「FAKE?」


あと僅かで、午後十一時といった、深夜。
「ねみぃ…」
居酒屋でのバイトを終えた城之内克也は、あくびをかみ殺し。
キャバクラやら、テレクラやらがひしめきあい、ご丁寧にラブホテルまである…
いうなれば童実野町では悪名高い歓楽街を、とぼとぼと歩いていた。
したたか疲れたその足は、昼間の軽快さは無いが。幸い明日は久々の休刊日で、新聞配達は休み。
約束された明日の朝寝に、普段よりはやや足取りは軽い。
が…ふいに、その足を止める事態が克也の目の前に飛び込んできた。
「あれ…?」
通り過ぎていった男と女の二人連れ。片方は、見知らぬ小太りの中年男であったが…
残りの女は……杏子で。
しかも、ラブホテルの入り口で、二人はぴたりと止まる。
父親や親戚なら、まず有り得ないであろう行動と雰囲気に、克也は一気に不信を煽られた。

まさか………援助交際ってヤツか?。

普段なら、無視するであろう見慣れた光景も、仲間が当事者となれば話は違う。
「あん、バカ!」
克也は、全速力で駆け出した。



「杏子!、お前!、何やってんだよっ!」
克也の声に、杏子の肩がびくりと上がり。
振り返った顔は、凍てつくいている。
「じょうの…うち……」
震える呟きに聞く耳持たず、克也は即、杏子の腕を掴んだ。
「おっさん、コイツはオレの女だぜ。一体、何のつもりだぁ?」
ハッタリと共にぎっと睨んだ克也に、中年男はみるみるうちに青ざめ一目散に逃げ出す。
「ちょっと、離しなさいよ!城之内!」
もがく杏子に、克也は掴む力を少しだけ緩めたが、指を解かなかった。
男を追わせない為もあるが、何より杏子のしでかした事が許せない。
「…見損なったぜ、杏子…」
克也は、憤りに、虚しさに、吐き捨てる。
「な、何よ…恋愛は自由でしょ?」
「恋愛?。ふ〜ん、じゃあ、どうしてあのオヤジ、逃げたんだ?」
仮に真面目に付きあっているのだとしたら、女を放り出して逃げたりはしない。
正論に、杏子は俯く。
「うるさい…城之内に…何がわかるっていうのよ」
「わからねえよ…。汚ぇオヤジに、身体売って、楽して稼ぐバカ女の
気持ちなんざ…知るか!」



克也は怒鳴ると、手を離し、杏子に背を向けた。
「と、とにかく、もう二度とすんじゃねえぞ?」
「ねえ、城之内…あの…」
「ケッ。吹いたりなんかしねえよ…」
そう口が裂けたって、言えやしない。
この事が学校に知れて、杏子が停学もしくは退学になろうが自業自得だが…。
もしも、杏子に惚れている遊戯が知ったら…多分、ショックは相当なものだろう…。
だが、
「違う…今のが…」
背にかかる声は、克也の想像とはどこか違う。
「え?」
振り返る克也に、一端は口を閉ざしたが、杏子は瞳をあちこちに泳がせながら続けた。
「初めてだったの…オヤジに、声かけられて、ついていったのは…」
杏子の告白を、克也はどう取り扱っていいか迷ったが。
捨て置くには、空気が重すぎた。
「…そっか」
短く返してみると、杏子の顔はなお曇った。
「信じて無いって顔だね…」
半ば諦めた風に、こぼされ。そんな杏子を前に、克也もまた表情を曇らせ、深い溜め息をついた。



「そーじゃねえって…ただな、例え未遂でも事実だかんなぁ…あんま、
いい気分じゃ無ぇ、そんだけだ…」
正直に告げて、克也は苦く笑うと。
『ごめん…』と殆ど声にならないような呟きが杏子の唇から漏れる。
全くもって、今夜の杏子はどこかおかしい。やけにしおらしくて、気弱で…。
後ろ暗いところがあるにしてもだ…。そもそも援交の類いなど、杏子の性格からして妙だ。
「…その…何か、あったのか?」
杏子を信じたいという気持ちに背を押され、克也は恐る恐る、探りを入れてみた。
すると。今度は克也の腕を杏子が掴んだ。
目一杯引かれ、バランスを崩した隙に、あっさりとラブホテルの中へと連れ込まれる。
「おっ、おい!。何つもりだよ…んな、所に!」
慌てふためく克也の口に、杏子の掌が覆いかぶさる。
「だって…道端でなんて…泣きたくなかったんだもん」
返され声は、震えていた。本当に、今にも泣きだしそうに…。
克也は、そっと杏子の掌から逃れると、肩を落した。
「……いっとくが…金ね〜ぞ、オレ」
男としてのプライド故か。持合わせの無い克也は、すまなそうに杏子に財布の実状を告げた。



「おごるよ…その代わり…部屋、選んで」
力無く、返され。いっそう惨めな気分になる。
だが、このまま突っ立っている訳にもゆかず、克也は渋々、光が灯っているパネルの中で
一番低料金の部屋を選んだ。

終始無言で、部屋まで辿りつくと。
ベッドを横目で見つつ、さてどうしたものかと、克也は息をついた。
「で…どうしたんだ?。オレで良けりゃ、話しぐれえは聞いて…」
目を合わせずに、とりあえず途絶えていた話を促そうと、克也は口を開いた。
「…城之内に話したって…ううん…誰に話しても…きっと解決できないから…いいよ…」
つれない返事に、克也はガシガシ頭を掻いた。
「お前よお…ちょっとワガママ過ぎねえか?。巻き込んどいて、そりゃねえだろ?」
入りたく無いラブホテルに、親友が惚れている女子と二人きり。
この状況ですら、心苦しい。おまけに、理由すら聞けずに、付き合わされては堪らない。
克也には、文句を言う権利は当然有る。
杏子の唇は、しばし閉ざされていたが。徐々に険しくなってゆく克也の顔に、観念したかのように動き出した。
「…ねえ…城之内…遊戯のこと、どう想う?」
漸く、聞かされたそれは、脅えの色をはらんでいた。



「どうって…言われても…」
真意が掴めぬまま、克也は取り留めもなく返した。
「私…遊戯達が別々の…ちゃんと体が別で、それぞれ違う二人の人間だったらいいのにって…
考えちゃうんだよ…」
涙声だった。
「最近、よく夢見るんだ。…もう一人の遊戯とエッチする夢…。でね、目が覚めて…がっかり」
すすり泣くそれに、僅かに嘲笑が滲む。
「オナニーだって、するんだ…もう一人の遊戯に触られてるって想像しながら…バッカみたい…最低だよ」
「杏子…」
赤裸々な告白に、克也は半ば頬に熱を覚えながらも、切なくなった。
杏子は鈍い女ではない。当然、元々の…幼なじみの遊戯の気持ちを気付いている…だからこそ苦しんでいる。
ふいに、克也の頭に舞の顔がちらついた。
ちゃんと存在した人間が相手なら、何時かはという希望はある。
けれど、杏子の…あまりに特殊な三角関係には…救いがあるのだろうか…。
「ね?。…話しても、無駄でしょう?…」
茫然と立ち尽くす克也に、杏子は悲しそうに微笑む。涙で頬を濡らしながら…。



「…だからって、援交すんのは…見当違いじゃ…」
苦し紛れに諭しても、中途半端な偽善で。
「だって、家で…一人で部屋にいたら…私…また…」
縋るような潤む瞳に、克也の中で切なさや同情心、そして…
不可解で激しい熱がごちゃまぜになって、急激に膨れ上がった。
眩暈さながらの衝動に、腕が自然と伸びて。
「城之内…?」
克也は、杏子を胸の中に抱き寄せた。
まるっきり赤の他人で、杏子の事なんて、これっぽっちも知らない薄汚い大人に抱かせるぐらいなら…
仲間のオレが…せめて身体だけでも満たしてやった方が…その方がよっぽど……。
腕を解き、すぐさま杏子の身体を抱き上げ、克也はベッドを目指した。
「ちょ、ちょっと!…城之内!」
もがく杏子を、よろめきながらも運び終え。そっと横たわらせる。
流石に克也が何をしようとしているか、杏子にも読めたらしい。
茫然としたのは僅かの間で、杏子はすぐに身を起こそうとしたが、克也は覆いかぶさって自由を奪った。
「目え閉じて…遊戯の事、考えてろ…」
服の上から、杏子の豊かな胸をそっと掴むと。克也の掌に柔らかな感触がじわりと広がった。



「じょ、城之内…ダメだよ…やだ…」
「オレじゃねえ…今、お前の胸触ってんのは、遊戯だ」
克也の囁きに、杏子は唇を噛み。つけ込まれた抗えない想いにか、ゆっくりと瞼を下げた。
「言ってみろよ…夢ん中で、アイツにどんな風にされたか…」
「………だめ、言えないよ…」
ぎゅっと閉じられた瞼の下の頬が、ほのかに染まって。花のような香りが、克也の鼻をかすめる。

……こいつ…こんなに可愛かったか…?。

駆け上がる鼓動に堪えながら、克也は杏子のシャツのボタンをぎこちなく外し、ブラジャーをずらす。
白く豊かな乳房や、ピンと立ち上がった乳首が露になる。両手で包みつつ、親指で乳首を捕らえる。
「あっ!」
敏感な胸の中心を刺激されたせいか、杏子の肢体がびくりと震えた。
「呼びな…アイツの名を…気が済むまで…」
克也は尚も、囁いてやる。これは、杏子を楽にしてやる為で…自分は今、城之内克也じゃ無い…と。
それは、己にも警告する為だった。
「遊戯…」
克也の首に、杏子の腕が絡みつく。親友の名を耳にして、克也は内心ホッとしてから、
スカートのファスナーに手を伸ばす。
杏子の肌が、克也の指によって徐々に外気に晒されゆく。



秘部を覆う、たった一枚の布の中に、指を滑り込ませると。茂みが指先に触れた。
焦らすように撫で上げを繰り返すと、段々と柔毛に粘りけのある露が絡んでくる。
「…して…口で…」
甘い喘ぎに、淫らな懇願が紡がれ。
湿ったパンティを取り去り。両股を軽く左右に開かせる。
蜜で光る秘部に、克也は顔を埋めた。牝の匂いに溢れた陰唇に、舌を伸ばすと。
「あふ……ゆう…ぎぃ…」
羞恥からなのか蠢く舌の感覚に堪えきれないのか、内股が克也の両頬を挟む。
その仕草に煽られて、克也は再び、今度は強引に片方の股をシーツに押し付け。
尖った肉芽を、舐め転がす。
「ひっ…あん…」
びくりと、克也の掌に舌に歓喜の震えが伝わってくる。
ひくつく肉に誘われ、指をそろそろと、秘口に差し入れた。もっと感じさせてやる為に…。だが、
「痛…!」
突然の杏子の甲高い声に、克也は慌てて指を引っ込める。
充分蜜を蓄えているにも関わらず、指一本すら拒むそれに、克也は一瞬にして血の気が引いた。



「…おい、ちょっとタンマ!。その、続けていいのか?ああは言ったけど…実際は、オレが…」
……杏子の純潔を散らすことになる…。
先刻、遊戯を想いながら毎夜自らを慰めていたと聞かされて『経験』があると、克也は勝手に
そう判断していた。だからこそ、遊戯の代わりをしても…。
「いいよ…城之内なら…」
「でもよお…」
「いいったら!!、滅茶苦茶にしてっ!」
「……あ、杏子…」
もしかしたら、余計な同情心だったかも知れない…。
よもや、親友を差し置いて、杏子の初めての男になろうとは…。
だが後悔も今更…何より己の身体が既に収まりがつきそうにない。
克也は迷いを振り払いように、汗ばんだシャツを脱ぎ捨て。投げやりに、ジーパンや下着も脱ぎ去る。
杏子の両膝を肩に抱え、充血しきった牡の先端を膣口にあてがった。
「いくぞ…杏子」
陰唇は蜜にたっぷりとまみれたが、その先の道は狭く硬く、容易く男の欲を受け入れてはくれない。
「ん…く…いっ!」
身を強張らせ、奥歯を噛みしめる杏子を気遣いつつ、少しづつ…ねじ込むように奥へ進ませる。



「すっげえ…きつっ…」
初めて男に貫かれた、狭すぎる熱い肉壁に締めつけられ。
快感の片隅に甘噛みされたような痛みが入り交じる。
だがその痛みはどこか誇らしく。快楽と征服欲が、克也の牡の本能を 酔わせる。
理性の…好きあった相手では無い…という拒みをあっさりと蹂躙してゆくかのようだった。
杏子の目尻に浮かぶ涙が存在しなければ、己が親友の身代わりである…などという本来の目的が
消し飛んでしまう程、克也の心は危うかった。
「平気…か…?」
心を繋ぎ止めようと、克也は苦痛に歪む杏子の顔を見やったが、
「…熱くて……痛いよぉ…」
首にしがみつく腕の力が、より増した。杏子に取っては哀願であったのだろうが…
逆に、それが克也の欲情を煽った。愛おしさが込み上げてくる。
「…あん…ず」
理性をかなぐり捨て、力任せに突き上げる。
「ひっ!」
快楽に酔う克也とは逆に。シーツを朱色の蜜で染めながら、痛みにずり上がる。 
「悪ぃ…杏子…オレ…」
もう構ってはいられなかった。



克也は逃れようとする杏子の肩を、抱き締め、押さえ。幾度も…激しく膣内を掻き回すと。
「ん…あっ!…」
杏子の顎が、のけ反る。
抱き縋る肢体と、熱く蕩けるような内壁の肉が共にわななき。克也の欲情全てを剥きだしにしてゆく。
それでも…キスをしたい衝動だけは、ねじ伏せた。
切なげに『遊戯』を呼ぶその唇を、己には奪う権利は無い…と。
「クッ……!!」
限界直前。膣内から牡の根を抜き去り…
「ゆ…う…ぎ…」
切なく震えた杏子の声を聞きながら…克也は、肌きめ細やかな女の腹に
濁った性を放った----------



終わり

2004年4月30日うp

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