メールマガジン　今月の本　0502号小説ペイオフ

今月の本　0502号小説ペイオフ—通貨が堕落するとき　　木村剛 (著)

今回ご紹介する本は、題からわかるように経済政策関連の小説です。このような経済関係の小説の多くは経済現象の入門書か、疑似ドキュメントとして書かれていることが多いので、そういう本だと思ってこれまでよまずにいました。しかし、読んでみて、なかなか見事な構成の小説となっていて、小説として楽しめました。

ただ、最初は雑誌に掲載されていたようで、当時の状況説明が省かれています。その分その当時のことを知っている人にはなかなかおもしろくスピード感をもって読めると思いますが、株価が下がり銀行や証券会社がいくつも倒産した頃の経済情勢や政界情勢に興味がなかった人は、その当時の新聞や雑誌を読んでその当時の状況を体感してから読むとよりおもしろく読めると思います。

主人公それぞれが、すべてをわかったうえで立場の違いをぶつけ合うようなところなど、うまい脚本家がドラマにすれば、白い巨塔のようなおもしろいドラマになるのではないでしょうか。ただ、結果がまだでていないので、扱うのは難しいかもしれませんが。（そういえば、最近官僚もののドラマがないですね。やはり政治問題は扱うのがむずかしいのでしょうか。）

これからあとは、本を読んでから読まないと意味がわからないと思いますので、本を読んでからよむことをお勧めします。

この本の文庫本の前書きには今の現状がこの本のシナリオに沿ってすすんでいるように思われると書かれています。私も、この本の著者と同様にこの本のシナリオで動いているような気がします。そういう意味で気になっている点の一つは、ケインズの理論は、土木工事に例えれば未来の山を削って現代の穴を埋めるものであって、需要を時間的に移動させるだけで、トータル的に需要を生み出すものではないはずなのに、石油ショック以降、国の借金が増え続けるのは将来に巨大な不況の穴をつくっているようにみえることです。また、金をばらまいても、金利を払っても同様な景気浮揚効果があるにも関わらず、予算額全体でなく、経費的な予算の伸びだけで緊縮というような言い方がされています。予算額が前年より増えている限りは、景気浮揚のアクセルは踏まれているので、日本はずっとアクセル踏みっぱなしということになります。そして将来は、政策経費をどんなに圧縮しても金利負担が増大して、景気減速させる手段を失ってしまうことになるのではないでしょうか。さらに、現在まで政策にかかる経費の圧縮はあまり行われていないように思われます。セントレア空港の民営化の成功例を政府全体に適用するとそうとうカイゼンされるのではないでしょうか。

しかし同時に私としては、この本のようなチョロＱが行く手に壁があったらそれにぶつかって方向を変えるようなやりかたでなく、前もってちゃんと対策してフィギュアスケート選手のように壁の前で華麗に方向転換するような政策を実行してほしいと思っています。（たとえば、予算は最大値だけきめて、なるべく予算より少ない経費で実行した部署に翌年の新規事業を優先的に認めるような予算決定体制ならだいぶ政策経費が減るのではないでしょうか。そして、その減った分と同額の増税して、借金の返済にあてたらよいと思います。このような支出削減努力がみえる形で財政の再建をしてほしいものです。）

では、また来月に。

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