忘れられない人がいる。
いや、忘れてはいけない、人がいる。
あたしにたくさんのものを与えてくれた人。
たくさんの感情を知らせてくれた、ひと。









スノースマイル Her side.









東京では珍しくちらほらと雪が降っていて、
その珍しさに惹かれて、コートを片手に部屋を出た。
こつ、こつと革靴がなる音、たまに通る車のエンジン以外、
住宅街のこの辺はとても静か。
空を見上げると薄いグレイの空から塵みたいにどんどん雪が降る。
左の掌を出すと、その上に雪が乗っかって、すぐ、消えた。

その空の左手が、なんだか淋しくてすぐポケットに入れた。



そういえば、あの時もあたしは天気予報を見て雪が降るっていうから大喜びで、
たまたま仕事がオフだった彼を連れ出して外に出た。
だけど、結局雪は降らなくて、
ぶーたれたあたしを見て後ろから笑った。「転ぶなよ」と言って。



あの笑顔が大好きだった。
口の端を歪めて笑う、その口を隠す長い綺麗な指。
それを見ているだけで飽きなかった。
その細い身体も、薄い唇も、長いサラサラした黒い髪も。
全部全部、大好きだった。あたしのためにあると思っていた。




「ほら」




そう言ってあたしの左手を取って、自分のポケットに入れる、
そんなことがちらりと脳裏に浮かんで、少し微笑んだ。
彼の右ポケットはいつもあたしの場所だった。



しばらく彼に会ってないけど、元気でやってるみたいだ。
そんなこと、雑誌を見れば、ラジオを聴けば、すぐ分かる。
あの低い、綺麗な彼の声が久しぶりに聞きたくなった。
帰ったら、あの鈴の音のする、彼の創った音楽を聴いてみよう。
そして、出来たら、彼に電話をかけてみよう。いきなり電話をかけたら、彼は何ていうだろう。



忘れられない人がいる。
いや、忘れてはいけない、人がいる。
あたしにたくさんのものを与えてくれた人。
たくさんの感情を知らせてくれた、ひと。




あなたと出会えて本当に良かった。




雪の道は、もうひとりだけれど、不思議と淋しくない。
大切な想いは、形を変えてあたし達を繋げている。
あたしは来た道を引き返して足音を響かせて、部屋に帰った。





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2004.02.06  裕美





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