今月の本    0607号 捏造された聖書 バート・D・アーマン 著 松田和也 訳


今月の本 0607号 捏造された聖書 バート・D・アーマン 著 松田和也 訳

今回、ご紹介する本は、表題は過激ですが、新約聖書の成り立ちについて述べた本です。 最近話題のダビンチコードでは、聖書の成立過程における 問題点をうまく使って物語の信憑性を増していました。 ダビンチコードを観たり読んだりした方は、 聖書の成り立ちについて実際のところどうであったのか、 調べたいと思われたのではないでしょうか? そういう方にぴったりの本です。 ダビンチコードに似た、読みやすい文体ですので、 こういう類いの本としては、比較的楽に、読めると思います。

キリスト教は、不思議な宗教で、創始者が信者の前からいなくなってから、 宗教が出来あがります。 なにしろ、一番古い福音書によると、キリストが 話していたことを弟子たちは、ほとんど理解できなかったようです。 そしてキリストが去ったあと弟子たちは、 どういう意味であったか理解し始めて、 それを広めていったようです。 その過程でいくつもの文書がつくられていきます。 そして印刷機がない時代はすべて手書き ですので、その時々の宗教理論を補強するように 意図的に、もしくは無意識の改編が加えられます。 このように、宗教の発展とともに文書が形づくられていきますので、 数知れない種類の異本が出来上がります。 聖書のみを信じるプロテスタントの人にとっては、 いったいどの聖書が本来のものかは、重要です。 そこで、膨大な聖書文献の整理が精力的に 行われるようになったそうです。

こういう努力は、ほかの分野も必要です。 日本の文献も、つい最近まで、人が写すしかなかったのです。当然、間違いや 補正が入っていきます。ぜひ、このくらいの意気込みで 元の文献の推定作業を行ってほしいものです。 いろいろ、発見があるのではないでしょうか? 実際大正時代に、更級日記の一部が入れ替わっていることが みつかっています。多数の本を比較することにより 聖書のように元の姿が変わってくるものも、でてくるのではないかと思います。 特に最近は、パソコンを自由に使えるようになりましたから、 こういう文献研究はやりやすくなってきたのではないでしょうか?

私は、歴史を教えることの意義は いかに歴史がたよりないものであるかを教えることにあると、考えています。

以前、石器時代の遺物の偽造があって、歴史が大きく変わりました。 ですがそもそも、日本の場合は奈良時代以前は、そうとうあやふやなのです。 古事記は、南北朝時代ごろの写本がでてきたのが最初です。 600年以上たったものですので、当初は偽書ではないかと思われていたそうです。 (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%A4%E4%BA%8B%E8%A8%98) また、吉田さんの九州王朝説を読んで見ればわかりますが、奈良時代以前を書いた本は、 古事記と日本書紀くらいしかないのに、素直な解釈ではなかなか遺品と一致しません。 そこで、最近では聖徳太子はいなかったという説が有力になりつつあります。 もっとも、文書が少ないのは古代だけに留まりません。 あの有名な本能寺の変でもやはり、信頼に足る資料が少ないので、いろいろ資料の記述を組み合わせる と、これまでとまったく違う本能寺の変の真相が組み立てられます。 最近では、小説や大河ドラマでも新説の考え方が取り入れられているようです。 最近では、そういう事実を取り入れて、教科書が書かれていて、10年前の記述と大分変わっているそうです。 (その辺については、なぜ偉人たちは教科書から消えたのかが詳しいです。 歴史に詳しい人ほど、読んで知識をリフレッシュすることをお勧めします。) 以前は、歴史に詳しい生徒ほど、通説と実際とどちらの答えを 書くべきかを、悩んだものですが、大分改善されてきたようです。

このようなことがおきるのは、文を書く習慣やそれを保存する習慣が日本に ほとんどないことにあります。日記のような同時代資料がほとんど残っていないのです。 ですから、現代のことが、後世からみて闇の中に入らないように、 みなさんも、日記をつけましょう。ブログでもいいかもしれません。 ただ、ブログは今のところ国会図書館では収集していないようです。 (海外のサーバには取り込まれるようです。) 念のために、自費出版して、納品しておくといいかもしれません。

歴史を扱う立場では、このような不確実な資料を見分けなければなりません。 数学や法律では、三段論法がなりたつので、少い公理から、厖大な結論を導けます。 しかし歴史的事実は常にその真偽を疑いながら、推論を積み重ねる必要があるのです。 そのためのこつは、その情報が依存しているデータが いくつあるかを数えることです。なるべく、多くの情報に立脚している方が 正しい可能性が高いのです。さらに立脚している情報の真偽の確率まで考慮 すれば、なお正確性が増します。(たとえば、最近話題の富田メモの内容は、 欧州旅行や226事件、そして終戦時および戦後の行動から推測していたものと ほぼ同じものでした。ですから、逆にメモの信頼性も高いと判断できるのです。)

問題は、そのような知識の危うさが教科書からわからないことです。 前述の通り相当、書き換わっているようですが、それが前の説よりどの程度正しそうかという説明がありません。 将来研究が進むとまたがらりと内容が変わって驚くということになりかねません。 ある事柄がなんの事実に依存してどの程度不確かかについて記述するようにすれば、どの程度信じることができるかがわかります。 たとえば、偽造された旧石器も、すべて同一のチームが掘り出していることがわかれば、少々怪しい結果だということがわかります。

ちなみに、ニュースに対する態度も同様であるべきです。 最近でも、偽造メール事件がありましたが、出所がひとつということは、 ひょっとすると、偽かもしれないという態度で臨むべきです。 (そういう意味では、最近のニュースは出所が一つのものばかりで、 いちいち怪しいニュースとして記憶して、なにか別ソースの ニュースが後ででてきたときに、それなりに確かな話として 分類するというややこしい作業をしています。ですから、とても大変です。 せめて、3つ程度の視点(情報源)を持ってニュースをつくってほしい ものです。)

その点は、この新約聖書の研究にもいえます。 この本の中に相当詳しく新約聖書成立の経緯がかかれているのですが、 具体的な文書の内容や、その発見過程や、資料の年代決定方法について 全てのっているわけではありません。 しかし、そういった事項がまとまってないと第三者が判断を下すことは できないのです。本書によれば、実際に研究するには 古代の言語や宗教用語に詳しくなければならないので、 研究者の数は少いそうです。そういう環境では間違える可能性 が高まりますから、もっと多くの人が検証に参加できるようにすべきでしょう。 これまでに発見された全ての新約聖書の異本を収集して、なおかつ、それらの発見経緯や年代推定方法や、 他の文書とどこがちがっていかを記載した、ブリタニカ並の新約聖書の辞典を作成したらどうでしょう。 その辞書をもとに、こういう理由で、系図を書くとこうなり、最古の文章はこういうもの だったでしょうという本があれば、読む人はそれを検証しながら読むことができますので より安心してよむことができます。

とはいえ、大変化した仏教と比較すれば、それほど大きな差ではないようです。 最古の福音書は衝撃的な終わり方になるのですが、 それでも、もし嘘をつこうとしたらこんな終わり方になるだろうかという終わり方なので、 逆に信頼性が増したように感じます。 新しい聖書には、これらの研究が反映されているようなので、この本を読んだら 読んでみることをお薦めします。最新の福音書だけの本もあります。 また、この研究から、Q資料という初期キリスト教の文書群の存在があきらか になってきたそうです。それらを読むと、我々普通の人がキリスト教に感じる魅力が凝縮 されています。(これについては、失われた福音書が詳しいです。) この魅力こそが、武力を使わずにローマ帝国やゲルマン人を征服できた秘訣だと思います。 ギリシャの神々が良くも悪くも人間的であるのにたいして、 ユダヤの神は人類の存亡など気にしない人間の意識と次元の違う存在として感じられます。 一方、キリストの教えには、理想の人間性はこうあるべきという明るさが感じられます。 その明るさを持つ宗教を背景とする社会から、近代社会が生まれましたから近代社会の基本理念にも 同様な明るさを感じます。近代社会の基本理念を確認するためにもQ資料も一読されることを お薦めします。

では、また来月に。

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