オーク。小型のヒューマノイドである彼らは、ブリタニアに古くから住み着いている種族であり、そして、人類の不倶戴天の敵であることを知られている。
 まるで、粘土細工の豚の顔を歪ませ、なかば崩れさせてしまったかのような、醜い顔を持つ彼らの好物は、人肉。それも、血が滴るような、生肉を好んでいた。それゆえ、人間を捕食しようとするオークたちと、それを防ぎ、かつオークたちを駆逐しようとする人間たちとの抗争は、いままでに数え切れぬほど起こっていた。
 彼ら、巣穴の見張りに立っていたオークたちも、もちろんその他多数のオークたちの例に漏れず、好戦的で貪欲で、かつ残忍な「オークらしいオーク」である。
 それゆえに、見張りの仕事にもまったく真剣味がない。なにせ、ただ見張っているだけなのだから、楽しくない。どうせなら、動物でも人間でもいい。いたぶって遊んでいたい。そう、3匹とも考えていた。
 各々、昼飯がわりに食べたらしい、何か小動物の骨をしゃぶりながら、3匹のオークたちは、見張りの交代時間が過ぎるのを、ただぼんやりと待っていた。
 そのときだ。
 少し離れた場所にある茂みが、がさりと揺れた。
 オークたちは、顔を見合わせると、なにやらオーク語で言葉を交わした。その言葉の意味は分からない。だが、3匹にうち、一番体格の大きな一匹が、リーダー各らしく、残りの2匹に何かを命じているのは、理解できた。
 と、話がついたのだろう。リーダーのオークがその場に残り、他の2匹が、しぶしぶといった様子で、茂みを調べに向かった。
 二匹のオークは、歩きながら、なにやらうなり声をあげている。どうやら、リーダーのオークに対する不平不満を並べ立てているようだ。オーク語とはいえ、そういうときの口調は、人間と変わらない。
 例の茂みまで、あと10mほどの距離を残すのみになっているのに、2匹は気付いた。気のせいかもしれない、だが、何か潜んでいるかもしれない茂みに近づくのは、やはり勇気がいる。2匹の歩みは、ぴたりと止まった。
 「Ahk gah gah!!」
 リーダーオークが、なにやら唸る。さっさと行けとでも言いたいらしい。
 2匹は、安全なところから、命令をするのみのオークに、憎々しげな視線を向けると、しかたない、といったふうに、脚を一歩、茂みのほうに伸ばした。
 その瞬間。
 2つの人影が、オークに向かって駆け出した。
 「やぁぁぁぁぁぁ!」
 「おおおおおおお!」
 リーとタカシ、2人の気合いの声がオークの耳朶をうち、それが脳裏に焼きつく前に。 2人の愛剣は、それぞれ標的としたオークの胴を薙いでいた。
 2匹の傷口から血が噴出し、痛みが神経に伝わる・・・・それより速く。
 リーとタカシ、2人より一瞬遅れて茂みから飛び出したハジメが、青い竜巻と化した。
 ふぉん。
 ひどく涼しげな音をたて、ハルバードという名の死の風が通りすぎた後には。ほぼ体を輪切りにされた、二匹のオークの死体が転がっていた。
 体を回転させ、その勢いにのせ武器を振るい、周囲の敵を切り裂く戦技「ワールウィンドアタック」である。ハルバードのような長柄の武器を極めた、達人級の戦士にしか扱えない技だ。
 3人の連携には、寸部の遅れもなく、2匹のオークは自分が切られたこともわからずに絶命したに違いない。
 だが、それをはっきりと目撃した者がいた。穴の側にいた、リーダーのオークである。しばし呆然と、2匹が崩れ落ちる様を見ていた彼だったが、すぐに我に返ると、巣穴の中の仲間たちに、警告の叫びを上げようと、肺に空気を吸い込んだ。
 だが、しかし。
 「そうはいかないんだな、これが」
 いつの間にか、自分の側に、一人の人間がいることに、オークは気付いた。そして、自分の体に、金色に輝く糸が絡まり、全身が完全に麻痺していることにも。声を上げようとしても口が動かないのでは、もれるのは微かな唸り声だけである。
 もちろん、この「パラライズ」の魔法は、密かに忍びよったスッシーの仕業だ。だが、ただ痺れさせただけで、終わる訳がない。
 「ナイス!スッシー」
 フィンは、茂みから飛び出すと、オークを視認すると同時に、魔法の詠唱を開始した。おなじく、同時に走り出したフレイヤも、まったく同じ呪文を詠唱しはじめる。
 魔法の詠唱が進むにつれ、マナがフィンの体内から搾り出されていった。それと同時に、左手に構えたバックラーの表面に彫られたルーン文字が、うっすらと光り始める。魔法の詠唱を補佐し、詠唱速度を速める魔力が込められているのだ。
 その詠唱時間は、一呼吸する間がやっとある程度の短さでしかない。だが、その短い詠唱で、マナはその形を「破壊」の力へと変換されていた。
 次の瞬間。
 「「心よ砕けよ(Por Corp Wis)」」
 二人の魔力は、一匹のオークに向かって解き放たれた。一瞬の間。そして、パラライズの魔法が解けた、その瞬間。
 どさり。
 オークは地面に倒れふした。その息は、完全に止まっている。外傷は、まったく無いにもかかわらず、である。
 マインドブラスト。傷をまったく与えず、ただ心を破壊することによって、相手にダメージを与える魔法である。そのような魔法を二人同時にかけられたのだ。オークの脆弱な精神が、耐えられるはずもない。
 3匹のオークが冥府へと旅立つまで、わずか5秒ほど。一瞬のうちに、かつ静かに、戦闘は終わっていた。
 「さて、見張りは片付いた・・・と」
 フィンはパンパンと手をはたくと、耳につけたイアリングに意識を集中し、心の中で語りかけた。
 (じゃあ、手はずどおり、オークたちに見つからないように、こっそりと行くよ)
 (了解)(うん)(分かった)(OK!)(じゃ、いくか)
 5人5様の返答が、フィンの脳裏に響く。いわゆる、「コミュニケーションクリスタル」といわれる魔法具の応用品が、このイアリングの正体だ。ギルドの仲間たちは、フィンのもつイアリングと魔法的に連結された道具をそれぞれ持っている。形状は様々だが、それを身に付けていれば、どんなに離れた場所にいても、まるですぐ近くにいるかのごとく、心の中で会話をすることができるのだ。
 隠密行動をとらねばならない、今回のような事態には、もってこいの道具といえる。
 (できるだけ静かに、迅速に、捕虜のところに向かって、その安全を確保する。スピードが命だよ、わかった?)
 (それはそれとして)
 突然、スシが言葉を挟んだ。
 (もし、見つかったらどうするのさ?)
 どちらかといえば、そういった事態を期待しているようなスシの言葉に苦笑を浮かべつつ、フィンは断言した。
 (そのときは)
 一呼吸、間をおき、皆の顔を見回すと。
 (僕らの得意技で押し切るのみだね)
 全員の顔に、ニヤリとした笑みが浮かぶ。彼らの得意技、それをもっと具体的に言うとするのならば。
 「力押し」という言葉が、最も適当であろう。
 フィンは、すらりと腰の細剣を抜き、左手にバックラーを構えた。そのどちらにも、かなりの魔力が込められていることを、歴戦の冒険者なら、すぐに見抜くことができるだろう。
 他の5人も、各々の獲物を構え、戦闘準備を整える。
 そして。
 (突撃!)
 フィンの声が心に響いた、その瞬間。5人は穴の中へと身を躍らせていた。

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