銀行前物語
 テイマーの夕姫、ビショップのアンリマユ、プリンセスのプロセルピナ。彼らは共に戦うことも無い。冒険の合間、ちょっとだけ交差するだけの者たち。



出会い ―【姫・マユ】編―


「ふぅ。さすがにソロは厳しいな」
 新調したホールを手に町の外に出たのはいいけれど、さすがにモンスター相手に説法など効くはずも無く、わずかばかりの経験とゴールドを得て銀行に戻ってきたアンリマユはそう呟く。
「POTが要らない分だけすこーし救いがあるけどね」

 貧乏坊主生活なので、銀行に信用もあるわけでもない。ちょっと高めの手数料を払って預けてあった装備を引き出す。以前手に入れたものの、力不足で装備を見送った鎧だ。
 ハーフプレートアーマー。何とかこれを着られる力身に着けた。金属製の全身鎧、ビショップにとって、これを着るのがある種ステータスのようなものである。無名の安物なのかも知れないが、これを着るために力をつけたようなものだ。
「よいしょっと」
 はやる気持ちを抑えながら、永く愛用したエンジェルプレートに別れを告げ、ハーププレートに着替える。
 冷たい金属の肌触り、ずしりと重いが多少の攻撃にはびくともしない安心感。少しうれしくなって口元が緩んでしまうのは仕方が無いだろう。

「あ、ハフプレですね。かっこいいなぁ」
 その一言でふと我に返る。銀行のカウンターで鎧を着てにやにや笑っている自分に気が付いたのだ。
「あ、すいません。邪魔しちゃいましたか。すぐどきますから」
 そう言って身をずらしてカウンターを空ける。
「いいんですよ。急ぎませんから」
 笑って答えたのは赤いフードとショールをつけた女性。テイマーかサマナーの証とも言える笛が腰から下がっていた。
「それってハフプレですよね。シルバーの金属素材に赤いライン。かっこいいですね」
「やっと着られるようになったんですよ」
 人に誉められると少し照れくさい。
「そうなんだ。私も早く着替えたいなぁ」
 どうやらまだハーフプレートを着られるほどの力は無いみたいだ。
「早く着られるといいですね」
「がんばるよ♪」

―――――

たったそれだけの会話だけど、これが彼と彼女の出会いだった。



ちょっと怖いお供 ―【姫・マユ】編―


「あ、夕姫さんおひさー」
 今回もドロップ品を売ったGOLDを預けに古都銀行へ来た際に、見知った顔を発見して声をかける。
「あ、アンリさん。おひさー」
 銀行で偶然会うだけだけど意外に会う頻度が高い。すっかり黒いブリガンディンが似合うようになった夕姫さん。
「最近どうですか?」
 にこやかにそう尋ねてきたので、いつもの返事を返す。
「ぼちぼちですよ(^^」
 そう答えて、夕姫さんの後ろに隠れる様に居る―――いや、隠れきれずにはみ出している異様な存在感に気がつく。
「新しいペットですか?」
「えへへー。可愛いでしょー。タトバ山に行ったらついてきた」
 夕姫さんの後ろからのっそり出てきたのは、
引きずり込まれそうな水底の体色。横長の虚ろな目。近づく者を威嚇するような角。そして、今にも首を刈り取られそうな大鎌…。
「ウェアゴート?」
「うん。 澄んだ湖の様な体色。愛嬌のある瞳。雄々しい角。そして頼りになる大鎌。素敵でしょう♪」




――夕姫さんってばちょっと趣味が変わってるんだよなぁ――


これはまだ「ちょっと変わってる」なんて甘い認識だった頃のお話。



ちがうって… ―【姫・マユ】編―


偶然銀行で出会った夕姫さん。「丁度良かった」と情報交換をすることに。
 崩れた城の前で堀に腰かけ、足をぶらりとぶら下げながら話す。
「旧研究所の方には全くといって新しい情報は無かったです。僅かばかり得た情報はすでに出回っている物ばかりでした。そちらはどうですか、石の情報。集まりました?」
「こっちもだめですねー。監獄の神獣さんも知らないそうです」
 お互いにまだまだ駆け出し冒険者みたいなものですから、そう簡単に情報は集まらないか。
「はぁ…」
 すこし滅入って溜息が出る。
「大丈夫ですよ。地道に小さな情報集めていけば、そのうち大きな情報になりますよ」
 夕姫さんの明るい笑顔と元気が沈んだ心に良く効きます。
「そうですよね、見たことも無い石を探すんですからこのくらいでめげてちゃダメですよね」
「そうですよ。星の入った石を七つ集めれば良いだけですから♪」
・・・・・
「え!?それちがっ――――」



おしまい


※RED STONEからは龍なんか出ません。あしからず



クエブリガン(鎧製作) ―【姫】編―


 ゴオォォォォ
 炎の石版から神獣サラマンダーの炎が噴き上がる。

 ここは砂漠村リンケン。私、夕姫はアンリさんから教えてもらったケリアンさんに鎧の製作をお願いしている。

 大きな墓の幽霊鎧にはじまり。クローラーの粘液、カニの泡、ポイズンテールの硬い殻。そして、先ほど炎が噴き上げた炎の石版。
 本当に大変だったわ。バリアートまで行った挙句にスマグまで往復させられて、ロマ村と古都を2往復…。怒れる炎の神獣の長スルタンに会ったり、テンプラーから杖を取ったり。 まぁ、それはそれで良い経験にはなったけどね。

 石版から噴き上がる炎が次第に小さくなり、その炎の向こうにケリアンさんの顔が見えてくる。
「できたんですか」
 ケリアンさんの顔はにこりと笑っている。
「ああ。かなり良い仕上がりだよ」
 そう言って炎の中から取り出す大きな鉄板の上には、炎の光を反射する全身鎧が―――
「うわぁ。ありがとうございます」
 まだ炎に炙られて熱いので、手に取らず顔だけ近付けてしげしげと見る。
 顔に熱気が当るけど、出来立てほやほやの一般の店には売られない高補正鎧の輝きに、思わず見入ってしまう。
「ぴかぴかですねぇ」
 顔が映りこむほどの光沢に、思わず声が漏れる。
「できたてだからだよ。残念だけど熱が冷めたら表面は変色しちゃうんだ」
 そういえばアンリさんの鎧も白っぽかったものね。


 数刻後、ケリアンさんから受け取ったブリガンディンに袖を通す。もちろん私好みに黒色の装飾をしてから。

 ぺん。と鎧を指で弾くと、ぴぃぃん と気持ちの良い金属音がする。
「えっへへ〜。これで受けるダメージが少なくなるね」

 これはかなり嬉しい。でも、ちょっとだけ心に引っかかることがある。

 それは――――

「これって、あの呪われた幽霊鎧とか、ねっとりとした芋虫の汁、猛毒の蠍の生殻から出来てるのよね……
 材料知ってるから、女の子として着るのにちょっと抵抗あるわ」






















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