
すると、目の前で長い指が蘭世の視線の先にあるそれをつまみ上げた。
「カルロ様・・?」
蘭世が上体を起こしてそのキャンディの行方を見ていると、
カルロは再び包み紙を開いて中身を取り出し 綺麗な仕草でそれを口に含んだ。
フルコースについているデザートのケーキだって 涼しい顔をして優雅に食べるけど
カルロ自身は甘いものが特に好きというわけではない。
ただ・・蘭世がキャンディが好きなことは 知っているらしい。
「もう一粒 どうぞ」
カルロはそう言って蘭世に向き合うと 悪戯好きな視線で蘭世の視線を掬う。
「あ・・・」
小さな顎に長い指が添えられ 再び唇が降りてくる。
二人の甘い万聖節は キャンディの数だけ続くのかも しれない。
end.
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あとがき
とりっく おあ とりーと!
というわけで、ハロウイン(万聖節)にちなんだお話を書かせていただきました。
経緯はと言いますと、新しい当サイト日記のハロウイン仕様をご覧になった
なるとも様が表のオエビにお茶目なハロウインカルロ様を描いて下さって
そこへ萌様の実に素敵な妄想カキコをお寄せ下さいまして
更に私が悪のりしてこういうことに相成ったわけです。
万聖節の日(10/31)も近いですし 思い切ってだだだーっと 書かせていただきました。
思わぬところで お祭りのオマケをこしらえることが出来ました。
イメージを下さった皆様に、改めて感謝です。
悠里
冬馬の棺桶へ