それから月日は流れ… 少年は見違えるように変わった。 記憶の方は未だに戻らないが、元来、活動的な子供なのだろう。 今では少々煩いと感じるくらい、元気になった。 時折、紅い夢(と少年は表現している)に酷くうなされる事もあるが、 あの今にも泣き出しそうだった表情も、今ではすっかり影を潜めている。 少年の変化に伴って、殺風景だった部屋の中も少しずつ様変わりしていた。 小さな冷蔵庫と簡易ベッドは、それぞれ新しい物に姿を変え、食器棚の中身も充実してきた。 廃材を利用して作った本棚には、少年の本やおもちゃに混じって料理の本も並んでいる。 つい先日も、中古ではあるが洗濯機と乾燥機を買ったばかりだ。 そして、もう一つこの部屋に増えたものがある。 「ただいまっ!」 いつものように元気な声と共に部屋のドアが開き、まるで子犬が駆け込むように少年が外から戻ってきた。 その勢いのまま奥の部屋へ駆け込もうとしていたが、キッチンにシュウの姿を認めると、 「ただいま! シュウ」 そう言って、照れくさそうな笑顔を浮かべて立ち止まった。 「お帰り、エルク。って……また今日も派手に遊んできたな」 頭から足の先まで、泥やほこりを纏った少年の姿にシュウは軽く眉を寄せたが、その声音は穏やかなままだ。 「まずはシャワーでも浴びてこい。着替えは用意しておくから」 「うん」 バツの悪そうな表情を浮かべると、少年は素直にバスルームへと向かった。 程なく… 「ねぇ、シュウ。俺、お腹と背中がくっつきそうなくらい、ペコペコなんだけどさ〜」 バスルーム内でバサバサと服をはたきながら、少年がキッチンのシュウに対して呼びかけてくる。 事前に泥やほこりをはたき落としてから、洗濯機に放り込むという習慣もすっかり身に付いたようだ。 「私もさっき帰ってきたばかりで、これから準備するところだが…」 買ってきたばかりの食材と冷蔵庫の中身を思い出しながら、シュウはザッとメニューを考える。 「エルク、今日はハンバーグでいいか?」 その声に少年が脱衣所のドアから顔だけ覗かせる。 「それって、チーズと目玉焼きが載ったヤツ?」 「ああ、もちろん」 シュウのその返事に、 「じゃ、シャワー済ませたら俺も手伝うから!」 少年は嬉しそうな笑顔を残し、大慌てで脱衣所のドアを閉めた。 この部屋に余計な物など、一切必要ないと思っていた。 ただ体を休めるスペースさえあれば良かった。 この部屋で、自分で料理をして何かを作るなんて考えた事もなかった。 誰かと時間を分かち合うなんて、考えた事も無かった。 あの日、灰色の風景の中に倒れていた少年の手を取るまでは。 これからも少年の屈託のない笑顔と共に、少しずつ物が増えていくのだろう。 それも悪くないと思いながら、シュウは冷蔵庫のドアを開けた。 その口許に、小さな笑みを浮かべながら。 |
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| 以前に睦月さんからいただいたシュウとエルクのお話しです。その節は有難うございました☆ なかなかUP出来ずにスイマセンでした。しかもこんなしょぼいイラストで申し訳ない…とほほ。 エルクが短パンなのは子供らしさを強調する為です(笑) |