どーん、どーん。
 花火が上がる。空は満天の星空。大輪の花の形を作って、火花が夜空に吸い込まれていく。
 そんな美しい夜に、ちいさな男の子と女の子が、二人でなにか話している。
 楽しいおしゃべり?ううん、違う。ケンカをしている。口げんか。
 男の子も女の子も、眼に涙を浮かべて、強い口調で、それでいて悲しそうに、口げんか。 どーん。
 ひときわ大きな花火が上がった瞬間。女の子は、泣きながら駆け出していった。男の子に背を向けて。
 どーん、どーん。
 花火が上がる。空は満天の星空。大輪の花の形を作って、火花が夜空に吸い込まれていく。
 男の子は、ずっとずっと立ち尽くしてた。おもちゃのネックレスを、手に強くにぎりながら・・・。

 「・・・さん。・・・ィンさん。」
 自分を呼ぶ声が聞こえる。
 けれど、せっかく気持ちよく眠っているのに、呼ばれているからといって、眼をあけるのも癪だ。フィンはそのまま、昼寝を続行することを心に決めた。
 「フィンさん、お〜い、もしも〜し!!」
 呼びかけがだんだんと強まってくるが、それでもやっぱり無視。
 「フィンさんってば!!」
 ぶぉん。
 何かを振り上げる音。そして、裂帛の気合いとともに迫る、殺意の塊。
 「うわぉう!?」
 激しい金属音とともに、細剣とハルバードがぶつかりあった。
 「・・・もうちょっとソフトな起こし方はできないかね?ハジメちゃん」
 鼻先で止まったハルバードの刃を見つめながら、フィンは言った。フィンに目覚めのキスをプレゼントしそこねた巨大な斧槍には、いまだに力が込められたままだったりする。
  「さっきから、ソフトにしてるでしょ〜に」
 飽きれたように、ハジメは苦笑を浮かべた。そして、ようやくハルバードに込めた力を抜くと、ブンと空気を切り裂きながら一回転させ、肩に担いだ。身にまとった青い板金鎧とハルバードがぶつかり、音楽的な響きを放つ。
 かなりの重さを持つ武器だというのに、易々と振り回すその膂力は、常人離れしたものだ。実際、その一撃は巨岩さえも容易く砕く。
 そんな斬撃を華奢な細剣で受け止めたのだから、フィンの腕前も人並み外れたものだといえるだろう。
 「第一、ちょっとくらい乱暴じゃないとおきないでしょう、フィンさんは」
 殺しかねない勢いでハルバードを叩き込むような起こし方は、控えめに言っても、乱暴の度合いを遥かに超越しているような気もするが、それも、起こされていたのに優雅な午睡を敢行していたフィンが悪い。
 だから、それ以上は何も言わず、フィンは腰の鞘に細剣を収めると、愛用のベレー帽をかぶり、大きく伸びをした。そして、地面に置いたままだった青いベレー帽の埃を払うと、頭に乗せ、敷布団代わりにしていた青いマントを羽織った。
 いや、マントや帽子だけではない。身に纏った皮鎧も、その上に着込んだ戦衣も、すべて青系統の色でまとめられているのだ。
 一歩間違えると悪趣味とも言われそうな色のチョイスではあるが、フィン自身は、たいそう気に入っている。それくらい青が好きなのだ。だからといって、このファッションは、少々やりすぎの感もあるのだが。
 髪の色は、青みがかった銀髪。ちょっと目尻が下がり気味の眼は、澄んだ空色をしたいる。
 眠ったせいで、縮こまった体をほぐしながら、フィンはさっき見た夢のことを思い出していた。
 「花火・・・・か」
 花火の下でケンカしている少年と少女。どこかで見たような、それでいて思い出せない、ひどくもどかしい感覚を、フィンは感じていた。
 「それで、やつらの動きなんだけど・・・」
 ハジメの言葉に、フィンの顔に、特大の疑問符が数個並んだ。それに気付いたハジメが、無遠慮なじっとりとした視線を、フィンに投げかける。
 「まさか、何しに来てるか忘れたわけじゃあ・・・」
 「イヤイヤイヤイヤ、ワスレテマセンヨ!?」
 慌てて、フィンは両手を振った。実は、思いっきり忘れていたのだが。
 ここは、ヴェスパー近郊の森の中。なぜ、このような場所にいるか、というと、フィンが所属する冒険者ギルド「Everybady is Free」・・・通称「ef」に、ひとつの依頼が舞い込んだからに他ならない。
 その依頼とは、誘拐された行商人の奪回、というものだった。
 ベスパーとミノックの間を旅していた、隊商たちの荷馬車が襲われ、数名の商人とその家族が、連れ去られてしまったというのだ。
 命からがら、その場から逃げ出した人々によって、その情報はヴェスパーのガードに伝えられた。
 無法者たちによる誘拐なら、そう珍しくもない。何人かの貴族がさらわれ、冒険者たちに助けられた、という話はよく聞く。
 だが、今回の誘拐犯は、オークたちだったというのだ。
 たしかに、オークたちが人をさらうことも、あることはあるのだ。だが、ベスパー近郊に、オークたちはめったに現れない。一匹二匹のはぐれたオークを見かけることはあるが、今回現れたのは、かなり大規模な群れだったという。
 これは、あきらかに異様なことといえるだろう。
 一刻を争う事態である。だが、ガードたちは、街の守りに手一杯であるうえ、あまり探索の経験がなかった。
 そのため、ベスパー近郊に拠点を構えていた、efに依頼が回ってきた・・・というわけである。
 そして、調査と誘拐された人々の救出のために、フィンと、いまここにいるハジメ、そのほか数名の仲間とで森の探索をし、オークの住処と思わしき場所を発見したのが、しばらく前のことだ。
 内部の偵察と、人質の生死を確かめるために、一人のギルドメンバーがオークの巣の偵察に向かったのが、その直後。で、なかなか帰ってこない仲間を待っているうちに、フィンは居眠りしてしまい、そして・・・さっきのようになったというわけだ。
 「スシさんが、偵察から戻ってきたよ。みんな、あっちの方に集まってる」
 かなり訝しげな視線をフィンにむけつつ、ハジメはオークの巣のがある方向を指差した。
 そういえば、周りにいたはずの仲間たちがいないことに、いまさらながら気付く。
 「あ〜、空が青いなぁ〜」
 ハジメのジト眼攻撃をさりげなく無視しつつ、声を張り上げたフィンのこめかみには。しっかりと、冷や汗が流れていたりするのだった。 

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