彼女のあの憎たらしい笑顔も、今はもう記憶の産物。 

























































































彼女はいつも、勝ち誇ったような笑みをして去っていく。
一年前のバレンタインデーの時もそうだった。
意地っ張りな私達はいつもささいな事で張り合う。


いつも、頭に残るのは君の憎たらしい笑顔。
勝ち誇ったような笑みで私を見つめるその様が、ふとした瞬間にフラッシュバックする。


























「あなた何でそんなに私につっかかるのかしら?」






憎たらしい笑みをした彼女は私にそう告げた。用件だけの短い言葉。






「たまたまさ。故意にそうしている訳ではない」
「ロイ・マスタングさん、顔に出てるわ」
「何がだ」






そうその笑み。勝ち誇ったような笑み。
君はいつもその笑みを見せたあとに髪を耳にかけるくせがあるのを気付いているだろうか。






「あなた、私が好きでしょう」
「何を馬鹿げた事を」
「嘘ね。あなた図星で驚いてる」
「君は自意識過剰だな。それに、それを言うなら私ではなく君に当てはまる事だろう」
「何が」
「君が私を好いている、という方が正しい」






彼女は一瞬驚いたような表情をしたが、いつもの顔に戻る。
いつもの、憎たらしい笑み。








「あなたも、自意識過剰ね。そしていつも行動が遅いわ」








君に垣間見た、聖母のような慈愛に満ちた瞳。
消えないでくれ、行かないでくれ。










「気付いた後では遅いのよ」


「あなたの、負けね」



















夢の中で君はそう告げて、桜のように、泡のように消えていった。
























































いつも、頭に残るのは君の憎たらしい笑顔。
勝ち誇ったような笑みで私を見つめるその様が、ふとした瞬間にフラッシュバックする。





そう君はいつも、憎たらしい笑みを浮かべて私に勝利する。
だが、今はもう冷たくなってしまった君は驚くほど青白く、あの笑みの欠片さえも見当らない。
胸の上で組まれた手は動く気配など無く、頬に施された頬紅が青白い肌に浮いて見えた。


もう二度と、君には勝てない。勝つすべが無い。


















































「気付いた後では遅いのよ」
























もう二度と、君には勝てない。














0403|終幕)ロイさんでも死んだ人には勝てないんですって。

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