きんのお嬢様、
 昼間からほかほかと……?

黒耀 著

「――……シロウ、何して――」
「へっ!?うおっ!!」
「――え、きゃぁぁああ!!」
 バッシャァァアンンッ
 と、まるで冗談みたいな量の水を、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトは頭から被った。

「それで、シロウは何をしていたんですの?」
 頭から全身ずぶ濡れになったにしては、それほど機嫌が悪くなった様子も無く、ルヴィアが訊ねる。
 まあ単に、士郎が髪を献身的に拭いたからだが。
 士郎は後ろの髪をとんとんと水気をタオルで吸いながら、視線だけでバケツと車を指す。
「あ〜、ブラシとスポンジが有るだろう?車全体を濡らそうと思って、バケツ振りかぶった所で、ルヴィアが来て……ごめん。 ……それで、何か用でも有ったのか?」
「用って……シロウ、今日は暇を出したはずですわよね?やりたいことがあるから、といったのはシロウでしょう?」
「ああ、ホコリ被ってたから洗いたかったんだよ、車を。えっと……悪かったか?」
「……はぁ、もう良いですわ。そういうことなら、今日の休みは無効ですわね」
「え、何でだ?俺が勝手にやることなんだから――」
「却下、ダメですわ。結果的に、今日はシロウの仕事は無いということになったのですし……その分、洗い終わったらわたくしの相手をしてもらいますわ♪」
「――はい、わかりました、お嬢様」
 士郎は執事として、溜息は心の中だけにとどめた。


「えっと、お嬢様?」
「何ですの、シロウ?」
 ピチャーンッ、と水滴の落ちた音が高く響く。
「日焼けするから、影に居たのですね……?」
「ええ、それがどうかしましたの?」
 ピチャリッ、と床に溜まった水が撥ねる。
「……私は日本人なら当然のように勧めるだろう事を提案しました。即ち、湯浴みです」
「ええ。貴方が提案したことですわ、シロウ」
「冷えた、身体を温めるなら、そうするのが、良いと言いました。ですが、しか、し……だけどッ!」
 クスリ、と笑い声が小さく響き、
「なんで、俺がルヴィアの身体を洗うんだ!?しかも、俺まで裸じゃないか!」
 士郎の叫び声が広い浴室に響き渡る。
「ふふ、わたくしだけ裸では不公平でしょう?」
 クスクスと耳をくすぐるような笑い声が続き響く。
「それに、今日のこれからの貴方の時間は全てわたくしのために在るんですのよ?」
「なら、頼みますからバスローブぐらいは着ることをお許しください」
 ルヴィアの背中に向かって懇願する士郎。
 が、その口調にルヴィアは笑い声が消し、不機嫌そうな気配を立ち上らせた。
 士郎は顔を引き攣らせ、声を震わせる。
「お、お嬢様?」
「執事としての責務の範囲を超えていると言うのでしたら、いつも通り話してもらえませんかしら?」
「は……え?」
「大体、わたくしに水をかけたのはシロウなのですよ?これぐらいやってしかるべきだと思いますが」
「だ、だから俺はおと――うおっ!」
 とりあえず口調は戻した士郎の顔にタオルが投げつけられる。
 重力に従って落下するそれを目で追うことはせず、士郎はあわてて顔を背ける。
「ルヴィアぁ……」
「全く、何を気にしてますの、シロウは。そもそも貴方を使用人に含めましても、私の裸体を見たことがあるのはシロウだけですわ。その上、もう何度も見ていますでしょう


「あの、ある程度段階を踏まないと恥ずかしいものは恥ずかしいんだが……」
「そんなもの、私の体を洗ううちに済ませてくださいな。大体、なんだかんだ言ってますけど、最終的に拒否できる構図がシロウには見えているんですの?」
「あう……っ……ちょ、それって真っ昼間から!?」
「わたくしは構いませんわ。シロウが、したい、と言うのでしたら……」
 顔を上げると、心持(こころもち)頬が赤く染まっているのが目に入り、士郎はルヴィアも恥ずかしく無かった訳ではない事に気付く。
 じっと、自らの足下(あしもと)ばかり見詰めている彼女に素早く近付き、
「っ……あ」
 搾り出された空気が、掠れた声になって漏れる。
 何時(いつ)もより力を込めて、士郎はルヴィアを抱きしめた。
「……とにかく、洗って、湯に浸(つ)かろう。ルヴィアの身体……冷た過ぎる」
「……ええ、そうですわね。……勿論、シロウが洗って下さるのですわよね」
 士郎は顎を髪に擦らせるようにして頷き、腕を回して抱き上げる。
 ルヴィアも初めは流石に身を硬くしたが、鏡の前に来た時には、寧ろ身を預け離れようとしなかった。
 士郎は苦笑を漏らし、何とか椅子に座らせ――
「――あれ?……ルヴィア、スポンジかなんか無いのか?」
「石鹸があり、手があれば十分でしょう?」
 にこやか過ぎて違和感の感じられる笑みに、士郎は軽く眉を顰め、
「……そうなるのか……」
 呟き、容器を手元に寄せ、長い金髪を簡単に纏め、タオルで包む。
 次いで洗面器に湯を溜め、ルヴィアの周りを一周させるように流し、
「……ぅ……」
「?……どうかしましたの、シロウ?」
「い、いや……」
 火照り、紅く染まっていく肌に艶を感じ、彼は早々に理性が飛びそうになる。
 動いた方が気が紛れる、と考え、容器の中身を手の平にあけ、軽く泡立てた。
「……失礼、する」
「いえいえ、どうぞですわ」
 まず首筋から、泡で包むように手を動かし、背中へ下る。
 士郎は、強くし過ぎないように、爪を立てないように努め、手の平で背中をマッサージするように動かした。
 ルヴィアも不器用な手つきに思い遣りを感じ取り、しばし身を任せた。
 ――と、
「……ぁんっ……」
 横腹に触れた感触に、ルヴィアが思わず身を震わせた。
「……っ……悪いっ、強かったか?」
「い、いえ……」
 慌てて首を振り、彼女は自身の状態を確認する。
 全身どこも火照り切り、秘所もすでに濡れていた。
 認識すると同時、どうしようもなく衝動が湧き上がった。
「……シ、シロウ…………」
「え……あ、ああ」
 持ち上げられた腕に気付き、士郎は脇の下を通し、前へと腕を回す。
 そのまま、滑らかな腹部へ手を這わせ――
「ぁンっ」
「!……わっ……え!?」
 異変に気付き、後ずさろうとして、腕を脇で挟み込まれて失敗する。
「えっと……」
「……後は自分で洗いますわ」
「……え?……そ、そうか……て、あれ?ならどうして離――」
 正直言って残念で、俯き、次いで怪訝に思って顔を上げ、
「勿論士郎の肉体(からだ)でですけれど」
 士郎はルヴィアに押し倒された。
 一瞬身体を硬直させたその隙に、ルヴィアは士郎にぴったりと身を寄せる。
 泡のぬるりとした感触に、二人は同時に身を震わせた。
「フフ、シロウ……は、ぇ、ぁむ?」
「んむっ」
 ルヴィアが誘うように微笑んだ瞬間、それが目に入ると同時に、士郎は唇を押し付けた。
 舌が強引に、彼女の口内へと侵入し、舌に絡みつく。
 ちゅぷ、ぴちゃ、と淫らな水音が、暫く唇の間で響き、一際大きな音を立て、離れた。
 身体を浅く起こし呆然とするルヴィアに、士郎が声をかける。
「ルヴィア、身体、洗うんじゃなかったのか?」
「え、あ……そうですわ、ね」
 のろのろと、再び身体を密着させていく。
 それから、ずるっ、と身体を滑らせ、
「ひぁんっ!!」
 胸の先と、秘部を襲う刺激に動きを止める。
 そんなことが数度繰り返され、流石にじれったくなったのか、おもむろに、士郎はルヴィアの動きに合わせ腰を動かし始める。
 途端、ルヴィアの身体が大きく跳ねる。
「あんっ、シロ、ウ、そんな、速……!!」
「ルヴィアから始めたんだろ?それより、もっと身体動かしてくれ」
「はあっ、そっ、んな余裕……あっ、あぁぁぁぁぁぁああああああっ!!」
 ルヴィアはビクンビクンと震えながらシロウにしがみつき、しかし泡で滑って、それを許されなかった。
「!……あ、やっ、イヤ、ですわっ、シロウ、お願いですから休ませてッ!!」
「悪いけど、俺、止まれない」
「ああっ!ぁあっ!そん、なに、強く、擦らないで下さいましぃ!」
 ルヴィアの秘所を、士郎のモノが何度も擦りながら行き来し、執拗にクリトリスを押し潰す。
 擦られ、押し潰され、その度にルヴィアは身体をこわばらせた。
「あっ、くぅ、また、あ、熱く……!!」
「くっ、ルヴィア、俺、そろそろ……」
「は、やく……も、う、わたくしも……っ……あ、やっ、いくぅぅぅうっ!!」
「うっ……!!」
 二人の間、ルヴィアの下腹部を白い濁ったものが汚し、透明な液が士郎のモノへ降りかかった。

「……挿れるぞ」
「ええ……っぁっ、ぁぁああああっ」
 大理石製の浴槽。
 その縁に手を掛けた状態で、一気に後ろから貫かれてルヴィアは身体を仰け反らせた。
 近付いて来た上半身を抱き締め、士郎は腰の動きを開始。
 ビチャッ、ビチャッと水が弾け、音が響く。
 水中なので速くは動けないのだが、その分、深く大きく、強い衝撃も伴った注挿となっていた。
「ああ、シロウ、の、いつもと違う所を擦ってますわ」
「くぅ、ルヴィア、こそ……いつもより、絡み付いて来るみたいだ」
 お湯が揺れる為、同じ動きを繰り返すことは出来ず、何度も抉り、抉られる形になる。
 痛みすら転じて強過ぎる快楽になり、士郎は堪らず腕に力を込める。
 それがルヴィアの胸を圧迫し、鷲掴みにする事になる。
「あぐ、くぅっ!シ、ロ……ォ!」
「っ!ルヴィアの、膣(なか)、凄い、締め付けてくる!」
 荒い息が混ざり合い、二人同時に昂ぶっていく。
 士郎の呻き声とルヴィアの喘ぎ声、それと身体をぶつけ合って水の弾ける音が、浴室でエンドレスに、流れ、響き続ける。
「あっ、あっ、もう、わた、くし……シロウ、お願、いですから、キス、を……」
 その、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらの懇願に応じ、士郎は体位を変え、正面から思いっきり抱き締め貫く。
「はっくぅぅ!シロ……うむ、ん、んんんっ!!」
「あむ……ん……ルヴィ、ア……ちゅ、ふ、……」
 士郎からすぐさま唇を重ね、息をすることなど思慮の外に、ひたすら互いに貪り合う。
 勿論それは唇のみではなく、むさぼるのは互いの肉体(からだ)も、だ。
 窒息しそうなほど舌を絡め合いながらも腰の動きは、数十秒は衰えなかった。
 だが流石に酸素を求め、そこで密着していた胸元に間(あいだ)を空ける。
「はっ、はぁっ、はぁっ、ん……シロ、ウ、わたくしもう!!」
「あ、くっ、出るぞルヴィアぁあっ!」
 ルヴィアが脚を士郎の腰に絡めた瞬間、彼女の奥深くに士郎が達し、
「あぁ、あ、あっ、あああぁあああっ!!」
 搾り出すような嬌声を上げながら、追いかけるようにルヴイアが絶頂に達した。

 コンコン
 がちゃ
「身体の調子はどうだ?ルヴィア」
「あ……たま、が……痛いですわ」
 お盆に手製の粥を乗せ、士郎がそう訊ねると彼女は弱々しく返答した。
 彼女がクッションで軽く身を起こしているベッドに近寄り、サイドテーブルにお盆を降ろす。
「始めた時点で熱が出始めてたのかもな。気付けなくて悪かった」
 額に乗せられていた折り畳まれたタオルを取り上げ、水を張ったボールの中へ。
「ん、いい、ですわ。こうして……看病してもらってるんですもの」
 絞ってしっかり水気を切り、額や頬に浮いた汗を拭い、再びボールへ。
「そんなこと無い。俺、何も出来なくて……」
「身体を冷やした事と、疲労から来る熱ですわ。熱を魔術的に取り除くより、こうして休んだ方が身体に良いですわ」
 今度は若干水気を残し、ルヴィアの額へ。
「だから、ちゃんとシロウは役に立ってますのよ?」
「……ん、そう言って貰えると助かる」
 薬草の調合、少しは憶えた方が良いかな、と呟く彼にルヴィアは苦笑し、
「それならわたくしがお教えしますわ。換わりに士朗は、料理をわたくしに」
「ああ、じゃあ熱が下がったら」
「ええ。でも、今はそれより……」
「ん?……ああ」
 士郎は湯気を昇らせる器を取り上げ、中身をスプーンで掬う。
「……あ〜、えっと」
「…………」
 じっと見詰められ、やがて士郎は掬った粥を吹き冷まし、
「あ、あーん」
「あ〜ん♪」
 ニコニコと笑みを浮かべたルヴィアの口に差し入れた。



  おしまい















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