今月の本   1108号 春のめざめは紫の巻 新・私本源氏 田辺 聖子 (著)

今回ご紹介する本は、源氏物語をもとにした小説です。

さすがは田辺さんだけあって、 あのとっつきにくい話と登場人物を まったく身近に感じさせることに成功しています。

いったいなぜ身分の高い姫のもとを自由に 出入りできるのか 物騒ではないのかという疑問も あのように具体的な交渉過程があると じつにわかりやすいものです。

しかも登場人物の内面に鋭く入っていますので じつに自然なかたちで話が入ってきます。

源氏物語を読む前にまずこれを読むことを おすすめします。 源氏物語の世界観の中で 登場人物がいきいきと動いているので 楽しく源氏物語の世界へと入って いくことができるでことしょう。

田辺先生も楽しんで書いているようで 話ごとに風情がことなります。 実は裏側はそうだったのかと 素直に納得する話もいくつもあります。 ですから既に源氏物語に親しんでいる人には さらにおすすめな本です。

それにしても ここまで自由に話を回せる能力に感服しました。 末摘花などはりっぱな現代小説になっています。 いっけんおもしろおかしく書いているようで 登場人物の内面に対する洞察力もするどくて じつにリアルでした。 やはり天才は違います。 私は小説家としての能力は どれだけ話をつむぎ出せるかだと思っていまして、 そういう意味で前から天才だと思っていました。 たいていの方は息切れする朝の連続テレビを いともたやすく最後まで描ききっていたからです。 いきぎれすると大抵は話を無理やり引き出すので 流れが滞ったりつまんなくなったりします。ですから、 そういうことは読み手(受けて)側につたわるものです。 しかし、橋田さんや田辺さんの作品は 最初から最後まで作品の質がかわりません。 おそらく、渡る世間と同じように 田辺さんも書けと言われればいくらでも かけるのではないでしょうか。 最近はそういう作家さんが少なくて 残念です。 とくに歴史ものを読むとその能力が 顕著にわかります。 いくらでも話をつむげる方は 史実の部分よりフィクションの部分がおもしろくなります。 (吉川英治も司馬遼太郎もそうです。) しかし最近はフィクションの部分よりも 史実の部分の方がおもしろいような 話をかかれる方が多くて残念です。 ぜひ田辺さんのような 才能のある方が作家になれるような 道をもっと増やすべきでしょう。

では、また来月に。

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