泣かないで笑顔を見せて、ガキの俺にそんな大佐みたいなセリフは言えないけど だけど、泣いてる顔より笑った顔のほうが好きだから。 「どしたんだよ、!?」 久しぶりに会えた、と思ったら彼女は泣いていた。 俺は今、東方司令部に査定で来ていたのだが 久しぶりに会った皆との会話がはずみにはずみ、結局夜は宴会のような騒がしい晩飯になり、 終電に間に合わず適当に探した宿に一泊する事になった。 泣かないで。 そう思ったけど、少し、顔を見せようとしない前髪、頬を伝う涙、頬を赤く染める熱、 全部に胸を打たれたのも確かだけど、それ全部に嫉妬して、 への想いが一層深まったのも事実だった。 「…とりあえず、上がれよ…」 「っ、…うん」 「寒くないか?」 「…少し」 東方で初めて利用するとある宿の暖房をマグカップに入った紅茶片手にリモコンで調節した。 の紅茶は砂糖と牛乳が入っていて、表情には出てないが少しばかり充血した瞳が 見る牛乳入りの紅茶は美味しそうに映っていた。 の涙のワケに心当たりがあった。思い出したくも無い。 俺は知っている。が軍に入る事が夢なのも。それが何を意味しているか、というのも。 そしてがどんな瞳であいつを見ているか、俺を見るときとは違う目の色。 どんな風に笑うか、あいつと話しているだけでもは頬を微かに紅潮させる。 目があったりしたら、逸らすもののの心拍数が早くなりユカは慌てる。そしてそれを隠し切れてない。 なぁ、。 そいつを見るときのようなあの輝いた瞳で俺を見つめていたりはしてないんだろ? あいつと話してる時みたいに、その頬は紅潮しないんだろ? 俺を見ても、の心拍数なんて微塵も変わらないんだろ? 「男は、そいつ一人じゃないぜ」 そんな驚いた顔して俺を見上げるなよ。この言葉の意味なんて分かりきっていないくせに。 わかってるよ。こんな事言ったって、がそいつしか見えない事は変わらない。 なぁ、。好きだ。 好きなんだ。だけが。 が一番恋しくて。その笑顔は誰よりも俺を幸せにして。 好きだ。 どうしようもないくらいの焦がれる想い。 好きだ。好きだ。だけ。 なぁ、。 「 」 「ん、何?」 好きだ。好きなんだ。 「 好きだ 」 ガキの俺が言うと、ませガキ、と思われるかもしれないけど、これはに対するこの想いは、 好きを通り越して愛してる、というものに達するかもしれない。 「え、…エド?」 「俺は、が好きだ」 「…私…っ」 「知ってる」 「………、」 やっぱり、困った顔をする。俺は、最低だな。を困らせて。 「…、おいおい、そんな顔すんなよ。…あいつの事、好きなんだろ」 「エド…」 「そんなに泣いたって何もかわんねェよ」 「………」 「だから、せめて…」 笑ってくれ。 そして、どうか幸せになってくれ。 その時、インターフォンの耳を劈く音が沈黙を破った。 「…ハボック少尉…?」 ドアを開けるとそこには煙草を咥えたハボック少尉が居た。 「こんな夜遅くに、どうしたんだ?」 「ここに、ちゃん居るだろ。もう夜遅いから大佐が車で送ってやる、だとよ」 なんてタイミングのいい事。 「…あーそう。分かった、呼んでくるからここで待ってて」 「おう」 素晴らしくタイミングがいい。まるで俺をあざ笑うかのように。まるで、この気まずい空気から 俺を助けてくれるかのように。 はリビングに居て紅茶を見つめていた。 「、お迎えだ。ここに居る事バレバレだったみたいだぜ」 「え…?」 「早く行ったがいいぞ、の事心配してたみたいだから」 「……、私」 「 がんばれ 」 俺はにっと笑って見せた。すると、も涙を拭ってにこりと笑った。 多分それが俺のためだけに送られた初めての、笑顔。 「振られたらいつでも来いよー」 「もう、そんな事言って」 本心、だけどさ。そうやって笑って流してくれるに俺は救われたんだ。 くやしいけど、これが、俺だけへ送られた初めての、笑顔なんだ。 「じゃ、大将預かっていくぞ」 「よろしく頼むよ少尉。じゃ、おやすみ、」 「おやすみ、エド」 階段で二人の姿が見えなくなるまで、二人を見ていた。そしてその後、ばたん、という 車のドアが閉まる音がして、エンジン音と共に去って行った。 俺には『 愛してる 』そんなキザで大佐を思わせるセリフなんてこっぱずかしくて言えないけど、 そんな事がに言えるだろう大佐が心底羨ましくて、心底憎かった。 大佐が言うその言葉はきっとを幸せにして、俺が言うその言葉はきっとを困らせるだけの 不協和音なオーケストラ並みのものでしかない。 こんなにも、想いが伝わらないのが歯がゆいモノ、だというのが分かったのは今まであまり無かったのかも しれない。 俺は、あいつを見つめている時のに、惚れていたのかもしれない。 あいつを見ている時の幸せそうなの表情が愛しかったのかもしれない。 「 くそっ… 」 壁に叩きつけた鋼の腕は痛みを伴わず、ただ音を響かせる。壁に響いた音は鈍い、鋼の音だった。 そして、今でも響く、彼女の声。 あれが、今でも愛しい。今でも、欲しい。 あいつが居なければ、大佐が居なければ。 こんな結果じゃなかったのかもしれない。もしかしたら、は俺の事をあの瞳で見つめてくれていたかも しれない。 だけど、大佐が居なければ、あの顔が見れなかったのかもしれない。 大佐が居なければ、俺が好きなあの笑った顔が見られなかったのかもしれない。 こんなちっぽけな、矛盾した想いが頭の中を埋め尽くした。 大佐なんか、焔の錬金術師なんか居なければ。 ロイ・マスタングなんか、この世に居なければよかったんだ。 E N D エド、失恋です。しかもライバルは大佐です。っていうかアルはどこに行ったんだ?そんな事は聞かないであげて下さい。 《04,10,30》 |