今月の本     0802号 華中作戦 佐々木 春隆 (著)


今月の本 0802号 華中作戦 佐々木 春隆 (著)

今回御紹介する本は、第二次大戦中の中国戦線の体験記です。 これまでもいくつか戦記ものを御紹介してきましたが、 体験記を書ける年齢となると、あのころは青年期になるので 下っ端の兵隊さんたちの体験記がほとんどでした。しかし、 この本の中では主人公は中隊長でして、指揮官がどんな気持ちで 行動していたかがよくわかる本です。 また各状況に置ける著者の方の内面が率直に語られていて非常に読みやすいので、 戦記ものが苦手な方にもお薦めです。

この本を読むとピラミッド組織の問題点を知ることが できます。軍隊は御存じの通りピラミッド組織の典型です。 そして、そのような軍隊的なピラミッド組織は そこらじゅうにあります。官僚組織も会社組織も 大概はピラミッド構造です。 しかし、そのようなピラミッド構造の組織はきわめて 特殊な状況でしか機能しないものです。 具体的には、ナポレオンのような天才が 手足のように動かすのに敵した組織なのです。 すなわち、すべてトップが決定してその命令を 伝えるためだけに組織が存在する状況というのが ピラミッド型組織にとって最適な状況です。 しかし、現実にはそういう状況はめったに ありません。ナポレオンやハンニバルのような天才でも 敵が多方面作戦をとることで最終的に破れています。 一人が多方面の指揮を同時に行うことなど無理なのです。 ましてナポレオンのような全てを把握する天才はまれですので、 大抵はトップは大まかな方針を決めて下の組織がそれを 肉づけしていくような方法がとられます。 しかし、そのようにはピラミッド組織はできていません。 出世した方は実感されたことがあると思いますが、出世する程 部下が減っていくように感じるものです。なにしろ、 直接の部下は下部組織の長なのですから、命令を受ける立場 であって、長をサポートするわけではありません。 ですから、大抵組織の長をサポートする組織がつくられる ことになります。軍隊であれば参謀本部、会社であれば社長室のような組織です。 しかし、そうなると又別の問題がでてきます。 ようするにそのトップをサポートする部門の 者が上位の立場の下部組織の長に指示するようになるわけです。 そして、そういう組織が各下部組織につくられるので、 もはやピラミッド組織とはいえない組織ができあがることになります。 誰がなにを命令して誰がなにをしようとしているのかわからない組織と なってしまうのです。(この本の中ではこの著者がそういう組織の中で 奮闘している様子がかかれています。日本軍は基本的に坂の上の雲のよ うに、参謀が全て指揮して大将は責任を持つ という形になっているようです。) 一方で、さらに問題なのが縦割りの問題です。大戦略をやったことのある方は わかると思いますが、軍隊では、飛行機と陸軍と海軍が協力しなければなりません。 ですが、空軍と陸軍と海軍が大概わかれていますので、前線で船や飛行機が必要になると 総司令官まで要請をあげなければなりません。 命令をはるか上まで上げるのが面倒なので、 陸軍や海軍も飛行機や船を持つようになります。 これは、会社組織や官僚組織でもよくおきることです。 そうして、同じような機能を持つ組織があちこちに増殖していきます。 組織の横のつながりが想定されていないのです。 そのため、できるトップは、増殖する組織を刈り込んで効率的な 横のつながりをつけていくことになります。そうしてできあがった 組織はもはやピラミッド構造ではなく、個々の組織が密結合をとった 構造になります。つまり、京セラの稲盛さんが提唱されているような 組織になるのです。通常はそのような組織の方が効率的だと考えますが、 、いまだに日本の組織の大部分は見掛け上ピラミッド組織で、 上記のようにどんどん組織が複雑化していっている光景をよく見掛けます。 この本を読んで自分の属している組織にそのような問題が ないか考えてみたらいかがでしょうか。

一方で当時の日本軍の様子もよくわかります。 中国でどのような戦いが行われていたかは知られていません。 このかたは偉くて、上官の命令であっても無理な命令には従わない という勇気をもっておられるようです。そのため、 部下の損傷率がきわめて低いものとなっています。 一生懸命工夫して、損害がでない方法を探して実行されています。 米国の軍隊ではそういう戦いかたが映画(プラトーンやコンバットなど、)など でよく描かれています。 (もっとも、米軍には敵や民間人の損害まで同様に考慮してほしいものです。 大体、米軍の損害を1とすると敵の損害は10で住民は100という感じです。 そのために、イラクやアフガンでよけい米国が怨みを買って、作戦まで 困難となっています。イスラエルも最近はゴム弾をつかっているようです。 それでもニュースのように怪我人がでるのですから、実弾で一般人に対応 したらどうなるかは、簡単に想像できるはずです。そのような 技術は米国にはいっぱいあるのですから。わざわざ米国を怨む人々を 作り出さないようにすべきでしょう。 そうしないといつまでたっても世界情勢が安定しません。) 日本軍の場合は零戦の装甲が薄いのに象徴されるように 自軍の損傷はかまわずつっこんでいくような印象が強かったのですが、 日本軍でもそのような行動をされている方がいたのを初めて知りました。 兵学校出身ということもあるかもしれません。 わたしであれば、上官の無理な命令を拒否できずに 突っ込ませて大きな損害を出してしまったことでしょう。 実際著者が戦場を離れて違う人が指揮している 間に部下が相当減っていたそうです。 そのように被害が大きい軍隊ほど敵への怨みが増しますからよけい残忍になります。 ですからわたしのようなものが同じ立場であれば、 より無理な攻撃を行って戦死するか、残酷な行為で戦犯として処刑 されるかしてどっちにしろ帰れなかったことでしょう。 ぜひ、世界中の銃器を持ったかたがたは、この著者のような 自制心と勇気を持ってほしいものです。

この文庫のシリーズには同様な体験記がいろいろ収集されているようです。 ぜひ今後も生き残って、各時代の証言を集めてほしいものです。 (年金庁の方もいったいどうしてあんなことになってのか、 この本のような書き方で本を出版してほしいものです。 そうなると今後どのような点に気を付ければいいのかが わかり、将来失敗を繰り返す危険を避けることができます。) このシリーズを訳していれば、米軍がイラクであれほど泥沼に はまらなかったことでしょう。歴史は何度でも繰り返します。 義仲は暴れて天下をとれませんでした。信長は京都で厳しく 軍を統制して天下人となりました。 日本軍はこの本の著者の方が憤っているように、食糧を徴発(そこに住んでいる ひとから見ると略奪でしょう。)していましたから、 長期的な成功が得られるわけがありません。 いったいだれが、兵站無視の作戦に許可を出したのでしょう。 そのような作戦で成功したのはアルプス越えのときの ナポレオンぐらいではないでしょうか。そのナポレオンも ロシアの焦土作戦で大敗しています。日本軍も 都知事のおっしゃるように死者の半数以上が餓死や 病死だったそうです。このような、 悲惨な現象はなるべく減らす努力をすべきなのは当然です。

では、また来月に。

関連リンク:http://yokutoku.y.ribbon.to/mm83.html

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