今月の本    0702号 続・日本国の研究 猪瀬直樹著


今回ご紹介する本は、猪瀬さんの週刊文春 上でのコラムをまとめた本です。 前作の日本国の研究は有名でしたが、 この本はその続編にあたるものです。 読んだことのない方は、日本国の研究 から読むことをお薦めします。

これらの本を知らない方は、 作家の猪瀬さんがなぜ道路公団にかかわったのか 不思議だったと思います。 実は、政府の問題点を一番明解に指摘したのが 猪瀬さんだったのです。

十年近く前の記事をもとにしている本なのですが、 いま読んでもまったく、古さを感じさせません。 問題点はいまだにそのままあるように思われます。

猪瀬さんが道路公団の問題にかかわったときに 一番問題だと思ったのは、ほとんどの評論家や メディアの応援がなかったことでした。 せっかく言論の分野の人が問題を解決できる立場に 入ったのですから、もっと積極的に応援すべき であったと思います。そういう働きがないので 孤立無援で対処されていたように見受けられました。 メディアはどうもお互いに協力するのが苦手なようです。 スクープ報道でも、後追い報道がなかったりしますし、 あってもどの社のスクープだったのかは、報道しません から、いくつも新聞をとったり複数の番組をチェック していないと、普通の人にはいったいどの社が この問題についてがんばっているのかがわかりません。 もっと、スクープをされたらちゃんとどの社の スクープかを書いてから、自分の報道をするという 規則をきめたらどうでしょうか。そうなれば、 調査報道により熱心になり、報道の質がより上がる ものと思います。

また、もうひとつの問題は、この本の問題がこの 十年間でどうなったかをわかりやすく示す情報 がほとんどないということです。 道路公団の問題でも結局、どう問題が修正された のかは不明で、私の印象では、今後の運営次第と いう気がします。実際、猪瀬さんも今後国民が きちんと監視することが必要というような意味の ことを言っていたような気がするのですが、 きちんと問題が起きないように監視できているのか が報道からはほとんどわかりませんし、 監視しているなあと思った報道はこれまでNHKの番組 で一回見たくらいです。 他の問題も同様で、結局特殊な法人の名称は変わる けれども、役目や効率は変わらないという印象です。 上場企業であれば、ホームページにいくと必ず 投資家へ向けたページがあって、経営状況の概況が わかります。しかし、なんとか法人やなんとか財団 というページでそのような表示をみたことがありません。 結局各省庁の系列企業の実態のわかりにくさもいまだにこの本のころと 変わらないのではないかなと思われます。

こういう問題について公務員の組織が非常に強く抵抗を しているふしがあります。なにしろ、歴代総理でそのような ことに手を付けようとするとたいてい失脚しています。 その理由は、公務員の福利厚生の問題が絡んでいるから ではないかなと推測しています。 おそらく老後の安定収入の確保と失業者を出さずに 官僚組織を運営するために、必死に組織を守っている のでしょう。しかしながら、前記のような外部から 監視の効かない組織を作ると結局組織が変容して いきます。その結果、夕張市のように公務員自身が 大きく身を切るはめになってしまいます。 公務員の仕事とそれに見合った生涯賃金をきちんと 国民に請求して、そのかわり行政に不必要な組織は どんどん削って、官僚組織がよりわかりやすく効率的に 運用できるように、公務員の人達が率先して組織を 変えていくべきでしょう。 まず、いったいどれだけの組織と人員が国に頼っているのか を明らかにすることです。国及び国の関連団体から、 助成や指定競争入札の権利を得ている団体及び、 独占的になんらかの許可を得ている団体はすべて 国の関連団体とするというような、再帰的な 定義できちんと国の予算や権限に頼っている範囲を 決めれば、全体像があきらかになることでしょう。 おそらく、地方の公共事業に頼っている企業などは みんなその中に含まれることでしょう。 そうした上で、国および国の関連団体は、 国民一人一人に対して、上場企業の株主に対する のと同等な情報の開示義務を決めることです。 そうなると、開示したくないから民間資金や 一般競争入札で団体運営をしようとする人達も でるでしょうし、相当な情報が明らかになるので 問題点が明確になり、どこの効率が悪いのか といった議論が可能になります。 (ちなみに、上記定義を使えば、去年発覚したような 天下り規制逃れもできません。プログラムでよく使われる 再帰的定義を法律でももっと使うべきでしょう。) 現在は各省庁の縄張争いで、国民どころか他の機関に 対しても情報が閉じているように 思われます。その結果、効率を度外視した 組織が山のようにあるものと思われます。 上記の処置をとるだけで相当な 行政効率の向上が期待されます。ですから、 猪瀬さんが指摘した虎ノ門の問題の解決こそが、 財政再建のもっとも近道だと思うのですが、 現内閣の法案を見ていると財政再建につながる ような公務員組織の改革はあまり見受けられず 今後が心配です。今度こそメディアや言論関係者が 調査報道を積極的に行うことによりよい方向へ 日本を導くべきではないでしょうか。

では、また来月に。

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