冬という季節に降る雨は冷たく頬にぶつかって首筋を流れる。 普段ならこの時間赤ちゃんを連れた母親が来るような公園。 だけど雨が降っていて私以外この公園にはいない。
まわりから見たら私はさぞかし不気味だろう。 傘を持たずに雨にさらされながら空を見上げる姿は幽霊に見えるかもしれない。
多分、私の顔はマスカラやらなんやらが雨水で落ちて気色悪いと思う。 いわゆるパンダ状態というやつだ。ああ、落ちる落ちる。フォータープルーフのマスカラでも使えば よかったのかもしれないけど、この時期に使う人なんてめったにいないんじゃないだろうか。

『お前といると、疲れるんだ。だからお前とは行けない』

あんな事言わなくたって分かってる。私がきつい性格だったって事。 ふぜけるなよ。あんたばっかそんな事言っちゃって。私だって。

涙なんて流す必要は無いのに。抑えた気持ちは、古くて汚いゴムみたい。 今にも千切れてはじけそうなのに、しっかりと状態を保とうとしているところがそう思えた。 涙と雨が入り混じって余計に私の頬を濡らす。黒く汚れた涙。 荒い吐息混じりの声は雨音に掻き消される。

私は何がこんなに悲しいんだろう。傷ついた訳じゃない。 そんなに言われながらも、やっぱりあの人が好きだという事が今 分かってしまってどうしようもなく悔しいんだ。きっとそうなんだ。



no.1 雨



買ったばかりのニットが雨水を含んでぐしょぐしょになって気持ち悪い。 しかも黒のブーツに泥が跳ねている。ダルメシアンのぶちみたいだ。
雨は私を慰めてくれる訳でもなく、ただ強く打ち付けるように振る。 風は無いがこの雫だけで十分に身体は冷えた。やっぱ寒いんだろうな私。 身体中に鳥肌がたっている。

目が痛い。もしかしたらマスカラが目に入ったのかもしれないし、 ただの泣きすぎなのだろうか。よく人間はこんなに目から水を出せるのか、と少し感心 してしまった。

今は雨でぐしょぐしょになったニットで顔を拭いてみたら、黒い物がついていた。 そしてもう一度空を見上げて小さく唸った。


「くそ野郎」


指先で洗顔している時のようにして目を擦り、目を瞑ったまま空を見上げてまたニットで拭った。 雨水でよくここまで落ちるもんだ。不良品じゃないのかと疑ってしまうほどに。

しゃがみ込んで丸くなってみると公園に一人取り残されたバックのような気分だった。 足元を見て唸っていても、声が耳に届くだけで一層悲しくなる。 顔を伝って落ちた雫は雨水なのか分からない。ただポツポツと膝の上に落ちていく。

彼が好きだった。それは紛れも無い事実。
付き合って始めてのキス。よく覚えている。その日の服装まで。 そして今日は私の誕生日。誕生日に振られるなんて馬鹿みたいだ。 ただそれだけの事。親が死んだ訳でもないし、私が誰かに殺される訳でもない。 なのに流れるものは止まらずに荒い声と共に外に吐き出される。誰に知られる訳でもなく。
私は台風の日の排水溝かっての。今こんな状態で人になんて会えない、とか思った。別に誰かと会う約束なんて ある訳無いけど。


「お嬢さん」


不意に止んだ雨。


「風邪を引く。暖かい飲み物は欲しくないかい?」


振り返って見た黒い髪をした男の顔は見えなかった。 だけど微笑んでいるんじゃないかというぐらい優しい声だったんだ。















続  05/01/01
微妙っ。何この終わり方。でもいい具合に続きが気になる感じに終わってない?(知るかって 感じですね) えらく短いですよ。こんなのありなのだろうか…。
一応長編になります。どうなっていくか分かりませんがお付き合い下さいませ。(無責任

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