今月の本   0810号 波乱の時代 特別版—サブプライム問題を語るアラン・グリーンスパン 著


今回の本は、前FRB議長が最近のサブプライムローンの混乱について どうみているか述べた本です。

現在、金融情勢が大変動してほとんどの人を巻き込みかねない ことになっていますから、とりあえず読んで自分なりの考え方を持って おくべきでしょう。この本は日本版が去年発売された彼の本の ペーパブックの前書き部分を特別に訳したものなので、非常に薄くて安い ですから、ぜひ挑戦してみてください。

彼に私がはじめて着目したのは、911テロのときの対応でした。 市場を開き続けたのです。その結果、大きく下げた株価は まもなくもとにもどって、市場が冷静さを取り戻しました。 その後も、対応が合理的で見事だと思いました。 今年になって、私の履歴書が日経に連載されて、その理由を知りました。 あらゆる統計を若い頃から常に調べていて、その統計をもとに判断 していたのです。(日本の金融統制機関でも、そのような人を養成して 選抜する仕組みをつくるべきでしょう。現在は金融機関か財政当局の代弁者 ばかりのような気がします。経済全体を眺めて判断できる人材を増やすべきでしょう。)

そのような方の著書ですので、ある程度いったいどうゆうことがおきているのかを 具体的に知ることができます。 もし、語句などが難しいと思われたら、既に去年出ている本書の 本編の方を読まれることをお勧めします。

もっとも、そのような彼も最近の報道にあるように、一部間違いを犯したと告白しています。 結局、最近の金融商品の統計自体が存在せずに、認識ができなかったということのようです。

アナリストの技術の進展よりも、金融技術の進展の方が早くなってしまい、 制御できなくなったのが、今回の騒動の一因ということなのでしょう。

その対策にはもっと報道が責任を持って詳しい情報を調査報道すべきであると 思います。(上記の件についてはFRB議長と報道機関は同罪でしょう。) 報道だけみていても、不明なことがいくつもあります。 今回のことについても、悪い肉が混ざったミンチという例がよくされていますが、 ミンチと違い、住宅ローンの証券では利子がつきます。ですから、利子を逆に追っていけば、 自分の証券がどのようなものかはわかるはずです。たしかに、それをさらに加工して証券化 した場合はだんだんややっこしくなりますし、格づけのやり方が数学的に根拠がないような ものもあるので、突然指針が無くなって値がつかないということもあるかもしれません。 しかし、最終的には誰がローンを払い続けているかという問題となるわけです。 そして、9割以上のローンが現在ちゃんと払われているようですから、 いったいだれのローンを組み合わせたのかを調べて、それぞれの家庭の状況から将来の値段を 予測しても、それほど想定外になるほど悪くなるということは少ないはずです。 ですから、報道機関自らが具体的にローン証券の状態を調べて早く公表していれば、 あれほどの混乱にはならなかったのではないでしょうか。 実際、あれほど問題とされたCDSなどでも清算値などをみるとほぼ予測の範囲内で、 むしろCDSがうまく機能して、リスク低減がされているという印象です。 もっと、そういう情報が早くわかれば、金融市場はあれほど混乱しなかったでしょうし、 政府機関も対策をとりやすかったことでしょう。 現在は、状況が不明のまま市場が動いているので混乱を増幅しているという印象です。

情報を分析して、わかりやすく示すことに情報機関も監督機関も金融機関も 力をいれるべきでしょう。

そのためには、日次会計をそろそろ取 り入れるべきでしょう。 これだけ状況が急変するのに、会社の状況が3カ月に一回程度しかわからないのでは、 恐くて株も買えませんし、融資もできません。今やほとんど計算ソフトで業務が行われて いるのですから、技術的にはそれほど難しいことではないはずです。税徴収でも、予測する手間 が省けるのですから、日次会計の場合は一部税率を下げるなどして政府も普及に努めたら いかがでしょうか。

と、同時に持っている有価証券はきちんと投資家に公開するように制度を整えるべきでしょう。

今回の問題もいったいどの金融機関がどの程度ヘッジしているのかわからないことが問題を 大きくしています。損害だけが報道されていますが、金融のプロほどヘッジをかけて 予想外の損失をうけることがないようにしているはずなのですが、その点の報道がなにもないので、 結局どこかの金融機関がヘッジをとるのに失敗しているのではないかという 疑心暗鬼が広がりました。市場に影響を及ぼすほどの企業や投資家は保持している金融商品を きちんと表示するようにすべきでしょう。売買の時の注文もどこからどれだけ注文 がでているのかは、大口注文者にとって不利ということで、 相当制限されました。しかも最近は市場に影響を与えにくいということで場外取引が 多用されています。これでは一般の投資家にはどのような取引が行われているのか把握 できなくなっています。結局はどの機関がどの証券を持っているのか把握できないので 今回のような時には不安で売ることになります。安定した市場のためには上場企業や市 場に影響を及ぼすほどの規模(累積債務が国や世界のGNPの1%以上)の機関や投資家は、 きちんと手の内を公開しておくべきでしょう。

このような情報開示の徹底で911後のように短期的な混乱を防ぐことができることでしょう。

むしろ長期的に問題なのは、景気が悪くなってローンを払えなくなる人が増えることです。 そのために最近は、世界経済が悪化するのではという思惑から株価が下がっています。 実態経済を維持することこそが金融機関を維持するより重要です。

そういう意味で、今回の資本注入方法は問題です。 日本のバブル崩壊のときもそうでしたが、こういう状況で一番困るのは 金融機関の都合で融資が打ち切られたりする、いわゆる貸しはがしや 貸し渋りがおきることです。そのために、本来景気が悪くないのに景気が 悪くなります。そのようなことがおきるのは、銀行はBIS規制があるために、融資と 自己資本の割合が一定以下になるようにしなければならないので、有価証券の価値が減ると その分融資できる枠が減るので、貸し矧がしや貸し渋りがおこりやすくなります。 その状況で、損をした金融機関に公的資金を注入すると、損した額より多い額を注入しな い限り融資は増えません。ですからもし貸し渋りを防ぐのであれば、 優良な機関から注入しなければなりません。 つまり、自己資本率が高いところにほどよい条件(金利0など)で注入しなければなりません。 そうしないと、せっかくの巨額な公的資金が、損失のブラックホールに消えてしまい、 実態経済へと流れてこないのです。実際、現在全世界的 に用意された金額は、当初問題であったサブプライムローンの総額よりはるかに多いい 金額となっています。もっと効率的に使うべきでしょう。ちなみに報道によると地方銀行 の中には顧客の預金を有価証券で運用しようとして損しているところがあるようです。 銀行は預金を企業に投資して利潤を得るのが役目なのに有価証券に投資しては資金が海外 に流れるだけでしょう。どうりで地方の景気がわるかったわけです。こうゆう銀行に 注入すべきではありません。(こういう貸し渋りの時代にこそ新銀行東京のような銀行が あるべきなのにいまだに攻撃が続いているのが不思議です。東京都も今こそ新銀行の理念を 生かすときではないでしょうか。あまり報道されていませんが、いまだに本人保証な しで中小企業が借りれるシステムは日本にはほとんどないのです。ベンチャー企業が 育たないわけです。なにしろリーマンの手がけた定期的な家賃収入が見込める案件にすら買 い手がないのですから、もっとリスクの高いベンチャー案件にはだれも資金をださない のでしょう。)そして、このようなことが2度とおきないように、BIS規制の資本には、ヘッジを かけた有価証券しか認めないとすべきでしょう。もっとも現在それをいきなりやる と、ヘッジをかけようとしてさらに株が下がります。(ヘッジをかけるために先物や オプションでもとの株が下がるほどもうかるものを買うと、先安感がでるので結局もとの株 が下がるのです。)ですから、まずは上記のように公表で済まして、市場が落ちついてから 実行すべきでしょう。もしつぶすと混乱がおきるのでやむをえず注入するのであれば 、ペナルティとして、会社をつぶしても問題のない大きさまで分割すべきでしょう。 現状のままでは大きくなるほど買収もできて政府も助けてくれるということになり、どんど んつぶせない企業が増えてきます。ついには政府も助けられなくなり共倒れになることでしょう。 100年に一度の危機ということばをよく聞きますが、これだけつぶせ ない企業がふえるとこのようなことは10年に一度は起きることでしょう。なにしろ、とんでもない勝負を 仕掛けても最終的には政府によって助けられるので、より無謀なビジネスが生まれても不思 議がないのです。実際最近は10年おきにバブルがおきています。ですから、政府は、 そのようなつぶせない企業を減らすとともに、10年おきに今回のような危機がおきても 持続的に対処できるようにしておく必要があります。そういう意味で、今回の危機は 短時間で効率的に収拾をはかるべきでしょう。

そして、そのような危機が発生する機会を減らすために、そういう制御やシステムに長 けた理工系の方が経済システムについてもっと発言をされるべきではないでしょうか。

上にもいくつか述べましたが、現在の経済システムは、慣行だからなのか、いろいろ不安定な ところがあります。そういうものを良い機会ですから、多様な人材が多様な面から検討 して速やかに修正すべきです。

たとえば、文系の方は、しきい値をすぐきめるのですが、それが問題です。 以前の選挙のところでも説明しましたが、入力が少ししか動かないのに 出力が大きく動くような関数を用いると、容易にカオスという結果を予測できない 状態をつくりだせます。ですから、システム内ではそのような関数はなるべく 使わないようにすべきなのです。たとえば、BIS規制で銀行の自己資本比率は 何%以上でなければならないというような、規制になっています。持っている株が下がって その規制近辺にまで自己資本比率が下がると、ちょっとした株価の変化で銀行倒産といった 大きな結果がでますから、当然投機家が売り込んできます。 ですから、主要株価が下がれば下がるほどよけい売り込もうとする動きが増えますから より不安定となります。 BIS規制はそういう敷居値でおこなうのではなく、自己資本比率が低くなるほど、 保険や税をα/(自己資本比率)というように滑らかな関数で課すようにすべきです。 そうなるとそのような混乱はずっと小さくなることでしょう。

また、ヘッジをしようとすると、株価が上がりにくくなることが認識されていません。 ヘッジをかけるために先物やオプションでもとの株が下がるほどもうかるものを買うと 先安感がでるので結局もとの株が下がるのです。つまり、プロが株を買うほどヘッジを かけるので株は上がりにくくなります。そのうえで長期保有が前提とした政策をしよう とするので、バブルが起きやすくなります。 株を確保しない空売りも問題です。 それにより会社の問題点を早めに株価に反映できるとされていますが、 そもそも会社の価値を決めるのは株主です。株主がよいと考えている 方針に反対する部外者が売り浴びせられるというのは問題です。 経営は他のひとが反対するようなことでも挑戦することで、 大きな利益を得ることができるものだからです。 そういう経営センスが研かれません。 株価の長期保有が有利となるように制度を整えないと今後も乱高下を繰り返すことでし ょう。株を手当しないときの空売りを永久に禁止することと、麻生さんが総理になる前に 主張されていたような、一般人が株に投資しやすくするために、一定額の配当に税をか けないことが必要に思われます。(総理になられてからは主張されていないのが残念です。)

また最近ようやく改められつつありますが、転換社債や第三者割り当て増資があまりに経営側 に有利な制度となっていることも株価が上がりにくくなっていることの一因です。 株主に関係なくかってに増資できるので、経営陣が危険な事業のために増資をすると、 株主が知らぬ間に株価が下がり、議決権も相対的に減っているということが可能になって しまっています。これでは、安心して長期的に株を保持しようという気になりません。 通常の内部留保による増資の場合は、増資することで、株主の株数も増えます。 企業が大きくなるほど株主も利益が得られるので、企業が大きくなることを応援しようとし ます。しかし、現在では企業が大きくなっても株主にその利益がまわってくるかはわからな いわけです。第三者割り当て増資や転換社債の場合は、せめて取締役会の議題になる 前に株主に通知すべきでしょう。できれば、株主総会できめるべきです。結局経営者が やりやすいようにしたことで、株主の権利が阻害されて、株価が上がりにくくなり、経 営者を苦しめているようにみえます。

また、株価指数でみるとバブル後大きく下がっているように見えますが、東証の時価総額でみると、 だいたいバブルの平均あたりを振動していて、決してバブル初期より投資額 が下がっているわけではないのです。ただ、多様な種類の証券が発行されているので、 株価指数でみると落ちてみえているわけです。国の経済情勢を判断するときには、株価指数 ではなく、国全体の時価総額で判断すべきでしょう。報道機関もなるべく国全体の値を 示すようにすべきでしょう。

ついでにわが国の対策についても多様な面から検討すべきでしょう。

景気対策として、国民一人一人に資金を支給することが発表されました。これはもう少し 工夫して恒久的にバランスのとれたものにすべきでしょう。一時的処置のようですが、 生活保護をやめて、確定申告して一定の収入がない人に資金を供給するようにすればシステムが 非常にすっきりします。このような制度があれば累進的に消費税をかけることも 可能になります。収入が一定以下の人にはその分消費税を還付して、還付しきれない人は その分支給すればいいのです。そうして、所得が数千万円以上の人には数十%の消費税をそ のまま払ってもらうようにすると、贅沢品にだけ高い消費税をかけることができます。 高額所得者の高い負担で低額所得者の還付金を払うようにすれば将来への負担が 生じません。そして、所得分布の平均より高い人が低い人を支えるようなしくみにすると、 企業経営者などの雇用者も被雇用者の収入を上げた方が自分の税が少なくなりますか ら、より高い報酬を払うようになり、社会全体の格差が拡がるのを防げます。 高額所得者は収入に応じた社会的な責任を持って行動すべきなのですが、現在はなるべく他の人の 収入を減らした方が自分の利益となるので、社会が不安定になりがちです。

リーマンの社長さんが議会で、もっと確実な投資を行ったら当時の業界人に認められなかった だろうというような答弁をしていました。 しかし本当は、回りに凡庸と思われても正しい方向に進む者こそ優秀な事業者なのです。 で、そういう者にきちんと報酬を与えることにより能力のあるものが重要な地位につく からこそ、社会主義の計画経済よりも資本主義は優れた成果を上げることができたのです。 しかし、今世界で行われている対策では間違った者を助けるものばかりで、正しい者 が報いられるようなものはほとんどありません。人類社会の将来が不安です。 (日本のバブル時であれば、バブルに踊らなかった静岡銀行こそが日本第一の銀行となるべきでし た。しかし、そこで道を誤った機関を多数助けたことから、大きな金融機関はつぶれることがない ということが世界中の市場価格に織り込まれてしまいました。そこでリーマン がつぶれたのでパニックとなりました。今また同じことをしたら、将来もっと大きな混乱が おきるのではないでしょうか。)モラルが崩壊しているシステムほど危険なものはな いということをもう一度認識すべきでしょう。

つまり、モラルを維持して持続的なシステムを構築する必要があるのです。 そのヒントにこの本を読んでみてください。

では、また来月に。



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