一 人 で 抱 え こ ん で い た の ? 












やさしいもの











お風呂を上がって、冷蔵庫の中の飲みかけのスポーツ飲料を飲んだ。 ここ一週間前ぐらいから、冷蔵庫の中には食品らしい食品がこれといって見当らない。 なんとも貧相な冷蔵庫になってしまった。 まともな食事をしたのはいつ頃だっただろうか。最近飲み物とアイスしか口に入れていない気がする。 でもビタミン剤とか飲んでるし、たまに食パンを何口か食べてる。 食欲ないし、こんなんでも生きていける気がした。

あの人がここに来なくなって一週間経っていた。部屋はあの時のまま。

タオルを肩にかけて壁にもたれかかっていた。ふと目に入った鏡を見たら私の顔はなんとも 不健康そうだ。目の下にはクマを作っていて目は少し充血している。何だこの顔、まるで生気がない。 しかも部屋は汚い。どっかのTV番組でやってた片付けられない女みたいな部屋だ。あちこちに 衣服は散らばり、ペットボトルやワインの瓶も平然と転がっている。

「頭痛いっつの…」

もう何がどうなっていようと私には関係無い、などという矛盾した考えばかりが頭をよぎり、その 度に自分はどこまで馬鹿な人間か、と気が重くなる。

、おいで」

「…ロ、イ…?」

はっと気が付いて我に戻る。遂に私は耳もおかしくなってしまった。ロイはここに居ないのに。 ロイは私を呼んでくれないのに。 体がぞくぞくする。私の身体は正直だ。あの人を思っただけで、私の身体は反応する。

あの人を思っただけで心拍数が上がる。

私の身体はもうあの人しか受け付けない、私の身体が忘れない。 どうしたらいい?あの人は居ないのに。どうしたらいい? それだけで頭が一杯になって頭痛はさらに酷くなっていった。 もうなみだなんてでないよ、ロイ。 ただ身体の震えが止まらない。なみだのかわりに身体が震えて何かを押さえているんだ。 私の身体も心も何もかもあの人に奪われてあの人の虜になった。 どうしてくれよう。私をこんなにしていなくなったあの人。どうしてくれよう。

もうあの人から離れられない体なのに。あの人は今いない。

何て言ってやろうかあの人に。私をこんなにした罰として。何て言ってやろうか。 震えが止まらない身体は何を思ったのか、強く握った拳は頭上に振り上げて床に向かって勢いよく 何度も何度も、力任せに振り下ろした。ドン、ドン、という重いずっしりとした音が聞こえた。 骨はじんじんして気が狂いそうになった。いや実際狂っているんだろうが。
何度かして動きをやめて、手の甲から指の生え際の関節をみると赤くなっていて、 一部青くなっていた。





「まったく、なんて酷い顔してるんだ。





夢かと、思った。

それは本当に夢みたいで、でも確かにこの目の前にいる。居なくなった時のままのいつもの顔で 私を見てる黒い瞳。落ち着きがあるその目はどこか私を見据えていて大人を感じさせた。

「…この部屋、前より汚くなったな」
「…そだね」

自分でもなんて言ってるか分からない。どんなに声のボリュームを落としても、声は震えて出て行く。 身体が熱くなって、なんだか呼吸もおかしい。目が霞んでよく見えない。
そして気が付くと身体が勝手に動いて私は彼の腕の中にいた。彼の腕の中は暖かくて、何もかも忘れ させてくれるような暖かさ。手を彼の背中に回して、服をきゅっと掴んでいた。もう離れたく、ない。 もうずっと傍にいたい。

「…少し痩せたな…」
「誰、のせいよ…、っ…」
「すまない。だからもう泣かないでくれ」
「だって、止まらない…、んだよぉ…」

そしてロイの胸に顔を押し付けたまま顔を見なかった。見られなかった。きっと私は凄い顔してる。 もう止まって出ないと思っていた涙はどんどん溢れて何かを吐き出すかのように流れ出る。 鼻は詰って酸素は口でしか吸えない。息苦しい。口からははいた空気と共に、へんな声も出てくる。 それはまるで子供が泣き叫んでいるかのような光景のはず。

いつの間にか、ロイは壁を背にもたれかかり私はロイの左の太ももの上に乗っかって、ロイの胸に 縋り付くかのようにめそめそと泣いていた。 だってやっと会えたから。

だってやっと会えたから、私は理由を聞かない。


「どこに行ってたか、聞かないんだな」


急に、ロイは重い口を開いた。その声はどことなく不安定で、今にも消えてしまいそうだった。 するとロイの腕が伸びてきて、私を抱きしめた。微かだけど、ロイの肩は震えていた。
どこに行ってたか知らない。だけど私は理由を聞かない事にした。だって、あなたは辛そうな 、とても辛そうな顔をしていたから。でもある程度予想がついた。 彼の仕事関係。なにか事件があったのかもしれない。 浮気とかの女性問題じゃなくって、

「大丈夫、だよ」

何が大丈夫なのかそんなの分からない。ただ気が付くとそんな気休めの言葉が出てきた。 今この人はひっそりと涙を流しているのかもしれない。なのに私はこんな言葉しか掛けてやれない。 どこか自分の中の何かがずっしりと私に刺さったような感じがした。
ゆっくりと、ロイの背中に手を回して抱きしめた。どっちが慰められているのやら、そう思った けど口にせずにそのまま言葉を呑みこんだ。


「……、大人になったな…」


なんと言ったらいいのか、わからなくて。あなたのその言葉がどうしても震えていて、


「…今日は、やさしいな」
「何よ今日は、って」
「いや、…冗談だよ」


そう言ってロイはやっと顔を上げて、私の顔を見た。目は少し赤くなっていて頬もいつもより赤く なっていた。胸が、苦しく、なった。なんと言ったらいいのか、わからなくて。あなたは隠してる けど、どこか瞳は愁いを帯びていて、 やさしいのは、あなたなのに、私なんて自分の事で精一杯なのに。 あなたは、他人のために泣いていて。自分を、責めて、

やさしいのはあなたなのに。

ロイをとっさに抱きしめた。そして私はまた泣いていた。自分が情けなくて、ロイが苦しんでいて、 私は私の事で精一杯なのに。あなたが居なくなった理由なんてそっちのけで一人で勝手に鬱に なっていた。


「……?」


ロイの後頭部を手で包んでもう片方の手で首の後ろに手を回した。ロイのために抱きしめたとか そんなんじゃなくて、いやそれもあるけど、どうしても私が悲しくなって、抱きしめた。 なんとも自分勝手だ。


「ロイが、自分を責める必要なんてないよ」
…」
「きっと、誰にもどうしようもなかったんだよ」


出てくる言葉はなんとも理不尽で、だけど何かを必死に伝えたかった。


「だから、もう大丈夫なんだから」


自分で何を言ってるかもうわからない。自分はどんなに表現力がないのか、が嫌でもわかった気 がする。こんなんでこの人をどう励ませられるのだろう。


「―…だから、っ…―」


不意に唇を奪われ最後まで言葉を繋げられなかった。ロイは私の頬をその大きな手で優しく 包み込み、何度も角度を変え重ね合わせた。ロイの舌が口内に入ってきて、舌先は歯の列を ゆっくりなぞりそしてまた舌が触れた。唇を離すと、既に息が切れていて肺に入る息がとて も新鮮なものに感じた。
ロイの漆黒の瞳に私が映っていてなんとも間抜けな顔をしていた。今にも大声を上げて 泣き叫びそうで、


、私はもう大丈夫だからそんな顔をしないでくれ」


そう言ってふっと笑った。その笑みは久しぶりに見るものだった。でもその笑みはどこか疲れ ていた。


「…本当に、優しいなは」


その言葉を聞いて、また声をあげて泣いていた。 なんでだろう、泣いていた。言葉にして何かを出そうとしても言葉より先に涙が溢れて出て 止まらない。サイレンのようにうるさく鳴り響く私の声は、なんとも聞き難い声で、 近所迷惑だこんなのとか思いながらも止まらない。とにかく私は声をあげて泣いていた。


あなたは私を“優しい”と言ってくれた。こんなにも人を思って、自分だけ傷ついて、 私はそんなあなたにまるで寄生虫のようにへばりついていた。











「もう一人にさせないからな」











あなたはその言葉を囁くように私に送った。

その時ロイが何を思っていたのかは知らない。だけど、彼は私に申し訳ない気持ちで 一杯なのかもしれないし、そして彼は何よりも私を大切に想っていて。
確かに、連絡の一つもよこしてくれなかったのは、 正直辛かった。だけどそんな問題じゃなくて。だけど、だけど、











「絶対、寂しい思いなんてさせないからな」











ロイは何度も何度も、その言葉を私にひたすら送り続けた。
自分自身が確かめるかのように。自分自身に言い聞かせるかのように。





やさしいのは、あなたなのに。



やさしいものは、私を包み込むあなた全部なのに。











end






何が言いたかったんだろう私は(ヲイ)背景すごい色してるとか言っちゃだめです。なんか汚い色だ。 苦労人ロイ・マスタングです。おいおい…主婦かよ・・・。
事件は幼女監禁とかそんなんでいいです。よし、つじつまが合う。《04:10:20》

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