「兄さまには内緒」


(………どうしてこんなことになってんだろ)
モクバは混乱した頭で考える。
股間で、艶やかな黒髪が揺れた。
イシズは薄く紅を刷いた唇をゆっくりと開き、モクバを口に含み扱く。
最近覚えた自慰とは全く違う快感にいきなり達しそうになり
慌てて思考を止める。



バトルシティ以後、兄とイシズが連絡をとりあっているのを知ったのはいつだったか。
兄とイシズの間に流れる空気には覚えがあった。
かつて自分と兄の間にだけあった優しい空気だ。
しかしそれだけではなく、秘密めいた感じがする。
友達の少ない兄に親しい人間が出来るのは本来喜ばしいことであるはずだった。
しかし。
(………………面白くない)
自分でも子供っぽい嫉妬をしているのは十分分かっている。
分かっているが故に尚更面白くないのだ!

何であの女なのか。
兄さまはあの女に利用されたんだぞ!
決闘には負けたけど、結果的には自分の目的を達成したじゃないか。
どうしてあんな女と……!

兄との逢瀬を終え、帰るイシズを呼び止め自分の部屋に連れて来た。
自分から招き入れたとはいえ、あのイシズが柔らかい微笑を浮かべ、
ソファに座っているのはどうも落ち着かなかった。
「モクバ、あなたの部屋に入るのは初めてですね。入れてくれてありがとう」
微笑む彼女は美しく、エキゾチックな雰囲気をたたえており神秘的な感じすら受ける。
圧倒される自分が不愉快だった。
「………………」
「モクバ?」
「………オレには全然分かんないよ」
「何がですか?」
「おまえ何考えてるんだよ。ほんとに兄さまのこと好きなのか?」
一瞬きょとんとした顔をしたあと、イシズはまた微笑を浮かべ、
「モクバ、恥ずかしいからそれは訊かないでください、ね?」
ちっとも恥ずかしそうじゃない。
軽くあしらわれてしまったことに、カッとなり声を荒げる。
「オレにはおまえのどこがいいのか分かんねーよ!」
それでも微笑を絶やさず、まるで我侭を言う子供を見るような目で自分を見つめるイシズに
モクバの怒りは頂点に達した。
「………っ、子供扱いすんな!」
イシズの服をいきなり引き下ろす。
すると、形の良い大きな乳房が露わになった。
「モクバ!?」
やっと顔色の変わったイシズに満足しつつ、ふと目をやるとイシズの胸元に赤い斑点がある。
(これって………兄さまがつけたんだ!)
キスマークを凝視するモクバに気づき、イシズは目を伏せた。
その途端、モクバの背筋を貫く衝動があった。
「………オレにも教えてよ」
「な、んですか?」
「オレにもイシズのいいところを教えてよ!なあ?」
………とんでもないことを言ってしまった。



「きちんと濡らしましょうね……」
鼻にかかったような声が聞こえた。
見下ろすと、イシズの舌がちろちろと蠢いているのが分かる。
艶めいた唇を開いて器用に皮を剥き、先端の薄い皮膚にしゃぶりつく。
(うあ……自分でしたときと全然違う……)
きれいな顔立ちのイシズの唇や舌とグロテスクな自分。
そのギャップに、どうしようもなく卑猥な気持ちになる。

不意に唇が離れた。
イシズの股間に手を伸ばすと湿った感触がした。
薄い布越しにそこを押すと、くちゅり、と小さく音がした。
目を伏せるイシズを無言のうちに立ち上がらせ、ゆっくりと下着を剥ぎ取ると
布の間から細い粘ついた糸を引き、イシズの秘所が現れた。
ソファに横たえ、滑らかな太腿に手を掛けぐっと脚を大きく押し開くと、
そこは卑猥な桃色に濡れ光っており、淫らな匂いがした。
モクバはごくりと唾を飲み込む。
「ねえ、ぬるぬるしてるよ………」
「や…」
(兄さまもここに………)
イシズに指をしゃぶらせて濡らし、おそるおそる挿入する。
「あ………は…っ………」
イシズは安堵するようなため息をつく。
「動かしてみてください………そう、……あ……ぁあ…」
その言葉に安心感を得、内壁を小刻みに擦ったり、回すようにゆっくり動かすと
声や吐息が甘く変化し、いやらしい音が聴こえてくる。
少し上の突起も親指で弄ってみると、イシズの中が蠢いた。
「あ!いや……ん!ああ!」
強めに弄ってやると汗ばんだイシズの身体が跳ねた。
モクバはびくびくと大きく揺れた乳房にしゃぶりつく。
腰が小刻みに揺れ始め、イシズのそこも埋めるものを欲しがっているかのように
ひくひくと震えている。
モクバはゆっくりと挿入していた指を、絡みつく肉壁から引き抜いた。

モクバはイシズの上に覆い被さり、先走りが滴る自身をひくつく入り口に押しあてた。
ぬるり、と頭が進入していく。
「あ、ああああ―――――!!」
「んぅ……く………」
ゆっくりと、もどかしい程にゆっくりと飲み込まれる。
そこは熱く、未熟なモクバをきゅうと喰い締めた。
「うあ……ッ」
(ちくしょう、負けられっかよ……!)
下半身の暴発を無理矢理押さえつけ、イシズを見下ろすと
イシズはぎゅっと目をつぶり、浅く息を吐いていた。
呼吸に合わせ上下する胸がふるりと震える。
「………、ああ………」
試しに少しだけ動いてみるとイシズが小さく喘ぐ。
もっととねだるように中がうねり、モクバに吸い付く。
薄く目を開き、所在無く視線を揺らめかせるイシズの視線を
モクバは無意識のうちに追っていた。
いつもは静かに、しかし強い意志を漲らせているその瞳が
今は潤んでモクバを見ている。
動きに合わせて胸が上下にふるふると揺れている。
少しずつ、少しずつ動きを大きくしていくと愛液が溢れ出て、
モクバが抜き差しするたびにグチュグチュと淫らな音を立てた。
その音に煽られるように、モクバの動きが早くなっていく。

たまらない気持ちになり、夢中でイシズの唇に吸い付いた。
応えるように唇が開き、お互いに舌を絡ませあう。
「あ、あ、モ………モクバ……!」
泣いているような声と共に背中に腕がまわされ、ぎゅっと抱きしめられた。
甘い汗のにおい……。
イシズはモクバよりもずっと年上なのに、
こうしてみると可愛く感じられるから不思議だ。
気丈で、弟思いのイシズ。
弟のために命を捨てることも厭わない。
その強い女が、オレの腕の中で啼いている。

ぞくり、と背筋が震えた。
たまらず突き上げると、イシズは背を大きく反らせて嬌声をあげる。
「あ、あ、あ、あ、ああ、あ!」
「イシズ……イシズ!」
イシズの中が誘い込むような動きを見せる。
もうこらえきれなかった。
奥を深く突き上げて中に放つ。
汗に濡れた褐色の肢体が一瞬こわばりを見せ、痙攣した。



(………やっちゃったよ………)
兄の恋人と寝てしまった。
射精の快感と困惑で呆然としているモクバに
すっかり衣服を整えたイシズが邪気の無い笑顔で話し掛けた。
「気持ち良かったですか?」
「………………………うん、すごく」
「私のいいところ、分かっていただけましたか?」
「………うん」

「『兄さまには内緒』、ですね」
「………」
「これからもよろしくお願い致しますね」
そう微笑んだイシズは心から楽しそうだった。
(そんな顔されたら怒れない、嫌えないじゃねーかよ)
モクバは軽くため息を吐く。

やっぱり、油断がならない。


<完>

2004年9月11日うp

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