舞と静香


「お兄ちゃん?」
兄を探していた静香はその声を聞きつけて角を曲がった。
兄は少し先のベンチに座っていたが、その隣には舞がいて二人は楽しそうに談笑していた。
このところ、兄と舞は妙にいい雰囲気だ。
静香はそんな二人の姿を見ると、なぜだかもやもやしたものが胸に渦巻くのを感じていた。
今もそうだ。二人を引き離したい――。
静香は少し迷ったが、舞に声をかけることにした。
「あの……舞さん、ちょっとお話があるんです」
「静香ちゃん?」「静香?」
振り向いた二人の声が重なった。静香は少し申し訳なく思いながらも舞の腕を取って、兄に聞こえない場所まで移動した。
ちょうど使われていない部屋があったのでその中に入る。
「どうしたの?静香ちゃん」
舞はベッドに腰かけ静香に隣を勧めながら、親身になって相談に乗るといった感じで聞いてくる。
「……あの……」
静香は迷った。しかしここまで来て何も言わないのも不自然だ。
自分の中のもやもやの原因を解明するためにも、静香は勇気を振り絞って口を開いた。
「舞さんは……お兄ちゃんのことをどう思っているんですか……?」
「え……?」
舞は意表を突かれたようだった。静香はなおも聞いた。
「お兄ちゃんのことが……その……好きなんですか?」
「静香ちゃん……」
静香は何か必死の思いで舞を見つめた。舞はほほえんだ。
「静香ちゃんは本当に城之内のことが大切なのね。
 あたしは、そうね……あいつのことが好きなのかもしれない。
 ……だけど今はそれを伝えるつもりもないし、どうやって伝えたらいいかもわからない……」
舞がうつむいたのに合わせ、波打つ髪が美しく揺れる。
少し寂しそうな舞。滅多に見せないそんな面もまた魅力的だった。


静香もまたうつむいた。
「私、悪い子です……なんで、こんなに……なんで素直に応援できないんだろう……」
「それは……仕方ないんじゃないかな、ずっと会えなかったお兄ちゃんにやっと会えたんだものね。
 一番自分の側にいてほしいと思っても……さ」
舞は気を悪くせずそう言ってくれた。だが。
「……それだけじゃないんです。
 私……舞さんがお兄ちゃんを好きなのも、お兄ちゃんが舞さんを好きなのも、どっちもイヤ。
 本当はお兄ちゃんも舞さんも、二人とも好きなんです!
 なのに二人が仲良くしているのを見ると胸の中がドロドロ渦巻いて……本当にイヤな子……」
告白するうちに悲しくなってきて、静香の目から一筋の涙があふれる。
と、その涙をぬぐう指があった。
静香が顔を上げると舞が静香の方にかがんでほほえんでいる。
舞の笑顔はいつも輝くようだ。
「気にすることないよ、静香ちゃん。誰にだってそういう気持ちはあるものだからさ。
 それにありがと、私も静香ちゃんのこと好きよ☆」
「舞さん……」
優しい言葉にまた涙がにじみ、静香は舞にしがみついて、もう少しだけ泣いた。
「あらあら」
そう言いながら舞は静香の頭を抱いてくれた。
ちょうど静香の顔に当たっている舞の胸に包まれるような、あたたかく柔らかな感触がいとおしい。
静香は手を回して舞をぎゅっと抱きしめた。
「静香ちゃん?」
静香はそのままの姿勢で顔を上げ、まだ涙の乾かぬ顔でにっこり笑った。
「舞さんありがとう。ふふ、私やっぱり舞さんのこと……大好き」
静香は少し伸び上がり、舞の唇にそっと口づけした。


「し、静香ちゃん?!」
目を開けると、舞の顔が真っ赤になっている。
静香はハッとわれに返って口を押さえた。そしてこちらも赤くなる。
「ご、ごめんなさい舞さん!何やってるんだろう私……」
「い、いいけど……別に……」
言葉とは裏腹に舞はかなり動揺しているようだ。
そんな舞もかわいいと静香は思う。
そして、自分の思いを正直に口にしてみたくなった。
「でも……初めて会った時から私、舞さんに憧れていたんです。
 かっこよくて綺麗で、カードも強くて……それに優しくて。
 なんてすごい人なんだろうって……」
その後バトルシップでの戦いで、舞の孤独、そして兄への想いを静香は感じ取った。
「今はもっと舞さんのことがわかって、やっぱり舞さんは私の思ってた以上の人だった。
 それに、慰められるばかりじゃなくて、私も舞さんの力になりたいんです。だから……」
静香は再び顔を赤くしてうつむいた。
「その……さっきのは、正直な気持ちです」
舞の返事はない。だが頬に触れる手を感じて静香は顔を上げた。
舞の輝く瞳が目の前にあった。
その紅い唇が静香の唇に重ねられ、静香は息を呑んだ。
(舞さん……?)


口づけは、柔らかく、甘かった。
舞はそっと唇を離すと、優しく見つめながら静香の髪をなでた。
静香は何だか照れて、しかし離れがたくて舞に寄り添うようにもたれる。
舞はそのまま静香を抱き寄せ、そっと髪をなで続ける。
静香はふと、手を伸ばした。
自分の顔のすぐ前にあるふくらみを、何となく触ってみたくなったのだ。
いけないと思いつつも、まるで幼子のように。
舞は少しの間されるままになっていたが、
「本気?静香ちゃん」
と言うと、勝気な目をして再び静香に顔を近づけた。
香水の匂いだろうか、甘い香りに静香はうっとりする。
舞は立ち上がった。そちらに顔を向ける前に、静香は後ろからフワッと抱かれた。
「こんなこと……されても?」
舞は静香の胸をまさぐった。
静香はビクッと身を震わせたが、嫌な感じはしなかった。
「だって私……舞さんが、好きだから……お兄ちゃんと同じくらい……」
静香は舞の手を握りしめ、紅潮した頬で振り返って微笑んだ。
「もっと舞さんと近くなりたい。だから、静香って呼んで下さい」
舞は不思議な笑みを浮かべた。
「まったく、あんたたち兄妹って本当に……」


「舞さんきれい……」
「ありがとう。静香ちゃん……ふふ、静香もきれいよ」
二人は一糸まとわぬ姿で向かい合って立っていた。
恥らう静香と違って舞は堂々としたものだ。
「やだ……わかってはいたけど、舞さんの胸と全然違う……」
静香はさらに顔を赤らめ腕で胸を隠す。
すると舞が近づいてきて、その腕をそっと外した。
「違ってもいいじゃない。華奢で細い身体、憧れちゃう」
舞は静香を再びベッドへいざなった。
そのまま、横たわるでもなくさっきと同じく腰を下ろす。
舞は再び静香を後ろから抱きしめた。
静香は背中に直接舞の豊かな胸の感触を感じてドキドキした。
舞のウェーブがかった長い髪が静香の肩にサラサラと落ちる。
シャンプーのいい匂いがした。
やがて舞の手が移動して、静香の控え目な胸に伸びる。
さっきとは違って素肌をじかに触られる、初めての感触。
ドキドキが高まって何とも言えない気持ちだったが、舞の冷たい手が心地よい。
「あっ……」
その手が静香の胸を揉みしだき、静香は小さく声を上げた。
しかし舞は手を止めない。
「んっ……」
静香は気持ちいいと感じながらも、思わず身体をねじった。
すると舞の美しい裸体が半分見えた。
静香は舞の素肌にそっと手を滑らせる。舞は嫌がらない。
そのまま舞の胸をなでるように手を動かす。
自分が気持ちいいと思ったように。
今、自分がまさにそうされているように、柔らかな感触を楽しむ。
二人は同じ感覚を味わっていた。
男性との場合とは違うけれど、そうやって一つになっていたのだ。


続く

2004年7月19日うp

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