君は林檎、僕は毒、二つ交わって"毒林檎"


はぁ、と息を吐き、食材が入った茶色の紙袋を持っていない片方の手をコートのポケットに突っ込んだ。そろそろクリスマスになる。 街は目が痛くなるぐらいに眩しく光を放ち、活気付く。
表通りを抜けた所で、暗い路地に入った。レンガ造りの壁にへばり付くかのように浮浪者が 縮こまって座っている。どこかの店の裏口のようなところで残飯が入ったゴミ袋をあさる子供がいた。 子供はすすけた服を着ていて、所々にある小さなシミが目を惹いた。 するとこっちの視線に気が付いたのか子供が伸びた髪の間から目を光らせた。


「これ、欲しい?」


黒のコートを羽織った男は茶の紙袋を指し、言った。子供は何も言わずに男の目を疑わしそうな瞳で 見つめた。すると男は何かが分かったように、口元でふっと笑った。


「可哀想に。これ、食いなよ」


そう言って紙袋から真っ赤な果実を取り出した。すると子供は目の前の果実を凝視した。 それと共に子供の咽もとは微かに動いた。 その様子を見て男はまた笑った。今度は少し満足そうに。
男は口元で笑みをつくったまま、掌の果実を頭上に高く上げ、子供の足元に思い切り投げつけた。 赤い果実は堅い地面に勢いよく向かい、たどりつく頃には元の形を成していなかった。 辺りに光る果汁を散ばせて。


「どうぞ、召し上がれ」


雪が降った夜明けのようなあの冷たい声。そして高笑いが路地に響いた。無邪気に笑う子供のように、 とても楽しそうに。 『可哀想に』そう言った男の声はどこも同情などしていなかったのだから。








暗い路地から少し歩いた所にある、路地から剥き出しの階段を男は登っていった。 簡単な造りで出来ている錆びた鉄の階段は今は廃墟となっている建物の一部であり、 ドアを開けると微かに軋む音がする。 そしてこの廃墟となった建物は今は誰も寄り付かない。


「ただいま。待った?」
「誰があんたなんかを」
「うわ、ひどい言い方ー」


灰色の汚い部屋は壁紙などなく、部屋の隅にはゴミや埃がたまっていて、黒いカビが天井をつつむ。 部屋の中央に椅子だけがぽつんとあり、その椅子に女が座っていた。身動きなど出来ない状態で。
腕は椅子の背もたれの後ろで縛られ、足は椅子の脚に括り付けるように縛られて、 胴体に至っては椅子の背もたれに縛られていた。
女の肌は白く雪のようだが、縄で縛られている個所が少し赤く変色している。


「もっと可愛い反応でもしてくれなきゃ、虐めがいが無いなぁ」


まだ若いその女はここに監禁されていた。


「この悪趣味野郎」
「その言い方、こりないねぇちゃん…」


はぁ、と溜息をついたその顔は、普通溜息などする表情じゃない瞳をしていた。 まるで新しいおもちゃを買ってもらった子供がおもちゃを見つめるときのようなあの瞳。
すると男は紙袋を床に置き羽織っていたコートを脱ぎ捨て、ゆっくり近寄った。 そして首だけは自由動く女の顎を持ち、自分の顔の方へ向きをかえさせた。


「また、痣でも作って欲しいの?」
「…エンヴィー」


女は、顎を持つ男、エンヴィーの名を言い、眉を顰め顔を歪ませた。その時女の身体に蘇る痛み。 そこは青い痣として女の白い身体に色をつけるのだった。


「そんな怯えた顔するなよ。今日はあんたも気持ちいい事してあげるから」


その男の顔は笑っていた。女は今日、何をされるか予想がついた。今すぐにここでされるかもしれない。

「お断りしておくわ。この痣だけで十分」
「あんたに物事を決める権限はない。その事分かってるよねぇ…、ちゃん」
「…変態にやられるなんてまっぴらごめんよ…!」


そう言って女は男の顔に向けて唾を吐いた。男は咄嗟に顔をずらしたが距離が近かった男の頬にそれは付着した。 瞬間、大きな音が響き、床の埃が舞い上がった。女は殴られ椅子ごと倒れた。


「いっ…、たぁ…!」
「あんたさぁ、自分の立場分かってんの?」


明らかにさっきとは違う声。瞳は少しづつ影を帯びていく。 倒れた女にひたひたと近寄り、横になっている状態の女を椅子ごと馬乗りにする。女は身構えず、ただ 影を帯びていく瞳を見つめる事しか出来ない。その目に確かな恐怖感を覚えていた。
すると男はにぃっと口元で笑みを作った。そして女はその笑みに微力ながらも『助かった』という 安堵感を持ったがすぐに頭に痛みが走る。男が女の髪をわし掴みにして上へと引っ張る。


「本っ当に学習能力ないよねぇ。こうされるのが怖いくせに」
「…る、っさい…。放して…!」
「『放して下さい』でしょ?僕お下品な人嫌いなんだぁ」


そう言ってけらけらと笑う姿が女の瞳には憎らしく映る。


「放して…」
「『下さい』だろ」
「……放し…て…」
「…飽きた」


男はそう言って、ギターの弦を切るようにぱっと手を放した。 放された髪は男の手を伝って頭、首をも支えていて、放されたと同時に女の頭は床にぶつけた。 鈍い痛み。それは教会の鐘を鳴らすように低くゆっくり唸る。そして頭皮はピリピリと痛む。
唸るような声が部屋に小さく響く。は肩を震わせ床を睨む。瞳から流れる雫が埃っぽい床に 痕を残した。


「あらー、泣いてんの?」
「…か、え…して」
「うーん?聞こえない」
「…っ、私を、家に帰してよぉ…!!」


そう言ってが叫ぶ。身体を動かそうとするがガタガタと椅子が音を出すだけで何にもならない。


「はは、何言ってんのー」


そう言って次は腰を降ろしたまま覆い被さるようにしてエンヴィーはの顔を覗き込んだ。 すると親指での涙をとってすくい目の前でぺろりと舐めて見せた。そしてまた馬乗りになって 少し屈み、髪を弄ぶエンヴィーのを見るその目は愛しいものを見るものだった。
だがは気が狂ったように身体を震わす。気が狂ったようにぶつぶつと何かを言う。


「いいねぇ、それ」


俺はあんたの悲しむ顔、苦しむ顔、全部の顔が見たいんだ。


「もっと泣いてみてごらんよ」


もっと嫌がればいい。顔を赤くして涙流して。


「悲劇のヒロインみたいだからさぁ…」


そして最後に、俺にすがって泣けばいい。
もっともっと泣けばいい。もっともっと苦しめばいい。 その苦しみと憎悪に満ちた歪んだあんたの顔が見たいんだ。 もっともっと嬲ってやりたい。首筋に痕を何個もつけて他の男を見ることが出来ないように。 自分以外の人間を愛したりしないように。 嬲って、嬲って、嬲って。あんたの全部をぐちゃぐちゃにしてやる。


「泣けよ」


その頭使って俺のご機嫌取りのために身体でも使えばいいんだ。


「…俺を、求めればいいのに」


俺を好きになれば


「そしたら助かるとか思わないの?」


俺を好きだと言えば


「やっぱ人間は知恵が働かないなぁ」


身体使って俺を虜にさせてくれれば


「ほら、言えよ」


楽なのに。一言で虜になってみせるから


「言ってみろよ」


好きです、って


「言えよ」


あなた以外触れられません、って


「言えよ!!」


あなた以外愛せません、って


「…ぇ、言えよ」


この身体をあなたに授けます、って


「言ってよ!!!」


あなた以外私を魅了する人なんていません、って
あなた以外私を発情させる人はいません、って
あなた以外の肉棒を持った人なんて求めません、って


俺は前から君だけを見ていたのに。


好きです、あなた以外触れられません、愛せません、それら全部を言って欲しいのは、俺なのに。 何を他人に、しかもこの女に求めているんだろう。今は狂ったこの女に。


「い、いやぁぁぁ!!」


叫ぶ女の唇を無理矢理に塞ぎ口内を犯した。『んーんー』と言いながら暴れる女と自分が なんだか強姦している風景のようだった。唇を離すと大きく息を吸いまたカタカタと震えだす。



「好きです」

以外触れられない」

以外愛せない」

以外俺を魅了できない」

以外、おまえ以外、…」



何を俺が叫ぶ理由があるというのだろう。何で俺がこの女を求めているんだろう。 この女は誰も求めていないというのに、もう気が狂ってしまっているのに。


昔の彼女の姿を追っていた。つやつやした髪、マシュマロのようにふわふわした肌、 果汁が零れ落ちてしまいそうな桃のような唇、すべてを虜にする瞳。
全部が愛しくて、食べてしまいたいくらいで、全部を自分のものにしたかった。














汚い灰色の部屋を鮮やかに彩る赤が部屋に生臭い匂いを充満させていた。 青い痣だらけのそれに綺麗に彩りされた赤がクリスマスを連想させた。 あ、そういえばそろそろクリスマスじゃないか。なんだ丁度よかった。 赤といえばクリスマスカラーだ。



これはもう狂気の愛



そうだこれをグラトニ―にあげよう。あいつなら残さず食べるし。 よしこれで立派なクリスマスプレゼントの完成だ。 ちょっと痣ばっかで肉が硬いかもしれないけどあいつはそんな事気にしないで食べてるし、 そんな贅沢を言える立場じゃない。仮にもこれはプレゼントなのだから。


嫉妬が生み出した悲劇の物語



じゃあラストへのプレゼントはこの林檎でいいか。あ、でも残り二個しかないなぁ。 ここに来る途中にあげるんじゃなかったか。 というかおばはんだから化粧水とかの方がよかったかな。こんな事言ったら殺されるな。 まあ、林檎二個だけど、真っ赤で熟してるし、これでいいだろう。



愛ゆえに叶わない恋を死で終えた



涙なんて無いと思ってたのに。これでいい、とちゃんとふんぎりがついてたはずなのに。 彼女に変態、悪趣味野郎と罵られながらも愛しかった。 あの歪んだ顔に発情さえもしていた。
手を赤で染めた今、何故こんなに悲しいのか。 よかれと思って、彼女に与えられたものなど無かったから、 せめて彼女の時間を自らの手で止めたかった。彼女が他の男に触れる前に。 そう思っていた。 嗚呼、何で街は色づいてるのに俺はこんなにも虚しいのだろう。
涙なんて無いと思っていたのに。でも今でもこの血まみれの肉の塊を愛しいとも思える。
嗚呼、そうか。俺は彼女に狂ってた。



人造人間の一つの狂気の愛。



決して叶わない、狂気の愛。





















なーんだこりゃ。クリスマスなのに死ネタかよ。でもこーゆーのずっと書きたかったんだー。 エンヴィーは鬼畜ですから。これでも変な表現は抑えたつもりなのになぁ。足りませんて。《04、12、17》

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル