小さな恋の唄。

 



「・・・ちょっと外行ってくる」

ぐちゃぐちゃと意味の無い線をノートに書いていたボールペンを置き、

洋輔は誰にともなく言ってスタジオを出た。



 

ふぅ、とため息をつくと、タバコの白い煙がほわん、と宙に浮いた。

今レコーディングをしているスタジオのビルを出て、洋輔はなんとなくタバコを ふかす。

頭の中では、さっきまで書いていた新曲の歌詞がぐるぐると渦巻いている。

洋輔は、今までたくさん恋の歌を書いてきた。

しかしそのほとんどが別れや片思いをテーマとした詞だったため、

多くのファンから「洋輔の書く詞はいつも悲恋だ」といわれている。

雑誌などでもその話をネタにしていた。

が・・・今回ばかりは、どうしてもうまくはいかない。

言葉が、浮かんでこないのである。

洋輔は昨日からいつものように自分のボキャブラリーにある使えそうな言葉を

次々とノートに書いていくのだが、これといった言葉が見つからないのだ。

「今まで、こんなことなかったのになぁ・・・」

独り言をつぶやきまた考える。昨夜からずっとこんな調子だ。

「昔はもっと早く出来たのに・・・」

しかし、洋輔自身は昔となんら変わってはいない。

周りを取り巻く環境はくるくると激変していったものの、その渦中に居る彼は意 外とマイペースでのほほんとしている。

何か、心境の変化でもあったのか・・・自分自身に問いかけていると、火のつい ているタバコが

すでに短くなってしまっていた。

「灰皿・・・ないかな」

携帯灰皿はスタジオにおいてきてしまった。とりあえずタバコを口からはずした 、そのとき。

「ポイ捨てはあかんよ」

うしろから不意に声がして、洋輔は振り返った。

そこには・・・洋輔のたった一人の恋人、奥村が携帯灰皿を手に立っていた。

「おっくん・・・」

「なんで灰皿忘れてタバコ吸いにいくかなぁ」

笑いながら奥村が差し出す灰皿にタバコを入れ、洋輔は「さんきゅ」と小さな声 で言った。

「詞、煮詰まってるんやて?」

「うん・・・」

沈みきった声で返事を返すと、奥村は洋輔の肩にぽんと手を乗せた。

「どうしたん・・・元気ないで」

「昔はもっと早く書けたのに・・・これだ!って言葉がすぐ浮かんできて、さ。

 なんで書けなくなっちゃったんだろう」

うーん、と奥村は少し考え込んだ。

「・・・洋輔、最後に詞書いてから、しばらく最近書いてへんかったやん?」

「うん・・・」

「その間に・・・なんか心境の変化とか、あったんちゃうん?」

「心境の・・・変化・・・?」

「うん」

奥村と洋輔は、まっすぐ空を見上げた。

「詞、ってさ、書いてる人の心の中がダイレクトに出るもんやで。

 本人が気づいてへんかっても、書いたときの気分とか、それまでの経験とか、

 ほんのちょっぴりかもしれへんけど、詞に出てくるから」

「そういう・・・もんなの?」

「・・・と、俺は思うねんけどなぁ」

「ふぅん・・・」

「昔書いてた詞が、今書けへんってことは、何かしら心に変化があったってこと かもしれん。

 洋輔、なんか思い当たること無いん?」

「うぅ〜ん・・・」

洋輔は下を向いて必死に思い出そうとしている。

奥村は軽くパーマがかかった洋輔の髪を指で遊びながら、空を見ている。

「・・・あ、あった!」

不意に洋輔が言った。奥村はにこりと笑って洋輔の眼を見る。

「・・・やっぱり。で、何やったん?」

「・・・言わない」

洋輔は急に顔を赤くして、うつむいた。

「ええやんか〜。教えて〜」

「やっ・・・やだよっ・・・恥ずかしい・・・から・・・」

「教えて〜」

奥村は洋輔の華奢な肩をつかんでゆ〜らゆ〜らとゆっくり揺さぶった。

洋輔は言い出したら聞かない奥村に観念したのか、赤い顔のまま言った。

「・・・おっくんが・・・好きだから・・・」

「へっ?」

奥村は洋輔の肩に手を置いたまま聞き返す。

「心の変化・・・でしょ?おっくんが・・・俺の心の中で・・・

 友達から・・・す、好きな人に・・・なったんだよ・・・」

「へぇ〜♪」

奥村は嬉しそうに洋輔の顔を覗き込む。

「だっ・・・だから・・・今・・・おっくんが好きで・・・俺たち付き合ってて ・・・

 し、幸せだから・・・失恋の歌とか・・・書けない・・・」

「そっか♪」

奥村はぎゅっと洋輔の体を抱きしめた。

「ちょ・・・おっくん?」

「嬉しいな〜♪」

「はっ・・・恥ずかしいよ・・・」

「洋輔、今幸せ?」

「・・・うん・・・」

「そうか♪俺も洋輔の事好き〜愛しとる〜♪」

そういうと奥村は、恥ずかしさで熱くなっている洋輔の頬に、ちゅっと音を立て てキスをした。

「っ・・・!」

洋輔の顔がますます赤くなる。

「さ、帰ろ。みんな待っとるよ」

「うん・・・でも・・・どうしよう」

「そんなら、今度はまた違うの書いたらええやんか?」

「え・・・」

「今の心境にぴったりな、幸せなラブソング♪」





  「洋輔・・・」

「なぁにおっくん」

「これ・・・明らかに俺への・・・」

「だって今の心境にぴったりなラブソングって・・・」

数日後、出来上がった新曲は明らかに奥村に向けた、幸せすぎるラブソングだっ た。

「こんなん世間に絶対出させへん!俺のにするー!!」

「っておい!譜面持って逃げんな!」

 



† F i n †



SE,TSU,NA様より愛を込められて(笑



ありがとうございます!!!!!

洋輔がぁぁぁあぁぁ、めっちゃくっちゃかぁいい!

こんなへぼい私に

こんなお素敵小説もったいない・・・。

ああぁぁぁああぁ、私だけ物もですよ。この小説は!!!

なんか、私もSE,TSU,NA様にラブソングが書けそうですよ。

この調子で!(いい迷惑

私だってこの小説持って逃げたいですよ。

誰にも渡したくないですよ。

私だけ物もですよ。(うるさい

あぁぁああぁ、本当に本当にありがとうございます。







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